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2019年7月4日【エレクトロニクス器機】

日本政府、韓国への半導体関連品輸出を厳格化。同国市場に激震

坂上 賢治

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 日本政府は20カ国・地域首脳会議(G20大阪サミット)が成功裡に終えて間もない7月4日、韓国政府に対して半導体などの材料3品目を対象に、輸出許可の手続き厳格化を発動した。(坂上 賢治)

 

 

 これによりスマートフォンやテレビ、車両などの有機ELディスプレー製造に使われる透明ポリイミドこと「フッ化ポリイミド(製品輸入率84.5%で額面約21億4千万円)」、半導体の製造過程で不可欠な感光剤である「レジスト(製品輸入率93.2%で額面約324億円)」、エッチングガスこと「フッ化水素(製品の輸入率41.9%で額面約72億5千万円)」の3品目で個別の輸出単位毎の許可手続きが必須となる。

 

 但し個別許可制になったからすぐさま輸出制限を行うという訳ではない。そもそも今対象になった3品目は、『過去、輸出されて以降の製品の足取りについて懸念事案があった』と日本政府は公式見解で述べており、その調査を行いたいと希望を伝えた日本政府に対して、韓国政府からは回答が無く、全く協力が得られなかったことで業を煮やした官僚達の意向を内閣府の政治家達が判断し、今実施踏み切ったもの。

 

本来、そのような懸念が予てより上がっていたのであれば、実際はもっと早い段階で宣言・実施すれば良かったのだが、どうしてその実施日が「7月4日」になったのかは、日本政府の国際情勢を踏まえた独自の判断が働いたものと見られる。

 

 

 また日本政府は併せて、戦略製品の輸出手続きを免除する友好国リスト(いわゆるホワイトリスト/包括許可方式の対象国として現時点で27ヵ国ある)から、韓国を除外する手続きを進めており、こちらも早ければ8月中旬に外される見通しだ。

 

この結果、韓国は『兵器拡散の恐れがない国』という友好国リストの枠内から漏れ、今後、韓国が軍事転用の恐れがある日本製品の輸入を希望する場合、8月中旬以降は個別に許可を求められる可能性がある。

 

そもそも日本政府は、去る2004年から韓国に対して、一度申請すれば最大3年間分の輸出許可を1度に取得できる包括許可方式の仲間に追加したのだが、例えば欧州連合では韓国をこのような趣旨の『友好国リスト/日本でいうホワイトリスト』に加えておらず、こうした措置は個別政府の自主判断に委ねられている。

 

 これを踏まえ日本政府は、化学兵器製造などに転用される恐れがある物品や技術の輸出を外為法に基づき規制している。今措置は、これを前提に輸出当事国が製品輸出先国での製品の利用内容を自主的に精査していい事柄である。従って今措置がWTO(世界貿易機関)協定違反になるとの韓国政府の指摘はあたらない。

 

 むしろ今回は、過去の発生していた懸念要因に対して、韓国政府がそれに真摯に対応しなかった事が真の理由である訳で、逆にこのような輸出製品に掛かるプロセスが不透明になってく様子を、日本政府がそのまま放置して眺め続けていれば、自由主義経済圏の世界に於いて日本政府の立つ瀬がなくなってしまう。

 

 

 一方で同措置に至った原因について、「戦時中に朝鮮半島から動員された元徴用工への補償問題で、韓国側の対応が充分ではなく、日韓両政府の信頼関係が著しく損なわれたことによる」と報道するメディアがあったことには日本政府の見解説明に大きな問題があった。

 

というのは政府側の世耕弘成経済産業相の見解で、(1)兵器などに転用される可能性がある技術を輸出する際には、しっかりとした管理を常に行うことが求められている。そういう意味で不断の見直しの努力を行うのは国際社会の一員として当然であること。(2)過去の不適切な事案の発生により、信頼関係に基づく輸出管理が困難との趣旨を述べており、ここまでは良かった。しかしこれに加え、(3)の元徴用工などの要素を付け加えており、これが同報道の呼び水となったからだ。

 

本来、今措置の理由付けでは、(3)の元徴用工の要素は『施策を発動したことの客観性を意味付ける』という意味で、あえてつけ加えない方が良かった事柄であった。

 

 おそらく内閣府としては「元徴用工問題などで国家間の信頼感が損なわれたことも背景の一因だ」と発言したいのだろうが、外為法に基づく真っ当な措置であることをあえて世界へ向けて周知するのであれば、日本・韓国外の第三国に憶測を与えがちな背景的要素は、あえて付け加えない方が、論理的かつ毅然とした態度を示せたように思われるからだ。

 

 そもそも世耕経済産業相のいう背景を語るのであれぱ、「韓国政府は、対日貿易で日本の自動車・家電、半導体輸入を制限しつつも、自国内で調達できないコア技術ついては部品や材料として日本からの輸入に頼るという自国に都合のよい対日貿易を行い、これに対して日本政府は韓国経済の成長の行方を見据え、これをあえて容認してきた。
しかし一定の経済成長を遂げた後も依然、両国の特殊な関係を利用し続けようとする韓国に対して日本政府は、未来に向けて対等な国際関係の姿を示したい」などというべきであったと思う。

