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2019年12月17日【アフター市場】

トヨタの〝キント〟早くも刷新、同戦略の本質を憂う

坂上 賢治

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 トヨタ自動車株式会社(本社:愛知県豊田市、代表取締役社長:豊田 章男)は12月16日、新車を定額利用できるサービス「KINTO(キント)」の事業戦略を改め、新施策を打ち出した。(坂上 賢治)

 

 

その理由は、今年2月にキントがサービスインして以来(全国展開は7月から)、テレビCMなどの大規模なプロモーション展開を図っているのにも関わらず、サービスの利用実績が極めて少数(3月から11月の期間での利用申込みが950件余り)に留まっていることにある。

併せて、既存実績のうち18歳から29歳の利用申込みが2割未満であることも、同社が当初想定していた獲得ユーザーに対して、キントというブランド価値そのものが充分に浸透していないという焦りとして、どこかにあるのだろう。

 

 同社によると現段階は〝サービス自体の認知度向上が課題〟だと認識している様子で、取り扱い車種数を大幅に増やすことで若年層の利用活性化を促す方針のようだ。

 

 

但しその施策は、ここに至るまで依然として赤字が続くという状況ゆえに、もはや〝戦略を改めてテコ入れする〟という単純な施策強化策を打ち出すのでは無く、既存のカーシェアリングやリースなど、他のトヨタ謹製のモビリティサービス全体のブランド名を世界規模で「KINTO」に統一していくのだと言う。

 

 より具体的には、フランスやイタリア、タイ、インドネシアなどで展開している定額リースなどの既存サービスや、カーシェアリングに加え、鉄道やバスなどの公共交通機関を組み合わせて乗り継ぐ交通サービス「MaaS(マース)」も、その対象にする見込み。

 

さらに買い物や、レジャーなどで1台のクルマに相乗りするスタイルのライドシェアサービスも、以降はメニューのひとつとして包括していく構えだ。

 

 

 今後、打ち出される新たなサービスメニューは6つだ。契約期間中で1車種だけに乗れる「キント・ワン」は、選択可能な車種を現行の15車種から31車種に拡大(トヨタ車8車種、レクサス8車種を追加)する。

 

サービスラインナップはパッソ(月額3万2780円~)から、レクサスIS(月額10万8900円~)まで。また、より提供価格を抑えた「中古車版キント・ワン」も、2020年1月下旬からトライアルを始めると言う。

 

一方、契約期間中に複数車種を乗り継げる「キント・セレクト」は、サービス名称を「キント・フレックス」に変更。2020年2月下旬から全国展開を開始する。

 

キント・フレックスの選択枝は2ラインとし、3年間で3台のレクサス車に1年毎に乗り換える月額17万6000円(税込)のプラン。3年間で6台のレクサス車に半年毎に乗り換える月額19万8000円(税込)の2つとする。

 

 

その他に、通勤時などの相乗りカープールサービスを「キント・ジョイン」として提供。会員間でレンタカーも含む特定のクルマを共同利用するシェアリングサービスとして「キント・シェア」を。

 

複数人を相乗りさせるライドシェアリングサービスを「キント・ライド」として、利用者のニーズに合わせ、複数の交通機関を組み合わせて移動自体を愉しめるマルチモーダルサービスを「キント・ゴー」として提供する。

 

 これらのサービスラインは、クルマの定額利用サービスをメニューとして掲げて先行するダイムラー・BMW連合の他、フォルクスワーゲンや米国に於けるポルシェなど、海外勢の展開に追従したものと言えるだろう。

 

 

特にダイムラーは、2008年に乗り捨て型カーシェアの「カー2ゴー」を開始。BMWは2011年から「ドライブナウ」を手掛け、2019年2月には双方のサービスを協業化させた。なお国内でも「おまとめ定額プラン」と称してボルボ・カー・ジャパンが乗り換え簡単と謳う〝スマボ〟プランを展開している。

 

そうした意味で、今回のトヨタの刷新策にはあまり新味性は無く、本来ならば追い上げる側として、より斬新な新方策を打ち出して欲しいところだ。

 

 

 そもそも〝クルマの購入〟を単純に〝クルマの利活用〟に置き換える「キント・ワン」や「キント・フレックス」は、クルマ利用の負担を月額に分割しているだけであり、同サービスは、利活用のお得感を訴求するしか戦術がないのが弱点だ。少し乱暴な表現かも知れないが、詰まるところ「とらやの高級羊羹」を切り売りしているに過ぎない。

