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2020年5月18日【トピックス】

スバル、2020年3月連結決算

間宮 潔

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スバルの2020年3月期決算は増収増益としたが、次期業績は未定

 スバル(SUBARU)は5月18日、電話会議方式による2020年3月期連結決算説明会を開いた。期末での新型コロナウイルスの影響が限定的だったことから、スバル車の全世界販売台数は前期比3.3%増の103万3900台を確保、2期ぶりの増収・4期ぶりの増益とした。(佃モビリティ総研・間宮潔)

 

ただ、日本では4月9日から、米国では3月23日から生産を停止し、ともに5月11日、生産再開を果たしたものの、日本では1直生産にとどまり、米国でも生産ペースを大幅に落しての稼働状況だ。

 

特にスバル事業の7割を依存する米国が世界最大のコロナウイルス感染国。とりわけスバル車が人気のニューヨーク州やワシントン州などスノーベルト地帯ほど、感染者が多く、解禁による二次感染の恐れもある。
このため、次期(2021年3月期)業績予想については、「現時点で合理的に算定することは困難」として、未定とした。

 

 中村知美・社長兼CEOは、「リテーラー(販売店)の約6割が営業活動に何らかの制約を受けている」「感染症の終息時期、経済・社会活動の再開見通しについてはいまだ不透明」と指摘した。

次期業績はできるだけ速やかに公表したいとしながらも、中村社長は「もう少し市場の状況を確認したい。戻ってきた時の手応えを確認した上で生産・販売計画を設定したい」と慎重な発言。
中期経営計画のSTEPの最終年度に当たるが、「目標には遠い。収益上、20年度は非常に厳しい。計画を見直すというより、状況を見定める」とした。

 

中計で掲げた「品質改革」「スバルモノづくり改革」「風土改革」は、そのまま歩みを進める。また将来のメシの種とる開発投資、CASE対応、商品投入計画にも変更はないとした。

 

しかし「サプライヤーとの開発が一時止まるなど若干の遅れがある」との認識を示し、地場企業への支援を強める。政府の様々な公的支援が打ち出されていることから、「これを見逃さず、適切に活用するよう促すほか、個別にも対応する」と細谷和男副社長と語った。

 

 2020年3月期業績の詳細は、岡田稔明・取締役専務執行役員CFOが詳細を説明した。連結売上高は前年比6%増の3兆3441億円、営業利益は同15.7%増の2103億円、当期純利益は同7.9%増の1526億円と「増収減益」の決算とした。

 

ただ期末配当は当初の一株当たり72円を「28円」に減配し、中間の72円を合わせて年100円とする方針。6月23日の株主総会にはかる。

 

このため、全ての執行役員が遡って報酬の一部(業績比例分)を自主返納するほか、2020年4~9月期の月額報酬の5%をカット、「すべてのステークホルダー、株主や従業員と痛みを分かち合う」ことにした。

 

増収は、海外販売が前期比5%増の90万8千台と好調だったことが寄与した。特に米国でのフォレスター、アセント増販が貢献した。反対に、日本国内ではインプレッサの減少などで同7.6%減の12万5800台にとどまった。

 

この結果、営業利益の増益要因は、売上構成差などで392億円、研究開発費で161億円、諸経費など圧縮で96億円を計上。一方、減益要因は、為替レート差(円高)で290億円、金属値上がりなどで原価低減が相殺され115億円の減益となった。

 

 売上構成差の増益は、米国における販売奨励金経費の圧縮によるもの。研究開発費での増益は、会計基準を日本基準から国際会計基準(IFRS)に変更したことによるものだ。

 

コロナウイルス対策として、手元資金を確保することから、4月以降資金調達(借入金、社債)で1000億円、コミットメントライン並びに社債・CPの発行枠を設定した。

 

すでに400億円の長期借り入れを実行、コミットメントライン枠も1500億円分を調達した。「お取引先の支援を含め機動的に対応できるよう備えた」。

 

なお生産再開後の1直体制(群馬)、スロー生産(SIA)は6月19日まで継続するが、6月22日以降、正常稼働に戻せるか、見通せない状況にある。

 

この間、減産インパクトは、日米合計で15万台を超える。またスバル車最大の市場である米国は4月に全需53%、5月で60~65%で推移しており、「6月以降の市場回復を注視する」。

 

他銘柄では、「7年ゼロ金利ローン」「6カ月支払い据え置き」などの販促策が散見され、「こうしたインセンティブ合戦に巻き込まれないよう在庫調整していく」という。

 

コロナ危機を契機に、すでに先行導入しているシームレスショッピング、ネット見積もり(リード)など新しい販売手法をさらに浸透させて行く考え。

 

