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2020年5月28日【オピニオン】

ルノー・日産・三菱自の3社、分業戦略で短期的な未来像を示す

坂上 賢治

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 日仏連合のルノー・日産・三菱自動車工業は、カルロス・ゴーン被告の逮捕を契機に持ち上がった経営統合などの不協和音から1年半もの停滞期を消耗した末の2020年5月27日16時、パリ・横浜・東京の3拠点をオンラインで結ぶアライアンス記者会見を実施した。

 

会見の印象は、世界の自動車産業が〝革新的なモビリティ社会の新たな地平を望む〟なか、コロナ禍の影響を色濃く受けた3社の足取りはいずれも重く、未だ長期的な将来像を示せずにいるようだ。(坂上 賢治)

 

 

 同記者会見の主だった出席者は、ABO(アライアンス・オペレーティング・ボード)議長を務める仏・ルノー会長のジャンドミニク・スナール氏を筆頭に、同社CEO代行のクロチルド・デルボス氏。日産自動車CEOの内田誠氏と同社COOのアシュワニ・グプタ氏。三菱自動車工業取締役会長の益子修氏などの首脳陣。これに各社の技術・生産に携わる要職がサポートする態勢で進行された。

 

そのプレゼンテーションの骨子は、アライアンス共通の志〝連合間の補完〟をテーマに、協業効果を高める短・中期的な〝経営戦略〟の説明に終始した。

 

それはアライアンス体制内で、特に強みを持つ事業領域で3社のうちの1社がリーディング役となり、残り2社の事業を補い・引き上げるという〝リーダー・フォロワー戦略〟を敷くというもの。つまりこれまでの事業上のメリットを、より洗練させていく既存路線の延長線上にある。

 より具体的には、特定車種毎や地域毎、技術毎に切り分けたプロジェクトを、それぞれに強みを持つ特定の1社がリーダーとして主導。その代わりに他社は、別領域のリーダー役やフォロワー役となって3社連合を一緒になって牽引し、結果3社の足腰を強靱にしていくという目論見だ。

 

例えばプラットフォーム開発では、CセグメントやBセグメント別に中心的役割を担うリーダー会社と、それをサポートするフォロワー会社を定め、リーダー会社のクルマは〝マザービークル〟として位置付け、同じプラットフォームを用いるフォロワー会社のクルマは〝シスタービークル〟として位置付けて開発・製造していく。

 

これによりプラットフォーム(車台)の共有化を先鋭化させ、クルマの動力源となる電動モーターやエンジン造りの合理化も推し進め、さらに車台のみならずアッパー部分も共用化。アライアンス3社毎の単独車両の開発に掛かる投資コストを最大4割削減することを狙う。

 なお世界各地域に於ける車両生産の他、販売面の事業推進も同じ手段を用い、引いては販売領域でも3社の強みを補完・磨いていくのだという。

 

こうした枠組みの中で、ルノーはBセグメントの小型車&商用&SUVを。日産はCセグメントSUVのリーダーとなる。

 

 但し現段階では、車両開発に係る取り組みの熱意と速度は、個々のリーダー企業の思惑に委ねられているようで、日産が担うCセグメントSUVはかなり先の2025年のモデルとして投入。以降、日産が世界規模で3社連合を牽引していくとした。

同手法によって、現行3社連合の4プラットフォーム・6モデルを、最終的には1プラットフォーム・7モデルに変革させ、39%の共通プラットフォーム車(昨年段階)を来る2024年迄に8割を占める体制にしていく考えを示した。

 

 ちなみにプラットフォーム開発では、アンダーボディー部分の設計だけでなく、アッパーボディー部分も3社で共用化を図り、「モデル1台当たりの開発投資額(設備投資含む)を最大で40%削減する」目標も明示した。

また技術領域では、〝運転支援技術〟の部分を日産が担う。対して電気・電子アーキテクチャーのコアシステム開発はルノー。コネクティッド技術に於いては、アンドロイドの技術基盤をルノーが、中国向けの技術基盤は日産が担う。

 

 パワートレイン開発に関しては、ルノーが小排気量ガソリンエンジンとディーゼルエンジンを。日産が大排気量ガソリンエンジンと軽自動車のパワーユニットを。

 

三菱自動車工業は、C・Dセグメント向けPHEVを受け持つ。軽自動車プラットフォームについては日産が車両開発を、三菱自動車工業が車両生産を引き続き担っていく。

 さらに部品の仕入れや固定費、プロモーションなどのコスト領域でもプロセスの共有化を図っていく。これはアフターセールスなどの間接部門や物流についても同じで、クルマ造りの上流から下流に至るまで、事業の効率化・共用化を積極的に推し進めていくとした。

 

こうした販売を伴うマーケット事業枠では、日本・中国・北米市場を日産が担う。欧州・ロシア・中南米・北アフリカ市場はルノーが掌握。

 

東南アジア(中核車両は三菱自動車工業・日産の協業によるエクスパンダーとリヴィナ)・オセアニア(商用車ではルノーが三菱自動車工業向けに生産したエクスプレスバンも流通させる)は三菱自動車工業がリーダーとなって3社の競争力を高めていく。

 翻ってみると、ここのところ3社の周辺では、ルノーとフィアット・クライスラー・オートモービルズ(FCA)による統合交渉の頓挫。日産の報酬不正による社長退陣や新社長の就任。その後の副最高執行責任者(副COO)の退社によるトロイカ体制の崩壊、コロナ禍などを経て3社連合は業績悪化に陥った。

 

