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2024年2月1日【企業・経営】

三菱自動車、得意のアセアンで苦戦し戦略見直しか

山田清志

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三菱自動車工業が最重要市場と位置づけているアセアン市場で苦戦している。2月1日発表した2023年4~12月期の連結決算は、売上高が前年同期比14.3%増の2兆638億円、営業利益が4.2%増の1601億円と増収増益だったが、アセアン地域の販売台数は8%減の18万1000台だった。特に主力のタイ市場で中国勢の電気自動車(バッテリーEV)攻勢よりシェアも下げた。当期純利益については、中国での生産撤退に伴う関連損失が響いて21.4%減の1027億円だった。(経済ジャーナリスト・山田清志)

 

松岡健太郎 代表執行役副社長(CFO)

 

ちなみに日本と北米以外市場での販売減は、一部地域での輸送能力不足による納車遅れ、総需要の低下といった影響を受けたもの。業績面については、半導体や船腹不足等による車両の供給不足は解消に向かっているが、一部地域で総需要が期待より下まわる結果で推移した。一方で販売の質向上や、手取り改善活動が下支えしたことで、堅調な業績を達成することができていると事業全体を包括した決算概略については松岡健太郎副社長(CFO)が説明した。

 

三菱自動車2023年度第3四半期累計業績

 

主力のタイ市場で販売台数が大幅に減少

 

「アセアンについては、タイにしろ、インドネシアにしろ、ベトナムにしろ、われわれのコアマーケットの全需が落ち込んでいる状況だ。特にインドネシアとタイにおいては、月を追うごとに悪くなっていて、われわれも苦労している。

 

 

タイでは中国とのFTA締結によって、中国から安いバッテリーEVが無関税で輸入でき、さらに昨年には10万バーツ(役60万円)の恩典がつくということで、かなり市場が荒れた状態になっている」と中村達夫副社長は話し、フィリピン以外は前年同月を下回った。

 

タイ市場といえば、ながいこと日本車が約9割のシェアを占めて独壇場だったが、2023年はシェアが8割を切り、78%まで落ち込んだ。代わりに大きく伸ばしたのがBYDなどの中国メーカーで、22年比で2.2倍もシェアを伸ばし、11%を記録した。特にバッテリーEVの市場が急成長しているという。

 

そのあおりを大きく受けたのが三菱自動車で、同国での販売台数を35%も減らしてしまった。4~12月期を見ても、前年同期の3万6000台から2万2000台と38%も減少した。そこで、同社では3つの戦略を進めることにした。

 

中村達夫 代表執行役副社長(営業担当)

 

1つ目は中国のバッテリーEVメーカーが手がけていないピックアップに力を入れていく。ピックアップは販売店の収益の柱にもなっており、その市場をしっかりと守っていく。2つ目が三菱車を購入すると安心であるという顧客への訴求を強化する。

 

タイでは50年以上の歴史があり、全国津々浦々まで販売店、サービスショップ、部品の供給網があるので、中国製のEVに修理などのアフターサービスで不安を持つ顧客に三菱車を買うメリットを訴える。3つ目がハイブリッド車(HEV)を投入すること。2月1日にクロスオーバーMPV「エクスパンダー」と「エクスパンダー クロス」のHEVモデルをタイで世界初披露し、販売を開始した。

 

「今、バッテリーEVが需要の11%ぐらいまで成長してきているが、アーリーアダプターが一巡しつつあり、伸びるペースが少し落ちてきている。販売金融会社もこれまではどんどん販金をつけていたけれども、だんだんと不払いが増えてきたので、少し慎重な姿勢に変わってきている」と中村副社長は説明する。

 

三菱自動車2023年度第3四半期累計販売台数実績

 

米国ではアウトランダーの販売が大きく伸長

 

一方、米国や豪州は販売が非常に好調で、販売店から早くクルマを持ってきてくれと引っ付かれているそうだ。特に米国に関しては、これまで「ミラージュ」や「RVR」などでインセンティブを積んで安さを武器に販売していたが、現在は「アウトランダー」と「アウトランダーPHEV」の投入によって、値引き販売ではなく、価値を訴求する販売が進んでいるという。しかも、そのアウトランダーは前年同期の3万8800台から5万6800台と販売台数を大きく伸ばしている。その結果、インセンティブも業界平均以下の水準だ。

 

長岡宏 代表執行役副社長(開発・商品戦略・TCS・デザイン担当)

 

しかし、中期経営計画「チャレンジ2025」で先進技術推進地域として位置づけている北米について、中長期的には三菱自動車単独でやっていくのは難しいと考えていて、アライアンスを組んで商品を補完しながら北米攻略をしていく計画だ。「今後、電動化とかいろいろなクルマが必要になっていく中で、どのような協業が一番望ましいのか、今まさに議論しているところだ」と長岡宏副社長は話す。

 

