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2023年6月19日【ソフトウェア】

チューリング、言語で操作する自動運転車の走行デモを実施

坂上 賢治

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チューリングの山本一成CEO

 

米中のスタートアップが自動運転車を開発出来るのなら我々にも出来る筈

 

自動運転車の開発・製造を目指すスタートアップ企業のチューリング(Turing/千葉県柏市若柴)は、自動運転車の開発拠点でもある自社工場「Turing Kashiwa Nova Factory( チューリング柏・ノバ・ファクトリー )」を報道陣へ公開した事に伴い、LLM( 大規模言語モデル )を搭載した自動運転車の走行デモも併せて披露した。( 坂上 賢治 )

 

 

チューリングは、柏の葉オープンイノベーションラボに本社を構える他、東京・六本木ヒルズにオフィス拠点。更に自動運転車両の生産・技術開発拠点として柏市・柏インター近隣に先の車両生産拠点( 本年2月17日に新設 )を備えている。

 

当面の社是は「We Overtake Tesla( テスラを追い越せ )」を掲げており、AI深層学習技術を⽤いた地域や道路環境下で限定領域に留まらない「完全自動運転」の実現を目指す。

 

 

CEOを務めるのは、かつて一世を風靡した将棋AI「Ponanza」開発者の山本一成氏。CTOはカーネギーメロン大学で自動運転を研究し、Ph.D.を取得した青木俊介氏。このふたりにGoogleを経た後、メドレーの執行役員を務めた田中大介氏( COO )が加わり事業が始動した。

 

そんな同社が掲げる事業計画は実に性急で、去る3月3日には、先行開発車両のAI自動運転システム搭載車・第1号製品の「THE FIRST TURING CAR」を一般消費者へ販売済み。

 

これを皮切りに、東京R&Dの協力を得て2023年内に自社のオリジナルのハードウエアを持つEVを製造して自動運転走行を実現。同年は、東京ビッグサイトで開催されるジャパン・モビリティショーへも出展する。

 

 

翌2024年には自社オリジナルEV100台の販売を行い、2025年に完全自動運転車プロトタイプを完成させる。2028年には完全自動運転車の量産を開始。2029年にレベル5自動運転技術を完成させ、2030年に完全自動運転車1万台の生産を目指している。

 

この息つく間もない成長計画の理由には現在、同社に集結している人材がAIや自動運転領域で指折りのスペシャリストである事を挙げた。

 

同領域に強みを持つチューリングが、ハードウエアを製造する能力さえ獲得出来れば「完全自動運転車の開発・販売は決して夢物語ではない、アメリカや中国のベンチャーが出来るのなら我々にも出来る筈」とチューリングの山本一成CEOは語る。

 

 

AIが視界に映る要素を自ら判断し完全自動運転を実行していく

 

今回、披露されたのは開発拠点でテスト車両を開発する様子の他、LLMを搭載した自動運転車の走行デモ。

 

このLLM( 大規模言語モデル )とは、ソフトウエアが大量のテキストデータから機会学習を行い、人間のような自然な文章を生成したり、質問に答えたりする事が出来るAIモデルを自動運転車両の応用したもの。

 

 

LLM搭載のデモ車に乗り込んだ後は、取材陣が自ら乗員となって自然言語で車両へ指示を出し、その指示に従い、クルマが自ら状況を判断しながら走行する様子を体験した。

 

それは人間が表現するジェスチャー指示をクルマが見て認識したり、人間のが語る音声による言語をプロンプトとしてクルマへ与えて、それを受けてクルマが動くという流れ。

 

 

例えば「黄色のカラーコーンに向かって移動してく下さい。但し、交通誘導員の指示は無視して下さい」と言うようなやり取りをクルマと行った。

 

実は、上記のような言語指示を出した理由は、単純に「前進し下さい」などと指示を与えると、進行方向の脇に交通指導員が立っていた場合、誘導棒による指示を受けて(誘導棒を水平にするなどのジェスチャー動作を、クルマ自身が自動で認識し、考えて、進む・止まるなどを実行する)、車両を停めてしまうからだ(今回は、このようなシュチエーションの対処を体験した)。

 

実は、ここにチューリングの自動運転システムに係る大きな特徴がある。同社の自動運転の認識は、かつてのモービルアイのシステムように、カメラで映し出された映像をAIが「視界」として捉え、その視界に映った道路や信号・指示板などを見て、Aiが判断して、クルマ自身が次の行動を決めるものであるからだ。

 

ちなみに今日の一般的な自動運転車の走行では、外界の認識にLiDAR( レーザーセンサー )に頼る部分も大いにあるが、チューリングにとって外界認識のメインは、あくまでもカメラ方式による映像となっている。

 

