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2020年12月17日【特集】 NEXT MOBILITY vol16

選択の時代 第2回/求められている選択肢はオープンデータ、オープンマインド

NEXT MOBILITY編集長 坂上賢治

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第3章 行政の選択
求められている選択肢はオープンデータ、オープンマインド

 

 経済産業省と国土交通省が推し進めるスマートモビリティチャレンジ。これに参画する地方自治体・企業の実証実験の取り組みや、その社会実装への課題などを議論するシンポジウムが9月2日に行われた。同プロジェクトは2年目に入り、各地域の実証実験を通じてデータの「オープン化」や「持続性、コスト対策」などの課題が浮かび上がってきた。

 

 実施されたのは「スマートモビリティチャレンジ・オンラインシンポジウム」。一般公開の第1部では「地方版MaaSに於けるデータ連携」「低密度・中山間地域に於ける地域課題解決」の2つのテーマで討論が進んだ。今年度は新型コロナウイルス感染症の影響から、オンラインでの開催となった。(佃モビリティ総研・松下 次男)

 

 

 

MaaSの創出を推進する実証地域として52地域を選定

 

 経産省・国交省は新しいモビリティサービスの社会実装を通じた移動課題の解決や地域活性化などを支援する「スマートモビリティチャレンジ」プロジェクトを令和元年6月に立ち上げた。

 

そこで先進パイロット地域を公募、選定し、実証実験の支援に乗り出すと共に、情報共有するプラットフォームとして官民で「スマートモビリティチャレンジ推進協議会」を設立した。

 

令和2年度はこうした新しい地域MaaSの創出を推進する実証地域として52地域を選定。「モビリティのマルチタスク化」「サービスのモビリティ化」「異業種との連携による収益活用・付加価値創出」「需要側の変容を促す仕掛け」「モビリティ関連データを取得、交通・都市政策との連携」の5つのチャレンジを推進する事業に取り組んでいる。

 

 シンポジウムはこうした取り組みに併せて実施。また、これらの議論を通じて新しいモビリティサービスを活用した地域活性化の取り組みがさらに広がることを期待する。

 

 

 

将来のダイナミックプライシングを睨んだデータ取得を

 

 「地方版MaaSに於けるデータ連携」をテーマにしたパネルディスカッション1では、スマートモビリティチャレンジ推進協議会・企画運営委員会委員長の石田東生筑波大学名誉教授を司会に議事を進行、同企画運営委員会委員の中村文彦横浜国立大学副学長が総括コメントした。

 

 パネリストには東京都町田市、神奈川県川崎市(小田急電鉄)、愛媛県南予地域(KDDI)、愛知県春日井市(名古屋大学)、新潟市(エヌシーイー)、広島県(MaaS Tech Japan)の各地域の実証実験に関わる企業・団体の関係者が参加した。

 

小田急電鉄の西村潤也氏は、利便性を高めたオンデマンド交通の取り組みとして、川崎市新百合ヶ丘地区は有償で、町田市は将来のダイナミックプライシングをんだデータ取得を目的に無償で実施していると紹介した。

 

どちらも昨年開始したMaaSアプリ「エモット」を活用し、商店街などと連携。新百合ヶ丘では事業化を目指す

 

 南予地域の実証実験を紹介したKDDIの小泉安史氏は、同プロジェクトについて船、観光バスなどを含めた観光型MaaSを紹介した。チケット販売、利用にスマートフォンを活用、自治体、JR四国、交通事業者、地元の企業などがコンソーシアムを組んでいる。

 

 

地域の利用者から望まれているのはリアルデータの反映

 

 名古屋大学の金森亮氏は春日井市の高蔵寺ニュータウン周辺で取り組んでいる実証実験を紹介。約50年前に造成された団地で入居者の高齢化が目立ち、そこで誰もが気軽に外出できるような街づくりがひとつの目標だ。

 

 オンデマンドによるモビリティサービスや名古屋大学と連携した自動運転に取り組んでおり、自動運転は時速15キロメートルで運行。2年後の実走行を目指している。

 

エヌシーイーの高橋貴生氏が紹介した新潟市の実証実験は、バスとタクシーの棲み分けや駐車場情報などのデータを収集し、マルチモーダルによる快適な移動空間を目指す取り組みだ。

 

