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2020年12月9日【LEADERS VOICE】 NEXT MOBILITY vol16

逆境が吹く中、三菱自動車が 生き残りを賭け存在感を示す道は(後編)

三菱自動車工業 取締役代表執行役CEO

加藤 隆雄

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来期に黒字化目指し、U字回復で収益基盤の確立へ

 

— 業績面については、日産との資本提携で2016年当時のゴーン体制のなか、日産との連動でV字回復を目指しました。しかし現況は日産自体の業績が悪化しているという状況下にあることから、三菱自動車の新中計はU字回復を目指すことにした。この3ヶ年計画の中で、前期の赤字から今期は特損も出されていますが、来期からは上昇していこうという流れですか。

 

加藤 そうですね。特損を出して、来年も大きな損を出す訳には行きません。従って来期から黒字転換の計画です。但し今後のコロナ禍の行方も含め、次にどうなっていくかを見極める必要があります。それから3ヶ年計画中に投入する新車については、もう私がCEOになる前から開発自体が進んでいますので、当面こういうものを如何に上手く使って、収益に結びつけるかを考えて打ち出していきます。

 

 それと、最初に申し上げた構造改革は非常に大きな意味を持っていますので、これをきちっとやることによって、来年から収益を上げることを目指します。

 

— 固定費の圧縮は、当然人件費等が大きい。そこにはやはり痛みを伴うことになる。

 

加藤 そうですね。パジェロ製造の生産停止も含め、粛々とやっていきます。

 

 

— 従業員の削減や、リストラ的なものは、さらに進む可能性があるのでしょうか。

 

加藤 これも中計発表の時に申し上げましたが、早期退職制度などの希望退職も考えており、実はタイでは既にそれを始めています。具体的には数百人規模で実施済みで、計画は日本国内のみということではなく全世界規模で、また早期退職だけではなく制度の見直し、新規採用の抑制など様々な手段を検討しています。

 

 

三菱商事との連携も密にして、新中計を推進へ

 

— 三菱自動車と日産との資本提携で日産が34%、次いで三菱商事が三菱重工から逆転して第2位株主に。また経営陣容(取締役)を見ると、社外取締役の方がかなり多く混成部隊の感があります。

 

 そういう意味で三菱商事も含めて益子さんが急逝されたことは、加藤さんとしては扇の要的な、大黒柱がいなくなった。もとより会長としては加藤CEOに内政を任せて、渉外的な部分を益子さんが担う分担だったのではないでしょうか。加藤三菱自動車体制として日産や三菱商事との関係はどうですか。

 

加藤 益子さんが亡くなったのは残念で痛手ではありますが、日産や三菱商事とは頻繁にコミュニケーションを取っており、その中で様々な話をして、今回の中計についても、理解を頂いています。

 

 おそらく皆さんが思われているよりも、日産と三菱商事と私とのコミュニケーションの機会は多く、意思疎通は親密です。

 

また日産とも、三菱商事とも、コロナ禍の苦しい時期に、共に構造改革をやり切るという目標設定が明確なので、あまり心配はしていません。

 

 

 

 

日仏3社連合は、アライアンス活用でまず自社の業績立て直しに注力

 

— ルノー・日産・三菱自の日仏アライアンスの方向ですが、ゴーン氏が去り、益子さんも亡くなった。日産は内田体制、ルノーも7月にルカ・デメオ新CEOが就任、三菱自動車も加藤CEO体制とトップが一新された。そうしたなか3社アライアンスの新たな枠組みが5月に発表されましたが、3社共に業績が赤字という厳しい状況にあります。3社連合の中で三菱自動車の存在感が薄れているとの見方もありますが。

 

加藤 アライアンスはあくまで一つのツールだと思います。ルノー・日産・三菱自という会社があって、その三つの会社がアライアンスという枠組みをいかに上手く利用し成長するかということが基本ですから、その中で三菱自動車が何か強い色を出してなどとは考えていません。

 

今回新しいルノーのルカ・デメオCEOも、内田さんもそうだと思いますが、もう少し現実的に自分の会社を良くするために、アライアンスで何をやれば、お互い良くなるかというところをシンプルに話し合っています。

 

 かつて多くの企業間アライアンスでは、本当に自社の成長に役立つのかという議論よりも、協業で何をやろうというような話が出て、ともすると先へ先へと前のめりなところがあったかも知れません。

 

しかし我々の場合は、どのようなアライアンスが互いの事業に役立つのか。それをしっかり見付けるための話し合いができると思っています。

 

 また我々の場合、長期のアライアンス関係の中で既に互いの技術を融通し合っています。逆に言うとアライアンスを活用しないと、もう難しいような状況になっているとも言えます。ですからアライアンスの意義云々ではなく、3社共にアライアンスを活かしながら自分たちの収益体制をもう一度、しっかり立て直すことが共通認識になっているのです。

 

— 今は、3社それぞれが業績立て直しが大前提になっているということですが、問題は資本構成がいびつではないかと。また一時期、三菱商事が日産に出資するのではという話が挙がったようにも聞きます。しかし当面は3社が一体化する部分と、並行する部分を持ち併せて、しっかりやるということですね。

 

加藤 廻りの皆さんには、様々な憶測やご懸念があるかも知れませんが、ルノーも日産も我々も現状下で、いかに立ち直るかに集中しているということです。

 

 

豊富な海外経験を生かして、三菱自動車の生き抜く道を

 

