SUBARU Labでの会見に登壇したSUBARU執行役員の柴田英司CDCO(右側)。米AMD Corporate Vice President of AI Product Managementのラミン・ローン氏(Ramine Roane/左側)
ステレオカメラとAI推論処理を融合するSoC設計で協業開始
SUBARUは4月19日、自社システム開発拠点のSUBARU Lab(東京都渋谷区)と報道陣をオンラインで繋いだ記者会見を実施。米AMDと共に、互いの技術を持ち寄って、来たる2023年の交通死亡事故ゼロを目指していく取り組みを明らかにした。( 坂上 賢治 )
ここで同社は他社などに頼ることなく、自身が20世紀終盤から長年に亘って性能向上を図ってきた
ステレオカメラの認識処理技術へ新たにAI推論処理を融合すること。そして、その出力データを車両上で自在に使えるデータとして最適化するため、米AMDと共にSoC( ソックまたエスオーシー / System on a Chip / 一個の半導体チップ上に必要機能を全実装する)開発で協業を開始すると発表した。
「Embedded World 2024 Exhibition & Conference」でのAMD SVP and GM, Adaptive and Embedded Computing Group サのリル・ラジェ氏(Salil Raje/右側)と、SUBARU執行役員の柴田英司CDCO(右側)
Photo source: SUBARU Lab
その壇上でAMDが発表した組み込み向けSoC第2世代「Versal™ AI Edge Series Gen 2( バーサル エーアイ エッジシステム ジェンツー )」を用いて、精緻なAI推論を超低遅延・低コストで演算処理させるべく、AMDとSUBARUは、SoC最適化に向けた回路設計を本格始動させることを宣言した。
この共同開発により、未来のSUBARU車に搭載される次世代アイサイトは、カメラ画像処理速度が速くなり、走行自身が周辺状況を把握する能力が飛躍的に高まることになる。
ちなみにこのVersal AI Edge Series Gen 2とは、米AMDによると〝プログラマブルロジック( 製造後に内部論理回路を定義・変更できる集積回路 )〟〝ベクタープロセッサ( 複数データを同時に演算するもの )〟〝高性能CPU〟を組み合わせることで、AI解析のPreprocessing( 入力データの前処理 )、AI Inference( AI推論の実行 )、Postprocessing( 出力データとしての後処理 )の3工程を、先の通り単一チップで処理できる特徴を持っているもの。
勿論、単一チップでの演算処理をこなすだけでなく、高温下での機能維持、電力供給の制約、給電やボードエリアの制約、外部メモリの制約、フォームファクター上の制約、通信遅延やセキュリティリスク増など、車載システムゆえの限られた環境下( 肥大した贅沢なハードウエアが搭載できる訳ではない )での組み込みシステム特有の課題にも応えるとしている。
またこの第2世代SoCは、車載に際しての性能の目安として、おおよそレベル2からレベル3+までの自動運転に対応できるとしている。
AMD Versal™ AI Edge Series Gen 2
米AMDでは、4月9日段階の自社製品発表に於いて、( SUBARUに限らず )この第2世代SoCに係るアーリーアクセスドキュメントの提供を開始。シリコンサンプルは2025年上期に。評価キットは2025年中頃に。更に量産シリコンは2025年下期を目処とした提供計画を説明していた。
SUBARUは、独自のアジャイル開発で先端技術の研究開発を推し進めていく
対してSUBARU側では4月19日に於ける自社の記者会見で、この単一チップの安全性、プログラム上の柔軟さを評価。次世代のEyeSight(アイサイト)の開発に活かしてくとしていた。
より具体的には、第2世代SoCでアイサイトで利用しない部分を精査してプログラムをコンパクト化。逆に必要となる機能がある場合、新たなプログラムをSoC最適化を介して実装する。勿論、この追加機能やプログラムに関しては、予てより自らがアイサイトを独自でアジャイル開発してきた実力を持ち合わせているため、そこは独自で実装していくという。
なおSUBARUの会見では、自らが独自で安全技術をアジャイル開発をしてきた確かな実績を改めて示すべく、現段階(第2世代SoCの未反映状態)に於ける〝ステレオカメラとAI技術を融合して前方を把握する実例などを示した。
併せて高速道路上の白線を辿る自動運転技術を超えて、走行区分を示す白線があいまいな一般道でも自動走行が実証レベルで行えること。前方の情報が極めて限定された雪上路であっても、実証レベルの自動走行が行えることも示した。
それらは今回の米AMD第2世代SoCとの最適化を経た後、大きく技術開発が進むであろう次世代アイサイトが、どれだけの安全性能を示すかに大きく期待を抱かせるものであった。
但しSUBARU側では、先端技術の獲得を目指す強い意気込みを語ったものの、それが自動運転レベル2以上、またはレベル3+以上へ到達するかどうかの明言はなかった。
ただ筆者の個人的な印象では、近年の社会環境を踏まえ、少なくとも日本国内の一般道に向けては一足飛びにレベル3+などの自動運転機能を提供するのではなく、国内他社と歩調を合わせつつ、人による手動運転を高度にサポートする〝運転の同伴者〟として、AI機能を高次元に磨いていく格好になるものと思われる。
そもそも以下のSUBARUによる今表明にある通りで、あくまでも直近の目標は〝2030年の交通死亡事故ゼロ〟を目指す訳であり、自動運転の高度化は、その目標を超えたその先にあるのだろう。
さてSUBARU執行役員の柴田英司CDCOは、「次世代SoCの選定にあたっては、AMD含め数社・数年に亘り進めてきており今回、AMDの第2世代SoCを選んだ理由は、技術とコストパフォーマンスの両面で優れていたことが決め手となりました。
当社が長年培ってきたステレオカメラの認識処理にさらなる性能向上を合わせ、2020年代後半の次世代EyeSightに搭載することを目指します。
当社は、運転支援システム〝アイサイト〟に代表される予防安全を始め、0次安全、走行安全、衝突安全、つながる安全などを加えた総合安全思想に基づき、今も精力的に車両を開発しています。
今後もこれらの注力領域を更に強化することで、2030年死亡交通事故ゼロの実現を目指します」と話している。