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2022年12月26日【ESG】

アウディ、未来のものづくり計画。新EV専用工場は抑制

坂上 賢治

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2029年迄に全生産拠点でEV生産、2023年迄に生産コスト半減

 

アウディジャパンは、独アウディAGが先の2022年12月20日に発表したeモビリティへの移行に係る生産計画を日本国内メディアへ向けて12月26日に明らかにした。( 坂上 賢治 )

 

 

それによると2026年以降、世界市場での新型車はEVのみに。また来たる2033年迄に内燃エンジン搭載モデルの生産を段階的に廃止するとした。

 

実際、独アウディAGは電動化戦略フォルスプルング2030( Vorsprung 2030 / 収益性の高い成長を求めていく事と差異化による付加価値の創造 )に基づき、世界各地の拠点でEV生産の準備を進めている。そのために既存のグローバル生産ネットワーク自体を大きく変革していくという。

 

 

アウディAGで生産&ロジスティクス担当取締役を務めるガード・ウォーカー氏は「私たちは、全ての拠点を段階的に未来へと導きます。一方で私達は更地に、新しいEV工場を建設したいとは思っていません。

 

私達は既存の工場に投資して、新たに生産拠点を設けるのと同じく効率的で柔軟な車両生産が実現出来るようにします。それこそが私達が考える持続可能な取り組みであるからです。

 

持続可能なプレミアムモビリティプロバイダーへ向かう道を歩む

 

アウディは資源を節約し、持続可能なプレミアムモビリティプロバイダーへの道を歩んでいます。従って生産事業そのものを柔軟かつレリジエンス( 回復力 )のあるものにして、将来に亘って持続可能性なビジネスモデルにしたいと考えています。

 

私達は、この目標を念頭に置き包括的な戦略を策定しました。その要諦は社会・お客様・ステークホルダーが私達に期待しているもの事とは何か?を考える事。そして従業員が真に求めている事は何か?を考える事だと捉えています。

 

そこで私達は将来のビジョン360ファクトリー( 360 factory / 高品質と高精度を確保しつつ、徹底的に管理された効率的な生産プロセスを実現させる )を策定しました。

 

 

このビジョン360ファクトリーでは、自動車生産に於いて複数の達成目標を掲げています。

 

そのひとつは2030年迄に発電所から供給される一次エネルギーの消費量を削減する事。炭素中立を実現する事。大気汚染物質の排出を根絶させる事。地域の水リスクへの懸念を回避する事。また廃水や廃棄物がもたらす環境への影響を3018年比から半減させる事などがあります。

 

これらの複合的な目標を達成するためには、社内で再生可能エネルギーを生成し、革新的なテクノロジーを活用して資源をクローズドサイクルで再利用し、より循環的なバリューチェーンを構築する事が求められます。

 

併せて企業としての魅力を、更に高めていかねばならない

 

またこのアプローチは、費用対効果・持続可能性・柔軟性という多角的な面に於いて、私達の企業としての魅力を、今日よりも高めていかねばならない事も意味します。

 

アウディが魅力的な雇用主である事を、社内だけでなく社外( 特に製造業 )にも示す事。それは労働の提供に対して柔軟な勤務時間を取り入れるだけでなく、作業環境の改善を進めて行く事、休憩室などの付帯施設も、更に快適なものにしてかかねばなりません。

 

 

私達は、既に在籍している従業員だけでなく、将来に亘る全ての応募者、学生、専門職にとっても最高の雇用主になりたいと考えています。

 

またこれらの変革には、エレクトロニクスやソフトウェア開発など、一般的に生産そのものに直接関連しない分野であっても働くための魅力を高める必要があります。それらが実現して初めて、社内と社外の両方で魅力的な企業となる事が出来ると思うのです。

 

2020年代に世界中の全拠点に於けるEV生産計画を実現させる

 

その第一段階としてまず私達は、2020年代の終わり迄に世界中の全拠点に於けるEV生産計画を実現させる予定です。

 

勿論この目標を達成させるためには、高度なスキルを備えた従業員が欠かせません。従って約5億ユーロの予算を確保し、来たる2025年迄に同生産に適合する従業員教育を徹底させていきます。

 

既にブリュッセルとベーリンガーホフの2つの製造拠点ではEVを生産中ですが、来年の2023年にはインゴルシュタット工場から同拠点初のEV、Audi Q6 e-tronがラインオフします。

