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2022年8月2日【企業・経営】

日野、特別調査委員会報告で新たな不正が発覚

松下次男

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企業体質の改善、新たな執行体制などを3カ月かけてまとめ再発防止策を実行へ

 

日野自動車は8月2日、記者会見を開き、エンジン認証申請に係る新たな不正が見つかったことを公表した。外部有識者による特別調査委員会がまとめた報告書で、不正は2003年までさかのぼり、不正機種は26機種に拡大することが分かった。(佃モビリティ総研・松下次男)

 

こうした不正発覚に対し、小木曽聡社長は「すべてのステークホルダーにご迷惑をおかけしたことをお詫びします」と述べた上で、品質マネジメント構築体制、企業風土の改善、新たな執行体制などの再発防止策を3カ月間でまとめ、実行すると表明した。

 

記者会見は2部構成で実施。第1部に特別調査委員会による調査報告を行ったあと、小木曾社長が再発防止策について会見した。

 

特別調査委員会の榊原一夫委員長(弁護士、元大阪高検検事長)は、不正行為について大きく分けて「3点ある」と話した。

 

一つは、排出ガスに関する不正行為、次いで燃費に関する不正行為。これに加えて、2016年5月国交省から認証取得時の排出ガス・燃費試験における不適切な事案の有無について報告を求められた件、いわゆる「2016年問題」で不正だ。

 

排出ガスの不正行為は、オンロードエンジンのE6規制(2003年適用開始、新短期規制)の劣化耐久試験などで確認。不正は、測定点とは異なる時点で社移出ガスの測定を行う、測定結果を書き換える、後処理装置の一部である第2マフラーを交換したことが分かった。

 

建設産業用機械向けのオフロードエンジンついても3・5次規制(2011年適用開始)の劣化耐久試験から不正が行われるようになったとした。

 

燃費に関する不正については、オフロードエンジンでは不正行為が確認されず、オンロードのみ確認。不正は、2006年4月に、パワートレーン実験部の担当者らが、燃費流量校正値を燃費に有利になる操作などを行った。

 

この燃費については、2006年度から目標を達成した車両について自動車取得税の軽減措置が講じられるようになっていた。

 

2016年問題は、三菱自動車の燃費データ偽装問題に端を発し、同様の不正が他の自動車メーカーへも広がった問題で、国交省から一斉に不適切な事案がないかの報告が求められていた。

 

これに対し、特別調査委員会の報告では、E8(ポスト新長期規制)規制対応時の認証試験のデータの一部の存在が確認できなかったことやデータから得られる結果と認証申請値が齟齬するなどしていたため、パワートレーン実験部の担当者が認証試験値に合わせて試験データを作出したり、データを書き換えるなどしていたことが明らかにされた。

 

排出ガス、燃費関連などの対象車両台数は最大56万7000台に上る可能性

 

こうした不正が続いていたことに対し、榊原委員長は「みんなでクルマをつくっていない」「世の中の変化に取り残されている」「業務をマネジメントする仕組みが軽視されていた」ことが問題の真因と指摘した。

 

実際に、聞き取りやアンケート調査から「セクショナリズムが強く、組織が縦割りで、部分最適の発想に囚われて全体最適を追求できていない」「能力やリソースに関し、現場と経営陣の認識に断絶がある」「上位下達の気風が強すぎ、“上に物が言えない”“できないことをできないと言えない”という風通しの悪い組織となっていた」などと述べた。

 

認証不正問題は米国で排出ガス認証に関する問題が生じたことで、日本でも同様の問題がないかの総点検の実施したことから拡大したものだ。

 

最初は、2016年秋以降のエンジン4機種に不正があったことを確認し、これを2022年3月国交省に報告するとともに、再発防止などについて外部の有識者に調査を委嘱した。

 

そこで不正が20年以上に渡って続いていたことが明らかになり、組織風土、マネジメント面などについても瑕疵や不備が認められると指摘された。

 

今回、明らかになった不正行為に対して役員を含めた上層部が認識していたかどうかについて榊原委員長は「認識していたという証拠は得られなかった」と直接の関与を否定したものの、「上にものが言えなかったなど、経営体質、組織の風土を放置してきた責任は重い」と厳しい言葉を投げかけた。

 

後半の社長会見で、問題があったエンジンを搭載する車両の総数は3月公表の約11万5500台から最大で約56万7000台に増えたことを明らかにした。この結果、業績への影響もさらに大きくなるものとみられる。

 

