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2019年4月3日【エネルギー】

トヨタ自動車、ハイブリッド車技術の実施権を無償提供へ

坂上 賢治

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 一方トヨタの方は、自らが蓄積し続けて来た技術の積み重ねを糧に、HV・プラグインハイブリッド車(PHV)・電気自動車(EV)・燃料電池自動車(FCV)等の様々なタイプの電動車開発に応用できるコア技術になるよう丁寧に仕立て上げてきた訳だが、その反面、保有技術として良くも悪くも言わば「孤高の存在」となっている。

 

それゆえ、これに対抗・追従する競合自動車メーカーが殆ど現れず、特にHV技術でストロングハイブリッドに係る車両技術は、完全に同社だけのものとなった。

 

対して昨今の競合他社は、先の通りだが個々各国政府の後押しを得て、単独搭載のモーターを直接搭載するBEVの開発を急いでいる。今回のトヨタの技術公開は、こうした流れに伴う同社独特の危機感も現れとも映る。

 

事実トヨタのストロングハイブリッド由来の独自技術は、現段階ではトヨタグループ内の「閉じた技術」となっており、このまま行くと傘下の部品メーカーの開発・供給コストが一向に下がり難くなり、場合によっては将来的に慢性的な高コスト体質に繫がる可能性もある。従って未来のトヨタ自身の事業競争力低下に繫がるかもしれないのだ。

 

 実はこれまで、トヨタ側の知的財産(特許)の取扱いについては、燃料電池車の技術提供時を例に、オープンポリシーを基本として第三者からの特許実施の申し込みに対し、適切なコストを請求することで特許実施権を提供してきた。

 

 

しかし今回は、その実施料そのものをオープン化する。そもそもトヨタでは「車両電動化技術について様々なタイプのEV開発に応用できる技術であることを鑑み、自らの技術が世界の電動車普及への貢献を果たす」としている。

 

ただ今日の段階で既に自動車マーケットで1、2位を争うVWを筆頭に、日本企業も含むルノー・日産連合などではBEV化が加速している。ゆえに少なくとも大手企業を中心とした自動車グループに関して、トヨタの技術を安易に採択するという可能性は極めて薄い。

 

 いずれにしてもトヨタが、単独保有する知的財産は世界規模の「特許」として約23,740件あり、これらの実施権を無償で提供していくとしている訳だが、そのなかでも以下は同社が考える真の戦略の肝であろう。

 

それはトータルとして電動車開発に必要なモーター・バッテリー・PCU・制御ECU(以下、車両電動化システム)など、デンソー保有も含む核技術については、先の無償化とは異なる形の技術サポートを実行していく。つまり「蓄電池」と「半導体」に関する技術提供は決して無償ではないということだ。

 

約23,740件が対象。車両電動化システム活用の技術サポートも実施し、電動車普及に貢献していく構え

 

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坂上 賢治

NEXT MOBILITY&MOTOR CARS編集長。日刊自動車新聞を振り出しに自動車産業全域での取材活動を開始。同社の出版局へ移籍して以降は、コンシューマー向け媒体(発行45万部)を筆頭に、日本国内初の自動車環境ビジネス媒体・アフターマーケット事業の専門誌など多様な読者を対象とした創刊誌を手掛けた。独立後は、ビジネス戦略学やマーケティング分野で教鞭を執りつつ、自動車専門誌や一般誌の他、Web媒体などを介したジャーナリスト活動が30年半ば。2015年より自動車情報媒体のMOTOR CARS編集長、2017年より自動車ビジネス誌×WebメディアのNEXT MOBILITY 編集長。

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1975年日刊自動車新聞社入社。編集局記者として国会担当を皮切りに自動車販売・部品産業など幅広く取材。その後、長野支局長、編集局総合デスク、自動車ビジネス誌MOBI21編集長、出版局長を経て2010年論説委員。2011年から特別編集委員。自動車産業を取り巻く経済展望、環境政策、自動運転等の次世代自動車技術を取材。2016年独立し自動車産業政策を中心に取材・執筆活動中。

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1975年日刊自動車新聞社入社。部品産業をはじめ、自動車販売など幅広く取材。また自動車リサイクル法成立時の電炉業界から解体現場までをルポ。その後、同社の広告営業、新聞販売、印刷部門を担当、2006年に中部支社長、2009年執行役員編集局長に就き、2013年から特別編集委員として輸送分野を担当。2018年春から独立、NEXT MOBILITY誌の編集顧問。

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1970年日刊自動車新聞社入社。編集局記者として自動車全分野を網羅して担当。2000年出版局長として「Mobi21」誌を創刊。取締役、常務、専務主筆・編集局長、代表取締役社長を歴任。2014年に独立し、佃モビリティ総研を開設。自動車関連著書に「トヨタの野望、日産の決断」(ダイヤモンド社)など。執筆活動に加え講演活動も。

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1952年東京生まれ。産業専門紙記者、経済誌編集長を経て、99年に独立。自動車業界を中心に取材、執筆活動中。著書に「最強トヨタの自己改革」(角川書店)、共著に「トヨタ式仕事の教科書」(プレジデント社)、「スズキパワー現場のものづくり」(講談社ピーシー)など。