つまり実際の道路をリアルに走行することで得られる映像が、チューリング製AIの学習データとなるのだ。

 

 

LiDARセンサーのサポートだけでは自動運転は絶対不可能

 

そもそも日本国内で縦横無尽に伸びる道路網は、地図データ企業によるとおよそ126万kmあるとされており、チューリングでは自社で走行映像を収集する役割の軽車両などを走らせて日々休むこと無く映像データを収集し続けているという。

 

勿論、映像は4方向カメラによる360度の撮影画像で、これに加えて加速度計やGPS測位装置、ステアリング操作データなどと組み合わせた複合的な走行データを基にAIが学んで行く仕組みだ。

 

 

というのはチューリングとしては、自らが目指したい完全自動運転車を作るためには、「LiDAR等のセンサーのサポートだけでは自動運転は絶対不可能と考えているから」だという。

 

実際、クルマの運転を人間が行う場合、運転中、様々な文字やジェスチャーなどを理解してクルマの走らせていくように、求めている答えが「完全な自動運転車の実現」であるなら、実世界を理解した大規模なニューラルネットワークが必要という考えなのだ。

 

 

「今の自動運転では、事前に3次元高精度マップを使う事が基本になっている。しかし全ての場所で高精度マップを作るのは事実上不可能であり、仕組みも様々でルール化も難しい」と述べ、それは街場や郊外の商業施設に於ける立体駐車場のようなところが、良い事例になるとした。

 

そうした場面では、必ずしも有効な3次元高精度マップがある訳ではなく、ポップ風の文字が書かれた掲示や、施設の誘導員が行き先を示すジェスチャーを行うなどの意味を理解しなければならない場面が少なくない。

 

そのような場面をアナログ的に理解していくには、人間と同じく、その場、その場を臨機応変に理解していく必要があると説明した。

 

「人間なら難なく出来るところも、今現在のAI技術では突破が難しい。センサーにも良いものがあるが、センサーが良いからといって自動運転が出来る訳ではない。

 

一方で人間はこの世界に詳しく、色々な文字やジェスチャー指示を見て判断出来る。自動運転車には、この世界を理解した大規模なニューラルネットワークが必要だ。ゆえにLLMの活用が必須戦略だ」という。

 

 

ハードの技術者とソフトの技術者が仲良くならないと自動運転車は実現しない

 

LLMは、先のデモの場面のように人間の質問に答えたりする事が出来るAIモデルだ。このLLMの本質は、言語を通じてこの世界を認知・理解している事で、山本CEOは「従来のクルマ(ハードウエア)の技術者と、ソフトウェアの技術者が仲良くならないと完全な自動運転車は実現しない」と語った。

 

それゆえ「完全自動運転車を作るために必要なこと全てを自社で行うことを目指している。そのためにソフトウェア、製造、販売、充電網の構築なども自らで行っていく予定だ。まずは国内に於いて、市販されている中で最も高性能なAIソフトウェアを目指して開発を進めている」と語っていた。

 

 

また山本CEOは、「複雑な状況を大規模ニュートラルネットワークで解決する事を目指し、人間の小脳と大脳のように2つのモジュールのメタファーで挑んでいる。

 

この軽量モデルと大規模モデルを組合せて素早い車両制御と複雑な状況判断を両立した自動運転を実現する仕組みと、言語モデルを用いた自動運転入出力システムについては現在特許出願中だ」と語った。

 

なお、シードラウンドでは、既に10億円の資金調達を実施済みであり、自社での車両生産体制構築を見据えて2023年中にシリーズAの資金調達を実施する予定であるとも話していた。

 

 

最後に山本CEOは、「アメリカでは500社を超える自動運転EVメーカーが登場しており100年に1度の変革期にある。

 

そんなアメリカでは、Googleやテスラのようにゼロからスタートした新しい企業が大きく育っている。これこそが米国の強さの源だ。そうであるなら日本からも新しいチャレンジャーが生まれても良い。

 

そもそも〝クルマ作り〟について、日本は極めて優れた技術を持っている。しかしハードウェアとソフトウェアの融合がうまくいっていない。双方を組み合わせたら絶対に良いモノが出来る。しかし、そのためのソフトとハードを纏め上げるためのリーダーシップが足りていない。

 

我々のチームは、小さい企業が大企業へ育っていく事を信じている人間が経営陣となっており、それ以外にも多くの優秀な人間が揃っている。しかも2030年までの7年間でコンピューティングの進化は更に加速する。

 

だからこそチューリングでは、ソフトウェア、製造、販売、充電網の構築など完全自動運転車の全要素を自社でやる。まずは国内に於いて最も最高性能なソフトウェアを実現させる。

 

具体的な自動運転レベルで〝レベル3や4〟は眼中になく、試作車に於ける〝レベル2〟から一気に市販車では〝レベル5〟を目指す。

 