MaaS Tech Japanの日高洋祐氏が紹介した広島県に於ける実証実験は、モビリティデータプラットフォームの構築の取り組み。交通手段の維持が厳しい過疎地を対象に消費活発化させる試みなど連携しながらMaaSを実現し、地域の活性化を目指す。

 

これらの実証実験から「望まれているのはリアルのデータ。利用者からすれば、バスや鉄道単体の遅れではなく、トータルでどのような遅れが生じているかが知りたいと思う。そのような取り組みが重なってスタンダードになる」(西村氏)などの知見が示された。

 

一方で、課題に挙がったのが個人情報の対応など。MaaSのスムーズな運用には人の動態情報データが重要となるが、「個人情報に制約があり、データの取得、連携が非常に難しい」という指摘が多く出された。観光地の取り組みでは「データ連携が持続でき、かつ低コストなものが望まれる」(小泉氏)という意見も。

 

高齢者の多い高蔵寺ニュータウンなどの古い団地では、データを「電話応対で集めている」(金森氏)のが実態。免許返納者に対する新たなモビリティの取り組みについても、そもそも「免許返納者を把握する」のが難しい。

 

また、法体系も課題との意見が多く出た。例えば、ポイントの得点として「(バスなどの)無料チケットを提供するとしても、景品表示法の問題があり、実現が難しい」などとし、緩和を求めた。

 

 

 

望まれるのは地域の人に関心を持ってもらえる仕組みづくり

 

 総括した横浜国立大学の中村副学長は、「MaaSは、今までがっていないところが繫がるという交通モードだが、短期的な取り組み、長期的な取り組みがあることが考えさせられた。また、少し法律にも壁があり、行政サイドの支援が求められる。プロジェクトの相互でシェアすることも重要。さらに地域の人に関心を持ってえる仕組みづくりが望まれている」などとコメントした。

 

石田委員長は「それぞれ情報交換し、共有化することでプロジェクトをアップデートする必要がある。ユーザーにもメリットが実感して貰える、利益が出るビジネスモデルを構築するというのも大事だ」と述べた。

 

「低密度・中山間地域に於ける地域課題解決」をテーマにした2つ目のパネルディスカッションは、スマートモビリティチャレンジ推進協議会企画運営委員会委員で日本自動車研究所の鎌田実代表理事・研究所長(元東京大学教授)の司会で議事を進行した。

 

 

 

何のために実現するかという社会的意義も重要

 

 パネリストには茨城県日立市(みちのりホールディングス)、北海道上士幌町、福井県永平寺町、静岡県浜松市、長野県塩尻市(塩尻振興公社)の実証実験に取り組む企業・団体の関係者が参加した。

 

中山間地域でのMaaS実証実験で注目されるのは、利用者の少ない昼間帯などにオンデマンドサービスで貨物輸送を行う客貨混載だ。アプリなどを人の移動だけでなく、貨物の配送にも活用するもので、みちのくホールディングス、上士幌町、永平寺町、塩尻市が取り組みを紹介した。

 

また、自動運転の実証実験も多くのところが実施、計画しており、山間地区ならではの「バス運転手の高齢化対策」(塩尻市振興公社、太田幸一氏)という働き手の問題もそのひとつの要因だ。永平寺町の山村徹氏はオンデマンドタクシーのドライバーを「有志で定年退職者に行って貰っているが、貨客混載でドライバーの負担が増すのも課題だ」と述べた。

 

興味ある取り組みを表明したのが浜松市の山間地区向けの医療支援サービス。同市はスズキなどと官民合同のデジタル・スマートシティを目指すコンソーシアムを立ち上げているが、通院が難しい過疎地の高齢者などを対象にオンライン診療、ドローンによる薬品配送などを試みる。

 

浜松市の瀧本陽一氏はドローンの運行ルートについて「携帯電話の電波が届く川沿いを飛ばす計画」と述べた。

 

実証実験から浮かび上がった課題は、利用頻度や収益性など。オンデマンドバス・タクシーは一回100円程度で行っているところが多いが、高齢者が多い中山間地域で「利用して貰えるのか」「データを生かせるか」「収益性も必要」などの声が出された。鎌田氏は「行政主導でなく、地域交通をどう支えるかいう目線でトライアルして欲しい」「オーバースペックにならないよう実験の中で検討して欲しい」と求めた。

