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2020年11月18日【テクノロジー】

住友ベークライトの次世代電動パワートレイン戦略とは

NEXT MOBILITY編集部

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■需要が高まる「電動アクスル」市場への挑戦

世界的に自動車の電動化が進む中、「住友ベークライト」が現在開発を進めているのが、自社の樹脂製品を活用した電動車向けパワートレイン「電動アクスル」だ。既に2020年1月に開発プロジェクトを発足させている。

モーターとインバータ、ギアボックスが一体化したこの次世代パワートレインを、樹脂加工メーカーである同社が自ら開発を手掛ける意図とは何か? また、その技術的な独自性や先進性、今後の展望などについて取材した。

 

■モーターとインバータ、ギアを一体化

電動アクスル(eAxle)は、従来は別々のコンポーネントであったモーターとインバータ、ギアボックス(トランスミッション)を一体化した新しいEV向けパワートレインだ。

 

その主な効果は、パワートレインのコンパクト化や低コスト化、高いエネルギー効率など。近年の自動車は、様々な先進安全技術や電子制御装置などを採用するため、ひと昔前とは比較にならないほど多様な部品が必要となるが、それらを車載するには特に部品の小型化は大きな課題のひとつ。そして、その解決策として、世界中の自動車メーカーや部品メーカーが注目しているのが電動アクスルだ。

 

その出力やサイズによっては、普及が見込まれているBEV(バッテリー電力のみで走るEV)だけでなく、HEV(ハイブリッド)やPHEV(プラグインハイブリッド)など、現在すでに普及しているエコカーなどにも採用が可能。幅広い車種で応用できるため、今後かなりの需要増が期待されている。

 

■製品販売だけでなく技術も提供

住友ベークライトは、長年にわたり、フェノール樹脂などの熱硬化性樹脂の成形材料やレジンを自動車用途の材料として生産・販売してきた企業だ。
また、EVなど電動自動車関連市場においても、モーター用の磁石固定材料やインバータ用SiCパワーモジュール向け封止材等で、すでに一部の顧客(自動車関連企業)と共同開発を行い、採用が進んでいる。

このように、従来から自動車部品の材料供給などに多くの実績を持つ同社だが、新たに当プロジェクトを実施する主な目的は、「電動パワートレインの樹脂化推進」だ。同社執行役員スマートコミュニティ市場開発部本部 本部長で当プロジェクトのリーダーでもある指田暢幸氏はこう語る。

 

「近年、電動パワートレイン(電動アクスル)の需要が高まる兆しを見せていますが、それに伴い小型・軽量化、低振動・低騒音、さらには高出力時に発生する熱への対処が大きな課題となっております。
そこで、(当プロジェクトは)これまで当社で培ってきた樹脂の設計・配合技術を適用し、当社独自の電動アクスルを設計・作製、実際に作動させデータ取得までを行うことで、(ティア1やOEMなどの)お客様へ電動アクスル向け樹脂製部品の提案はもちろん、放熱性向上等の性能改善を具体的に提示することで、顧客の製品開発に寄与する技術提供も目指しています」

 

つまり、電動アクスルの様々な課題を、同社製品により解決できることをアピールするだけでなく、ティア1やOEMといった顧客が自動車の設計やシミュレーションの第1段階などでも活用できるデータ提供まで行うというのだ。

住友ベークライト(株) 執行役員スマートコミュニティ市場開発部本部 本部長の指田暢幸氏

 

指田氏は、その理由をこう挙げる。

「近年は、自動車関連業界の構造変化により、従来以上に高度な技術・知見が顧客から求められるようになってきております。材料を提供するだけでは、競合他社には勝てなくなってきているのが現状です。開発期間が短くなったり、開発コストが低減するなど、よりお客様に大きなメリットを生むソリューションのご提供が必要とされているのです」

 

同社独自の電動アクスルは2021年半ばに完成予定。それを活用しながら、国内外の自動車関連大手に製品や技術を訴求することで、2025年度には電動アクスル関連事業で売上120億円を目指している。