小木曾社長はこうした不正行為が続いていたことに対し、業務マネジメントの意識や仕組み、人材育成などが不十分だったことを掲げ、「今後、このような問題を二度と繰り返さない良い再発防止を徹底することが重要」と話した。

 

このため、「風土改革に終わりはない」としながらも、今回発覚した不正行為を止血するチェック体制、組織づくりを早急に行う必要があるとして、3カ月をめどに対応策をまとめ、実行する方針を示した。

 

責任問題については「まず次に向かう執行体制をつくることが大切。そのあとで、私自身を含めて、責任を明確にしたい」と述べた。

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坂上 賢治

NEXT MOBILITY&MOTOR CARS編集長。日刊自動車新聞を振り出しに自動車産業全域での取材活動を開始。同社の出版局へ移籍して以降は、コンシューマー向け媒体(発行45万部)を筆頭に、日本国内初の自動車環境ビジネス媒体・アフターマーケット事業の専門誌など多様な読者を対象とした創刊誌を手掛けた。独立後は、ビジネス戦略学やマーケティング分野で教鞭を執りつつ、自動車専門誌や一般誌の他、Web媒体などを介したジャーナリスト活動が30年半ば。2015年より自動車情報媒体のMOTOR CARS編集長、2017年より自動車ビジネス誌×WebメディアのNEXT MOBILITY 編集長。

松下次男

1975年日刊自動車新聞社入社。編集局記者として国会担当を皮切りに自動車販売・部品産業など幅広く取材。その後、長野支局長、編集局総合デスク、自動車ビジネス誌MOBI21編集長、出版局長を経て2010年論説委員。2011年から特別編集委員。自動車産業を取り巻く経済展望、環境政策、自動運転等の次世代自動車技術を取材。2016年独立し自動車産業政策を中心に取材・執筆活動中。

間宮 潔

1975年日刊自動車新聞社入社。部品産業をはじめ、自動車販売など幅広く取材。また自動車リサイクル法成立時の電炉業界から解体現場までをルポ。その後、同社の広告営業、新聞販売、印刷部門を担当、2006年に中部支社長、2009年執行役員編集局長に就き、2013年から特別編集委員として輸送分野を担当。2018年春から独立、NEXT MOBILITY誌の編集顧問。

片山 雅美

日刊自動車新聞社で取材活動のスタートを切る。同紙記者を皮切りに社長室支社統括部長を経て、全石連発行の機関紙ぜんせきの取材記者としても活躍。自動車流通から交通インフラ、エネルギー分野に至る幅広い領域で実績を残す。2017年以降は、佃モビリティ総研を拠点に蓄積した取材人脈を糧に執筆活動を展開中。

中島みなみ

(中島南事務所/東京都文京区)1963年・愛知県生まれ。新聞、週刊誌、総合月刊誌記者(月刊文藝春秋)を経て独立。規制改革や行政システムを視点とした社会問題を取材テーマとするジャーナリスト。

山田清志

経済誌「財界」で自動車、エネルギー、化学、紙パルプ産業の専任記者を皮切りに報道分野に進出。2000年からは産業界・官界・財界での豊富な人脈を基に経済ジャーナリストとして国内外の経済誌で執筆。近年はビジネス誌、オピニオン誌、経済団体誌、Web媒体等、多様な産業を股に掛けて活動中。

佃 義夫

1970年日刊自動車新聞社入社。編集局記者として自動車全分野を網羅して担当。2000年出版局長として「Mobi21」誌を創刊。取締役、常務、専務主筆・編集局長、代表取締役社長を歴任。2014年に独立し、佃モビリティ総研を開設。自動車関連著書に「トヨタの野望、日産の決断」(ダイヤモンド社)など。執筆活動に加え講演活動も。

熊澤啓三

株式会社アーサメジャープロ エグゼクティブコンサルタント。PR/危機管理コミュニケーションコンサルタント、メディアトレーナー。自動車業界他の大手企業をクライアントに持つ。日産自動車、グローバルPR会社のフライシュマン・ヒラード・ジャパン、エデルマン・ジャパンを経て、2010年にアーサメジャープロを創業。東京大学理学部卒。

福田 俊之

1952年東京生まれ。産業専門紙記者、経済誌編集長を経て、99年に独立。自動車業界を中心に取材、執筆活動中。著書に「最強トヨタの自己改革」(角川書店)、共著に「トヨタ式仕事の教科書」(プレジデント社)、「スズキパワー現場のものづくり」(講談社ピーシー)など。