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2020年12月14日【特集】 NEXT MOBILITY vol16

選択の時代 第1回/新型肺炎を巡る-政治的応酬と世界の選択

NEXT MOBILITY編集長 坂上賢治

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第1章 COVER STORY

新型肺炎を巡る政治的応酬と世界の選択

 

 昨年末、世界に先駆けて武漢で拡大し始めたとされる新型コロナウイルスだが、いつの世も感染症によるパンデミックは人類社会を大きく変革させてきた。

 

 例えば紀元前から存在し、20世紀末まで克服できなかった天然痘は、長い期間を掛けて免疫を獲得した15世紀当時のヨーロッパ人が南米大陸に持ち込み、インカ帝国の崩落に結果的に利用されたこともある。

 

また黒死病として恐れられ、少なくとも6世紀・14世紀・19世紀と複数回に亘って世界を駆け巡ったペスト。20世紀初頭に第一次世界大戦の拡大に乗じ日本でも蔓延したスペイン風邪など、人類が感染症と戦い続けた歴史は枚挙にいとまがない。

 

そして迎えた21世紀、新型コロナウイルス感染症の流布がやがて丸1年を迎えようとするこの秋、感染阻止を目指す各国の戦いは、どの地域に於いても未だ先が見えてこない。(坂上 賢治)

 

 

 

世界経済を分断して孤高の存在になりたい米国

 

 永年に亘る経済的優位を背景に、コロナウイルスの猛威に持ち堪えてきた欧州では、8月末時点のフランスで累計感染者が28万人を超えてロックダウン(都市封鎖)措置後の感染ピークを更新した。人類の感染症の歴史上、深刻な影響を残したスペインでも累積感染者が50万人超に達し、6月末以降最多の数字になるなど一向に気が抜けない状況下にある。

 

 一方、アジア開発銀行(ADB)は9月半ば、アジア大洋州の46カ国を含む地域の実質成長率がマイナス0・7%に落ち込むとの見通しを発表。これが予想通りの結果となってしまうと同地域に於いては58年振りのマイナス成長となる。インドも6月時点でマイナスに落ち込むとされた成長をさらにマイナス9・0%へと下方修正した。

 

 そうしたなか本来、世界を牽引するべき立場である筈の米国では、世界経済をデカップリング(分断)していこうとする姿勢が加速している。そもそも米国はコロナウイルス危機が始まる以前から、米国民にとっては〝選択の機会〟となる選挙戦を契機に、対外強攻策と対外融和策が絶えず繰り返されてきた。

 

例えば共和党ウィリアム・タフト政権から民主党ウッドロウ・ウィルソン政権に引き継がれた1914年頃(欧州に於ける戦争勃発)までは融和策が続いた。さらに共和党ウォレン・ハーディング政権から民主党フランクリン・ルーズベルト政権末期の1945年頃(第二次世界大戦の終結)は強攻策へ。

 

民主党ハリー・S・トルーマン政権から政権交代を繰り返しながらも共和党ジョージ・W・ブッシュ政権に至る2008年頃までは融和策に。世界金融危機が発生して以降、今度は強攻策と、波のようにグローバリゼーションの拡大と停滞を繰り返してきた過去がある。

 

 

 

経済戦争ではなくイデオロギーを賭けた覇権戦争

 

 しかしその流れは民主党オバマ政権から潮目が変わった。以降、現時点の共和党トランプ政権でも対中警戒感を背景としたデカップリングを進行させている。

 

ここまで流れが変わった理由は、米国にとって実質的な脅威だと確信できるに至った中国経済の存在がある。今や融和策を採れない不可逆的な環境下となった。

 

実際、米国は5Gに於いて通信機器の排除を進めるなど中国共産党政府を執拗に追い詰めてきた。これは単なる関税戦争ではなく米国が仕掛けた覇権戦争であり、米国は、中国の現イデオロギーの政権が倒れて民主国家になるまで戦い続ける姿勢を見せている。

