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2024年5月14日【ESG】

自動車メーカー、2024年3月期連結決算総括

松下次男

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将来に向けた投資の上積みや円高予想から利益水準は厳しい見通し

 

上場自動車メーカーの2024年3月期(4~3月)連結決算発表が5月14日、出揃った。2024年3月期業績は半導体需給が正常化し、北米を中心とした旺盛な需要から過去最高の売上げ、利益項目を達成するところが相次いだ。一方、2025年3月期の見通しは将来に向けた投資の上積みや円高予想から利益水準を厳しく見込むところが目立った。(佃モビリティ総研・松下次男)

 

 「クルマを作って、お客様に届けることがありがたく、大事なこと。事業として取り組めることのありがたさを実感した期だった」。トヨタ自動車の佐藤恒治社長は決算説明会で2024年3月期の振り返りをこう述べた。

 

要約すれば、前期の業績はこの佐藤社長の言葉に表れているように、ここしばらく苦しんできた半導体供給不足から脱出し、ようやく通常の生産、販売活動に戻ったということだろう。

 

そのうえで、北米などの旺盛な需要に加え、日系メーカーが得意なハイブリッド車(HV)が好調に推移し、好収益に寄与した。
この結果、2024年3月期決算は過去最高の増収増益を達成するところが相次いだ。

 

トヨタの前期実績をみてもグループのダイハツ工業や豊田自動織機の認証不正問題から出荷停止の影響が出たものの、前年を上回る連結販売台数を達成。トヨタ。レクサス販売台数は1030万台9千台(前年同期比107・3%増)に達し、営業利益が初めて5兆円(5兆3529億円)を突破した。

 

先進国を中心に進んでいたバッテリー電気自動車(BEV)へのシフトが一服し、逆に、日系メーカーが得意なハイブリッド車(HV)の販売が好調に推移したのも収益を押し上げた。

 

トヨタの宮崎洋一副社長はHVの収益についてICE(内燃機関搭載車)と「同等かそれ以上」と述べ、高収益車種の好調な販売構成費の改善が高収益に寄与したとの見解を示した。

 

一方で、2025年3月期については将来に向けた投資や急激に進んだ円安への反動、今年後半には日米金利差が縮小するという見方もあり、利益は減速化するとの見方を示す。世界最大市場となった中国でEVを中心に車両価格の値下げが激化しているのも気がかりだ。

 

トヨタは「意思を持って、足場固めに必要なお金と時間を使う」

 

佐藤社長は今期について「意思を持って、足場固めに必要なお金と時間を使う」と話し、成長領域への1兆7千億円に加え、「人への投資」に3800億円を使う方針を明らかにした。

 

 「10年先の働き方を今つくるという想いで、余力を生み出して、安全・品質を徹底した仕事、ジョブディスクリプションを踏まえたスキルの向上、人材育成にしっかりと取り組む」と強調した。

 

グループで相次いだ不正問題などを踏まえ、サプライチェーンの足場固め、仕事のやり方を変えることを目指す。

 

成長領域では、モビリティカンパニーへの移行に不可欠なSDV(ソフトウェア・ディファインド・ビークル)やBEVの具現化に注力する意向。これに伴って、トヨタは今期、前期比約1兆円少ない4兆3千億円の営業利益を見込む。

 

ホンダはこれまで慣例としていた副社長を中心とした決算説明会に三部敏宏社長が登壇し、「今後もクオーターベースではわからないが、本決算には参加したい」と話した。

 

事業領域では、米国での堅調な需要により四輪車販売台数を伸ばした結果、前期、過去最高の営業利益1兆3819億円、営業利益率6・8%を達成した。

 

三部社長は課題だった四輪部門の収益も「着実に改善している」と述べ、2024年度には7%の営業利益率達成を1年前倒して目指す考えを示した。

 

また、北米などで好調なHVの販売を2024年度は23年度実績から約20万台増やし100万台に引き上げる方針。

 

さらに、ハイブリッドシステムについても現行の2モーター方式から更なる性能とコストを進化させた発展型を2020年代後半に投入する方針を明らかにした。2030年には年間200万台近くのHVの販売を目指す。

 

ただし、2030年代以降については、「EVでなければ各国の規制の乗り越えられない」と述べ、これまでの「EV化への転換方針に変わりはない」とし電動化戦略に注力する方針を示す。

 

2024年度は電動化に向けた投資を確実に進めながら、営業利益(1兆4300億円)増益を目指す。四輪車は412万台と微増を予想。

 

中国の車両価格値下げの動きを「どうしのぐか」も課題に

 

日産自動車も米国での販売増加などにより2024年3月期は売上高、営業利益とも大きく伸ばした。

 

内田誠社長は決算説明会で前期までの中期計画Nissan NEXT(ニッサン・ネクスト)を振り返り「赤字から出発し、事業としてようやく強化できる販売体制、質的向上が実現できたこと。反省点は基礎台数が目標に届かなかったことだ」と述べ、これを今期からの中計The Arc(ジ・アーク)で高めていく考えを示した。

