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2024年4月3日【事業資源】

いすゞ、中期経営計画を策定 鍵は柔軟さで売上高6兆円へ

坂上 賢治

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いすゞ自動車の南信介 代表取締役社長

 

いすゞ自動車(本社:神奈川県横浜市、社長COO:南真介)は4月3日、横濱ゲートタワーの本社拠点に報道陣を募り、「運ぶ」に関わる様々な社会課題を解決していくべく、来たる2030年のグローバル市場に於ける「商用モビリティソリューションカンパニー」への変革を目指していくための中期経営計画「ISUZU Transformation – Growth to 2030(IX)」の策定内容を発表した。

 

その方策は、2030年に目指すべき自社の姿として「安心×斬新」な「運ぶ」を創造する新事業への挑戦を掲げ、(1)自動運転ソリューション、(2)コネクテッドサービス、(3)カーボンニュートラルソリューションの3領域を柱に据えて、これらをテーマに将来の新たな収益源として事業を加速させていくと述べた。

 

具体的な数値目標してはグループ全体で、既存事業の強化を軸に新規事業を強力に推進することによって、2030年度に売上高6兆円、営業利益率10%以上を目指すという。そのための背景・経営方針などの個々の策定内容は以下の通りとなる。

 

「ISUZU Transformation(IX)」イメージ

 

1.背景
いすゞグループは昨年5月、経営理念体系「ISUZU IDⅰ」を策定した。それは100年に一度の大変革期に於いて全従業員が同じ価値観を共有し、グループ一丸となって社会課題の解決に取り組むべく、共通の指針として定めたもの。

 

この「ISUZU IDⅰ」では、〝地球の『運ぶ』を創造する〟をPURPOSE(使命)に、〝『安心×斬新』で世界を進化させるイノベーションリーダー〟をVISION(将来像)にそれぞれ掲げた。

 

 

また更に、カーボンニュートラル(CN)と物流DXを加速させるため、2030年までに総額1兆円規模のイノベーション投資を行うことも表明した。

 

そうした経営理念体系の策定を前提に、今回、「中期経営計画2024(2022年3月期~2024年3月期)」の成果や将来の事業環境からのバックキャストを踏まえて、ISUZU IDやいすゞグループの2030年にありたい姿を「IX」として具体化したという。

 

 

2.経営方針
いすゞグループは2030年に向けて、創造する価値を従来の商品軸から新たにソリューションへと広げ、ビジネスモデルを大きく変革する。そのために、現在の収益の拡大と未来の収益への投資を両輪として顧客を含めた社会、あらゆるステークホルダーが抱える課題を解決できる商用モビリティソリューションカンパニーを目指す。

 

3「運ぶ」を創造する新事業への挑戦
将来の新たな収益源へと大きく成長させるため、以下の新技術3領域を起点に、事業化を加速させる。そうしたステップを踏むことで来るべき2030年代には、売上高1兆円規模の事業を目指す。

 

 

(1)自動運転ソリューション-Autonomous driving solutions
2027年度以降、自動運転レベル4のトラック・バス事業の開始を順次目指す。そのために今春より自動運転技術の獲得や基礎的なサービスの作り込みを本格的にスタートさせ、アライアンスパートナーとの協働によるモニター実証を経て、2027年度より順次、高速道路・ハブ間での輸送や、市街地をはじめとする路線バス向けのソリューション提供へと繋げていく。

 

 

(2)コネクテッドサービス-Connected services
国内では運送事業者・荷主の輸配送効率を高めるサービスを提供する他、業界を超えた様々なデータを商用車情報基盤「GATEX(ゲーテックス)ⅱ」と連携させることで、新たなサービスを創出する。

さらに北米へ、高度純正整備「PREISM(プレイズム)ⅲ」と、BEVの導入をサポートするトータルソリューションプログラム「EVisionⅳ」を展開し、2028年までに北米以外の主要地域へも対象エリアを拡大させていく。

 

 

(3)カーボンニュートラルソリューション-Carbon neutral solutions
様々なパートナーとの協業を通じて、マルチパスウェイ(全方位)でのCN化を進める。具体的には、2030年までにすべてのカテゴリーでCN商品をラインアップに加える。

更に2030年代の普及期を見据え、価格競争力のあるBEVの投入や、バッテリー交換式ソリューション「EVision Cycle Conceptⅴ」をはじめとする周辺事業の展開を本格的に推進し、社会のCN化を牽引していく。

 

4.「運ぶ」を支える既存事業の強化
今後は事業基盤を更に強化し、2030年度に新車販売85万台以上、売上高5兆円以上を目指す。CV事業は、いすゞ・UDトラックス(UD)の販売・サービスチャネル及び商品の相互補完でシナジー創出を更に加速させることにより、グローバルでの徹底的な拡販を実現させていく。

LCVⅵ事業は、グローバルサウスへの拡販を進めると共に、2030年に向けては、動力源の多様化および次世代モデルに向けた要素技術の開発を推進し、事業を拡大・成長させていく。

 

2030年度 販売台数目標

 

5.地域別戦略
いすゞグループが重点地域と位置付ける日本、米国、ASEANの3地域へは、サプライチェーン全体、特にものづくり強化への投資を継続する。更に今後の成長を見込む戦略地域であるインド・アフリカへは、将来に向けたブランドの浸透とプレゼンスの拡大に努める。

 

重点地域(1):日本
グローバルの生産量を確保するため、強靭なサプライチェーンの整備を行っていく。また労働人口減少に備え、既存インフラをベースに、生成AIの活用などで効率化・近代化し、最適な国内ものづくり体制を再構築する。

