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2022年9月5日【経済・社会】

TDB、日野の不正でサプライヤーが市場退出する可能性を示唆

坂上 賢治

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帝国データバンクは9月5日、特許を取得した「個別企業間の全取引シェアを推計するモデル」に基づき新開発した「商流圏~売上高依存度推計データ」を用いて、日野自動車グループに関連する取引金額について試算・分析を行った。( 坂上 賢治 )

 

減産による影響は部品メーカーや周辺産業に波及していくとみられる

 

先に日野自動車の排出ガスや燃費の性能などを偽っていた問題に於いて以降、新たに主力の小型トラックでも不正が見つかり、同社の国内生産のうち約6割を停止すると発表。自動車産業は裾野が広く、今後減産による影響は部品メーカーや周辺産業に波及していくとみられる。

 

 

これを踏まえ帝国データバンクは、自己保有の「商流圏~売上高依存度推計データ」を元に、日野自動車並びに同社グループの計6社に対し、部品などのモノ・サービスを提供する周辺産業(商流圏)での取引規模を、2021年時点の売上高を基準に推計した。

 

その結果、取引額が判明した約5000社で年間最大約9796億円、月平均で816億円の取引が、同グループの商流圏内で発生していることが判明した。日野自の生産が全面的にストップした場合、取引企業や周辺産業全体で年間最大約1兆円の取引が消失するといった影響が出る可能性があると言う。

 

4割を占める国内販売計画の白紙で最大年1兆円の取引が消失リスクに

 

また企業売上高で日野自グループへの依存度をみると、同グループとの取引額が売上高全体の5%に満たない企業の割合が全体の約8割を占めた一方で、10%を超える企業の割合も全体の約1割を占めているとした。

 

 

更に地域別にみた取引額の影響では、東京都が最も多く2505億円にのぼり、このうち東京23区外の「多摩地区」が684億円を占めた。これは日野自のマザープラントとなる日野工場(東京・日野市)を中心に部品などを供給するサプライヤーが多いためと分析している。

 

結果、日野自動車のディーゼルエンジンの性能試験を巡る不正で、4割を占める国内販売のほとんどで車両生産計画が白紙となっている。

 

経営を支えきれなくなったサプライヤーの市場退出などが発生する可能性も

 

昨月末時点でも「不正対象車種の出荷再開時期が見通せない」状況だった中、企業からは「この先どこまで行けば終止符が打てるのか」「日野の不正申請問題で大打撃を受けている」など、日野自向けの取引が大きいサプライヤーを中心に、人員配置や原材料調達面で既に甚大な影響が及んだ。

 

 

そのなかで日野自は2022年4-6月期に於いて、仕入先に対する補償など20億円の特別損失を計上。公的金融機関などでも資金繰り支援を受け付ける相談窓口を設置するなど、生産停止の影響を受ける中小企業・小規模事業者向けのフォローが続いている。

 

ただ月平均で最大800億円、年間で1兆円に及ぶ取引規模の維持は中長期に及ぶほど難しく、経営を支えきれなくなったサプライヤーの市場退出などが今後発生する可能性があると結んでいる。

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坂上 賢治

NEXT MOBILITY&MOTOR CARS編集長。日刊自動車新聞を振り出しに自動車産業全域での取材活動を開始。同社の出版局へ移籍して以降は、コンシューマー向け媒体(発行45万部)を筆頭に、日本国内初の自動車環境ビジネス媒体・アフターマーケット事業の専門誌など多様な読者を対象とした創刊誌を手掛けた。独立後は、ビジネス戦略学やマーケティング分野で教鞭を執りつつ、自動車専門誌や一般誌の他、Web媒体などを介したジャーナリスト活動が30年半ば。2015年より自動車情報媒体のMOTOR CARS編集長、2017年より自動車ビジネス誌×WebメディアのNEXT MOBILITY 編集長。

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1975年日刊自動車新聞社入社。編集局記者として国会担当を皮切りに自動車販売・部品産業など幅広く取材。その後、長野支局長、編集局総合デスク、自動車ビジネス誌MOBI21編集長、出版局長を経て2010年論説委員。2011年から特別編集委員。自動車産業を取り巻く経済展望、環境政策、自動運転等の次世代自動車技術を取材。2016年独立し自動車産業政策を中心に取材・執筆活動中。

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1975年日刊自動車新聞社入社。部品産業をはじめ、自動車販売など幅広く取材。また自動車リサイクル法成立時の電炉業界から解体現場までをルポ。その後、同社の広告営業、新聞販売、印刷部門を担当、2006年に中部支社長、2009年執行役員編集局長に就き、2013年から特別編集委員として輸送分野を担当。2018年春から独立、NEXT MOBILITY誌の編集顧問。

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日刊自動車新聞社で取材活動のスタートを切る。同紙記者を皮切りに社長室支社統括部長を経て、全石連発行の機関紙ぜんせきの取材記者としても活躍。自動車流通から交通インフラ、エネルギー分野に至る幅広い領域で実績を残す。2017年以降は、佃モビリティ総研を拠点に蓄積した取材人脈を糧に執筆活動を展開中。

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1970年日刊自動車新聞社入社。編集局記者として自動車全分野を網羅して担当。2000年出版局長として「Mobi21」誌を創刊。取締役、常務、専務主筆・編集局長、代表取締役社長を歴任。2014年に独立し、佃モビリティ総研を開設。自動車関連著書に「トヨタの野望、日産の決断」(ダイヤモンド社)など。執筆活動に加え講演活動も。

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株式会社アーサメジャープロ エグゼクティブコンサルタント。PR/危機管理コミュニケーションコンサルタント、メディアトレーナー。自動車業界他の大手企業をクライアントに持つ。日産自動車、グローバルPR会社のフライシュマン・ヒラード・ジャパン、エデルマン・ジャパンを経て、2010年にアーサメジャープロを創業。東京大学理学部卒。

福田 俊之

1952年東京生まれ。産業専門紙記者、経済誌編集長を経て、99年に独立。自動車業界を中心に取材、執筆活動中。著書に「最強トヨタの自己改革」(角川書店)、共著に「トヨタ式仕事の教科書」(プレジデント社)、「スズキパワー現場のものづくり」(講談社ピーシー)など。