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2020年4月17日【オピニオン】

独フォルクスワーゲン、世界生産の段階的な再開構築へ

坂上 賢治

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 世界各国に点在するフォルクスワーゲン(VW)乗用車ブランドの車両工場群は、先のコロナ禍による影響を撥ね除け順次、世界生産体制の再構築へと動き出す。(坂上 賢治)

 

 

まず同社は、中国へ車両生産用の部品を供給するべく、4月6日から独ニーダーザクセン州ブラウンシュバイク工場と、ヘッセン州カッセル工場で段階的な部品生産工程に入っており、これに続いてニーダーザクセン州ザルツギッター工場、ザクセン州ケムニッツ、ハノーバーのコンポーネント工場。さらに4月14日からはポーランド工場での工場稼働を再開させてきた。

 

 こうした生産計画について同社の部品・コンポーネント担当責任者のトーマス シュマール氏は「中国への部品供給網を確かなものとするため、欧州の各工場を段階的に再開させていくことが最も重要でした。

 

そこで有効かつ包括的なコロナ対策を確立させると共に、切れ目のない生産ネットワーク全体の再スタートを成功させ、全ての車両工場に部品を供給できる形にしていく必要があります。

 

 

また従業員の健康管理と罹患保護についても、全ての工場で等しく高レベルな対策を適用させなければなりません。

 

この課題に対して当社は、広域に跨がる様々な地域をコントロールしながら、一貫した健康保護対策を成功させることが出来た中国での生産体制立ち上げ時の知見を役立てています。

 

既に中国では、33工場のうち32工場が生産を再開させていますが、当地の従業員の間でコロナウイルス感染の症例は報告されていません。当社はコロナウイルスのパンデミック以降の世界的状況を、今も注意深く監視し続けています。

 

今回の中国を含めた世界規模の生産体制構築について我々は、自社グループ内の情報共有網に加え、ドイツ連邦保健省管轄下のロベルト・コッホ研究所(ベルリンとヴェルニゲローデにある感染症研究所/1891年にロベルト・コッホによって王立プロイセン感染症研究所として設立された)の助言を得て進めていく方針です」と説明した。

 

 

 なお欧州地域の部品供給体制の皮切りは、4月20日の週に独本国ザクセン州のツヴィッカウ工場を再開。そして中央ヨーロッパ・スロバキア中央部のブラチスラバ工場でも車両生産を開始させていく予定だ。

 

翌4月27日を迎えた週には、ドイツ国内はもとよりポルトガル、スペイン、ロシア、米国工場と相次いで複数工場を稼働。その後の5月中には南アフリカ。さらに大西洋を渡った南米のアルゼンチン、ブラジル、さらに中米メキシコでの工場稼働も順次再開させていく。

 

 中国外の工場再稼働計画について、VWブランドのラルフ・ブランドシュテッターCOOは「ドイツの連邦政府及び各州政府の決定。さらに他のヨーロッパ諸国からも規制緩和に係る様々なご配慮を頂いたことにより、当社側も段階的に車両生産を再開させていくための条件が整いました。

 

思えば今から遡ること過去3週間、当社は製造拠点再開に向け、慎重かつ丁寧な手順を踏んで再稼働の準備を進めてきました。

 

具体的には、従業員の健康を守ることを第一義に、詳細な対応策を洗い出しては積み上げていき、さらにはサプライチェーン網の再構築も併せて推し進めてきました。

 

この結果、当面ドイツ国内では、慎重に短時間労働を消化していくというゆっくりとしたペースで工場稼働を始め、部品の調達状況、各国政府による経済的な政策意図を汲んでいくこと。

 

出荷先市場の経済的な準備状況などを踏まえた上で、稼働体制を丁寧に整えていきます。もちろんその際、従業員達の健康を守る対策は、どんな時に於いても常に最優先事項となります」と語った。

 

 

 一方、VWのアンドレアス トストマン生産・物流担当取締役は「そんな従業員の健康管理に関しては、述べ100項目もの職場の安全確保事項に加え、徹底した健康保護対策を敷きつつ、我々が生産したクルマが各国地域の販売会社を介して確実にお客様のお手元にへ届くよう事業を進めて行きます」と話す。

 

 これに追加して従業員協議会のベルント オスターロー会長は「私たちは今、過去に直面したことのない未曾有の状況を前にしていますが、各工場拠点の従業員達は、稼働再開を前に精一杯意欲的な姿勢で仕事に取り組んでいます。

 

そもそも工場の再稼働について、私たちは過去から蓄積した豊富な経験値を持っていた筈でした。しかし過去に経験したことのない今回の大規模パンデミックを前に、私たちはこれまでの工場運営に係る取り組みの全てを捨て去り、新たな手順を再調整しなければならなくなりました。

 

そのうち最も大切なことは、従業員の健康をいかに守るかという新しい合意事項を労使間で協議し取り決めることにありました。それは実に約100項目ものボリュームがあり、これらの策定によって、私たちは工場再開にあたってコロナ感染に係るリスクを可能な限り低く抑えることが出来ています。

 

 

