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2021年2月16日【MaaS】

出光興産とタジマモーター、超小型EVの新会社設立会見を開く

坂上 賢治

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新会社の出光タジマEVは、年間100万台の潜在需要に相当する新モビリティ市場の開拓を目指す

 

 出光興産株式会社(本社:東京都千代田区、社長:木藤俊一、以下、出光興産)と、株式会社タジマモーターコーポレーション(本社:東京都中野区、代表取締役会長:田 嶋伸博、以下、タジマモーター)は2月16日に「株式会社出光タジマEV」(代表者:田嶋 伸博)の設立会見を開いた。(坂上 賢治)

 

 

 上記新会社の設立日は2021年4月1日。設立に至る流れは、タジマモーターの既存関連会社である〝株式会社タジマEV〟に出光興産が出資。同社を「株式会社出光タジマEV」へ商号変更させて新たなス タートを切るもの。

 

この〝出光タジマEV〟は、出光興産が配するSS(サービスステーション)網を背景とした販売・PRネットワーク力に加え、出光興産自身が永年蓄積してきた素材の開発技術を車両事業に投入する。

 

 対するタジマモーター側からは、過去40年に亘って手掛けてきた市販車&レーシングマシンの車両設計ノウハウなどを持ち寄る事で、未来のモビリティ(移動)ニーズに多角的に応えていく。

 

その皮切りは、とりもなおさずハードウエアである超小型EVの開発である。さらにいずれはソフト面に於けるサービ ス事業の創出も担う。期待の新型車両は、東京モーターショーが開催される今秋、2021年10月に正式発表される見込みで、車両の本格販売は2022 年から。

 

 

 気になる車両価格は表向き150万円以下としているが、実際に車両開発を担うタジマモーターの田嶋社長は、かつてスズキから1979年に当時の常識を破る47万円の軽ボンネットバン(商用扱い)の〝アルト〟が発売された事を例に挙げ、今回は無理としながらも「いずれはそうした価格破壊にも挑戦して行きたいと思います」と、同市場が確立・成熟した暁には到来するであろう価格競争の波にも対抗していく心構えを見せた。

 

 ちなみに直近に於ける新会社の事業展開スキームは、先の(1)超小型EVの開発・販売を皮切りに、(2)車載ソーラーシステム、(3)次世代バッテリーの調達、(4)自動運転システム、(5)グリーンスローモビリ ティ分野の事業拡大、(6)新たなサブスクリプションやカーシェアモデルの展開、(7)MaaSに係るデジタルプ ラットフォームの構築、(8)車両などハードウエア全域のリサイクルシステムの開発などを推し進めていく構え。

 

特に搭載バッテリについては、より高性能なものを研究・搭載していくのは勿論だが、一方で、上位の乗用・高価格EVなどで使用済みになったバッテリを走行用蓄電池として活用していくという考え方もあるとし、「今開発の超小型EVは、最高時速60キロ以下と、高速道路を走る一般車両とは活躍の舞台が異なるため、そうした使用済みバッテリを流用・搭載するという選択もあるかも知れません(タジマモーターの田嶋社長)」と述べた。

 

 

一方で「蓄電池廻りに関する事業拡張にあたっては、様々な事業モデルが考えられます。出光興産では、元々ソーラー事業も行っているため、車両にソーラーパネルを積むというモデル展開も考えられますし、そもそも今回の超小型EVが住宅の蓄電機能の一部として機能し、日常のライフスタイルとモビリティという移動ツールをより密着化させていくという事業モデルも考えられます(出光の木藤社長)」と話した。

 

 なお新会社設立の抱負について出光興産の木藤社長は、「当社とタジマモーターは、これまで公共交通機関が脆弱な地方部に着目し様々な実証を重ねて参りました。そして、こうした実証活動を通じ、地方部に限らず様々なエリアに於いて、移動手段に対する多様なニーズがあることを確認しました。

具体的には、岐阜県飛騨市・高山市、千葉県館山市・南房総市での2年間の実証実験から、高齢者層には免許返納に伴う移動のニーズが急増していることが確認されました。

 

また運転経験が浅い層は、日々の買い物や子供の送り迎えに自動車を利用することに不安があり、 自転車や原付に代わる雨風を凌げる安全で安心な移動手段に対するニーズがあることかも分かりました。

 

 

さらに地域で近隣営業を行う営業職層は、一日の移動距離が15キロ未満であること。また車両稼働率も2割以下である事が判っているため短距離の移動に使う超小型EVの場合、軽自動車ほどの高い性能・機能は要らないと利用されるお客様が感じている事も明らかになりました。

 

このような知見から、既存の移動手段では満たされないニーズが存在する事に着目しました。またその需要規模は年間100万台に上ると想定しています。私たちは、これらのニーズに対して手軽で小回りの利く、必要最小限の機能を備えたモビリティを提供する事。

 

さらにデジタル技術を活用したこうしたハードウエアとサービスを利用する仕組みを作り。また法人と個人ユースを組み合わせた新たな利用モデル(ビジネス特許出願中)も提供することで、移動に関わるコストの低減と地域課題に対する有効な解決策を提供できるようになると考えています。

 

出光タジマEVは、そのようなターゲッ ト層に対して新しいカテゴリーのモビリティを提供することにより、多様な移動に対する ニーズに応えていきます。この結果、先に申し上げた通り年間100万台相当に上る新たな需要を創出していく事を目指します」と語った。

 これに対してタジマモーターの田嶋社長は、「出光タジマEV は、新カテゴリーのモビリティニーズに応えるため、2020年9月に国土交通省が発表した超小型モビリティの新規格に準拠した新たなカテゴリーの超小型EVを発売致します。

 