そうした中、個々の車両開発技術を持ち寄り、生産拠点を集約するなどしてシナジーを求めつつ、連合3社は、自動車産業が始まって以来と言える過酷な生存競争からの生き残りを探っていく。

 

 

 ルノーのジャンドミニク・スナール会長は「3社は数週間に亘る協議を進めた末、世界販売台数1400万台を目指して行く姿勢から、20億ユーロ(約2350億円)の投資額削減と効率性を重視する経営に転換していく」と語り、「3社が共に収益性と競争力を高める将来像を求めていく。数年後には、我々3社のアライアンスは、世界で最もパワフルな企業グループになるだろう」と述べた。

 

加えてスナール氏は、ここのところの経営統合により3社のアライアンスに不協和音が見え始めていた状況について「今は3社の事業効率を高めて行くことが大切だ。

 

モビリティの世界は日々激変しており、ここで経営統合を目指す必要はない。この新しいアライアンスの取り組みについては、仏政府やマクロン大統領も賛同して貰っている。

 

従って3社間で経営統合を進めていなし、全く話もしていない。ここは皆さんも信じて欲しい」と結んだ。

 

 

 スナール氏の説明を受けた日産の内田社長も「日産は今後、数年間に亘って〝選択と集中〟に取り組んでいく。そのために自社自らで集中すべきモデルを選び、選択と集中という事業計画を徹底的に極めていく」と語った。

 

三菱自動車工業の益子会長は「コロナウイルスの影響下で時代が求めるアライアンスの形も変わっていく。過去数年間は、拡大戦略を追及し過ぎ、固定費上昇の厳しい状況に直面した。

 

これを元の経営ビジョンに戻していくため、拡大戦略は追求せず、3社によるアライアンスのメリットを活用していきたい」と語っていた。

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坂上 賢治

NEXT MOBILITY&MOTOR CARS編集長。日刊自動車新聞を振り出しに自動車産業全域での取材活動を開始。同社の出版局へ移籍して以降は、コンシューマー向け媒体(発行45万部)を筆頭に、日本国内初の自動車環境ビジネス媒体・アフターマーケット事業の専門誌など多様な読者を対象とした創刊誌を手掛けた。独立後は、ビジネス戦略学やマーケティング分野で教鞭を執りつつ、自動車専門誌や一般誌の他、Web媒体などを介したジャーナリスト活動が30年半ば。2015年より自動車情報媒体のMOTOR CARS編集長、2017年より自動車ビジネス誌×WebメディアのNEXT MOBILITY 編集長。

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1975年日刊自動車新聞社入社。編集局記者として国会担当を皮切りに自動車販売・部品産業など幅広く取材。その後、長野支局長、編集局総合デスク、自動車ビジネス誌MOBI21編集長、出版局長を経て2010年論説委員。2011年から特別編集委員。自動車産業を取り巻く経済展望、環境政策、自動運転等の次世代自動車技術を取材。2016年独立し自動車産業政策を中心に取材・執筆活動中。

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1975年日刊自動車新聞社入社。部品産業をはじめ、自動車販売など幅広く取材。また自動車リサイクル法成立時の電炉業界から解体現場までをルポ。その後、同社の広告営業、新聞販売、印刷部門を担当、2006年に中部支社長、2009年執行役員編集局長に就き、2013年から特別編集委員として輸送分野を担当。2018年春から独立、NEXT MOBILITY誌の編集顧問。

片山 雅美

日刊自動車新聞社で取材活動のスタートを切る。同紙記者を皮切りに社長室支社統括部長を経て、全石連発行の機関紙ぜんせきの取材記者としても活躍。自動車流通から交通インフラ、エネルギー分野に至る幅広い領域で実績を残す。2017年以降は、佃モビリティ総研を拠点に蓄積した取材人脈を糧に執筆活動を展開中。

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(中島南事務所/東京都文京区)1963年・愛知県生まれ。新聞、週刊誌、総合月刊誌記者(月刊文藝春秋)を経て独立。規制改革や行政システムを視点とした社会問題を取材テーマとするジャーナリスト。

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経済誌「財界」で自動車、エネルギー、化学、紙パルプ産業の専任記者を皮切りに報道分野に進出。2000年からは産業界・官界・財界での豊富な人脈を基に経済ジャーナリストとして国内外の経済誌で執筆。近年はビジネス誌、オピニオン誌、経済団体誌、Web媒体等、多様な産業を股に掛けて活動中。

佃 義夫

1970年日刊自動車新聞社入社。編集局記者として自動車全分野を網羅して担当。2000年出版局長として「Mobi21」誌を創刊。取締役、常務、専務主筆・編集局長、代表取締役社長を歴任。2014年に独立し、佃モビリティ総研を開設。自動車関連著書に「トヨタの野望、日産の決断」(ダイヤモンド社)など。執筆活動に加え講演活動も。

熊澤啓三

株式会社アーサメジャープロ エグゼクティブコンサルタント。PR/危機管理コミュニケーションコンサルタント、メディアトレーナー。自動車業界他の大手企業をクライアントに持つ。日産自動車、グローバルPR会社のフライシュマン・ヒラード・ジャパン、エデルマン・ジャパンを経て、2010年にアーサメジャープロを創業。東京大学理学部卒。

福田 俊之

1952年東京生まれ。産業専門紙記者、経済誌編集長を経て、99年に独立。自動車業界を中心に取材、執筆活動中。著書に「最強トヨタの自己改革」(角川書店)、共著に「トヨタ式仕事の教科書」(プレジデント社)、「スズキパワー現場のものづくり」(講談社ピーシー)など。