 

 

 

中国の次なる発展モデルは双循環か

 

 対して米国から政敵として名指しされた中国は今年、新型コロナウイルス感染症による打撃で一時期、経済が低迷。現在は多少好転したものの、中国国家統計局の7月16日発表によると、2020年上半期の実質GDP成長率は前年同期比マイナス1・6%となっている。

 

 第1四半期のGDP成長率はマイナス6・8%、前期比でマイナス9・8%を記録。これは1992年に四半期のGDPデータが公表されてから初めてのマイナスだった。

 

実は以前SARSが拡大した2003年第2四半期にも経済停滞を記録しているが、その際はプラス9・1%。リーマンショック後の2009年の第1四半期でさえプラス6・4%だったことから今年の経済低迷は深刻だ。

 

 ちなみに7月の自動車小売の伸びは前月のマイナス8・2%からプラスに転じたものの、同月の社会消費品小売総額では3兆2203億元、前年同月比マイナス1・1%(実質マイナス2・7%)。自動車を除くとマイナス2・4%。これでも前月比0・85%増だ。

 

 しかしそれでも中国共産党指導部は、かつてリーマンショック時に4兆元(当時のレートで57兆円)の資金をあえて投下するという選択を行い、輸出拡大を果たして3兆ドルの貿易黒字を獲得。これを契機に一帯一路を推し進めて国内の14億人の消費市場を育てたことを材料に、対外的には自信を深めている素振りを見せている。

 

 そこで今回も同国は、新たに国内経済の自立を目指し、国際経済の連携とを組み合わせた持続的成長型モデルとして〝双循環〟を提唱した。

 

 

 

日本を見て学んだ内需拡大と国際経済との協調

 

 この双循環は、中国共産党中央政治局常務委員会が先の5月14日の会議で初めて提起したもの。

 

双循環について清華大学中国発展計画研究院の董煜執行副院長によると「第13次5カ年計画(2016〜20年)と、第14次5カ年計画(2021〜25年)が切り替わる時期に提唱されたこの双循環モデルは、短期的な着眼点ではなく中長期的な戦略としており、中国の経済発展の戦略的重点を輸出主導型中心から内需駆動型中心へと転換させる主体的な選択だ」と語る。

 

実際、米国・ドイツ・日本など世界常識から経済の法則を読み解くと、国家が一定の段階まで経済発展した後、外向型の発展モデルから次第に国内を中心にしたモデルへ変化しなければ安定成長を遂げることができない。

 

そこで中国は、1980年代の日本などからも学び、輸出型の高度成長から内需を伴う質の高い成長へと経済モデルを転換させることを選択したようだ。

 

しかしコロナ禍のなか、どのように経済成長の回復を目指すのか。例えば需要視点で同国の第1四半期から家計消費を見ると一人当たり5082元と前年同期比の8・2%減だ。対して1人当たりの可処分所得は、政府による所得補償の影響もあってか8561元と前年の8493元よりプラスとなっているため、こうしたことが国内需要に於ける唯一の希望的材料かも知れない。

 

 

 

真に経済を牽引するのは内需なのか、外需なのか

 

そこで当地の地方政府は、経済復興の投資計画を自ら創造し、先のリーマンショック後の投資の10倍となる40兆元の長期経済復興の準備を始めた。これに応えて中国人民銀行は今年4度に亘って法定預金準備率を引下げ、政策金利であるMLFの入札金利も引下げ、大規模な買いオペを実施するなど市場の流動性を確保した。

 

政府財政でも先の5月の全人代に於ける政府活動報告で李克強首相が、新型コロナウイルス対策のために1兆元分の特別国債を発行し、財政赤字額の増加分と合わせ、計2兆元を地方経済の支援に充てると表明していた。

 

