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2021年6月17日【CASE】

2021年 ボッシュ・グループ年次記者会見

NEXT MOBILITY編集部

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ボッシュは6月17日、年次記者会見を開催し、2020年度の実績や今後の見通しについて発表を行った。

 

 

それによると、2020年度の日本国内における第三者連結売上高は、2,690億円(約22億ユーロ)。売上高においてはコロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)の影響を大きく受けたものの、EBIT(支払金利前税引前利益)では黒字を達成している。年の後半にビジネスが持ち直したことで、2020年当初の予測を上回る業績をあげたことになる。

 

 

 

 

2021年の業績見通しに関しては、売上高は前年比2桁増になると見込んでいるとのこと。2021年第一四半期(1月~3月)の売上高は好調なスタートを切切ったものの、コロナウイルスやワクチン供給の遅れ、世界的な半導体不足という状況が、本年度の業績に影響を与える可能性もある。

 

 

ボッシュ取締役社長のクラウス・メーダー氏は年次記者会見において以下のように述べている。

 

 

「現在の状況から、日本においても厳しい1年となることが予想されますが、長期的な可能性を有する日本の自動車市場に引き続き貢献していきます。今後も、当社のスローガンであるInvented for lifeを掲げて日本におけるポートフォリオの更なる拡大を図り、人々や生活に役立つ革新的な技術を提供します」

 

 

なお、日本におけるボッシュ・グループの従業員数は、2020年12月31日現在、6,500名となる。

 

 

◾️110年におよぶ日本の自動車市場への貢献

 

 

コロナウイルスの世界的流行という状況下においても、日本の自動車メーカーは世界自動車生産台数において30%のシェアを占め、市場での強い存在感を示している。ボッシュでは、今後10年にわたって、日本の自動車メーカーが同水準を維持すると予測した。2021年は、ボッシュが日本で事業を開始してから110周年にあたる年。同社の取締役副社長を務めるクリスチャン・メッカー氏は「当社は今後も、変革期において魅力あふれるクルマ作りを国内外で追及する日本の自動車メーカーを、全力で支援してまいります」と語った。

 

 

 

 

◾️日本市場へのコミットメントを示す日本での製造開始

 

 

日本市場への強いコミットメントを示す一例として、ボッシュは2022年後半から日本で電動ブレーキブースター「iBooster」の製造を開始することを年次記者会見にて発表している。iBoosterは、無負圧への対応、ペダルフィーリングのカスタマイズ、衝突被害軽減ブレーキの性能向上、そして自動運転下における冗長性など、高性能なブレーキ機能を実現する現代のブレーキシステム。ボッシュでは、電動ブレーキブースター市場が、今後2027年まで年率20%以上で拡大すると予測している。また、上記のiBoosterの主な利点は、自動化および電動化に対する先進的な取り組みを進める日本の自動車メーカーとの親和性が高いとボッシュでは捉えており、日本でiBoosterの製造を開始することで、他のグローバル製造拠点に加え、国内においても、ものづくりの文化の浸透している日本の自動車メーカーからの要望に対応することが可能となる形だ。

 

 

 

 

加えて、日本の自動車メーカーの小型車への要望に対応した派生製品iBooster Compactの開発を進めている。量産開始は2022年の予定で、現在、複数の自動車メーカーとの導入の検討を進めているとのことだ。なお、iBooster Compactも日本での製造を予定。

 

 

iBoosterの搭載車両の増加に伴い、より多くの車両が緊急時に迅速に停止できるようになることから、より安全な道路環境につながると同社では期待。次世代の主力製品となるiBoosterの日本での製造開始にあたり、30億円の製造設備投資が予定されているとのことだ。

 

 

◾️クライメートニュートラルおよびeモビリティでサステイナブルに発展

 

 

同社ではクライメートアクションに関する独自の目標に向かって計画を進めている。2020年春には、ボッシュ・グループの世界中の400以上の拠点でクライメートニュートラル認証を受け、既に独立機関からの認証も受けている。その結果、ボッシュは日本の拠点も含め、CO2を排出しない、世界初の事業会社となっている。

