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2024年1月18日【テクノロジー】

レディロボティクスとトヨタ、アルミ鍛造生産をRPA化

坂上 賢治

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アルミ熱間鍛造生産ライン専用プログラミングシステムの完成を目指す

 

産業ロボット向けOS「ForgeOS」の開発を手掛けるREADY Robotics社は1月17日( 米オハイオ州コロンバス発 )、日本のトヨタ自動車並びに米NVIDIA社と協業し、アルミニウム熱間鍛造生産ラインのRPA化( ロボティック プロセス オートメーション )に取り組む。

 

具体的には、まず3Dワークフローを高速化させる「NVIDIA Omniverse」と、ロボティクスシミュレーション環境の「NVIDIA Isaac Sim」とを連携させ、自社( READY Robotics社 )のForgeOSを介して当該ロボットオートメーションのためのプログラミング環境を組み立てる。

 

この取り組み事案に於ける最も大きな課題は、熱間鍛造中の金属部品を常に高温に保つ必要があることで、これが保たれないと安全の保全のみならず、製品面の肌あれ( 表面のへこみ )や、バリ残り、バリかえり、打こんなどの製品不良に繫がりかねない。

 

そこで今回は、生産ラインの稼働に必要なプログラミングプロセスを簡素化でき、ロボットシステム特有の複雑さを軽減可能なREADY Robotics社のForgeOSと、ロボティクス シミュレーションのNVIDIA Isaac Simを組み合わせることで、アルミニウム熱間鍛造生産ライン専用のプログラミングシステムの完成を目指す。

 

対するトヨタ側では、READY Robotics社とNVIDIA社へ熱間鍛造プロセス全域での微妙なニュアンスを伝えることで、複雑な熱間鍛造ルーチンの動きを最適化させることに協力する。

 

最終的にはデジタルツインが形成されて工程監視も強化される

 

ちなみに同工程で一番の鍵となるマニピュレーター( アーム部分 )の動きをForgeOSを介してシームレスに動かして製造プロセスの安定性と効率性を確保。高温部品の加工に係る製造リスクを極力排除して、これまでのロボットシミュレーションでは前例のない高度な自動化プロセスを完成させていくことにある。

 

なお同システムの完成により、プログラム環境の安定性が実証された暁には以降、物理的な設置段階で新たなプログラミングを行う必要がなくなり、結果、高温部品周囲の安全面への懸念も軽減される。

 

またForgeOSはプログラムのシミュレーションと共に、物理的な作業工程も100%制御できるようになるため、プログラムの変更がある場合も数秒で更新できるようになることからダウンタイムが最小限に抑えられ、作業工程の保守も容易になるという。

 

加えて、シミュレーション環境でロボットが学習した内容を現実の環境に適用させる「sim-to-real」ワークフローには、もうひとつ新しい側面がある。

 

それはリアル環境下で、NVIDIA Isaac Sim シミュレーションを介して一旦汲み上げた実機の学習を減らすことができる部分だ。これにより仮想空間でデジタルツインが形成され、現在の状態の視覚化も可能になり、工程監視が強化される。

 

生産ラインに必要なシミュレーションとリアルのワークフローが可能に

 

READY Robotics社の最高イノベーション責任者を務めるケル・ゲリン博士( Kel Guerin )は、「今回、日本の大手ITサービス会社であり、NVIDIA Omniverseパートナーの「SCSK社( 住友商事グループ傘下 )」と協力して、このソリューションをトヨタに提供できることを嬉しく思います。

 

このNVIDIA Isaac SimをForgeOSに統合すると、特に安全性が懸念される難しいプログラミング タスクに対して適切なプログラムを迅速に作成できるようになります。

 

NVIDIAは、プログラムが現実世界の状況を反映するのに必要なツールを提供し、ForgeOSは、このシミュレーションから実際のセルへの接続、及びその逆への接続も実現できます」と述べた。

 

対してトヨタ自動車株式会社原材料開発本部のグループマネージャー鈴木和弘氏は、「ForgeOS独自のアーキテクチャにより、NVIDIA Isaac Simのシミュレーション機能と当社の制御機能が橋渡しされるため、この生産ラインに必要なシミュレーションとリアルのワークフローが可能になります。

 

これはシミュレーションでプログラムを作成し、そのプログラムを転送し、ForgeOSを使用して実際の本番データをキャプチャし、プロセスを反復的に改善できることを意味します。

 

この取り組みは産業のデジタル化に係る可能性を切り拓く好例に

 