 

2024年度のグローバル販売台数は前年比7・5%増の370万台を計画。厳しさを増す中国事業では新エネルギー車(NEV)の生産を開始し、80万台の販売を目指す。

 

公正取引委員会から勧告受けた下請法違反の再発防止策については「遅くとも6月までにまとめて公正取引委員会に報告したい」とした。

 

また、ホンダと日産自動車とのEV協業化の取り組みついてはそれぞれの社長も出席して協議を進めていると話し、両社長とも「遅くない時期、年内にも何らかのかたちで結論を出したい」と口を揃えた。

 

北米を主力市場とするマツダ、スバルも2024年3月期連結決算は大幅な増収増益を達成した。

 

売上高、営業利益、当期純利益が過去最高となったマツダの毛籠勝弘社長は好決算となった要因について「輸送船の確保などの課題があったが、北米向けラージ商品群が寄与した」と語った。中国市場でも挽回した。

 

そのうえで、2025年3月期ついてもラージ商品群4車種のフルラインアップによる販売増や北米で需要が高まっているHVモデルをCX-50などにも設定し、更なる米国での販売台数更新を目指す。

 

グローバル販売台数は前期比13%増の140万台を目指す。事業領域ではカーボンニュートラルや電動化などの大きな変化を乗り越える最も重要なリソースは「人」とし、IT分野とともに人材分野に積極的に投資する方針を示した。

 

先進国はハイブリッド施策を打ち出し、新興国への備えを万全に

 

スバルは好調な北米を中心に2024年度も対前年比4%増の98万台のグローバル販売台数を目指す。ただ、営業利益については今期、電動化商品導入に向けた研究開発費の増加や円高を見込み、減益を予想している。

 

大崎篤社長は決算説明会で2025年から26年にかけて取り組む新体制方針のアップデートに言及し、2026年までにラインアップする4車種のBEVはトヨタと共同開発すると表明した。

 

加えて、矢島工場で生産する共同開発BEVはトヨタにも供給し、トヨタが米国工場で生産するBEVはスバルにも供給され、商品ラインアップに加える方針を示した。

 

また、需要が拡大しているHVについても独自のハイブリッドシステムである「次世代e-BOXER」を次期フォレスターに搭載するのに加えて、クロストレックに展開拡大する方針を明らかにした。フォレスターを将来的に米国工場のSIAで生産することも表明した。

 

三菱自動車は主力市場のアセアン(ASEAN)の市況悪化が響き、2024年3月期のグローバル販売台数は前期比マイナスとなった。ただし、車種構成や売価の改善、それに販売活動の質向上などにより、売上高を伸ばすとともに、営業利益も微増となった。

 

加藤隆雄社長は2025年3月期も主力市場のアセアンは「市況悪化は続くだろう」との見通しを示し、減益を予想している。グローバル販売台数は89万5千台と前期比10%増の計画だ。

 

スズキは主力市場のインドや日本市場で販売台数が増加したことで2024年3月期、過去最高の売上高、利益を達成した。

 

鈴木俊宏社長は前期の増収増益の要因について「為替の円安や原材料費が落ち着いたついたことなど外部要因があったこと。それにスイフトなどの高価格帯へ販売がシフトしたのに加え、販売価格の適正化が進んだ」ことが寄与したと決算説明で話した。

 

特にインドでは四輪車累計台数が3000万台に達し、その達成期間は40年4カ月と日本の55年2カ月を抜いて早速という。

 

また、インドではガソリン車と比較したCO2(二酸化炭素)排出量が少ないCNG(天然ガス)車が伸長しており、前期CNG車が前年比47%増加した。

 

2025年3月期は決算を日本基準からIFRS(国際会計基準)に変更するため、正確な比較はできないが、参考値として増収増益を見込んでいる。

 

今期のグローバル販売台数は前期比2・7%増の325万4千台を計画。鈴木社長はとくにインド事業について乗用車市場の約半数を占めるSUV強化の考えを表明した。

 

現状、スズキのインドでの乗用車全体のシェアは41・8%を占めるが、SUVはトップだがシェアは20・8%にとどまる。

 

ここへSUVモデルを積極的に投入することで、「SUVのシェアを40%近づければ、乗用車全体のシェアも目標としている50%に近づく」と話した。

 

各社、円安、原価低減活動、アフターセールスの伸長などで健闘

 

いすゞ自動車、日野自動車の商用車メーカー2社の2024年3月期連結業績は主要市場であるアジアの市況悪化が響き、ともにグローバル販売台数が前年割れとなった。

 

それでもいすゞは価格対応や円安、原価低減活動、アフターセールスの伸長などにより増収増益を達成し、売上高および利益項目とも過去最高を計上した。

 