 

 

更にネッカーズルム、サンホセチアパ、ジェールでも徐々にEV生産が開始され、2029年には、全ての生産拠点で少なくとも1つのEVモデルを生産していく予定です。またこれと並行して、各国・各地域の状況に応じて内燃エンジン搭載モデルの生産を2030年代の初頭迄に段階的に廃止する予定です。

 

なお追加の生産能力が必要な場所にのみ新工場を建設していきます。例えばアウディのパートナー企業である中国第一汽車集団( FAW  )は現在、長春に新しい工場を建設中で、ここではPPE(プレミアム プラットフォーム エレクトリック)をベースにしたモデルが現地で作られます。

 

工場の建設自体は2024年末迄に完了する予定で、これが完成した暁( あかつき )には、同拠点はアウディ製EVのみを生産する中国初の工場となります。

 

 

電動化を加速させる取り組みは、私達が目指す成果の一部に過ぎない

 

ちなみに生産工場を電動化の流れに乗せていく取り組みは、車両生産事業に於いて当社が目指す成果の一部に過ぎません。というのは、eモビリティ化への移行が進むに連れて、未来のEV事業への最適化も着実に進むからです。

 

つまり未来に向けた準備を整える事を介して、私達の生産ネットワークの姿は、効率的で持続可能になっていくだけでなく、より柔軟になる事も意味しているからです。

 

また車両生産の効率化させていく過程に於いて私達は、工場に係る年間の維持コストも来たる2033年を目標に半減させたいと考えています。

 

 

そこでファクトリーオートメーションの進化させるべくローカルサーバーを活用したエッジクラウド4プロダクション( Edge Cloud 4 Production )ソリューションを活用するなどで、生産工程のデジタル化も精力的に取り組んでいきます。

 

このエッジ クラウド4プロダクションは、工場の生産過程に於ける集中型ローカル サーバーで、これが現在、無数に存在している高価格な産業用PCの仕事を一括して肩代わりします。

 

これにより工程変更に伴う無数の産業用PCの置き換え自体が不要になります。エッジクラウド4プロダクションを配置した後は、ソフトウェアの入れ替えやOS自体の変更を行えばよく、結果、IT関連の労力や費用が大幅に削減されます。

 

最終的には新たなソリューション、独立したモジュラーアセンブリなども使用して生産工程の高い柔軟性を保ちながら、生産管理をシンプル化していく予定です。

 

生産工程の柔軟化が未来にあるべき自動車生産工場の姿

 

これにより例えばAudi Q6 e-tronは、インゴルシュタット工場のAudi A4、Audi A5と同じラインで生産されるようになります。そして最終的にはライン上の内燃エンジン搭載モデルは、全てEVへと徐々に置き換えられます。このように生産工程が柔軟な変化していく事が、私達が目指す未来の自動車生産工場の姿なのです。

 

インゴルシュタット工場では、膜バイオリアクター( 生体触媒を用いて生化学反応させ、分離膜で水を分離させる )を使った先進的な水処理法を利用し、年間の真水使用量を最大50万m³ 削減。処理された廃水をプロセス水としてプラントに戻し毎年約1万1,000人のドイツ人が使う平均量に匹敵する真水を節約。更に工場のエネルギー供給の約70%が既に賃租中立になっている。

 

併せて私達は2019年以来、ミッション:ゼロ( Mission:Zero )と呼ぶ環境プログラムを実行してきました。このプログラムの目標は2025年迄に世界中の全生産拠点を炭素中立化させる事にあります。また実際、ブリュッセル、ジェール、ネッカーズルムのベーリンガーホフ工場は既に炭素中立に向けた改修が進んでいます。

 

加えてミッション:ゼロでは、水の効率的な使用も掲げています。具体的には2035年迄に生産拠点での水の消費量を半分にする事を計画中です。

 

その実例でアウディメキシコは、2018年に排水を一切出さずに車両生を行う世界初の拠点になっています。ネッカーズルム拠点では、工場と近隣の自治体の廃水処理プラントとの間に水循環システムを構築するパイロットプロジェクトを完成させ、淡水利用を70パーセント以上削減させました。

 

メキシコ工場では金属を含む90%以上の廃棄物のリサイクルに成功。これは重量にして約3万tとなる。また10万本の木を工場の近隣に植え2万5,000個の穴を掘り汚水浄化・雨水貯留槽とした。これにより毎年、雨期に最大37万5,000立方メートルの雨水を集めることが出来、ろ過された雨水は土壌浸食も防ぐ。

