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2024年1月25日【自動車・販売】

英SMMT、自国政府含む237億ポンドの投資増額を歓迎

坂上 賢治

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英国最大の自動車産業団体の自動車製造業貿易協会(SMMT)は1月25日、昨年の統計数値と調査結果を発表した。それによると英国の自動車生産は2023年に1,025,474台に到達。その内訳は乗用車905,117台、商用車 (CV) 120,357台となり総生産量は前年比17.0%増となった。

 

同国でもここ数年、チップ不足からロックダウンに至るパンデミック経済変動や、電動モデルの生産増加などの浮き沈みを経て、2019年以来(2019年の製造規模は乗用車1,303,135 台、CVが78,270台)、初めて年間生産台数が100万台を超えた。最直近12月の自動車製造業の業績は、いずれも前年比20.7%増、CV販売量は80.3%増と堅調で最終的にプラス基調で同年を締め括った。

 

そんな2023年は、新たに再開したエルズミアポート(イングランド中西部チェシャーウェスト・チェスター北西部の都市)のEV専用工場を含めて、7台の最先端モデルの生産が開始( Aston Martin、Lotus、Rolls-Royce、Stellantis、Alexander Dennis)され、民間および公的投資の約237億ポンドも投入。過去7年間を合わせた額を上回る規模となった(2016年から2022年までの発表済み投資総額は162億ポンド)。

 

これらより英国内に於いてグリーン経済成長が促進され、全国的に雇用が創出され、その結果、2023年の段階で既に記録的な水準に達する電動車両製造部門への雇用の流動性も高まった。

 

そんな英国に於けるバッテリー電気 (BEV)、プラグイン ハイブリッド (PHEV)、およびハイブリッド (HEV) の生産販売台数は、前年比48.0%増の34万6,451台に急増し、全体のほぼ5分の2(38.3%)を占めた。

 

結果、全体として、英国の自動車生産は2023年に16.8%増加し、2010年以来最高の成長率を記録。製造されたすべてのモデルの小売総額 500億ポンドを超えている(RRP および公開情報に基づくSMMTの計算では516億ポンド)。

 

具体的な数値では191,247 台の自動車が生産されたが、生産台数の大部分は海外に出荷されており、自動車輸出が英国経済に貢献している。前年比では英国市場向けの生産量が13.7%増加したのに対して輸出は17.6%増加した。

 

一方でEUは依然として英国にとっては最大市場であり、その輸出量は60.3%を占め、出荷台数は、ほぼ4分の1 (23.2%) 増加して430,411台となっている。

 

それに次ぐ米国への輸出シェアは10.3%(73,571台)で、次に中国が7.2%(51,202台)となったが両国への出荷はそれぞれ-9.1%と-2.7%減少した。逆にトルコへの車両輸出は223.8%増の27,346台となり、日本、オーストラリア、韓国、カナダ、UAE、スイスを抑えて英国第4位の世界市場となっている。

 

SMMT最高経営責任者マイク・ホーズ氏は、「サプライチェーンの課題の解消、新モデルの導入、237億ポンドの巨額投資により、英国の自動車生産は2023年を踏まえて、しっかりとした成長軌道に戻れるだろう。

 

近年の自動車産業界は、世界的な競争がかつてないほど熾烈さを極め、地政学的な緊張ね高まっている。そうした中で英国の政府と産業界はいずれも、そうした過酷さによってもたらされる雇用問題の改革と、成長を伴う一方で過酷な競争に耐えなければならない。その状況は1年前よりも、はるかに良い立場にある訳だが課題は消えていない」と述べた。

 

そんな厳しい市場環境にも関わらず、英国の高級車・高性能車専門メーカーは今年も最良の年を迎え、総販売台数は6.3%増の3万4,613台、推定71億ポンド相当を獲得した。

 

2台の新しい電動モデルもグッドウッド(イングランド南部チチェスター)とヘセル(イングランド南ノーフォーク地区)で生産に入っている。これは、あらゆる分野のメーカーが電動化をどのように受け入れているかを証明している言えるだろう。

 

なお2023年末は、英国とEU間で取引されるバッテリーと、EVに係る厳格な原産地規則の延期が追い風となった。この動きは、英国とヨーロッパの競争力を保護するのに役立ち、地元のバッテリー関連の産業育成を強化するための貴重な時間を得ている。

 