この2兆元は、全額が地方の市・県の末端行政機関に交付され、雇用・民生・市場主体の保障や地方の公衆衛生などに関するインフラ建設及び新型コロナウイルス対策関連費用などに充てられるが、同国財政部は、これに沿って既に新型コロナウイルス対策特別国債の取引を開始している。

 

 

 

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坂上 賢治

NEXT MOBILITY&MOTOR CARS編集長。日刊自動車新聞を振り出しに自動車産業全域の取材活動を経て同社出版局へ。コンシューマー向け媒体(発行45万部)を筆頭に環境&リサイクル紙、車両ケア&整備ビジネス専門誌等の創刊誌編集長を歴任。独立後は一般誌、Web媒体上でジャーナリスト活動を重ね30年半ば。2015年より自動車情報媒体のMOTOR CARS編集長、2017年より自動車ビジネス誌×WebメディアのNEXT MOBILITY 編集長。

松下次男

1975年日刊自動車新聞社入社。編集局記者として国会担当を皮切りに自動車販売・部品産業など幅広く取材。その後、長野支局長、編集局総合デスク、自動車ビジネス誌MOBI21編集長、出版局長を経て2010年論説委員。2011年から特別編集委員。自動車産業を取り巻く経済展望、環境政策、自動運転等の次世代自動車技術を取材。2016年独立し自動車産業政策を中心に取材・執筆活動中。

間宮 潔

1975年日刊自動車新聞社入社。部品産業をはじめ、自動車販売など幅広く取材。また自動車リサイクル法成立時の電炉業界から解体現場までをルポ。その後、同社の広告営業、新聞販売、印刷部門を担当、2006年に中部支社長、2009年執行役員編集局長に就き、2013年から特別編集委員として輸送分野を担当。2018年春から独立、NEXT MOBILITY誌の編集顧問。

片山 雅美

日刊自動車新聞社で取材活動のスタートを切る。同紙記者を皮切りに社長室支社統括部長を経て、全石連発行の機関紙ぜんせきの取材記者としても活躍。自動車流通から交通インフラ、エネルギー分野に至る幅広い領域で実績を残す。2017年以降は、佃モビリティ総研を拠点に蓄積した取材人脈を糧に執筆活動を展開中。

中島みなみ

(中島南事務所/東京都文京区)1963年・愛知県生まれ。新聞、週刊誌、総合月刊誌記者(月刊文藝春秋)を経て独立。規制改革や行政システムを視点とした社会問題を取材テーマとするジャーナリスト。

山田清志

経済誌「財界」で自動車、エネルギー、化学、紙パルプ産業の専任記者を皮切りに報道分野に進出。2000年からは産業界・官界・財界での豊富な人脈を基に経済ジャーナリストとして国内外の経済誌で執筆。近年はビジネス誌、オピニオン誌、経済団体誌、Web媒体等、多様な産業を股に掛けて活動中。

佃 義夫

1970年日刊自動車新聞社入社。編集局記者として自動車全分野を網羅して担当。2000年出版局長として「Mobi21」誌を創刊。取締役、常務、専務主筆・編集局長、代表取締役社長を歴任。2014年に独立し、佃モビリティ総研を開設。自動車関連著書に「トヨタの野望、日産の決断」(ダイヤモンド社)など。執筆活動に加え講演活動も。

熊澤啓三

株式会社アーサメジャープロ エグゼクティブコンサルタント。PR/危機管理コミュニケーションコンサルタント、メディアトレーナー。自動車業界他の大手企業をクライアントに持つ。日産自動車、グローバルPR会社のフライシュマン・ヒラード・ジャパン、エデルマン・ジャパンを経て、2010年にアーサメジャープロを創業。東京大学理学部卒。

福田 俊之

1952年東京生まれ。産業専門紙記者、経済誌編集長を経て、99年に独立。自動車業界を中心に取材、執筆活動中。著書に「最強トヨタの自己改革」(角川書店)、共著に「トヨタ式仕事の教科書」(プレジデント社)、「スズキパワー現場のものづくり」(講談社ピーシー)など。