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2019年10月22日【エネルギー】

NECは空飛ぶクルマで再び輝きを取り戻せるか

山田清志

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 10月中旬に幕張メッセで開催された「CEATEC2019」には787社・団体が出展し、さまざまな製品が展示された。その中で来場者の注目を浴びた一つがNECの空飛ぶクルマの試作機と言えるだろう。その周りには常に人が集まり、しきりに写真を撮っていた。NECは本当に空飛ぶクルマを世の中に出すのだろうか。(経済ジャーナリスト・山田清志)

 

8月に浮上実験に成功

 

 NECは今回のCEATEC2019にスマートシティを実現するために「Public Safety」「Digital Government」「Smart Transportation」「City Management」「Digital Healthcare」の5つの領域でソリューションを提供した。そのなかで、ブースの真ん中に展示されたのがSmart Transportationの空飛ぶクルマの試作機だ。

 

8月5日には、同社の我孫子事業所に新設された実験場で浮上実験に成功した

 

「なんか空飛ぶクルマばかりが目立ってしまって、ほかのものが霞んでしまった感じがした」と遠藤信博会長はレセプションパーティの会場で感想を述べたが、その表情は笑顔で溢れていた。次から次への写真を撮る人が現れれば当然だろう。そして、「いろいろな展開が考えられそうだ」とつぶやく。

 

 NECはこれまで経済産業省と国土交通省が設立した「空の移動革命に向けた官民協議会」に参画するとともに、日本初の空飛ぶクルマの開発活動団体「CARTIVATOR(カーティベーター)」を運営する一般社団法人カーティベーター リソース マネジメントとスポンサー契約を締結し、空飛ぶクルマの機体開発の支援を行ってきた。

 

 

その理由は、NECが航空管制システムや衛星運用システムなどに携わっており、そこで培ってきた管制技術や無線通信技術を、無人航空機の飛行制御技術を活用して、空飛ぶクルマの実現に向けて検討を進めてきたからだ。

 

 今回開発した試作機は、全長約3.9m、幅3.7m、高さ1.3mで、フレームは炭素繊維強化プラスチック。モノコック構造を採用することで軽量化を図り、重量は150kg未満だという。空飛ぶクルマに必要となる、自律飛行や機体位置情報把握(GPS)を含む制御ソフトウェア、推進装置であるモータートライバーなどを新たに開発し、試作機に搭載した。

 

NECが開発した空飛ぶクルマ

 

8月5日には、同社の我孫子事業所に新設された実験場で浮上実験に成功した。今後、実用化に向けて試作機の検証をさらに進めていく方針だが、空飛ぶクルマを製造して販売する計画はないという。あくまでもそれに搭載するソフトやシステムを販売していく。CEATECでこれだけ注目を浴びただけに残念に思う人は少なくないだろう。

 

NECの遠藤信博会長

 

NECが変わるきっかけに

 

 NECと言えば、住友グループの名門企業で、1970年代後半から80年代に日本の産業界を引っ張ってきた。「C&C(Computer & Communication)」をスローガンに掲げ、日本のパソコン市場を引っ張ってきた。まさに飛ぶ鳥を落とす勢いだったといっても過言ではなかった。

 

ところが90年にスペースシャトルのような本社ビルを東京・三田に建設すると、状況が大きく変わっていった。頼みのパソコンが不振に陥り、半導体市場でも米国・韓国勢との競争激化で苦戦を強いられた。おまけに98年には防衛庁(現防衛省)調達における価格水増し疑惑が発覚し、企業イメージを損なうことになってしまった。

 

業績のほうも低迷を続け、不採算事業のリストラが相次ぎ、家電分野からも撤退。 以来ずっと低空飛行を続けており、いまや住友グループの名門を面影すら感じられなくなってしまった。社内も活気が感じられないという。

 

CEATECのNECのブース

 

 子会社の中には「面白いアイデアや新しい企画を上げても“三田”がことごとくつぶす」との声もあり、NECは新しいことに挑戦する意識が薄れてしまったようだ。そうした中で出てきた今回の空飛ぶクルマは、NECが変わる契機になるかもしれない。説明員の一人は、「この空飛ぶクルマが起爆剤となって、イノベーションが起こり、次々に新しいものが出てきてほしい」と話す。