2025年3月期見通しについても海外向けに厳しい市況を想定し、売上高、利益項目ともに減少を見込んでいる。グローバル販売台数は60万5千台と前期比9%減を予数。

 

ただし、今期の減収減益は新興国に市況悪化に伴う一時的なものとし、中期的には新興国の市況は回復し、先に示した中期計画の2027年3月期の定量目標である売上高4兆円、営業利益3600億円の達成を目指すと説明した。

 

日野自動車は一部車種の出荷を再開したものの、認証不正の影響などから81億円の営業損失と赤字決算となった。ただし、最終利益は日野工場西側の土地や日髙モータープールの売却などにより黒字化した。

 

2025年3月期は営業利益の黒字転換を目指すが、最終利益予想は併催債務などが不透明なため公表を見送った。

 

小木曽聡社長は2024年度、「正常化に向けた取り組みを推進する」と述べ、不採算市場や事業からの撤退、ユーザーニーズに合わせた車両のアップデート、限界低減活動強化などの取り組みを行っていくことを掲げた。 

 

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坂上 賢治

NEXT MOBILITY&MOTOR CARS編集長。日刊自動車新聞を振り出しに自動車産業全域での取材活動を開始。同社の出版局へ移籍して以降は、コンシューマー向け媒体(発行45万部)を筆頭に、日本国内初の自動車環境ビジネス媒体・アフターマーケット事業の専門誌など多様な読者を対象とした創刊誌を手掛けた。独立後は、ビジネス戦略学やマーケティング分野で教鞭を執りつつ、自動車専門誌や一般誌の他、Web媒体などを介したジャーナリスト活動が30年半ば。2015年より自動車情報媒体のMOTOR CARS編集長、2017年より自動車ビジネス誌×WebメディアのNEXT MOBILITY 編集長。

松下次男

1975年日刊自動車新聞社入社。編集局記者として国会担当を皮切りに自動車販売・部品産業など幅広く取材。その後、長野支局長、編集局総合デスク、自動車ビジネス誌MOBI21編集長、出版局長を経て2010年論説委員。2011年から特別編集委員。自動車産業を取り巻く経済展望、環境政策、自動運転等の次世代自動車技術を取材。2016年独立し自動車産業政策を中心に取材・執筆活動中。

間宮 潔

1975年日刊自動車新聞社入社。部品産業をはじめ、自動車販売など幅広く取材。また自動車リサイクル法成立時の電炉業界から解体現場までをルポ。その後、同社の広告営業、新聞販売、印刷部門を担当、2006年に中部支社長、2009年執行役員編集局長に就き、2013年から特別編集委員として輸送分野を担当。2018年春から独立、NEXT MOBILITY誌の編集顧問。

片山 雅美

日刊自動車新聞社で取材活動のスタートを切る。同紙記者を皮切りに社長室支社統括部長を経て、全石連発行の機関紙ぜんせきの取材記者としても活躍。自動車流通から交通インフラ、エネルギー分野に至る幅広い領域で実績を残す。2017年以降は、佃モビリティ総研を拠点に蓄積した取材人脈を糧に執筆活動を展開中。

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(中島南事務所/東京都文京区)1963年・愛知県生まれ。新聞、週刊誌、総合月刊誌記者(月刊文藝春秋)を経て独立。規制改革や行政システムを視点とした社会問題を取材テーマとするジャーナリスト。

山田清志

経済誌「財界」で自動車、エネルギー、化学、紙パルプ産業の専任記者を皮切りに報道分野に進出。2000年からは産業界・官界・財界での豊富な人脈を基に経済ジャーナリストとして国内外の経済誌で執筆。近年はビジネス誌、オピニオン誌、経済団体誌、Web媒体等、多様な産業を股に掛けて活動中。

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1970年日刊自動車新聞社入社。編集局記者として自動車全分野を網羅して担当。2000年出版局長として「Mobi21」誌を創刊。取締役、常務、専務主筆・編集局長、代表取締役社長を歴任。2014年に独立し、佃モビリティ総研を開設。自動車関連著書に「トヨタの野望、日産の決断」(ダイヤモンド社)など。執筆活動に加え講演活動も。

熊澤啓三

株式会社アーサメジャープロ エグゼクティブコンサルタント。PR/危機管理コミュニケーションコンサルタント、メディアトレーナー。自動車業界他の大手企業をクライアントに持つ。日産自動車、グローバルPR会社のフライシュマン・ヒラード・ジャパン、エデルマン・ジャパンを経て、2010年にアーサメジャープロを創業。東京大学理学部卒。

福田 俊之

1952年東京生まれ。産業専門紙記者、経済誌編集長を経て、99年に独立。自動車業界を中心に取材、執筆活動中。著書に「最強トヨタの自己改革」(角川書店)、共著に「トヨタ式仕事の教科書」(プレジデント社)、「スズキパワー現場のものづくり」(講談社ピーシー)など。