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2020年6月5日【エネルギー】

ボルボ・カーズの中国成都工場、再生可能電力100%達成

坂上 賢治

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 ボルボ・カーズは6月5日、自社の中国最大拠点となっている成都工場で、100%再生可能電力を用いた製造オペレーションを実現したと発表した。これにより世界規模から見た同社製造拠点の再生可能電力使用率は遂に80%に到達した。(坂上 賢治)

 

 

ちなみにこの成都工場での〝再生可能電力使用100%の達成〟というニュースは、同社が新たに結んだ電力の供給契約に支えられて実現したものだ。この結果、同拠点のCO2排出量が年間11,000トン以上削減されることになるという。

 

この契約締結は、2025年迄に自動車製造領域でクライメート・ニュートラル(気候中立/発生した二酸化炭素を再生可能電力の使用で相殺する)を目指す自社の具体的なステップであると胸を張っている。

 

 

2040年迄にクライメート・ニュートラル企業になることを目指す

 

 ボルボ・カーズのインダストリアル・オペレーション及び品質責任者であるハビエル・ヴァレラ氏は、この成果を自社が最終目標として目指すKPI(Key Performance Indicator)に置き換え「これは車両ライフサイクル換算でのCO2排出量を、来る2025年迄に〝2018年比40%へ削減する〟という気候変動対策の一環です。

 

これを踏まえボルボ・カーズは、2040年迄にクライメート・ニュートラルな企業になることを目指しています」と語る。

 

さらにヴァレラ氏は「新たな電力供給契約では、自動車産業としてCO2排出量削減を達成するということだけではなく、エネルギー生成時に生じるCO2排出量を国家レベルで削減するという中国政府が目指す〝より大きな目標〟にも合致しています。

 

成都工場では、既に電力の70%を再生可能エネルギーから調達していましたが、今回の契約は残りの30%を対象としています。

 

 

この新しい契約の下、電力供給源の約65%が水力発電になり、残りは太陽光発電、風力発電および他の再生可能エネルギーとなります。

 

私たちの目標は、具体的かつ現実的な行動を通じてCO2排出量を削減することです。

 

従ってこれを前提に今回、自社として中国最大の工場で再生可能な電力供給を確保できたこと自体が、我々にとって重要なマイルストーンのひとつであり、具体的かつ有意義な行動を起こすという我々のコミットメントに係る姿勢を、ハッキリ示すものとなりました」という。

 

 

自動車業界で最も野心的な経営指針を打ち出していくブランドに

 

 加えてヴァレラ氏は「我々は、製造拠点でのCO2排出量の削減に対して着実に取り組んでおり、ここ数年で数々のマイルストーンを達成しています。

 

例えば2008年からは、ヨーロッパの全工場でクライメート・ニュートラルな電力供給が行われており、2018年にはスウェーデンのショヴデにあるエンジン工場がボルボ・カーズとして初めて完全にクライメート・ニュートラルな工場になっています。

 

またベルギーのゲント工場では、2018年に15,000枚のソーラーパネルを設置し、ボルボ・カーズの製造拠点で初めて太陽光エネルギーを大規模に導入致しました。

 

 

これら数々の対策は、ボルボ・カーズが昨年末に立ち上げた気候変動対策の一環であり、自動車業界で最も野心的な計画のひとつだと自負しています。

 

そんな我々の事業計画上で、今日、最も大きな柱として据えているテーマは、2025年迄に世界の販売台数の50%を完全電気自動車に、残りをハイブリッド車にするという目標です。

 

この計画は、全モデルの電動化による車両からのCO2排出量の削減に留まらず、ボルボ・カーズの幅広い業務分野やサプライチェーン、資材のリサイクルや再利用によるCO2排出量の削減も含まれています」と述べた。

 

 

潤沢なチャイナマネーを得たボルボ・カーズのクルマ造りとは

 

 さて、そんなボルボ・カーズは、現AB SFK社からカーブアウト。経営者の才を持つアッサール・ガブリエルソンと、自動車設計者のグスタフ・ラーソンによって1927年に創設された自動車ブランドだ。

 

その後、ボルボの乗用車部門は1999年にフォードに分離売却。さらに2010年に中国・浙江吉利控股集団(ジーリーホールディングス)が同社買収の名乗りを挙げた。

 

以降、吉利は、およそ5年間に亘り日本円で1兆円を大きく超える110億ドルを投資。さらに自らも自己資金と、中国開発銀行からの融資で二弾目のロケット組み上げて新投資計画を実施。現在のボルボ・カーズとなって現在に至る。

 

 

但し、マーケティング・総務部門は今もスウェーデン・イエテボリにあるボルボトラックに隣接した場所に置いており、対してアジア太平洋地域本社を中国・上海に置いている。

 