 

遠藤会長がパーティ会場で見せた笑顔の裏には、そんな新しいNECの姿があるのかもしれない。そして、別れ際に握手をしながら「これからのNECに期待してください」と力強く語った。NECが空飛ぶクルマのように急上昇して、再び輝きを取り戻せるのか、今後の動向は要注目だ。

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坂上 賢治

NEXT MOBILITY&MOTOR CARS編集長。日刊自動車新聞を振り出しに自動車産業全域での取材活動を開始。同社の出版局へ移籍して以降は、コンシューマー向け媒体(発行45万部)を筆頭に、日本国内初の自動車環境ビジネス媒体・アフターマーケット事業の専門誌など多様な読者を対象とした創刊誌を手掛けた。独立後は、ビジネス戦略学やマーケティング分野で教鞭を執りつつ、自動車専門誌や一般誌の他、Web媒体などを介したジャーナリスト活動が30年半ば。2015年より自動車情報媒体のMOTOR CARS編集長、2017年より自動車ビジネス誌×WebメディアのNEXT MOBILITY 編集長。

松下次男

1975年日刊自動車新聞社入社。編集局記者として国会担当を皮切りに自動車販売・部品産業など幅広く取材。その後、長野支局長、編集局総合デスク、自動車ビジネス誌MOBI21編集長、出版局長を経て2010年論説委員。2011年から特別編集委員。自動車産業を取り巻く経済展望、環境政策、自動運転等の次世代自動車技術を取材。2016年独立し自動車産業政策を中心に取材・執筆活動中。

間宮 潔

1975年日刊自動車新聞社入社。部品産業をはじめ、自動車販売など幅広く取材。また自動車リサイクル法成立時の電炉業界から解体現場までをルポ。その後、同社の広告営業、新聞販売、印刷部門を担当、2006年に中部支社長、2009年執行役員編集局長に就き、2013年から特別編集委員として輸送分野を担当。2018年春から独立、NEXT MOBILITY誌の編集顧問。

片山 雅美

日刊自動車新聞社で取材活動のスタートを切る。同紙記者を皮切りに社長室支社統括部長を経て、全石連発行の機関紙ぜんせきの取材記者としても活躍。自動車流通から交通インフラ、エネルギー分野に至る幅広い領域で実績を残す。2017年以降は、佃モビリティ総研を拠点に蓄積した取材人脈を糧に執筆活動を展開中。

中島みなみ

(中島南事務所/東京都文京区)1963年・愛知県生まれ。新聞、週刊誌、総合月刊誌記者(月刊文藝春秋)を経て独立。規制改革や行政システムを視点とした社会問題を取材テーマとするジャーナリスト。

山田清志

経済誌「財界」で自動車、エネルギー、化学、紙パルプ産業の専任記者を皮切りに報道分野に進出。2000年からは産業界・官界・財界での豊富な人脈を基に経済ジャーナリストとして国内外の経済誌で執筆。近年はビジネス誌、オピニオン誌、経済団体誌、Web媒体等、多様な産業を股に掛けて活動中。

佃 義夫

1970年日刊自動車新聞社入社。編集局記者として自動車全分野を網羅して担当。2000年出版局長として「Mobi21」誌を創刊。取締役、常務、専務主筆・編集局長、代表取締役社長を歴任。2014年に独立し、佃モビリティ総研を開設。自動車関連著書に「トヨタの野望、日産の決断」(ダイヤモンド社)など。執筆活動に加え講演活動も。

熊澤啓三

株式会社アーサメジャープロ エグゼクティブコンサルタント。PR/危機管理コミュニケーションコンサルタント、メディアトレーナー。自動車業界他の大手企業をクライアントに持つ。日産自動車、グローバルPR会社のフライシュマン・ヒラード・ジャパン、エデルマン・ジャパンを経て、2010年にアーサメジャープロを創業。東京大学理学部卒。

福田 俊之

1952年東京生まれ。産業専門紙記者、経済誌編集長を経て、99年に独立。自動車業界を中心に取材、執筆活動中。著書に「最強トヨタの自己改革」(角川書店)、共著に「トヨタ式仕事の教科書」(プレジデント社)、「スズキパワー現場のものづくり」(講談社ピーシー)など。