 

スーパーモビリティチャレンジ推進協議会企画運営委員会委員の牧村和彦氏(計量計画研究所理事)は「地域のニーズにあった持続可能なエコシステムを低コストで実現する仕組みが求められる。異業種との連携、例えば地域のスーパーや郵便配達などとの連携も考えられるだろう。何のために実現するかという社会的意義も重要だ」などと総括した。

 

 MaaSが地域活性化の選択肢のひとつになるのは確かだというのが同シンポジウムから見えてきた。

 

 

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坂上 賢治

NEXT MOBILITY&MOTOR CARS編集長。日刊自動車新聞を振り出しに自動車産業全域の取材活動を経て同社出版局へ。コンシューマー向け媒体(発行45万部)を筆頭に環境&リサイクル紙、車両ケア&整備ビジネス専門誌等の創刊誌編集長を歴任。独立後は一般誌、Web媒体上でジャーナリスト活動を重ね30年半ば。2015年より自動車情報媒体のMOTOR CARS編集長、2017年より自動車ビジネス誌×WebメディアのNEXT MOBILITY 編集長。

松下次男

1975年日刊自動車新聞社入社。編集局記者として国会担当を皮切りに自動車販売・部品産業など幅広く取材。その後、長野支局長、編集局総合デスク、自動車ビジネス誌MOBI21編集長、出版局長を経て2010年論説委員。2011年から特別編集委員。自動車産業を取り巻く経済展望、環境政策、自動運転等の次世代自動車技術を取材。2016年独立し自動車産業政策を中心に取材・執筆活動中。

間宮 潔

1975年日刊自動車新聞社入社。部品産業をはじめ、自動車販売など幅広く取材。また自動車リサイクル法成立時の電炉業界から解体現場までをルポ。その後、同社の広告営業、新聞販売、印刷部門を担当、2006年に中部支社長、2009年執行役員編集局長に就き、2013年から特別編集委員として輸送分野を担当。2018年春から独立、NEXT MOBILITY誌の編集顧問。

片山 雅美

日刊自動車新聞社で取材活動のスタートを切る。同紙記者を皮切りに社長室支社統括部長を経て、全石連発行の機関紙ぜんせきの取材記者としても活躍。自動車流通から交通インフラ、エネルギー分野に至る幅広い領域で実績を残す。2017年以降は、佃モビリティ総研を拠点に蓄積した取材人脈を糧に執筆活動を展開中。

中島みなみ

(中島南事務所/東京都文京区)1963年・愛知県生まれ。新聞、週刊誌、総合月刊誌記者(月刊文藝春秋)を経て独立。規制改革や行政システムを視点とした社会問題を取材テーマとするジャーナリスト。

山田清志

経済誌「財界」で自動車、エネルギー、化学、紙パルプ産業の専任記者を皮切りに報道分野に進出。2000年からは産業界・官界・財界での豊富な人脈を基に経済ジャーナリストとして国内外の経済誌で執筆。近年はビジネス誌、オピニオン誌、経済団体誌、Web媒体等、多様な産業を股に掛けて活動中。

佃 義夫

1970年日刊自動車新聞社入社。編集局記者として自動車全分野を網羅して担当。2000年出版局長として「Mobi21」誌を創刊。取締役、常務、専務主筆・編集局長、代表取締役社長を歴任。2014年に独立し、佃モビリティ総研を開設。自動車関連著書に「トヨタの野望、日産の決断」(ダイヤモンド社)など。執筆活動に加え講演活動も。

熊澤啓三

株式会社アーサメジャープロ エグゼクティブコンサルタント。PR/危機管理コミュニケーションコンサルタント、メディアトレーナー。自動車業界他の大手企業をクライアントに持つ。日産自動車、グローバルPR会社のフライシュマン・ヒラード・ジャパン、エデルマン・ジャパンを経て、2010年にアーサメジャープロを創業。東京大学理学部卒。

福田 俊之

1952年東京生まれ。産業専門紙記者、経済誌編集長を経て、99年に独立。自動車業界を中心に取材、執筆活動中。著書に「最強トヨタの自己改革」(角川書店)、共著に「トヨタ式仕事の教科書」(プレジデント社)、「スズキパワー現場のものづくり」(講談社ピーシー)など。