そんな当該EVは、電気自動車ならではのスペース効率の高さを最大限活用した4人乗りで近距離移動に最適な車両です。それは既存の軽自動車よりも一回り小さくて小回りが利き、最高速度60キロ 以下の低速で走行することから、運転の不安を感じている高齢者層や運転に不慣れな層にも安 心してご利用頂けます。

 

またシェアリングサービスを介して定額で利用頂けるサブスクリプションや、変化する利用者ニー ズに合わせたMaaSメニューを開発し、この超小型EVとをを組み合わせたサービスを全国6400ヵ所の系列SSネッ トワークにてご提供します。

 

さらに今後は、系列SSで展開している電力販売と超小型EVを組み合わせた新たなエネルギー系サー ビスの開発。高齢者の運転状況を見守る仕組み作り、個々の車両を蓄電池と見立てた分散型エネルギーシステムの構築、車両・バッテリーのリサイクルシステムなど、様々なモビリテ ィサービスに取り組んで参ります」と述べた。

 

 

 この出光+タジマによる超小型EV市場の参入については、当初、同マーケットにトヨタのみが参入を表明していただけであったゆえに、超小型EVの成長性に一抹の疑問もあった。しかし今後、こうしたニューカマーが同市場に相次ぎ参入する未来を予見させる。

 

先に田嶋社長が例に挙げていた通り、同市場に真の成長の可能性が見えてきた場合、国内の軽自動車メーカーも参入を検討するかも知れず、そうなると現行で政府の補助金が若干出るといえ高価格過ぎる車両価格(現行、トヨタが2020年代前半に投入予定としている〝シーポッド〟で165万円から)が一気に引き下がり、市場爆発する可能性もありそうだ。

 

 

ちなみに現行で出光タジマEVが開発中の超小型EVは、2019年の東京モーターショーで展示された車両がベースになる様子。ちなみに車両スペックの予定値は、全長2495mm×全幅1295mm×全高1765mmで乗車定員4名(カーゴタイプは1名) 、最大出力15kW、最高速度60km/h以下、搭載バッテリーは60V/10kWh、充電時間8時間(100V)、走行距離の目安120キロとなっている。

 


写真は2019年の東京モーターショーに於ける新事業発表場面。写真左は車両デザインを手掛ける奥山清行氏(エンツォ・フェラーリ、マセラティ・クアトロポルテのデザイナーとして著名)。
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坂上 賢治

NEXT MOBILITY&MOTOR CARS編集長。日刊自動車新聞を振り出しに自動車産業全域での取材活動を開始。同社の出版局へ移籍して以降は、コンシューマー向け媒体(発行45万部)を筆頭に、日本国内初の自動車環境ビジネス媒体・アフターマーケット事業の専門誌など多様な読者を対象とした創刊誌を手掛けた。独立後は、ビジネス戦略学やマーケティング分野で教鞭を執りつつ、自動車専門誌や一般誌の他、Web媒体などを介したジャーナリスト活動が30年半ば。2015年より自動車情報媒体のMOTOR CARS編集長、2017年より自動車ビジネス誌×WebメディアのNEXT MOBILITY 編集長。

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1975年日刊自動車新聞社入社。編集局記者として国会担当を皮切りに自動車販売・部品産業など幅広く取材。その後、長野支局長、編集局総合デスク、自動車ビジネス誌MOBI21編集長、出版局長を経て2010年論説委員。2011年から特別編集委員。自動車産業を取り巻く経済展望、環境政策、自動運転等の次世代自動車技術を取材。2016年独立し自動車産業政策を中心に取材・執筆活動中。

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1975年日刊自動車新聞社入社。部品産業をはじめ、自動車販売など幅広く取材。また自動車リサイクル法成立時の電炉業界から解体現場までをルポ。その後、同社の広告営業、新聞販売、印刷部門を担当、2006年に中部支社長、2009年執行役員編集局長に就き、2013年から特別編集委員として輸送分野を担当。2018年春から独立、NEXT MOBILITY誌の編集顧問。

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日刊自動車新聞社で取材活動のスタートを切る。同紙記者を皮切りに社長室支社統括部長を経て、全石連発行の機関紙ぜんせきの取材記者としても活躍。自動車流通から交通インフラ、エネルギー分野に至る幅広い領域で実績を残す。2017年以降は、佃モビリティ総研を拠点に蓄積した取材人脈を糧に執筆活動を展開中。

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(中島南事務所/東京都文京区)1963年・愛知県生まれ。新聞、週刊誌、総合月刊誌記者(月刊文藝春秋)を経て独立。規制改革や行政システムを視点とした社会問題を取材テーマとするジャーナリスト。

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1970年日刊自動車新聞社入社。編集局記者として自動車全分野を網羅して担当。2000年出版局長として「Mobi21」誌を創刊。取締役、常務、専務主筆・編集局長、代表取締役社長を歴任。2014年に独立し、佃モビリティ総研を開設。自動車関連著書に「トヨタの野望、日産の決断」(ダイヤモンド社)など。執筆活動に加え講演活動も。

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株式会社アーサメジャープロ エグゼクティブコンサルタント。PR/危機管理コミュニケーションコンサルタント、メディアトレーナー。自動車業界他の大手企業をクライアントに持つ。日産自動車、グローバルPR会社のフライシュマン・ヒラード・ジャパン、エデルマン・ジャパンを経て、2010年にアーサメジャープロを創業。東京大学理学部卒。

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1952年東京生まれ。産業専門紙記者、経済誌編集長を経て、99年に独立。自動車業界を中心に取材、執筆活動中。著書に「最強トヨタの自己改革」(角川書店)、共著に「トヨタ式仕事の教科書」(プレジデント社)、「スズキパワー現場のものづくり」(講談社ピーシー)など。