 

中でもインゴルシュタット工場は、アウディ初の完全に包括的なビジョン360ファクトリーとして、世界中にあるアウディの大規模生産工場変革の設計図となっており、今後、他の工場でも段階的に同工場での実績と成功体験を積極的に取り込んでいきます。

 

変革はまだ道半ばですが、私たちは目的地に到達するための明確な道筋とステップを見定めており、それに従って着実に行動していきます」と結んでいる。

 

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坂上 賢治

NEXT MOBILITY&MOTOR CARS編集長。日刊自動車新聞を振り出しに自動車産業全域での取材活動を開始。同社の出版局へ移籍して以降は、コンシューマー向け媒体(発行45万部)を筆頭に、日本国内初の自動車環境ビジネス媒体・アフターマーケット事業の専門誌など多様な読者を対象とした創刊誌を手掛けた。独立後は、ビジネス戦略学やマーケティング分野で教鞭を執りつつ、自動車専門誌や一般誌の他、Web媒体などを介したジャーナリスト活動が30年半ば。2015年より自動車情報媒体のMOTOR CARS編集長、2017年より自動車ビジネス誌×WebメディアのNEXT MOBILITY 編集長。

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1975年日刊自動車新聞社入社。編集局記者として国会担当を皮切りに自動車販売・部品産業など幅広く取材。その後、長野支局長、編集局総合デスク、自動車ビジネス誌MOBI21編集長、出版局長を経て2010年論説委員。2011年から特別編集委員。自動車産業を取り巻く経済展望、環境政策、自動運転等の次世代自動車技術を取材。2016年独立し自動車産業政策を中心に取材・執筆活動中。

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1975年日刊自動車新聞社入社。部品産業をはじめ、自動車販売など幅広く取材。また自動車リサイクル法成立時の電炉業界から解体現場までをルポ。その後、同社の広告営業、新聞販売、印刷部門を担当、2006年に中部支社長、2009年執行役員編集局長に就き、2013年から特別編集委員として輸送分野を担当。2018年春から独立、NEXT MOBILITY誌の編集顧問。

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日刊自動車新聞社で取材活動のスタートを切る。同紙記者を皮切りに社長室支社統括部長を経て、全石連発行の機関紙ぜんせきの取材記者としても活躍。自動車流通から交通インフラ、エネルギー分野に至る幅広い領域で実績を残す。2017年以降は、佃モビリティ総研を拠点に蓄積した取材人脈を糧に執筆活動を展開中。

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(中島南事務所/東京都文京区)1963年・愛知県生まれ。新聞、週刊誌、総合月刊誌記者(月刊文藝春秋)を経て独立。規制改革や行政システムを視点とした社会問題を取材テーマとするジャーナリスト。

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経済誌「財界」で自動車、エネルギー、化学、紙パルプ産業の専任記者を皮切りに報道分野に進出。2000年からは産業界・官界・財界での豊富な人脈を基に経済ジャーナリストとして国内外の経済誌で執筆。近年はビジネス誌、オピニオン誌、経済団体誌、Web媒体等、多様な産業を股に掛けて活動中。

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1970年日刊自動車新聞社入社。編集局記者として自動車全分野を網羅して担当。2000年出版局長として「Mobi21」誌を創刊。取締役、常務、専務主筆・編集局長、代表取締役社長を歴任。2014年に独立し、佃モビリティ総研を開設。自動車関連著書に「トヨタの野望、日産の決断」(ダイヤモンド社)など。執筆活動に加え講演活動も。

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株式会社アーサメジャープロ エグゼクティブコンサルタント。PR/危機管理コミュニケーションコンサルタント、メディアトレーナー。自動車業界他の大手企業をクライアントに持つ。日産自動車、グローバルPR会社のフライシュマン・ヒラード・ジャパン、エデルマン・ジャパンを経て、2010年にアーサメジャープロを創業。東京大学理学部卒。

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1952年東京生まれ。産業専門紙記者、経済誌編集長を経て、99年に独立。自動車業界を中心に取材、執筆活動中。著書に「最強トヨタの自己改革」(角川書店)、共著に「トヨタ式仕事の教科書」(プレジデント社)、「スズキパワー現場のものづくり」(講談社ピーシー)など。