その中期経営計画では、アセアン、オセアニア地域を成長ドライバーと位置づけ、事業中核地として経営資源を集中し、台数シェア収益すべての拡大を目指すとしている。25年度の販売台数目標は50万台超えだ。ちなみに23年度は35万9000台が目標で、2年間で15万台以上伸ばす必要がある。果たして今の調子で達成できるのだろうか。

 

ただ、グローバルの販売目標が110万台となっており、アウトランダーが好調な北米、軽自動車が好調な日本で、アセアンでの苦戦分をカバーしようという戦略を打ってくるかもしれない。

 

三菱自動車「エクスパンダー」

 

25年度の財務目標である営業利益2200億円、営業利益率7%については問題なくクリアできそうだ。なにしろ23年度の業績予想で、営業利益が前期比5.0%増の2000億円、営業利益率が7.0%となっているからだ。価格訴求から価値訴求への戦略が一応成功し、あとは目標台数をどのように達成するか注目される。

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坂上 賢治

NEXT MOBILITY&MOTOR CARS編集長。日刊自動車新聞を振り出しに自動車産業全域での取材活動を開始。同社の出版局へ移籍して以降は、コンシューマー向け媒体(発行45万部)を筆頭に、日本国内初の自動車環境ビジネス媒体・アフターマーケット事業の専門誌など多様な読者を対象とした創刊誌を手掛けた。独立後は、ビジネス戦略学やマーケティング分野で教鞭を執りつつ、自動車専門誌や一般誌の他、Web媒体などを介したジャーナリスト活動が30年半ば。2015年より自動車情報媒体のMOTOR CARS編集長、2017年より自動車ビジネス誌×WebメディアのNEXT MOBILITY 編集長。

松下次男

1975年日刊自動車新聞社入社。編集局記者として国会担当を皮切りに自動車販売・部品産業など幅広く取材。その後、長野支局長、編集局総合デスク、自動車ビジネス誌MOBI21編集長、出版局長を経て2010年論説委員。2011年から特別編集委員。自動車産業を取り巻く経済展望、環境政策、自動運転等の次世代自動車技術を取材。2016年独立し自動車産業政策を中心に取材・執筆活動中。

間宮 潔

1975年日刊自動車新聞社入社。部品産業をはじめ、自動車販売など幅広く取材。また自動車リサイクル法成立時の電炉業界から解体現場までをルポ。その後、同社の広告営業、新聞販売、印刷部門を担当、2006年に中部支社長、2009年執行役員編集局長に就き、2013年から特別編集委員として輸送分野を担当。2018年春から独立、NEXT MOBILITY誌の編集顧問。

片山 雅美

日刊自動車新聞社で取材活動のスタートを切る。同紙記者を皮切りに社長室支社統括部長を経て、全石連発行の機関紙ぜんせきの取材記者としても活躍。自動車流通から交通インフラ、エネルギー分野に至る幅広い領域で実績を残す。2017年以降は、佃モビリティ総研を拠点に蓄積した取材人脈を糧に執筆活動を展開中。

中島みなみ

(中島南事務所/東京都文京区)1963年・愛知県生まれ。新聞、週刊誌、総合月刊誌記者(月刊文藝春秋)を経て独立。規制改革や行政システムを視点とした社会問題を取材テーマとするジャーナリスト。

山田清志

経済誌「財界」で自動車、エネルギー、化学、紙パルプ産業の専任記者を皮切りに報道分野に進出。2000年からは産業界・官界・財界での豊富な人脈を基に経済ジャーナリストとして国内外の経済誌で執筆。近年はビジネス誌、オピニオン誌、経済団体誌、Web媒体等、多様な産業を股に掛けて活動中。

佃 義夫

1970年日刊自動車新聞社入社。編集局記者として自動車全分野を網羅して担当。2000年出版局長として「Mobi21」誌を創刊。取締役、常務、専務主筆・編集局長、代表取締役社長を歴任。2014年に独立し、佃モビリティ総研を開設。自動車関連著書に「トヨタの野望、日産の決断」(ダイヤモンド社)など。執筆活動に加え講演活動も。

熊澤啓三

株式会社アーサメジャープロ エグゼクティブコンサルタント。PR/危機管理コミュニケーションコンサルタント、メディアトレーナー。自動車業界他の大手企業をクライアントに持つ。日産自動車、グローバルPR会社のフライシュマン・ヒラード・ジャパン、エデルマン・ジャパンを経て、2010年にアーサメジャープロを創業。東京大学理学部卒。

福田 俊之

1952年東京生まれ。産業専門紙記者、経済誌編集長を経て、99年に独立。自動車業界を中心に取材、執筆活動中。著書に「最強トヨタの自己改革」(角川書店)、共著に「トヨタ式仕事の教科書」(プレジデント社)、「スズキパワー現場のものづくり」(講談社ピーシー)など。