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2020年7月31日【エネルギー】

コロナ禍とCASEの行方

松下次男

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– MOBILITY INSIGHT –

 

世界的に広がる新型コロナウイルス感染症の脅威が未だに止まりそうにない。一方で、経済活動は相次いで再開されており、世はまさに新型コロナとどう共生するか「ウイズ・コロナ」の時代に突入した。

こうしたなか、自動車産業も停止や制限下にあった生産や販売活動が徐々に回復し、通常の業態に戻りつつある。ただし、コロナ前の状態へと完全復活するかは不透明。感染症終息後も「様々な形で影響、変化が残るだろう」との見方もある。(佃モビリティ総研・松下次男)

 

少し時間を戻してみると、自動車産業は「100年に一度の大変革期」に差し掛かっているという見方で一致。トヨタ自動車の豊田章男社長はトヨタを「自動車をつくる会社からモビリティカンパニーへとモデルチェンジする」と述べ、変化に積極的に対応する姿勢をみせていた。

 

世界の主要メーカーをみても、CASEやMaaSと呼ばれる次世代技術で激しい競合を繰り広げており、その開発競争にはIT(情報技術)系トップ企業など異業種も加わる。そこへ全く予期せぬ新型コロナ感染症の脅威が直撃した。
まずは新型コロナ感染症の打撃を最小限に抑え、事業活動をもとの姿に戻すというのが産業界にとって、第1の優先事項といえるだろう。と同時に、コロナ感染症は企業の事業継続に別の視点からインパクトを与えることにもなった。

 

コロナ禍で、企業はテレワーク勤務を余儀なくされ、社会生活においてもソーシャルディスタンスなどの新たな行動様式が迫られた。
これらはニューノーマルや新しい生活様式と呼ばれているが、感染症の第1波収束後も一部分が定着する。

 

移動手段にも変化が及ぶ。特に日本では、大都市圏を中心に朝の通勤列車の大混雑が常態化していたが、これを避け、パーソナルユース志向が高まったという声も聞く。それがクルマの購入につながるケースにも。
CASEで呼称される次世代モビリティ技術は、それぞれコネクテッド、自動運転、シェアリング、電動化の頭文字をとったものだが、ウイズ・コロナ時代に入り、こうした動きにも変化が現れる。

 自動車産業界の見解を分析すると、まず成長分野の一つとされていた相乗りや相互利用などのシェアリング分野へ影響が出そうだ。

 

「新しい生活様式のもとでは、他者との接触を避ける傾向が強まり、シェアリングには逆風となる。もちろん長期的にみれば、進化するするだろうが」と業界のトップは会見でこう述べる。
実際に、急成長していたライドシェアリングも新型コロナの感染拡大後は苦戦が続く。逆に、進行が早まると予測されるのがコネクテッド分野だ。

 

第1波の感染拡大期には、世界各地で都市が封鎖され、日本でも自粛期間がしばらく続いた。そこで出現したのがリモート環境下での社会・経済活動。会議や生産工場の監視はデジタルを活用し、リモートで行うのが一つの日常となった。

 

こうした動きは、あらゆるものがインターネットにつながるIoTを加速させるとの予測を強める。コネクテッドカーもその一つ。

インターネットで外部とつながり、家庭環境と同様に相互交信し、ソフトウェアや不具合もOTA(オーバー・ザ・エアー)で自動更新する。新車ディーラーにとっても、過度の接触が減らせる。
販売活動でもIoTが進展するだろう。実際にデジタルを活用した新車販売が増えており、サブスクリプションなど新たな販売手法も拡大すると見られている。

 

一方で、IoT実用化は新たな危機を抱え込む。あらゆるものがインターネットにつながることは、当然、既存デバイスとも接続することになり、こうした端末機ではセキュリティ対策が不備なものが少なくない。
加えて、通信は今やクラウド環境下で行われるのが大半で、サイバー攻撃の被害も多面的に及ぶ。現実に、オンライン会議で被害に遭遇した事例は増えており、コネクテッドカーはクラウド環境下でつながる。今後、脆弱性の克服なども重要な課題だ。

 

それでは自動運転、電動化分野はどうだろう。両分野とも重要分野として継続するとした見方が大半で、コネクテッドとの親和性もある。
ただし、自動運転でいえば新型コロナ感染症の影響で実証実験は中断、延期となったケースも多い。このため、2020年代の半ばにも本格化するとみられていたレベル4以上の自動運転は2030年近くへずれ込むという見方が強まっている。