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坂上 賢治

NEXT MOBILITY&MOTOR CARS編集長。日刊自動車新聞を振り出しに自動車産業全域での取材活動を開始。同社の出版局へ移籍して以降は、コンシューマー向け媒体(発行45万部)を筆頭に、日本国内初の自動車環境ビジネス媒体・アフターマーケット事業の専門誌など多様な読者を対象とした創刊誌を手掛けた。独立後は、ビジネス戦略学やマーケティング分野で教鞭を執りつつ、自動車専門誌や一般誌の他、Web媒体などを介したジャーナリスト活動が30年半ば。2015年より自動車情報媒体のMOTOR CARS編集長、2017年より自動車ビジネス誌×WebメディアのNEXT MOBILITY 編集長。

松下次男

1975年日刊自動車新聞社入社。編集局記者として国会担当を皮切りに自動車販売・部品産業など幅広く取材。その後、長野支局長、編集局総合デスク、自動車ビジネス誌MOBI21編集長、出版局長を経て2010年論説委員。2011年から特別編集委員。自動車産業を取り巻く経済展望、環境政策、自動運転等の次世代自動車技術を取材。2016年独立し自動車産業政策を中心に取材・執筆活動中。

間宮 潔

1975年日刊自動車新聞社入社。部品産業をはじめ、自動車販売など幅広く取材。また自動車リサイクル法成立時の電炉業界から解体現場までをルポ。その後、同社の広告営業、新聞販売、印刷部門を担当、2006年に中部支社長、2009年執行役員編集局長に就き、2013年から特別編集委員として輸送分野を担当。2018年春から独立、NEXT MOBILITY誌の編集顧問。

片山 雅美

日刊自動車新聞社で取材活動のスタートを切る。同紙記者を皮切りに社長室支社統括部長を経て、全石連発行の機関紙ぜんせきの取材記者としても活躍。自動車流通から交通インフラ、エネルギー分野に至る幅広い領域で実績を残す。2017年以降は、佃モビリティ総研を拠点に蓄積した取材人脈を糧に執筆活動を展開中。

中島みなみ

(中島南事務所/東京都文京区)1963年・愛知県生まれ。新聞、週刊誌、総合月刊誌記者(月刊文藝春秋)を経て独立。規制改革や行政システムを視点とした社会問題を取材テーマとするジャーナリスト。

山田清志

経済誌「財界」で自動車、エネルギー、化学、紙パルプ産業の専任記者を皮切りに報道分野に進出。2000年からは産業界・官界・財界での豊富な人脈を基に経済ジャーナリストとして国内外の経済誌で執筆。近年はビジネス誌、オピニオン誌、経済団体誌、Web媒体等、多様な産業を股に掛けて活動中。

佃 義夫

1970年日刊自動車新聞社入社。編集局記者として自動車全分野を網羅して担当。2000年出版局長として「Mobi21」誌を創刊。取締役、常務、専務主筆・編集局長、代表取締役社長を歴任。2014年に独立し、佃モビリティ総研を開設。自動車関連著書に「トヨタの野望、日産の決断」(ダイヤモンド社)など。執筆活動に加え講演活動も。

熊澤啓三

株式会社アーサメジャープロ エグゼクティブコンサルタント。PR/危機管理コミュニケーションコンサルタント、メディアトレーナー。自動車業界他の大手企業をクライアントに持つ。日産自動車、グローバルPR会社のフライシュマン・ヒラード・ジャパン、エデルマン・ジャパンを経て、2010年にアーサメジャープロを創業。東京大学理学部卒。

福田 俊之

1952年東京生まれ。産業専門紙記者、経済誌編集長を経て、99年に独立。自動車業界を中心に取材、執筆活動中。著書に「最強トヨタの自己改革」(角川書店)、共著に「トヨタ式仕事の教科書」(プレジデント社)、「スズキパワー現場のものづくり」(講談社ピーシー)など。