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2021年3月31日【テクノロジー】

日立、米IT企業のグローバルロジックを1兆円で買収

山田清志

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日立製作所は3月31日、米国IT企業のグローバルロジックを買収すると発表した。買収額は96億ドル(約1兆500億円)で、電機業界では過去最大級となる。日立は現在、「Lumada(ルマーダ)」と名づけたIT事業を核とした成長戦略を掲げ、事業の取捨選択を進めてきた。しかし、海外の企業に比べてIT化が遅れている感が否めなかった。そこで、今回の買収によって、遅れが目立つIT事業の世界展開を一気に加速しようというわけだ。(経済ジャーナリスト・山田清志)

 

高利益率でも海外展開が遅れていたIT事業

 

「本買収はルマーダを進化させて、グローバル展開を加速するために行うもので、世界のルマーダにするための買収だ。日立は2016年以降、ルマーダを核とした事業を展開してきた。これは、お客さまとの協創を通して、データとデータをつなぎ、企業価値を向上させるという活動だ。いまデジタルの進化はものすごい勢いで進んでいて、例えば自動車の中の機器とか、工場内の機器の中にソフトウェアが入り込む時代になっている。

 

 

日立はこのルマーダを、クラウド、エッジ、デバイスにリアルタイムでつないで新たな価値を提供する事業を加速していきたいと考えている。グローバルロジック社は、医療、自動車、あるいは産業の分野の開発にノウハウがあり、今回の買収によって、グローバルなお客さまに対して新たな価値を提供していけるものと確信している」

 

東原敏昭社長は記者会見の冒頭、グローバルロジック買収の意義について、こう説明した。日立のIT関連事業の売上高は21年3月期に1兆9700億円と連結売上高の4分の1程度だが、営業利益は2300億円を見込んでおり、全体の5割超を占める牽引役となっている。営業利益率も10%超で、他の事業に比べて高い。

 

 

しかし、中身を見ると、国内の金融機関や官公庁とのビジネスが主体で、海外比率は3割程度に留まっていた。グループ全体では海外の売上高が約5割になっており、IT分野の海外展開が課題だった。

 

そこで、日立はこうした状況の打開に向け、22年3月期までの中期経営計画でIT分野の投資に1兆円規模を投じる考えを示していた。それが今回のグローバルロジック買収だったわけだ。

 

1兆円の買収額は「妥当だ」

 

グローバルロジックは米国シリコンバレーに本社を置く2000年創業のITベンチャー企業で、デジタルトランスフォーメーション(DX)に取り組む企業が使うシステム開発を手がけている。特に、組み込み機器のソフトウェアからクラウド上のデータ分析システムまで、チップ・トゥー・クラウドに対応するシステム開発に強みを持っている。しかも、顧客の各種ニーズに合わせたシステム構築サービスを一気通貫で提供する。

 

世界14カ国に約2万人以上の従業員を擁し、世界各地にデザインスタジオやソフトウェアエンジニアリングセンターを展開している。さらに、通信や金融サービス、自動車、ヘルスケア・ライフサイエンス、テクノロジー、メディア・エンターテイメントなど幅広い業界で400社を超える顧客基盤を持っている。急成長を続けるデジタルエンジニアリングサービス市場でリーディングカンパニーと言われている。

 

 

2021年度の売上収益は12億米ドル(約1296億円)で、調整後EBITDA率は20%超を見込んでいる。しかも、高い収益プロファイルと強力なCAGR(年平均成長率)によって、28年度には調整後EBITDA10億米ドル(約1080億円)超を目指しているという。

 

「現在、あらゆる業界において、顧客との関わりを深め、収益を拡大し、そして人々のQoLを向上させるため、企業はデジタルテクノロジーによる剣客を迎えている。今回、日立とともに新たな歩みを進める機会が与えられたことを、とても喜ばしく感じている。私たちは、お互いが培ってきた経験やテクノロジー、そして市場における存在感を融合させ、お客さまのジジネスの変革により大きな価値を提供し、貢献していく」とグローバルロジックのシャシャンク・サマント社長はコメントする。

 

ちなみに今回の買収は現金対価による逆三角合併方式で実行される。日立が直接買収するのではなく、日立の米国子会社である日立グローバルデジタルホールディングス社が全額キャッシュで21年7月末までに買収を行う予定だ。

 

 