— 加藤CEOのキャリアは、かつてクライスラーとの米合弁工場DSMに米駐在されたのを皮切りに、ロシアで仏PSAとの合弁工場、三菱自動車本体のCEO就任直前はインドネシア合弁工場のMMKI社長と多彩な海外事業を体験されてきました。

 

加藤 それらでは大変有り難い経験をさせて頂いたと思っています。アメリカでは当然アメリカの方々と。それからプジョーとは一緒にロシアで。

 

こうした場面で日本人以外の方々がどういう考え方で仕事を進めているのか。そこには考え方の違いもありますし、文化が違う人たちがどうやって上手くやっていくのか。
実はアメリカでもロシアでも土地毎に色々難しい点があって、それを乗り越えることができたことは、大きな財産になっています。

 

— グローバルな世界を自ら体験されてきて、その文化や土壌の違いを承知されている。

 

加藤 異なる海外経験は、インドネシアでもしっかりと役に立ったと思っています。

 

— 信条とか経営の信念はどんなものですか。

 

加藤 難しいご質問ですが、それほど立派なものかは別にして、まず利益ばかり、お金儲けばかりを考えていては駄目で、やはり社会にどう貢献するかが大事です。社会に貢献するイコールそのお客様のお役に立つということ。結局、幾ら計算して儲かるよう絵を描いても、それがベースにないと事業は成功しないと思っています。

 

 また私は生産現場の人間ですから三現主義と言いますか、〝現場・現物・現実〟これを大事にしたい。今までの自身の経験の中から、そういうことを疎かにして物事は上手く運ばない。常に〝現場・現物・現実〟に立ち戻って考えないと駄目だという強い想いがあります。

 

 

逆境が吹く中、三菱自動車が 生き残りを賭け存在感を示す道は
聞き手:NEXT MOBILITY主筆 佃 義夫

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坂上 賢治

NEXT MOBILITY&MOTOR CARS編集長。日刊自動車新聞を振り出しに自動車産業全域での取材活動を開始。同社の出版局へ移籍して以降は、コンシューマー向け媒体(発行45万部)を筆頭に、日本国内初の自動車環境ビジネス媒体・アフターマーケット事業の専門誌など多様な読者を対象とした創刊誌を手掛けた。独立後は、ビジネス戦略学やマーケティング分野で教鞭を執りつつ、自動車専門誌や一般誌の他、Web媒体などを介したジャーナリスト活動が30年半ば。2015年より自動車情報媒体のMOTOR CARS編集長、2017年より自動車ビジネス誌×WebメディアのNEXT MOBILITY 編集長。

松下次男

1975年日刊自動車新聞社入社。編集局記者として国会担当を皮切りに自動車販売・部品産業など幅広く取材。その後、長野支局長、編集局総合デスク、自動車ビジネス誌MOBI21編集長、出版局長を経て2010年論説委員。2011年から特別編集委員。自動車産業を取り巻く経済展望、環境政策、自動運転等の次世代自動車技術を取材。2016年独立し自動車産業政策を中心に取材・執筆活動中。

間宮 潔

1975年日刊自動車新聞社入社。部品産業をはじめ、自動車販売など幅広く取材。また自動車リサイクル法成立時の電炉業界から解体現場までをルポ。その後、同社の広告営業、新聞販売、印刷部門を担当、2006年に中部支社長、2009年執行役員編集局長に就き、2013年から特別編集委員として輸送分野を担当。2018年春から独立、NEXT MOBILITY誌の編集顧問。

片山 雅美

日刊自動車新聞社で取材活動のスタートを切る。同紙記者を皮切りに社長室支社統括部長を経て、全石連発行の機関紙ぜんせきの取材記者としても活躍。自動車流通から交通インフラ、エネルギー分野に至る幅広い領域で実績を残す。2017年以降は、佃モビリティ総研を拠点に蓄積した取材人脈を糧に執筆活動を展開中。

中島みなみ

(中島南事務所/東京都文京区)1963年・愛知県生まれ。新聞、週刊誌、総合月刊誌記者(月刊文藝春秋)を経て独立。規制改革や行政システムを視点とした社会問題を取材テーマとするジャーナリスト。

山田清志

経済誌「財界」で自動車、エネルギー、化学、紙パルプ産業の専任記者を皮切りに報道分野に進出。2000年からは産業界・官界・財界での豊富な人脈を基に経済ジャーナリストとして国内外の経済誌で執筆。近年はビジネス誌、オピニオン誌、経済団体誌、Web媒体等、多様な産業を股に掛けて活動中。

佃 義夫

1970年日刊自動車新聞社入社。編集局記者として自動車全分野を網羅して担当。2000年出版局長として「Mobi21」誌を創刊。取締役、常務、専務主筆・編集局長、代表取締役社長を歴任。2014年に独立し、佃モビリティ総研を開設。自動車関連著書に「トヨタの野望、日産の決断」(ダイヤモンド社)など。執筆活動に加え講演活動も。

熊澤啓三

株式会社アーサメジャープロ エグゼクティブコンサルタント。PR/危機管理コミュニケーションコンサルタント、メディアトレーナー。自動車業界他の大手企業をクライアントに持つ。日産自動車、グローバルPR会社のフライシュマン・ヒラード・ジャパン、エデルマン・ジャパンを経て、2010年にアーサメジャープロを創業。東京大学理学部卒。

福田 俊之

1952年東京生まれ。産業専門紙記者、経済誌編集長を経て、99年に独立。自動車業界を中心に取材、執筆活動中。著書に「最強トヨタの自己改革」(角川書店)、共著に「トヨタ式仕事の教科書」(プレジデント社)、「スズキパワー現場のものづくり」(講談社ピーシー)など。