コロナ対策として推進したテレワークについては、導入が難しい開発部門でも挑戦中。解禁後も「単純に元に戻さず、開発の効率化を推進する上で、テレワークを定着させる」考えだ。

 

 最後に、中村社長は「再び笑顔になれる日を信じて」――を標語に、スバルは万全な態勢でコロナ対策に臨むことを表明した。2月設置した新型肺炎対策本部では、サプライヤーも含め「一人の感染者も出さない」との意気込みで取り組む。

 

「お客様、従業員その家族の安全確保を最優先に、感染拡大防止に細心の注意を払い、企業としての社会的責任を果たすため、事業活動を継続する」とメッセージを発した。

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坂上 賢治

NEXT MOBILITY&MOTOR CARS編集長。日刊自動車新聞を振り出しに自動車産業全域での取材活動を開始。同社の出版局へ移籍して以降は、コンシューマー向け媒体(発行45万部)を筆頭に、日本国内初の自動車環境ビジネス媒体・アフターマーケット事業の専門誌など多様な読者を対象とした創刊誌を手掛けた。独立後は、ビジネス戦略学やマーケティング分野で教鞭を執りつつ、自動車専門誌や一般誌の他、Web媒体などを介したジャーナリスト活動が30年半ば。2015年より自動車情報媒体のMOTOR CARS編集長、2017年より自動車ビジネス誌×WebメディアのNEXT MOBILITY 編集長。

松下次男

1975年日刊自動車新聞社入社。編集局記者として国会担当を皮切りに自動車販売・部品産業など幅広く取材。その後、長野支局長、編集局総合デスク、自動車ビジネス誌MOBI21編集長、出版局長を経て2010年論説委員。2011年から特別編集委員。自動車産業を取り巻く経済展望、環境政策、自動運転等の次世代自動車技術を取材。2016年独立し自動車産業政策を中心に取材・執筆活動中。

間宮 潔

1975年日刊自動車新聞社入社。部品産業をはじめ、自動車販売など幅広く取材。また自動車リサイクル法成立時の電炉業界から解体現場までをルポ。その後、同社の広告営業、新聞販売、印刷部門を担当、2006年に中部支社長、2009年執行役員編集局長に就き、2013年から特別編集委員として輸送分野を担当。2018年春から独立、NEXT MOBILITY誌の編集顧問。

片山 雅美

日刊自動車新聞社で取材活動のスタートを切る。同紙記者を皮切りに社長室支社統括部長を経て、全石連発行の機関紙ぜんせきの取材記者としても活躍。自動車流通から交通インフラ、エネルギー分野に至る幅広い領域で実績を残す。2017年以降は、佃モビリティ総研を拠点に蓄積した取材人脈を糧に執筆活動を展開中。

中島みなみ

(中島南事務所/東京都文京区)1963年・愛知県生まれ。新聞、週刊誌、総合月刊誌記者(月刊文藝春秋)を経て独立。規制改革や行政システムを視点とした社会問題を取材テーマとするジャーナリスト。

山田清志

経済誌「財界」で自動車、エネルギー、化学、紙パルプ産業の専任記者を皮切りに報道分野に進出。2000年からは産業界・官界・財界での豊富な人脈を基に経済ジャーナリストとして国内外の経済誌で執筆。近年はビジネス誌、オピニオン誌、経済団体誌、Web媒体等、多様な産業を股に掛けて活動中。

佃 義夫

1970年日刊自動車新聞社入社。編集局記者として自動車全分野を網羅して担当。2000年出版局長として「Mobi21」誌を創刊。取締役、常務、専務主筆・編集局長、代表取締役社長を歴任。2014年に独立し、佃モビリティ総研を開設。自動車関連著書に「トヨタの野望、日産の決断」(ダイヤモンド社)など。執筆活動に加え講演活動も。

熊澤啓三

株式会社アーサメジャープロ エグゼクティブコンサルタント。PR/危機管理コミュニケーションコンサルタント、メディアトレーナー。自動車業界他の大手企業をクライアントに持つ。日産自動車、グローバルPR会社のフライシュマン・ヒラード・ジャパン、エデルマン・ジャパンを経て、2010年にアーサメジャープロを創業。東京大学理学部卒。

福田 俊之

1952年東京生まれ。産業専門紙記者、経済誌編集長を経て、99年に独立。自動車業界を中心に取材、執筆活動中。著書に「最強トヨタの自己改革」(角川書店)、共著に「トヨタ式仕事の教科書」(プレジデント社)、「スズキパワー現場のものづくり」(講談社ピーシー)など。