 現在、ボルボ・カーズの主な生産拠点は、イエテボリ(スウェーデン)、ゲント(ベルギー)、サウスカロライナ州(米国)、成都・大慶(中国)に加え、ショブデ(スウェーデン)と張家口(中国)にエンジン工場が、加えてオルフストローム(スウェーデン)に車体部品工場がある。

 

 

潤沢なチャイナマネーを得たボルボ・カーズは、工場拠点の刷新と共にプラットフォーム(車台)もリニューアルし、2016年にはボルボのレース活動をサポートし続けてきた〝ポールスター〟を新たな自社ブランドとして買収。

 

これを完全電気自動車の新ブランドとしてスタートさせた他、同ブランド車を電子商取引の舞台に乗せるなど、競業する名門ブランドを差し置いてECマーケティングも既に展開して久しい。

 

結果、余力ある資金需要(チャイナマネー)を背景にボルボ・カーズは、中国市場に最も近づいた欧州ブランドになったといえるだろう。今のところ、ブランド経営に過度な口出しをしない吉利。そして世界第2位の経済大国となった中国への配慮を見せながらも同社は、巧みな経営手法を維持し続けて自らの自動車造りの哲学を今後も貫く構えを見せている。

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坂上 賢治

NEXT MOBILITY&MOTOR CARS編集長。日刊自動車新聞を振り出しに自動車産業全域での取材活動を開始。同社の出版局へ移籍して以降は、コンシューマー向け媒体(発行45万部)を筆頭に、日本国内初の自動車環境ビジネス媒体・アフターマーケット事業の専門誌など多様な読者を対象とした創刊誌を手掛けた。独立後は、ビジネス戦略学やマーケティング分野で教鞭を執りつつ、自動車専門誌や一般誌の他、Web媒体などを介したジャーナリスト活動が30年半ば。2015年より自動車情報媒体のMOTOR CARS編集長、2017年より自動車ビジネス誌×WebメディアのNEXT MOBILITY 編集長。

松下次男

1975年日刊自動車新聞社入社。編集局記者として国会担当を皮切りに自動車販売・部品産業など幅広く取材。その後、長野支局長、編集局総合デスク、自動車ビジネス誌MOBI21編集長、出版局長を経て2010年論説委員。2011年から特別編集委員。自動車産業を取り巻く経済展望、環境政策、自動運転等の次世代自動車技術を取材。2016年独立し自動車産業政策を中心に取材・執筆活動中。

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1975年日刊自動車新聞社入社。部品産業をはじめ、自動車販売など幅広く取材。また自動車リサイクル法成立時の電炉業界から解体現場までをルポ。その後、同社の広告営業、新聞販売、印刷部門を担当、2006年に中部支社長、2009年執行役員編集局長に就き、2013年から特別編集委員として輸送分野を担当。2018年春から独立、NEXT MOBILITY誌の編集顧問。

片山 雅美

日刊自動車新聞社で取材活動のスタートを切る。同紙記者を皮切りに社長室支社統括部長を経て、全石連発行の機関紙ぜんせきの取材記者としても活躍。自動車流通から交通インフラ、エネルギー分野に至る幅広い領域で実績を残す。2017年以降は、佃モビリティ総研を拠点に蓄積した取材人脈を糧に執筆活動を展開中。

中島みなみ

(中島南事務所/東京都文京区)1963年・愛知県生まれ。新聞、週刊誌、総合月刊誌記者(月刊文藝春秋)を経て独立。規制改革や行政システムを視点とした社会問題を取材テーマとするジャーナリスト。

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経済誌「財界」で自動車、エネルギー、化学、紙パルプ産業の専任記者を皮切りに報道分野に進出。2000年からは産業界・官界・財界での豊富な人脈を基に経済ジャーナリストとして国内外の経済誌で執筆。近年はビジネス誌、オピニオン誌、経済団体誌、Web媒体等、多様な産業を股に掛けて活動中。

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1970年日刊自動車新聞社入社。編集局記者として自動車全分野を網羅して担当。2000年出版局長として「Mobi21」誌を創刊。取締役、常務、専務主筆・編集局長、代表取締役社長を歴任。2014年に独立し、佃モビリティ総研を開設。自動車関連著書に「トヨタの野望、日産の決断」(ダイヤモンド社)など。執筆活動に加え講演活動も。

熊澤啓三

株式会社アーサメジャープロ エグゼクティブコンサルタント。PR/危機管理コミュニケーションコンサルタント、メディアトレーナー。自動車業界他の大手企業をクライアントに持つ。日産自動車、グローバルPR会社のフライシュマン・ヒラード・ジャパン、エデルマン・ジャパンを経て、2010年にアーサメジャープロを創業。東京大学理学部卒。

福田 俊之

1952年東京生まれ。産業専門紙記者、経済誌編集長を経て、99年に独立。自動車業界を中心に取材、執筆活動中。著書に「最強トヨタの自己改革」(角川書店)、共著に「トヨタ式仕事の教科書」(プレジデント社)、「スズキパワー現場のものづくり」(講談社ピーシー)など。