 

電動化では、電気自動車(EV)の投入計画が相次ぎ、懸案だった航続距離や充電時間短縮などの技術進化も著しい。このため、普及の要素はそろってきた。あとはユーザーが「快適で、使い勝手が良い」ものとして受け入れられるかだろう。 

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坂上 賢治

NEXT MOBILITY&MOTOR CARS編集長。日刊自動車新聞を振り出しに自動車産業全域での取材活動を開始。同社の出版局へ移籍して以降は、コンシューマー向け媒体(発行45万部)を筆頭に、日本国内初の自動車環境ビジネス媒体・アフターマーケット事業の専門誌など多様な読者を対象とした創刊誌を手掛けた。独立後は、ビジネス戦略学やマーケティング分野で教鞭を執りつつ、自動車専門誌や一般誌の他、Web媒体などを介したジャーナリスト活動が30年半ば。2015年より自動車情報媒体のMOTOR CARS編集長、2017年より自動車ビジネス誌×WebメディアのNEXT MOBILITY 編集長。

松下次男

1975年日刊自動車新聞社入社。編集局記者として国会担当を皮切りに自動車販売・部品産業など幅広く取材。その後、長野支局長、編集局総合デスク、自動車ビジネス誌MOBI21編集長、出版局長を経て2010年論説委員。2011年から特別編集委員。自動車産業を取り巻く経済展望、環境政策、自動運転等の次世代自動車技術を取材。2016年独立し自動車産業政策を中心に取材・執筆活動中。

間宮 潔

1975年日刊自動車新聞社入社。部品産業をはじめ、自動車販売など幅広く取材。また自動車リサイクル法成立時の電炉業界から解体現場までをルポ。その後、同社の広告営業、新聞販売、印刷部門を担当、2006年に中部支社長、2009年執行役員編集局長に就き、2013年から特別編集委員として輸送分野を担当。2018年春から独立、NEXT MOBILITY誌の編集顧問。

片山 雅美

日刊自動車新聞社で取材活動のスタートを切る。同紙記者を皮切りに社長室支社統括部長を経て、全石連発行の機関紙ぜんせきの取材記者としても活躍。自動車流通から交通インフラ、エネルギー分野に至る幅広い領域で実績を残す。2017年以降は、佃モビリティ総研を拠点に蓄積した取材人脈を糧に執筆活動を展開中。

中島みなみ

(中島南事務所/東京都文京区)1963年・愛知県生まれ。新聞、週刊誌、総合月刊誌記者(月刊文藝春秋)を経て独立。規制改革や行政システムを視点とした社会問題を取材テーマとするジャーナリスト。

山田清志

経済誌「財界」で自動車、エネルギー、化学、紙パルプ産業の専任記者を皮切りに報道分野に進出。2000年からは産業界・官界・財界での豊富な人脈を基に経済ジャーナリストとして国内外の経済誌で執筆。近年はビジネス誌、オピニオン誌、経済団体誌、Web媒体等、多様な産業を股に掛けて活動中。

佃 義夫

1970年日刊自動車新聞社入社。編集局記者として自動車全分野を網羅して担当。2000年出版局長として「Mobi21」誌を創刊。取締役、常務、専務主筆・編集局長、代表取締役社長を歴任。2014年に独立し、佃モビリティ総研を開設。自動車関連著書に「トヨタの野望、日産の決断」(ダイヤモンド社)など。執筆活動に加え講演活動も。

熊澤啓三

株式会社アーサメジャープロ エグゼクティブコンサルタント。PR/危機管理コミュニケーションコンサルタント、メディアトレーナー。自動車業界他の大手企業をクライアントに持つ。日産自動車、グローバルPR会社のフライシュマン・ヒラード・ジャパン、エデルマン・ジャパンを経て、2010年にアーサメジャープロを創業。東京大学理学部卒。

福田 俊之

1952年東京生まれ。産業専門紙記者、経済誌編集長を経て、99年に独立。自動車業界を中心に取材、執筆活動中。著書に「最強トヨタの自己改革」(角川書店)、共著に「トヨタ式仕事の教科書」(プレジデント社)、「スズキパワー現場のものづくり」(講談社ピーシー)など。