 

更に新車販売・保有事業の拡大を支える機能およびサービスインフラ網の強化への投資(2,050億円)を実施し、これらにより、既存事業の盤石化を図る。

 

「物流2024年問題」に対しては、荷主の立場で、ドライバー拘束時間・積載率の実態に基づき運営を改善し、ドライバーの負荷軽減に努める。加えて、自動運転技術を活用した実証と新規事業の展開により、日本の物流・人流およびものづくりを、いすゞグループが守っていく。

 

重点地域(2):米国
海外におけるBEVビジネス構築の先駆けとして、小型BEVを市場投入する。これを起点に、開発・購買機能の強化と生産能力の増強を目的とした積極的な投資を行う。加えて、アフター重視のビジネスモデルに転換し、LCFⅶ市場でのマーケットリーダーを目指す。

 

6.財務方針
財務目標
投資全体像

 

7.ISUZU IDを基軸とした経営基盤の確立
ISUZU IDを起点とする人的資本経営に向けて、グローバル基準の人財マネジメント基盤を整備する。その変革の第一弾として、従来の職能型を改め、職務型を採用した新人事制度を今春よりスタートさせた。今後はこれを順次対象を拡大させていき、2026年度にはグループ全体で運用させていく構えだ。

 

また、事業戦略の実現に必要なDXケイパビリティを確保するため、新事業展開に向けた技術・サービスの開発や既存事業運営の効率化への取り組みを通して、全従業員の基礎スキルおよび専門領域のスキルの向上や、技術革新に対応する新たなスキルの獲得を進める。

 

 

そして、専門人財の獲得とリソースシフトを促進し、DX領域における強固な人財基盤を構築する。いすゞグループは、デジタルを活用してイノベーションを創出する集団へと生まれ変わり、世の中に提供する価値の拡大を図る。

 

 

いすゞでは、「2030年の成長に向けてIXを掲げ、多様化するお客様ニーズや不確実性の高い事業環境にもしなやかに対応し、絶えず変革し続けていきます。そして〝安心×斬新〟でお客様・社会の課題を解決する「商用モビリティソリューションカンパニー」を目指してまいります」と結んでいる。

 

※なお今発表概要中にも内包されている「ISUZU ID: 新経営理念体系/New corporate philosophy(先の2023年5月策定)」を説明した配信動画は以下の通り

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坂上 賢治

NEXT MOBILITY&MOTOR CARS編集長。日刊自動車新聞を振り出しに自動車産業全域での取材活動を開始。同社の出版局へ移籍して以降は、コンシューマー向け媒体(発行45万部)を筆頭に、日本国内初の自動車環境ビジネス媒体・アフターマーケット事業の専門誌など多様な読者を対象とした創刊誌を手掛けた。独立後は、ビジネス戦略学やマーケティング分野で教鞭を執りつつ、自動車専門誌や一般誌の他、Web媒体などを介したジャーナリスト活動が30年半ば。2015年より自動車情報媒体のMOTOR CARS編集長、2017年より自動車ビジネス誌×WebメディアのNEXT MOBILITY 編集長。

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1975年日刊自動車新聞社入社。編集局記者として国会担当を皮切りに自動車販売・部品産業など幅広く取材。その後、長野支局長、編集局総合デスク、自動車ビジネス誌MOBI21編集長、出版局長を経て2010年論説委員。2011年から特別編集委員。自動車産業を取り巻く経済展望、環境政策、自動運転等の次世代自動車技術を取材。2016年独立し自動車産業政策を中心に取材・執筆活動中。

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1975年日刊自動車新聞社入社。部品産業をはじめ、自動車販売など幅広く取材。また自動車リサイクル法成立時の電炉業界から解体現場までをルポ。その後、同社の広告営業、新聞販売、印刷部門を担当、2006年に中部支社長、2009年執行役員編集局長に就き、2013年から特別編集委員として輸送分野を担当。2018年春から独立、NEXT MOBILITY誌の編集顧問。

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日刊自動車新聞社で取材活動のスタートを切る。同紙記者を皮切りに社長室支社統括部長を経て、全石連発行の機関紙ぜんせきの取材記者としても活躍。自動車流通から交通インフラ、エネルギー分野に至る幅広い領域で実績を残す。2017年以降は、佃モビリティ総研を拠点に蓄積した取材人脈を糧に執筆活動を展開中。

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1970年日刊自動車新聞社入社。編集局記者として自動車全分野を網羅して担当。2000年出版局長として「Mobi21」誌を創刊。取締役、常務、専務主筆・編集局長、代表取締役社長を歴任。2014年に独立し、佃モビリティ総研を開設。自動車関連著書に「トヨタの野望、日産の決断」(ダイヤモンド社)など。執筆活動に加え講演活動も。

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株式会社アーサメジャープロ エグゼクティブコンサルタント。PR/危機管理コミュニケーションコンサルタント、メディアトレーナー。自動車業界他の大手企業をクライアントに持つ。日産自動車、グローバルPR会社のフライシュマン・ヒラード・ジャパン、エデルマン・ジャパンを経て、2010年にアーサメジャープロを創業。東京大学理学部卒。

福田 俊之

1952年東京生まれ。産業専門紙記者、経済誌編集長を経て、99年に独立。自動車業界を中心に取材、執筆活動中。著書に「最強トヨタの自己改革」(角川書店)、共著に「トヨタ式仕事の教科書」(プレジデント社)、「スズキパワー現場のものづくり」(講談社ピーシー)など。