 

 

ボッシュは、2030年までにサプライヤーから顧客に至るバリューチェーン全体で、2018年比でCO2排出量の15%にあたる6,700万トンの削減を表明している。また、固体酸化物燃料電池(SOFC)を含む、水素から熱や電力を生産する新しいアプローチにも取り組んでおり、ドイツでのSOFCパイロットプラントの稼働に続き、日本でも2020年に専門チームを立ち上げ、日本市場での開拓の可能性を調査しているという。なお、SOFCのデモ機が渋谷本社のショールームに展示中だ(2021年9月上旬まで展示予定)。

 

 

 

 

また、ボッシュはeモビリティにおける将来のパワートレインの準備を進めており、2021年だけで7億ユーロをeモビリティに投資する予定。なお、これまでの累計投資金額は、50億ユーロに達している。同社では、電力のみで走行する電気自動車(EV)に限定せず幅広いアプローチを取っている。これには、EVやハイブリッド車、燃料電池車向けの新しいパワートレインコンポーネントの開発、内燃機関における効率性向上や、eFuelと呼ばれる合成燃料の使用なども含まれるという。

 

 

◾️AIoT先進企業への成長

 

 

ボッシュは戦略的な目標として掲げる“Invented for life” のもと、グローバルな技術およびサービスサプライヤーとしての地位向上に努めている。新技術のひとつとして挙げられるのが、ボッシュのビルディングテクノロジー部門がコロナウイルス対策として開発した、「People Counting(ピープル・カウント)」だ。2020年11月、ボッシュセキュリティシステムズはPhilipsと共同で、ボッシュのピープル・カウントと、Philipsのデジタルサイネージ用ディスプレイを組み合わせた「People Counting Visualization System(ピープル カウント ソリューション)」を日本市場に投入している。ピープル カウント ソリューションは、ボッシュのインテリジェント監視カメラを用いて特定のエリアに出入りする人数をカウントし、事前に設定した一定の人数を超えた場合、Philipsのデジタルサイネージ上で警告表示を出す仕組み。このソリューションの提供により、ショッピングモールや空港などの施設側がコロナウイルス対策として密となる状況を回避し、ソーシャルディスタンスの確保が支援される。

 

ボッシュではまた、モノのインターネット(IoT)と人工知能(AI)を組み合わせたAIoTが、数十億ユーロ規模の市場で成長の機会をもたらすと考えているという。実際、ボッシュは既にAIoT先進プロバイダーへとなりつつある。ネットワーク対応の電動工具、家電製品、ヒーティングシステムを約1,000万台販売しており、アクティブユーザーの数は増加傾向にある。遅くとも2025年には、ボッシュのいずれの製品にも、AIが備わるか、または開発や製造の過程でAIを活用することを目指しているとしており、消費者向け製品に対応するAIセンサーのみならず、AIは製造においても有益であることを確認したとしている。例えば、2021年中に約50のパワートレイン工場に、製造工程の早い段階で異常や不具合を検知するAIベースのシステムを繋げる予定。これにより、工場はより効率的、生産的かつ環境に優しくなるとともに、より高品質な製品の製造が可能となるという。

 

 

 

 

◾️世界のボッシュ・グループ:2021年の展望と長期的な戦略の方向性

 

 

ボッシュ・グループは、コロナウイルスのパンデミックの影響を受けながらも2020年の業績は黒字を達成し、2021年第一四半期も好調なスタートを切った。「ボッシュはコロナウイルスのパンデミック1年目を見事に乗り切りました」と、ロバート・ボッシュGmbH取締役会会長のフォルクマル・デナー氏は述べている。しかしながら同社では、2021年も主にコロナウイルスのパンデミックにより、厳しい1年となることを予想しているようだ。

 

 

それに対する取り組みとして、技術や環境の大きな変化を背景に新たなビジネスチャンスを開拓するために、モノのインターネット(IoT)と人工知能(AI)を組み合わせ、eモビリティに注力しているという。「eモビリティへの移行において勝者となった企業のひとつと言っても過言ではなく、AIを活用することでソフトウェア事業のさらなる大幅な拡大を図っています」と、同社のデナー氏は述べている。

