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2018年10月5日【エネルギー】

ヴァレオ、パリモーターショーで自らの積極性を顕示

坂上 賢治

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 仏・ヴァレオ(本社:フランス・パリ、CEO:ジャック・アシェンブロワ)は2018年のパリモーターショー「ル・モンディアル(現地時間の10月4日から 14日まで実施・プレスデーは10月2日から、ポルト・ド・ヴェルサイユ見本市会場にて実施)」に自動運転・電動化・コネクテッドカー等の複数のイノベーションを出展した。そのひとつがパリ市内の公道で初の自動運転のデモンストレーションを行った「Valeo Drive4U」である。(坂上 賢治)

 

ヴァレオはかねてより、パリの環状道路での24時間走行を皮切りにヨーロッパ域内(6ヵ国・13,000km)やアメリカでの実験走行など、世界各国で自動運転車のテスト走行を積み重ねてきた。そうした技術開発に関する努力を背景に、今後は、複雑な環境下となるバリ都市部での自動運転を実現するべく、その取り組みを一層加速させようとしている。

 

 

 ちなみに世界最古の自動車見本市として知られるパリモーターショーは、偶数年の秋に開催される世界5大モーターショーのひとつとして1986年以前は「サロン・ド・ロト(日本ではパリサロンとして)」の名称で親しまれ、1988年に現名称の「ル・モンディアル・ド・ロトモビル」に改称されて行われてきた。それが120回目を迎えた今年、さらに「ル・モンディアル」へと名称が変更されて、ショーの構成も大きく変わっての開催となった。

 

 

その内容は、「移動」を取り巻くビジネスソリューションの発表の場に大きく舵を切ったものとなり、早くも世界各国から自動車メーカーからの出展が手控えられてきた東京モーターショーショーと同じ流れが明確になったと感じさせるものとなった。

 

ショー入場者数の節目を祝う大会委員長のジャン-クロード・ジロー氏

 

つまりこれまでは「自動車技術」や「自動車の未来を発表する場」として世の中から受け入れられていたモーターショーの存在価値が大きく変化したことを実感させられる。今後、自動車ショーに係る可能性とその役割については、新たな指針造りが求められるようになった。そんなエポックのひとつとなったと言えるだろう。

 

 さて、そうしたなかヴァレオが今回出展した同社のデモカーとそのソリューションの独創性は、自社で量産してきた各種センサーを、独自のセールス手段を介して「未来の移動ビジネス」に活かしていこうとしている姿勢にある。

 

具体的に出展車両では、光検出と測距 (LiDAR) テクノロジーのSCALAレーザースキャナーを8台、4台のレーダー、4台の周辺カメラ、1台の前方カメラ、そして車両の外周全体に配置された360°の視界を実現するための12台の超音波センサーを搭載。これにより自動運転に係るすべての外部情報の獲得を目指している。

 また同車は、自動運転車にとって不可欠な要素であるAI(人工知能)も搭載した。このAIは、車両が様々な状況に遭遇する度に、各センサーが収集した情報をマシンラーニングを介し繰り返し処理していくことを踏まえて学習効果を高めていくもの。具体的にはヴァレオが独自開発したアルゴリズム計算を背景に、リアルタイムで取得した解析情報を統合。これによって運転上の様々な意思決定をディープラーニングに基づき自己解決していくことが可能だ。

 

 この車載AIのシステム構造は、ヴァレオの開発技術に「CloudMade社」が開発したマシンラーニング技術を組み合わせたもの。このCloudMade社は、自動車産業向けマシンラーニングのスタートアップ企業で、ヴァレオは同社の株式の50%を保有している。

 

その仕組みは、センサー類やコネクティビティモジュールを含むヴァレオのシステムを搭載した車が、収集データをクラウドへと送信し、CloudMade社のプロファイリングソリューションがその解析を行う。

これを元に車両がドライバーの習慣を自動学習して乗員に最適な移動ルートを提案。先行車両からもデータを取り込んで自車の行く先の状況をドライバーに示す。

 

 

 車対車の通信ネットワークを活用して他のコネクテッドカーから提供されるストリーミング映像を自車のディスプレイに表示させることも可能だ。これらの一連のソリューションにより、行く先々の障害物などをあらかじめ把握可能にして、追い越しなどを安全かつ安心して行えるようにする。

結果、走行車両は自車の周囲に存在する車と、この時点でまだ視界に入ってきていない車両と道路環境を3次元で把握。トンネルや駐車場、その他GPS信号が届かない場所でも、人の介入なしでの自動走行を可能にする。