 

トヨタが真のモビリティカンパニーを目指すのであれば、切り売りの羊羹を単純に売るのでは無く、茶会の席をマネジメントして〝切り売りの羊羹の体験価値〟を大きく引き上げられるようなサービスメニューに期待したい。

 

クルマの利活用にあたり純粋に〝移動の足〟が欲しいユーザーも居るとは思うが、単純にそれだけを追うのであれば、その企業は未来のMaaSを標榜するモビリティカンパニーとは言えない。

 

そもそもMaaSというビジネスそのものは、多くのメディアであげつらうような新世代ビジネスなどではなく、鉄道会社を筆頭に旧くからMaaSを実践している企業は数多ある。

 

車両を使った移動には、そのモビリティ空間内でおもてなし施策を実施するという戦術もある一方で、移動することが切っ掛けとなって、モビリティの利用者が新しい感動体験を得ることもある。未来のモビリティカンパニーを目指すトヨタには、未来の消費者層に対して、移動サービスを介した感動を提供できる存在であって欲しい。

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坂上 賢治

NEXT MOBILITY&MOTOR CARS編集長。日刊自動車新聞を振り出しに自動車産業全域での取材活動を開始。同社の出版局へ移籍して以降は、コンシューマー向け媒体(発行45万部)を筆頭に、日本国内初の自動車環境ビジネス媒体・アフターマーケット事業の専門誌など多様な読者を対象とした創刊誌を手掛けた。独立後は、ビジネス戦略学やマーケティング分野で教鞭を執りつつ、自動車専門誌や一般誌の他、Web媒体などを介したジャーナリスト活動が30年半ば。2015年より自動車情報媒体のMOTOR CARS編集長、2017年より自動車ビジネス誌×WebメディアのNEXT MOBILITY 編集長。

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1975年日刊自動車新聞社入社。編集局記者として国会担当を皮切りに自動車販売・部品産業など幅広く取材。その後、長野支局長、編集局総合デスク、自動車ビジネス誌MOBI21編集長、出版局長を経て2010年論説委員。2011年から特別編集委員。自動車産業を取り巻く経済展望、環境政策、自動運転等の次世代自動車技術を取材。2016年独立し自動車産業政策を中心に取材・執筆活動中。

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1975年日刊自動車新聞社入社。部品産業をはじめ、自動車販売など幅広く取材。また自動車リサイクル法成立時の電炉業界から解体現場までをルポ。その後、同社の広告営業、新聞販売、印刷部門を担当、2006年に中部支社長、2009年執行役員編集局長に就き、2013年から特別編集委員として輸送分野を担当。2018年春から独立、NEXT MOBILITY誌の編集顧問。

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日刊自動車新聞社で取材活動のスタートを切る。同紙記者を皮切りに社長室支社統括部長を経て、全石連発行の機関紙ぜんせきの取材記者としても活躍。自動車流通から交通インフラ、エネルギー分野に至る幅広い領域で実績を残す。2017年以降は、佃モビリティ総研を拠点に蓄積した取材人脈を糧に執筆活動を展開中。

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1970年日刊自動車新聞社入社。編集局記者として自動車全分野を網羅して担当。2000年出版局長として「Mobi21」誌を創刊。取締役、常務、専務主筆・編集局長、代表取締役社長を歴任。2014年に独立し、佃モビリティ総研を開設。自動車関連著書に「トヨタの野望、日産の決断」(ダイヤモンド社)など。執筆活動に加え講演活動も。

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株式会社アーサメジャープロ エグゼクティブコンサルタント。PR/危機管理コミュニケーションコンサルタント、メディアトレーナー。自動車業界他の大手企業をクライアントに持つ。日産自動車、グローバルPR会社のフライシュマン・ヒラード・ジャパン、エデルマン・ジャパンを経て、2010年にアーサメジャープロを創業。東京大学理学部卒。

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1952年東京生まれ。産業専門紙記者、経済誌編集長を経て、99年に独立。自動車業界を中心に取材、執筆活動中。著書に「最強トヨタの自己改革」(角川書店)、共著に「トヨタ式仕事の教科書」(プレジデント社)、「スズキパワー現場のものづくり」(講談社ピーシー)など。