これからは同合意が世界の自動車生産拠点にとって新たな国際標準になることでしょう。それらの全てが全く新しく取り決められたものだけに最初は新手順を実行していくにあたり、多くの従業員疑問から戸惑いの声があるかも知れません。

 

しかし現場のマネージャー達は、そうした声については率先して丁寧に答えていく対応が求められることになります。というのは、このような異例の環境下での工場再開は、これまで誰もが経験したことのない未知の領域であるからで、そこから車両を出荷し、さらに流通に乗せ、お客様へ届けていくプロセス全てが私たちに取っても全く初めての経験であるからです。

 

従って当初、現場のマネージャーは工場自体の生産性を上げていくことよりも、そうした従業員からの様々な質問や疑問に対して充分な時間を掛けて応えていくことの方が重要だろうと考えます。これが日々の生産台数を上げていくことよりも大切なミッションになるでしょう」と畳み掛けた。

 

 なお4月17日、中国国家統計局は2020年1~3月の国内総生産(GDP)を物価変動を除く実質で前年同期比マイナス6.8%と発表した。これは四半期の成長率として記録が残っている1992年以降で初のマイナスである。

 

この数値を付加価値額の産業別内訳で見ると、第1次産業が同3.2%減の1兆186億元。第2次産業は同9.6%減の7兆3638億元。第3次産業は同5.2%減の12兆2680元だ。

 

同国では全人代(全国人民代表大会)の開幕を、先の3月5日から延期したままとなっているため、包括的な未来に向けた対策を公表出来ていない。従って注目は習近平指導部が近く実施されるであろう全人代で、どのような政策を打ち出すかにある。

 

 そうしたなかドイツ政府は上記の通り、自動車分野を通して中国経済の工業生産分野でサポートしていく姿勢を見せている。

 

かつて世界恐慌後には、英国やフランス等が通商条約に障壁を設けて経済保護するブロック経済が出現した。

 

その再燃が米トランプ政権誕生を期に世界で危ぶまれてきたが、欧州は今後、米国の経済圏を守る動きに対抗していく政策を打ち出していくのか。または世界の自由貿易を守る方向に動き出すのか。日本は世界経済の動きを俯瞰しつつ、これらの流れにどのように対峙していくのか。その姿勢が問われることになるだろう。

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坂上 賢治

NEXT MOBILITY&MOTOR CARS編集長。日刊自動車新聞を振り出しに自動車産業全域の取材活動を経て同社出版局へ。コンシューマー向け媒体(発行45万部)を筆頭に環境&リサイクル紙、車両ケア&整備ビジネス専門誌等の創刊誌編集長を歴任。独立後は一般誌、Web媒体上でジャーナリスト活動を重ね30年半ば。2015年より自動車情報媒体のMOTOR CARS編集長、2017年より自動車ビジネス誌×WebメディアのNEXT MOBILITY 編集長。

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1975年日刊自動車新聞社入社。編集局記者として国会担当を皮切りに自動車販売・部品産業など幅広く取材。その後、長野支局長、編集局総合デスク、自動車ビジネス誌MOBI21編集長、出版局長を経て2010年論説委員。2011年から特別編集委員。自動車産業を取り巻く経済展望、環境政策、自動運転等の次世代自動車技術を取材。2016年独立し自動車産業政策を中心に取材・執筆活動中。

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1975年日刊自動車新聞社入社。部品産業をはじめ、自動車販売など幅広く取材。また自動車リサイクル法成立時の電炉業界から解体現場までをルポ。その後、同社の広告営業、新聞販売、印刷部門を担当、2006年に中部支社長、2009年執行役員編集局長に就き、2013年から特別編集委員として輸送分野を担当。2018年春から独立、NEXT MOBILITY誌の編集顧問。

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日刊自動車新聞社で取材活動のスタートを切る。同紙記者を皮切りに社長室支社統括部長を経て、全石連発行の機関紙ぜんせきの取材記者としても活躍。自動車流通から交通インフラ、エネルギー分野に至る幅広い領域で実績を残す。2017年以降は、佃モビリティ総研を拠点に蓄積した取材人脈を糧に執筆活動を展開中。

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1970年日刊自動車新聞社入社。編集局記者として自動車全分野を網羅して担当。2000年出版局長として「Mobi21」誌を創刊。取締役、常務、専務主筆・編集局長、代表取締役社長を歴任。2014年に独立し、佃モビリティ総研を開設。自動車関連著書に「トヨタの野望、日産の決断」(ダイヤモンド社)など。執筆活動に加え講演活動も。

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株式会社アーサメジャープロ エグゼクティブコンサルタント。PR/危機管理コミュニケーションコンサルタント、メディアトレーナー。自動車業界他の大手企業をクライアントに持つ。日産自動車、グローバルPR会社のフライシュマン・ヒラード・ジャパン、エデルマン・ジャパンを経て、2010年にアーサメジャープロを創業。東京大学理学部卒。

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1952年東京生まれ。産業専門紙記者、経済誌編集長を経て、99年に独立。自動車業界を中心に取材、執筆活動中。著書に「最強トヨタの自己改革」(角川書店)、共著に「トヨタ式仕事の教科書」(プレジデント社)、「スズキパワー現場のものづくり」(講談社ピーシー)など。