つまり当社( トヨタ自動車 )と READY Robotics社、NVIDIA社とのコラボレーションは、より効率的で使い易く、安全性を高めたロボットオートメーションのプログラム開発と、その導入方法について新たなフロンティアを生み出すに足る充分な態勢を整えており、プロセス監視のみならず、稼働したオートメーションシステムから生産データを取得することも可能となります。

 

私たちは機械学習とAIの組み合わせによって製造プロセスの自動化が可能になる近未来を目指しており、それらは現行のプロセスを改善することから始まり、最終的には工場からシステムの工程データを抽出し、有用なデジタルツイン環境を構築することにまで及びます」と話している。

 

最後にNVIDIA社で組み込み並びにエッジ コンピューティング担当のバイスプレジデントを務めるディープ・タラ氏( Deepu Talla )は、「実運用に先立ち生産プロセスを忠実にシミュレーションすることで、運用コストを削減しながら、生産性と安全性を大幅に向上させることができます。

 

トヨタ自動車並びにREADY Robotics社とのコラボレーションは、NVIDIA Isaac Simなどの最新テクノロジーを他社に先駆けて利用することで、産業のデジタル化に係る可能性を切り拓く好例になります」と3社による取り組みの先進性を語った。

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坂上 賢治

NEXT MOBILITY&MOTOR CARS編集長。日刊自動車新聞を振り出しに自動車産業全域での取材活動を開始。同社の出版局へ移籍して以降は、コンシューマー向け媒体(発行45万部)を筆頭に、日本国内初の自動車環境ビジネス媒体・アフターマーケット事業の専門誌など多様な読者を対象とした創刊誌を手掛けた。独立後は、ビジネス戦略学やマーケティング分野で教鞭を執りつつ、自動車専門誌や一般誌の他、Web媒体などを介したジャーナリスト活動が30年半ば。2015年より自動車情報媒体のMOTOR CARS編集長、2017年より自動車ビジネス誌×WebメディアのNEXT MOBILITY 編集長。

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1975年日刊自動車新聞社入社。編集局記者として国会担当を皮切りに自動車販売・部品産業など幅広く取材。その後、長野支局長、編集局総合デスク、自動車ビジネス誌MOBI21編集長、出版局長を経て2010年論説委員。2011年から特別編集委員。自動車産業を取り巻く経済展望、環境政策、自動運転等の次世代自動車技術を取材。2016年独立し自動車産業政策を中心に取材・執筆活動中。

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1975年日刊自動車新聞社入社。部品産業をはじめ、自動車販売など幅広く取材。また自動車リサイクル法成立時の電炉業界から解体現場までをルポ。その後、同社の広告営業、新聞販売、印刷部門を担当、2006年に中部支社長、2009年執行役員編集局長に就き、2013年から特別編集委員として輸送分野を担当。2018年春から独立、NEXT MOBILITY誌の編集顧問。

片山 雅美

日刊自動車新聞社で取材活動のスタートを切る。同紙記者を皮切りに社長室支社統括部長を経て、全石連発行の機関紙ぜんせきの取材記者としても活躍。自動車流通から交通インフラ、エネルギー分野に至る幅広い領域で実績を残す。2017年以降は、佃モビリティ総研を拠点に蓄積した取材人脈を糧に執筆活動を展開中。

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1970年日刊自動車新聞社入社。編集局記者として自動車全分野を網羅して担当。2000年出版局長として「Mobi21」誌を創刊。取締役、常務、専務主筆・編集局長、代表取締役社長を歴任。2014年に独立し、佃モビリティ総研を開設。自動車関連著書に「トヨタの野望、日産の決断」(ダイヤモンド社)など。執筆活動に加え講演活動も。

熊澤啓三

株式会社アーサメジャープロ エグゼクティブコンサルタント。PR/危機管理コミュニケーションコンサルタント、メディアトレーナー。自動車業界他の大手企業をクライアントに持つ。日産自動車、グローバルPR会社のフライシュマン・ヒラード・ジャパン、エデルマン・ジャパンを経て、2010年にアーサメジャープロを創業。東京大学理学部卒。

福田 俊之

1952年東京生まれ。産業専門紙記者、経済誌編集長を経て、99年に独立。自動車業界を中心に取材、執筆活動中。著書に「最強トヨタの自己改革」(角川書店)、共著に「トヨタ式仕事の教科書」(プレジデント社)、「スズキパワー現場のものづくり」(講談社ピーシー)など。