2020年12月9日【LEADERS VOICE】 NEXT MOBILITY vol16
逆境が吹く中、三菱自動車が 生き残りを賭け存在感を示す道は(前編)
三菱自動車工業 取締役代表執行役CEO
加藤 隆雄
アセアンに経営資源を集中し、三菱自動車の強みをさらに底上げしていく
— 加えて加藤さんがインドネシアで手掛けてきたASEAN事業へ、経営資源を集中させることを明確にされました。これは加藤さんが、これまでに残してきた三菱自動車の強みですね。
加藤 ご存知のようにASEANでの当社の生産拠点は規模が大きいのですが、今回は更にインドネシアに二つ目の工場を立ち上げました。当社がそうした大規模拠点をなぜ作ってこれたかと言えば、ASEANでのMMCブランドの強さがあるからです。
ASEANに於ける三菱自動車は、お客様が欲しいと思うクルマを出すトップ企業だという認識を持って頂いており、こうした信頼はとても大事なアセットです。従って今後もASEANのお客様の好みや、消費行動をよく理解することが大事です。
またそれだけでなく地域に貢献していくことも欠かせません。例えば雇用を生むことも非常に大切です。当社が元々強いタイやインドネシア、フィリピンなど、ASEAN各国では様々な社会活動を進めながら地域と共に成長していきたいと思っています。
— ASEANに集中していくと共に、第二の柱というか、特に力を入れていくべき他の国はありますか。
加藤 例えばASEANの近隣であるバングラデシュも人口が多く、当社にとって重要な国のひとつです。実は当地ではエクリプスクロスを高くご評価頂いており、同国に於いて三菱自動車ブランドはシェア1位です。またミャンマーなど比較的人口が多いけれども、まだ自動車産業が充分に花開いていないとところも、我々にとってはチャンスに溢れた地域だと言えます。
欧州は、収益性問題と環境規制強化から新商品投入凍結を決断
— 欧州での新規商品凍結は衝撃的なニュースでした。それを踏まえ現地での合弁工場から撤退します。しかし三菱自動車のPHEVは欧州で受け入れられていた。本当に欧州戦略は凍結や撤退という方向に向かうのでしょうか。
加藤 欧州は、一つ目は収益性という意味で。また或いは二つ目にこれから更に厳しくなっていく環境規制が課題となります。加えて三つ目の課題もあります。
まず一つ目ですが、欧州は他の地域と比較しますと、残念ながら我々が創り出す利益率が相対的に低い。今後、欧州事業を続けても、長らく損を出し続けることになる。これがまずベースにあります。
それから二つ目に挙げた環境規制、こちらも益々厳しくなってきていますから、当社の欧州に於ける事業規模で同市場の要求に応えていくのは無理がある。
さらに三つ目は、先ほどASEANに於けるMMCブランドのお話をしましたが、仮に欧州で巨額の資金を投じて環境対応しても、少なくとも投資に見合うブランド価値を育て、維持できるかというと、そこも今の段階では確信を持ち得ないということです。
加えて追加でもう一つ、それは自動車会社として当社を俯瞰した時、我々の台数規模だと、全世界グローバルで〝どこでも頑張っていける〟〝成功できる〟という戦略の正当性は低いのではないかと見ています。
それらの要素を踏まえると、元々、我々が全世界を向いていたのは、やはり考え直す必要があるのではないかと思います。
今後、環境規制がさらに厳しくなっていくなどの複合要素が重なっていくと、もうこれは縮小していかざるを得ないという判断です。
母国、日本生産はパジェロ製造閉鎖で工場稼働率80%超えへ
— 母国の日本国内マーケットとホームに於ける生産も含めた国内事業についての再編については如何ですか。まずパジェロ製造の生産休止・閉鎖の判断は。
加藤 パジェロは、かつての三菱自動車の代名詞の一つだったことは確かです。しかし残念ながら環境規制の高まりなどがあり、そうしたクルマが売り辛くなって販売台数も落ちてきて、いつかは決断をせざるを得なかった。
それともう一つ、パジェロ製造がある岐阜工場は、かなり老朽化が進み、このまま稼働し続けるには大きな投資が必要になる。それらを含めどうするのがベストかを考えた末、今回の決断が必要になりました。
また日本国内は人口も減少していますし、今の状況を考えると国内の生産能力は、やはり過剰だと言わざるを得ない。そこを総合的に考え決断したということです。ただこれによって国内工場の稼働率は、80%を超えるところまで戻ります。そのままにしておくと70%に落ちるのですが、80%を超えるところまで戻りますので、今の当社の規模としては適切になります。
逆境が吹く中、三菱自動車が 生き残りを賭け存在感を示す道は(後編)に続く