 

 特にValeo Drive4Uは「対面通行の高速道路での走行」「従来型の信号機でのストップ・スタート」、「道路標識、交差点、ロータリー型の交差点での柔軟な対応」「車以外の道路利用者(歩行者、自転車、スクーター)への順応性」「工事中の道路、路面のマーキングが消えかかっていたり無かったりする道路」への対応力に優れているとし、走行の度に道路環境を繰り返し学習することで、いずれは未遭遇の状況に対する対応幅も順次広げていくのだという。

 

 

 またヴァレオは車両電動化の普及を加速させる48Vソリューションについても改めて出展して、その存在意義を強く訴求した。

それはヴァレオが開発した低電圧 (48V) で走行する2人乗りの都市向けフルEVの試作車で、自社製の48Vモーターを踏査。最高速度は100km/hに達し、航続距離は150kmで、論理的には走行時におけるCO2の排出はゼロとなるクルマである。

都市部での運転に最適化されたこの48Vソリューションは、従来型の高電圧システムよりも経済的でパリの人々にとってより受け入れやすい存在となるだろうと謳っていた。

 

 

 加えてヴァレオは、この低電圧 (48V) で走行する世界初のPHV(プラグインハイブリッド車)も出展した。これは高電圧型PHVよりもさらに経済性が高く5人乗り車両ではフル電動モードで約40kmを超える走行を実現。

それを超える距離を伸ばしていく場合は内燃式エンジンが以降の走行を受け持つ。また車両が排出ガスの制限区域に入ったことをGPSで検知すると、即座にフル電動モードへと自動的に切り替わる。この既存型車両への導入が容易なヴァレオ48Vソリューションは、より広範な電動走行の普及拡大に貢献していくという。

 

 さらに車室内での安全性を高めるシステム、Valeo Safe InSightも合わせて出展した。これはドライバーの眠気をあらかじめ検知することで、交通事故の主因の一ひとつある疲労による事故を防止するシステムだ。またこのシステムは、ドライバーが注意散漫になったり、見えない障害物・危険を検知したりした際はドライバーへ積極的に知らせていく。

 

 2018年のパリモーターショーでヴァレオは、車両利用形態の多様化に応える新たなデジタル技術も発信していた。そのひとつはパリ市内の大気質をリアルタイムで示すマップで、これはARIAと連携してプロジェクトを進めている。

 

このARIAは「ARIA Technologies」のことで、フランスで大気モデリングの開発を手掛け、生活圏の空気を取り巻く環境分析に特化した経験豊かなエンジニアと研究者のチームを擁している組織だ。フランスのオー・ド・セーヌに本社を構え、フランスおよびその他のヨーロッパ各地に点在する主要な機関や研究センターと連携して当該分野で事業を展開している。

 

 今回出展したシステムは、ヴァレオのセンサーを搭載した9台の車両(ケオリスの公共交通車両15台とG7タクシー4台)がパリ市内全域を2018年9月から2019年1月までパリ市内を毎日走行し、微粒子(PM10およびPM2.5)、一酸化炭素、二酸化炭素、二酸化硫黄、オゾンの濃度レベルなどの大気質指標 (AQI)を記録。これらのデータを即座にマップへとデータへ表示する機能提供を目指すというもの。

 

 

このシステムとプロジェクトの概要はパリの公道における大気の汚染レベルをリアルタイムで追跡することのできるマップが肝で、このほどARIA Technologiesとの連携で完成に至った。マップは市内の大気品質レベルを即座にディスプレイ上に表示し、エリアや時間毎にその汚染度がどう変化しているかを示す。

 

これにより乗員は、行く先々で自分自身が吸い込むであろう空気の状態を、あたかも地図で交通情報を見るかのように確認することができる。結果、汚染のピークを避けるようにカスタマイズされたルートを新たに見つけたり、車室内で汚染を抑制するシステムを作動させたりできるようになる。

 

 これらのイノベーションは、ヴァレオの事業戦略の中核として昨年2017年には、OEM向け売上高の約12%に相当する19億ユーロを研究開発に投じ、将来このクリーンなモビリティソリューションを世界の自動車メーカー各社へ提供する。

 

 なおヴァレオは、1991年に世界初となる後退レーダー用超音波センサーを手始めにセンサーの生産を開始したが、以後累計で約10億個をセンサーを生産しており、今後4年間でさらに10億個以上の多様な車載センサーをを生産する見込みだとしている。