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坂上 賢治

NEXT MOBILITY&MOTOR CARS編集長。日刊自動車新聞を振り出しに自動車産業全域での取材活動を開始。同社の出版局へ移籍して以降は、コンシューマー向け媒体(発行45万部)を筆頭に、日本国内初の自動車環境ビジネス媒体・アフターマーケット事業の専門誌など多様な読者を対象とした創刊誌を手掛けた。独立後は、ビジネス戦略学やマーケティング分野で教鞭を執りつつ、自動車専門誌や一般誌の他、Web媒体などを介したジャーナリスト活動が30年半ば。2015年より自動車情報媒体のMOTOR CARS編集長、2017年より自動車ビジネス誌×WebメディアのNEXT MOBILITY 編集長。

松下次男

1975年日刊自動車新聞社入社。編集局記者として国会担当を皮切りに自動車販売・部品産業など幅広く取材。その後、長野支局長、編集局総合デスク、自動車ビジネス誌MOBI21編集長、出版局長を経て2010年論説委員。2011年から特別編集委員。自動車産業を取り巻く経済展望、環境政策、自動運転等の次世代自動車技術を取材。2016年独立し自動車産業政策を中心に取材・執筆活動中。

間宮 潔

1975年日刊自動車新聞社入社。部品産業をはじめ、自動車販売など幅広く取材。また自動車リサイクル法成立時の電炉業界から解体現場までをルポ。その後、同社の広告営業、新聞販売、印刷部門を担当、2006年に中部支社長、2009年執行役員編集局長に就き、2013年から特別編集委員として輸送分野を担当。2018年春から独立、NEXT MOBILITY誌の編集顧問。

片山 雅美

日刊自動車新聞社で取材活動のスタートを切る。同紙記者を皮切りに社長室支社統括部長を経て、全石連発行の機関紙ぜんせきの取材記者としても活躍。自動車流通から交通インフラ、エネルギー分野に至る幅広い領域で実績を残す。2017年以降は、佃モビリティ総研を拠点に蓄積した取材人脈を糧に執筆活動を展開中。

中島みなみ

(中島南事務所/東京都文京区)1963年・愛知県生まれ。新聞、週刊誌、総合月刊誌記者(月刊文藝春秋)を経て独立。規制改革や行政システムを視点とした社会問題を取材テーマとするジャーナリスト。

山田清志

経済誌「財界」で自動車、エネルギー、化学、紙パルプ産業の専任記者を皮切りに報道分野に進出。2000年からは産業界・官界・財界での豊富な人脈を基に経済ジャーナリストとして国内外の経済誌で執筆。近年はビジネス誌、オピニオン誌、経済団体誌、Web媒体等、多様な産業を股に掛けて活動中。

佃 義夫

1970年日刊自動車新聞社入社。編集局記者として自動車全分野を網羅して担当。2000年出版局長として「Mobi21」誌を創刊。取締役、常務、専務主筆・編集局長、代表取締役社長を歴任。2014年に独立し、佃モビリティ総研を開設。自動車関連著書に「トヨタの野望、日産の決断」(ダイヤモンド社)など。執筆活動に加え講演活動も。

熊澤啓三

株式会社アーサメジャープロ エグゼクティブコンサルタント。PR/危機管理コミュニケーションコンサルタント、メディアトレーナー。自動車業界他の大手企業をクライアントに持つ。日産自動車、グローバルPR会社のフライシュマン・ヒラード・ジャパン、エデルマン・ジャパンを経て、2010年にアーサメジャープロを創業。東京大学理学部卒。

福田 俊之

1952年東京生まれ。産業専門紙記者、経済誌編集長を経て、99年に独立。自動車業界を中心に取材、執筆活動中。著書に「最強トヨタの自己改革」(角川書店)、共著に「トヨタ式仕事の教科書」(プレジデント社)、「スズキパワー現場のものづくり」(講談社ピーシー)など。