「買収の決め手は、2025年を想像したときにサイバーフィジカルシステムがどのような形になっているのか、その時にわれわれが足りないところは何か、そういうことを考えたときに一番フィットする会社としてグローバルロジック社を選んだ。それから、グローバルロジック社は医療とか、自動車とか、通信とか、いろいろな分野に対していい比率で業務ノウハウがある。それが2つ目の決め手になった」

 

東原社長は質疑応答で改めてグローバルロジックを買収相手に選んだ理由を話し、1兆円の買収額について「企業価値を多様な側面から評価し、妥当だ」と強調した。

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坂上 賢治

NEXT MOBILITY&MOTOR CARS編集長。日刊自動車新聞を振り出しに自動車産業全域での取材活動を開始。同社の出版局へ移籍して以降は、コンシューマー向け媒体(発行45万部)を筆頭に、日本国内初の自動車環境ビジネス媒体・アフターマーケット事業の専門誌など多様な読者を対象とした創刊誌を手掛けた。独立後は、ビジネス戦略学やマーケティング分野で教鞭を執りつつ、自動車専門誌や一般誌の他、Web媒体などを介したジャーナリスト活動が30年半ば。2015年より自動車情報媒体のMOTOR CARS編集長、2017年より自動車ビジネス誌×WebメディアのNEXT MOBILITY 編集長。

松下次男

1975年日刊自動車新聞社入社。編集局記者として国会担当を皮切りに自動車販売・部品産業など幅広く取材。その後、長野支局長、編集局総合デスク、自動車ビジネス誌MOBI21編集長、出版局長を経て2010年論説委員。2011年から特別編集委員。自動車産業を取り巻く経済展望、環境政策、自動運転等の次世代自動車技術を取材。2016年独立し自動車産業政策を中心に取材・執筆活動中。

間宮 潔

1975年日刊自動車新聞社入社。部品産業をはじめ、自動車販売など幅広く取材。また自動車リサイクル法成立時の電炉業界から解体現場までをルポ。その後、同社の広告営業、新聞販売、印刷部門を担当、2006年に中部支社長、2009年執行役員編集局長に就き、2013年から特別編集委員として輸送分野を担当。2018年春から独立、NEXT MOBILITY誌の編集顧問。

片山 雅美

日刊自動車新聞社で取材活動のスタートを切る。同紙記者を皮切りに社長室支社統括部長を経て、全石連発行の機関紙ぜんせきの取材記者としても活躍。自動車流通から交通インフラ、エネルギー分野に至る幅広い領域で実績を残す。2017年以降は、佃モビリティ総研を拠点に蓄積した取材人脈を糧に執筆活動を展開中。

中島みなみ

(中島南事務所/東京都文京区)1963年・愛知県生まれ。新聞、週刊誌、総合月刊誌記者(月刊文藝春秋)を経て独立。規制改革や行政システムを視点とした社会問題を取材テーマとするジャーナリスト。

山田清志

経済誌「財界」で自動車、エネルギー、化学、紙パルプ産業の専任記者を皮切りに報道分野に進出。2000年からは産業界・官界・財界での豊富な人脈を基に経済ジャーナリストとして国内外の経済誌で執筆。近年はビジネス誌、オピニオン誌、経済団体誌、Web媒体等、多様な産業を股に掛けて活動中。

佃 義夫

1970年日刊自動車新聞社入社。編集局記者として自動車全分野を網羅して担当。2000年出版局長として「Mobi21」誌を創刊。取締役、常務、専務主筆・編集局長、代表取締役社長を歴任。2014年に独立し、佃モビリティ総研を開設。自動車関連著書に「トヨタの野望、日産の決断」(ダイヤモンド社)など。執筆活動に加え講演活動も。

熊澤啓三

株式会社アーサメジャープロ エグゼクティブコンサルタント。PR/危機管理コミュニケーションコンサルタント、メディアトレーナー。自動車業界他の大手企業をクライアントに持つ。日産自動車、グローバルPR会社のフライシュマン・ヒラード・ジャパン、エデルマン・ジャパンを経て、2010年にアーサメジャープロを創業。東京大学理学部卒。

福田 俊之

1952年東京生まれ。産業専門紙記者、経済誌編集長を経て、99年に独立。自動車業界を中心に取材、執筆活動中。著書に「最強トヨタの自己改革」(角川書店)、共著に「トヨタ式仕事の教科書」(プレジデント社)、「スズキパワー現場のものづくり」(講談社ピーシー)など。