 

 

加えて6年前からはAIのアプリケーション開発に積極的に取り組んできたが、今後ライティングやサーマル関連、そしてEVや自動運転のシステムに至るまで、ヴァレオがリリースするあらゆる製品に自社開発のAIを組み込んでいく予定だという。

そこでこれをサポートするため目下ヴァレオでは、AIに特化した世界初の研究センター「Valeo.ai」をパリに設置。現在百数十名のAI、マシンラーニング、ディープラーニングのエキスパートチームを配置し、INRIA(フランス国立情報学自動制御研究所)、Écoles des Mines(国立高等鉱業学校)、École Normale Supérieure(高等師範学校)を含む大学や科学者らとの連携を通じて、AI研究の足掛かりを築いている。

 

今後ヴァレオは、自動運転車の目や耳として機能する運転支援センサーの世界的なメーカーとして、この分野の発展を牽引していく存在になるべく、自身の技術レベルの高度化に取り組んでいく構えだ。

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坂上 賢治

NEXT MOBILITY&MOTOR CARS編集長。日刊自動車新聞を振り出しに自動車産業全域での取材活動を開始。同社の出版局へ移籍して以降は、コンシューマー向け媒体(発行45万部)を筆頭に、日本国内初の自動車環境ビジネス媒体・アフターマーケット事業の専門誌など多様な読者を対象とした創刊誌を手掛けた。独立後は、ビジネス戦略学やマーケティング分野で教鞭を執りつつ、自動車専門誌や一般誌の他、Web媒体などを介したジャーナリスト活動が30年半ば。2015年より自動車情報媒体のMOTOR CARS編集長、2017年より自動車ビジネス誌×WebメディアのNEXT MOBILITY 編集長。

松下次男

1975年日刊自動車新聞社入社。編集局記者として国会担当を皮切りに自動車販売・部品産業など幅広く取材。その後、長野支局長、編集局総合デスク、自動車ビジネス誌MOBI21編集長、出版局長を経て2010年論説委員。2011年から特別編集委員。自動車産業を取り巻く経済展望、環境政策、自動運転等の次世代自動車技術を取材。2016年独立し自動車産業政策を中心に取材・執筆活動中。

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1975年日刊自動車新聞社入社。部品産業をはじめ、自動車販売など幅広く取材。また自動車リサイクル法成立時の電炉業界から解体現場までをルポ。その後、同社の広告営業、新聞販売、印刷部門を担当、2006年に中部支社長、2009年執行役員編集局長に就き、2013年から特別編集委員として輸送分野を担当。2018年春から独立、NEXT MOBILITY誌の編集顧問。

片山 雅美

日刊自動車新聞社で取材活動のスタートを切る。同紙記者を皮切りに社長室支社統括部長を経て、全石連発行の機関紙ぜんせきの取材記者としても活躍。自動車流通から交通インフラ、エネルギー分野に至る幅広い領域で実績を残す。2017年以降は、佃モビリティ総研を拠点に蓄積した取材人脈を糧に執筆活動を展開中。

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(中島南事務所/東京都文京区)1963年・愛知県生まれ。新聞、週刊誌、総合月刊誌記者(月刊文藝春秋)を経て独立。規制改革や行政システムを視点とした社会問題を取材テーマとするジャーナリスト。

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1970年日刊自動車新聞社入社。編集局記者として自動車全分野を網羅して担当。2000年出版局長として「Mobi21」誌を創刊。取締役、常務、専務主筆・編集局長、代表取締役社長を歴任。2014年に独立し、佃モビリティ総研を開設。自動車関連著書に「トヨタの野望、日産の決断」(ダイヤモンド社)など。執筆活動に加え講演活動も。

熊澤啓三

株式会社アーサメジャープロ エグゼクティブコンサルタント。PR/危機管理コミュニケーションコンサルタント、メディアトレーナー。自動車業界他の大手企業をクライアントに持つ。日産自動車、グローバルPR会社のフライシュマン・ヒラード・ジャパン、エデルマン・ジャパンを経て、2010年にアーサメジャープロを創業。東京大学理学部卒。

福田 俊之

1952年東京生まれ。産業専門紙記者、経済誌編集長を経て、99年に独立。自動車業界を中心に取材、執筆活動中。著書に「最強トヨタの自己改革」(角川書店)、共著に「トヨタ式仕事の教科書」(プレジデント社)、「スズキパワー現場のものづくり」(講談社ピーシー)など。