 

 

 ちなみに現段階で実務上に於いては、国際的な半導体ロビーが懸念を示す程の大きな混乱は起きていない。これは個別ロットの契約毎の申請のためで、実際の業績懸念は具体的な手続きが進んでいかないと判断できないだろう。
事務手続きについて日本政府では最大90日掛かるとしているが、事務的な作業期間を踏まえると4週間強程度の時間で済むものと見られる。その期間で、ここのところタブ付気味であったサムスン電子(世界売上1位)やSKハイニックス(世界売上3位)にとっては、半導体在庫が収斂してむしろ世界の半導体製造業界にとっては、製品単価の低迷に歯止めが掛かるのではとの見方もある。むしろ製品調達のリスク管理に慣れてしまえば、長期的な影響はほぼないという見方すらある。

 

 例えば日本の対象製品輸出が今後、仮に制限される自体になったとしても、それが他国から調達可能な製品であれば、その分コストは掛かるが、韓国政府と同国企業が策を講じて日本外の第三国経由で入手することも難しくない。さらにかなり長い目で見た場合、日本外からの新たな製品調達の道が開ける可能性もあるだろう。

 

 元来、フッ化水素の製造原料である高純度の蛍石(フッ化カルシウムを含むハロゲン化鉱物の一種)を上げると、そもそもその原産国は中国であり、中国政府にとって加工製品の開発が国益に資すると考えれば、遠い将来、中国と日本がフッ化水素輸出の競合関係になることも考えられなくもない。つまるところ直ちに東アジア経済に深刻な打撃を与えるかは暫く静観する必要がある。
ただこれが契機となって半導体製造の地勢的勢力図が長い時間を掛けて変革される可能性はある。いずれにしても今措置は、日本の内閣府として対韓強硬姿勢を内外に向けて、あえてこの時期ゆえに示したかったということなのだろう。

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坂上 賢治

NEXT MOBILITY&MOTOR CARS編集長。日刊自動車新聞を振り出しに自動車産業全域での取材活動を開始。同社の出版局へ移籍して以降は、コンシューマー向け媒体(発行45万部)を筆頭に、日本国内初の自動車環境ビジネス媒体・アフターマーケット事業の専門誌など多様な読者を対象とした創刊誌を手掛けた。独立後は、ビジネス戦略学やマーケティング分野で教鞭を執りつつ、自動車専門誌や一般誌の他、Web媒体などを介したジャーナリスト活動が30年半ば。2015年より自動車情報媒体のMOTOR CARS編集長、2017年より自動車ビジネス誌×WebメディアのNEXT MOBILITY 編集長。

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1975年日刊自動車新聞社入社。編集局記者として国会担当を皮切りに自動車販売・部品産業など幅広く取材。その後、長野支局長、編集局総合デスク、自動車ビジネス誌MOBI21編集長、出版局長を経て2010年論説委員。2011年から特別編集委員。自動車産業を取り巻く経済展望、環境政策、自動運転等の次世代自動車技術を取材。2016年独立し自動車産業政策を中心に取材・執筆活動中。

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1975年日刊自動車新聞社入社。部品産業をはじめ、自動車販売など幅広く取材。また自動車リサイクル法成立時の電炉業界から解体現場までをルポ。その後、同社の広告営業、新聞販売、印刷部門を担当、2006年に中部支社長、2009年執行役員編集局長に就き、2013年から特別編集委員として輸送分野を担当。2018年春から独立、NEXT MOBILITY誌の編集顧問。

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日刊自動車新聞社で取材活動のスタートを切る。同紙記者を皮切りに社長室支社統括部長を経て、全石連発行の機関紙ぜんせきの取材記者としても活躍。自動車流通から交通インフラ、エネルギー分野に至る幅広い領域で実績を残す。2017年以降は、佃モビリティ総研を拠点に蓄積した取材人脈を糧に執筆活動を展開中。

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1970年日刊自動車新聞社入社。編集局記者として自動車全分野を網羅して担当。2000年出版局長として「Mobi21」誌を創刊。取締役、常務、専務主筆・編集局長、代表取締役社長を歴任。2014年に独立し、佃モビリティ総研を開設。自動車関連著書に「トヨタの野望、日産の決断」(ダイヤモンド社)など。執筆活動に加え講演活動も。

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株式会社アーサメジャープロ エグゼクティブコンサルタント。PR/危機管理コミュニケーションコンサルタント、メディアトレーナー。自動車業界他の大手企業をクライアントに持つ。日産自動車、グローバルPR会社のフライシュマン・ヒラード・ジャパン、エデルマン・ジャパンを経て、2010年にアーサメジャープロを創業。東京大学理学部卒。

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1952年東京生まれ。産業専門紙記者、経済誌編集長を経て、99年に独立。自動車業界を中心に取材、執筆活動中。著書に「最強トヨタの自己改革」(角川書店)、共著に「トヨタ式仕事の教科書」(プレジデント社)、「スズキパワー現場のものづくり」(講談社ピーシー)など。