さて、では来たるべき2024年は、英国の自動車産業界にとって、どんな年となるだろうか。おそらく、ここまで記述してきた数々の課題を実現していくために極めて重要な年になるだろう。しかも依然として逆風が続いており、直近では紅海での船舶への攻撃がコスト圧力への懸念を引き起こしている。

 

しかし一方で、英国とEUの原産地関税の差し迫った脅威が当面、回避されつつあるため、英国の自動車およびCVの生産台数は2024年の実績値から更に3%増加して104万台となり、年末までに120万台を超える可能性があるとSMMTでは予想している。

 

但し、この数字を達成させるには英国が引き続き、競争力を維持していける必要があり、政府が次期予算案件に於いて同分野を後押しするかどうかにも掛かっている。

 

少なくとも電気自動車のバッテリー製造と、それに関連するサプライチェーンが救済の対象となるよう気候変動協定を今年も延長していくことが含まれるべきである。そこでは、グリーンエネルギーを広く利用可能できるように手頃な価格を維持しなければならず、加えて労働力やスキルギャップを埋めるための幾つかの政策の履行も欠かせない。

 

更に自動車産業を今後も交渉の中心に据える通商政策も、英国の回復を強固にしている。従って、それらが電動化が加速化している世界の自動車生産に於いて、英国が世界のリーダーになるために役立つだろうと同レポートでは結ばれている。

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坂上 賢治

NEXT MOBILITY&MOTOR CARS編集長。日刊自動車新聞を振り出しに自動車産業全域での取材活動を開始。同社の出版局へ移籍して以降は、コンシューマー向け媒体(発行45万部)を筆頭に、日本国内初の自動車環境ビジネス媒体・アフターマーケット事業の専門誌など多様な読者を対象とした創刊誌を手掛けた。独立後は、ビジネス戦略学やマーケティング分野で教鞭を執りつつ、自動車専門誌や一般誌の他、Web媒体などを介したジャーナリスト活動が30年半ば。2015年より自動車情報媒体のMOTOR CARS編集長、2017年より自動車ビジネス誌×WebメディアのNEXT MOBILITY 編集長。

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1975年日刊自動車新聞社入社。編集局記者として国会担当を皮切りに自動車販売・部品産業など幅広く取材。その後、長野支局長、編集局総合デスク、自動車ビジネス誌MOBI21編集長、出版局長を経て2010年論説委員。2011年から特別編集委員。自動車産業を取り巻く経済展望、環境政策、自動運転等の次世代自動車技術を取材。2016年独立し自動車産業政策を中心に取材・執筆活動中。

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1975年日刊自動車新聞社入社。部品産業をはじめ、自動車販売など幅広く取材。また自動車リサイクル法成立時の電炉業界から解体現場までをルポ。その後、同社の広告営業、新聞販売、印刷部門を担当、2006年に中部支社長、2009年執行役員編集局長に就き、2013年から特別編集委員として輸送分野を担当。2018年春から独立、NEXT MOBILITY誌の編集顧問。

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日刊自動車新聞社で取材活動のスタートを切る。同紙記者を皮切りに社長室支社統括部長を経て、全石連発行の機関紙ぜんせきの取材記者としても活躍。自動車流通から交通インフラ、エネルギー分野に至る幅広い領域で実績を残す。2017年以降は、佃モビリティ総研を拠点に蓄積した取材人脈を糧に執筆活動を展開中。

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1970年日刊自動車新聞社入社。編集局記者として自動車全分野を網羅して担当。2000年出版局長として「Mobi21」誌を創刊。取締役、常務、専務主筆・編集局長、代表取締役社長を歴任。2014年に独立し、佃モビリティ総研を開設。自動車関連著書に「トヨタの野望、日産の決断」(ダイヤモンド社)など。執筆活動に加え講演活動も。

熊澤啓三

株式会社アーサメジャープロ エグゼクティブコンサルタント。PR/危機管理コミュニケーションコンサルタント、メディアトレーナー。自動車業界他の大手企業をクライアントに持つ。日産自動車、グローバルPR会社のフライシュマン・ヒラード・ジャパン、エデルマン・ジャパンを経て、2010年にアーサメジャープロを創業。東京大学理学部卒。

福田 俊之

1952年東京生まれ。産業専門紙記者、経済誌編集長を経て、99年に独立。自動車業界を中心に取材、執筆活動中。著書に「最強トヨタの自己改革」(角川書店)、共著に「トヨタ式仕事の教科書」(プレジデント社)、「スズキパワー現場のものづくり」(講談社ピーシー)など。