NEXT MOBILITY

MENU

2018年9月28日【オピニオン】

トヨタ自動車、国内全チャネル網で全車種販売を検討へ

坂上 賢治

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

以降、日本国内の自動車販売規模は拡大の一途を辿り、1968年3月末には全国43店網という体制で「トヨタオート店」が発足した。 さらに高度成長の余韻が残る1970年代後半、500万台規模を目指そうとする勢いの国内登録車市場(軽自動車除く)でシェア40%を確保るべく1980年4月に英語で「展望」を意味する「ビスタ(VISTA)店」を発足。これが後に「オート店」と統合して「ネッツ店」となっている。

 

 

 この4チャンネル体制が今後、何らかの改革に向かう可能性については、かねてよりトヨタが首都圏の販社再編を発表して以降、外部から見ても「その時期を占うだけ」という状況にあったのだが、一方で永らく地域に密着した接客でトヨタの販売首位を支えてきた200社を超える地場の独立系経営者への気遣いもあり、トヨタといえども早々には動き難いだろうと読んでいた。それゆえに今回の動きは想定外に早かった。

 

ただ国内の新車販売市場は、遠からず急速な縮小に向かうこと自体確かであり、そうなってしまった後では、各販社も赤字転落後で動きが取り難くなる可能性がある。
実際、来年10月には消費税10%の引き上げも控えており、従来型の系列店維持は不可能と判断し、「のれん」型への移行を決断したのだろう。

 

なおトヨタは今回の全系列・全車種扱いを契機に、旧来型の自動車メーカーからMaaS企業への進化を目指しており、販社に対してカーシェアリングサービスなどの次世代事業への移行を促すものと見られる。

 

 

いわばこれはトヨタが創設以来堅持してきたビジネスモデルの大転換を意味している。

 

今後トヨタ自動車と販社は、「売れるクルマを造る責務」と「地域で独自の供給車種を販売する」という車両拡販での対等で共に切磋琢磨するという関係を終え、トヨタ主導で新たな事業の地平へ共に漕ぎ出すという関係に移る。

 

しかし旧来の車販面を考えると、例え軽自動車からアッパークラスまでの全車種を1店舗で取り揃えるからといって、同じトヨタブランド車を乗り継ぐリピーターを生むとは思えず、試乗・購入・アフターサービス・買い替えに至る顧客満足度をバリューチェーン全体でいかに実現していくのか。そもそも新たなビジネスモデルの創造を踏まえても、そこには個々販社の個性が重要になる。

 

この際、販社の個性をいかに薄めずに協調関係を維持していくのか、その手腕はトヨタ経営陣の舵取り次第だ。

 

 一方でこの国内販売体制の刷新といううねりは、トヨタ系列販社間の競争を生み出し、これが台風の目となって他社メーカー店もその影響を受けざる得ない状況に陥る。

 

自動車業界人のなかでもその捉え方は様々だが、人よっては「過剰」とも称するトヨタの危機意識が今概要の原点だ。ただし競合メーカー各社はこれを対岸の火事として眺めている状況ではない。トヨタ以外のメーカー各社も、未来に向け自社ブランドの生き残りを、より俊敏に考えていかざるを得ない。

 

それは後のビジネスマン達の創作であるともいわれるダーウィンの進化論の一節をなぞらえることに他ならない。「この世に生き残るものは、最も力の強いものか。そうではない。最も頭のいいものか。そうでもない。それは、より俊敏に変化に対応できるものである」( MOTOR CARSから転載  )

 

本記事ページトップに戻る

1 2 3
CLOSE

坂上 賢治

NEXT MOBILITY&MOTOR CARS編集長。日刊自動車新聞を振り出しに自動車産業全域での取材活動を開始。同社の出版局へ移籍して以降は、コンシューマー向け媒体(発行45万部)を筆頭に、日本国内初の自動車環境ビジネス媒体・アフターマーケット事業の専門誌など多様な読者を対象とした創刊誌を手掛けた。独立後は、ビジネス戦略学やマーケティング分野で教鞭を執りつつ、自動車専門誌や一般誌の他、Web媒体などを介したジャーナリスト活動が30年半ば。2015年より自動車情報媒体のMOTOR CARS編集長、2017年より自動車ビジネス誌×WebメディアのNEXT MOBILITY 編集長。

松下次男

1975年日刊自動車新聞社入社。編集局記者として国会担当を皮切りに自動車販売・部品産業など幅広く取材。その後、長野支局長、編集局総合デスク、自動車ビジネス誌MOBI21編集長、出版局長を経て2010年論説委員。2011年から特別編集委員。自動車産業を取り巻く経済展望、環境政策、自動運転等の次世代自動車技術を取材。2016年独立し自動車産業政策を中心に取材・執筆活動中。

間宮 潔

1975年日刊自動車新聞社入社。部品産業をはじめ、自動車販売など幅広く取材。また自動車リサイクル法成立時の電炉業界から解体現場までをルポ。その後、同社の広告営業、新聞販売、印刷部門を担当、2006年に中部支社長、2009年執行役員編集局長に就き、2013年から特別編集委員として輸送分野を担当。2018年春から独立、NEXT MOBILITY誌の編集顧問。

片山 雅美

日刊自動車新聞社で取材活動のスタートを切る。同紙記者を皮切りに社長室支社統括部長を経て、全石連発行の機関紙ぜんせきの取材記者としても活躍。自動車流通から交通インフラ、エネルギー分野に至る幅広い領域で実績を残す。2017年以降は、佃モビリティ総研を拠点に蓄積した取材人脈を糧に執筆活動を展開中。

中島みなみ

(中島南事務所/東京都文京区)1963年・愛知県生まれ。新聞、週刊誌、総合月刊誌記者(月刊文藝春秋)を経て独立。規制改革や行政システムを視点とした社会問題を取材テーマとするジャーナリスト。

山田清志

経済誌「財界」で自動車、エネルギー、化学、紙パルプ産業の専任記者を皮切りに報道分野に進出。2000年からは産業界・官界・財界での豊富な人脈を基に経済ジャーナリストとして国内外の経済誌で執筆。近年はビジネス誌、オピニオン誌、経済団体誌、Web媒体等、多様な産業を股に掛けて活動中。

佃 義夫

1970年日刊自動車新聞社入社。編集局記者として自動車全分野を網羅して担当。2000年出版局長として「Mobi21」誌を創刊。取締役、常務、専務主筆・編集局長、代表取締役社長を歴任。2014年に独立し、佃モビリティ総研を開設。自動車関連著書に「トヨタの野望、日産の決断」(ダイヤモンド社)など。執筆活動に加え講演活動も。

熊澤啓三

株式会社アーサメジャープロ エグゼクティブコンサルタント。PR/危機管理コミュニケーションコンサルタント、メディアトレーナー。自動車業界他の大手企業をクライアントに持つ。日産自動車、グローバルPR会社のフライシュマン・ヒラード・ジャパン、エデルマン・ジャパンを経て、2010年にアーサメジャープロを創業。東京大学理学部卒。

福田 俊之

1952年東京生まれ。産業専門紙記者、経済誌編集長を経て、99年に独立。自動車業界を中心に取材、執筆活動中。著書に「最強トヨタの自己改革」(角川書店)、共著に「トヨタ式仕事の教科書」(プレジデント社)、「スズキパワー現場のものづくり」(講談社ピーシー)など。