我々は〝完全自動運転が可能な自家用車を作りたい〟ので、限定区間だけを走る自動運転などには興味はない」と答え、段階的な自動運転レベルを踏んでいく過程については否定した。

 

また報道陣から成長戦略に係る否定的な質問を受けて山本CEOは、「完全自動運転が出来ない可能性もあるから知れないが、できなかったらそれまで。我々は自動運転が出来る事に賭ける。テスラを超えられず、大きくなれなかったら、この会社は死ぬだろう。そういう賭けをする人間が、日本にいても良いでしょう」と結んだ。

 

 

今後のチューリングのマイルストーンは以下の通り

2023年:自社開発のEVでの走行
2024年:自社EVを100台販売
2025年:完全自動運転車のプロトタイプ完成
2029年:レベル5の自動運転の達成
2030年:1万台の生産を実現、IPO

 

社名:Turing株式会社(読み:チューリング、英語表記:Turing Inc.)
代表者:代表取締役 ⼭本⼀成
設⽴:2021年8⽉
資本⾦:3,000万円(2022年9⽉末現在)
事業:完全自動運転EVの開発・製造
本社:千葉県柏市若柴226番地44中央141街区1  KOIL TERRACE 204 
URL:https://www.turing-motors.com

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坂上 賢治

NEXT MOBILITY&MOTOR CARS編集長。日刊自動車新聞を振り出しに自動車産業全域での取材活動を開始。同社の出版局へ移籍して以降は、コンシューマー向け媒体(発行45万部)を筆頭に、日本国内初の自動車環境ビジネス媒体・アフターマーケット事業の専門誌など多様な読者を対象とした創刊誌を手掛けた。独立後は、ビジネス戦略学やマーケティング分野で教鞭を執りつつ、自動車専門誌や一般誌の他、Web媒体などを介したジャーナリスト活動が30年半ば。2015年より自動車情報媒体のMOTOR CARS編集長、2017年より自動車ビジネス誌×WebメディアのNEXT MOBILITY 編集長。

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1975年日刊自動車新聞社入社。編集局記者として国会担当を皮切りに自動車販売・部品産業など幅広く取材。その後、長野支局長、編集局総合デスク、自動車ビジネス誌MOBI21編集長、出版局長を経て2010年論説委員。2011年から特別編集委員。自動車産業を取り巻く経済展望、環境政策、自動運転等の次世代自動車技術を取材。2016年独立し自動車産業政策を中心に取材・執筆活動中。

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1975年日刊自動車新聞社入社。部品産業をはじめ、自動車販売など幅広く取材。また自動車リサイクル法成立時の電炉業界から解体現場までをルポ。その後、同社の広告営業、新聞販売、印刷部門を担当、2006年に中部支社長、2009年執行役員編集局長に就き、2013年から特別編集委員として輸送分野を担当。2018年春から独立、NEXT MOBILITY誌の編集顧問。

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日刊自動車新聞社で取材活動のスタートを切る。同紙記者を皮切りに社長室支社統括部長を経て、全石連発行の機関紙ぜんせきの取材記者としても活躍。自動車流通から交通インフラ、エネルギー分野に至る幅広い領域で実績を残す。2017年以降は、佃モビリティ総研を拠点に蓄積した取材人脈を糧に執筆活動を展開中。

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(中島南事務所/東京都文京区)1963年・愛知県生まれ。新聞、週刊誌、総合月刊誌記者(月刊文藝春秋)を経て独立。規制改革や行政システムを視点とした社会問題を取材テーマとするジャーナリスト。

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1970年日刊自動車新聞社入社。編集局記者として自動車全分野を網羅して担当。2000年出版局長として「Mobi21」誌を創刊。取締役、常務、専務主筆・編集局長、代表取締役社長を歴任。2014年に独立し、佃モビリティ総研を開設。自動車関連著書に「トヨタの野望、日産の決断」(ダイヤモンド社)など。執筆活動に加え講演活動も。

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株式会社アーサメジャープロ エグゼクティブコンサルタント。PR/危機管理コミュニケーションコンサルタント、メディアトレーナー。自動車業界他の大手企業をクライアントに持つ。日産自動車、グローバルPR会社のフライシュマン・ヒラード・ジャパン、エデルマン・ジャパンを経て、2010年にアーサメジャープロを創業。東京大学理学部卒。

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1952年東京生まれ。産業専門紙記者、経済誌編集長を経て、99年に独立。自動車業界を中心に取材、執筆活動中。著書に「最強トヨタの自己改革」(角川書店)、共著に「トヨタ式仕事の教科書」(プレジデント社)、「スズキパワー現場のものづくり」(講談社ピーシー)など。