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2023年7月31日【企業・経営】

パナソニックHD、IRA影響で第1四半期過去最高の純利益

山田清志

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パナソニックHDの梅田博和副社長

 

パナソニックホールディングス(HD)は7月31日、2023年度第1四半期決算(4~6月期)の連結決算を発表した。売上高が前年同期比2.8%増の2兆296億円、調整後営業利益が同41.2%増の928億円、営業利益が同41.9%増の903億円、純利益が同310.5%増の2009億円だった。純利益は第1四半期としては過去最高となった。この業績を踏まえ、通期の純利益を期初見通しの3500億円から4600億円に上方修正した。(経済ジャーナリスト・山田清志)

 

オートモーティブが大幅増収増益で黒字転換

 

「売上高はインダストリーが大きく減収となったが、オートモーティブ、コネクト、車載電池の販売増に加え、為替換算により増収。調整後営業利益は、インダストリーが減益となったが、くらし事業、オートモーティブ、コネクト、エナジーの増益により、全社では増益となった。純利益は、パナソニック液晶ディスプレイの解散・特別清算および債権放棄に伴う繰延税金資産等を1213億円計上したことなどにより大幅増益となった」

 

2023年度第1四半期連結業績

 

グループCFOの梅田博和副社長はこう第1四半期を振り返り、米国IRAとパナソニック液晶ディスプレイの影響を除くと、期初公表値の想定通りだったという。

 

IRA補助金の業績影響については、売上高で242億円をマイナス計上したが、調整後営業利益と純利益ではそれぞれ208億円、268億円のプラス計上を行った。

 

「2023年度において、当社は補助金の現金化手段のうち、政府からの直接給付を選択することにしている。また、IRAによって得られる補助金は、米国における車載電池事業への投資に活用するとともに、北米事業の強化拡大に向けて、顧客とも有効活用していくことを考えているので、補助金総額の半分を調整後営業利益に計上した」と梅田副社長は説明する。

 

セグメント別の業績は、くらし事業の売上高が前年同期並みの8387億円、調整後営業利益が32億円増の389億円、営業利益が8億円増の391億円だった。重点事業である空質空調設備や国内電材、北米ショーケースは増収となったが、一部の中国事業の非連結化影響により、全体では減収となった。しかし、合理化や価格施策などの取り組みによって、固定費増加をカバーして増益になった。

 

2023年度第1四半期セグメント別実績

 

オートモーティブは売上高が前年同期比27%増の3410億円、調整後営業利益が177億円増の56億円、営業利益が153億円増の57億円となって赤字から脱却した。「上海ロックダウン等の影響を受けた前年から自動車生産が回復して増収となり、増販益、部材高騰分の価格改定、コストダウンなどにより増益になった」(梅田副社長)そうだ。

 

コネクトは売上高が前年同期比8%増の2636億円、調整後営業利益が165億円増の72億円、営業利益が164億円増の69億円となり黒字転換を果たした。PCやスマートフォン分野での投資減速の影響を受けたプロセスオートメーションが販売減となったが、航空市場の回復で好調なアビオニクスに加え、堅牢モバイル端末とノートPCの増販やブルーヨンダーのSaaS販売伸長により増収増益だった。

 

インダストリーは売上高が前年同期比16%減の2490億円、調整後営業利益が210億円減の33億円、営業利益が230億円減の35億円となった。環境車向けコンデンサの増販はあったものの、ICT分野や中国FA市場における市況悪化の影響に加え、2020年度に実施した半導体事業の譲渡に伴う商流変更による減販などにより減収減益となった。

 

エナジーは売上高が5%増の2384億円、調整後営業利益が137億円増の302億円、営業利益が132億円増の295億円だった。「車載電池はEV需要の拡大継続や生産性の改善により、生産、販売が好調に推移して増収だったが、産業・民生向けは市況の低迷により減収となった。IRAの影響により増益となったが、その影響を除くと減益だった」と梅田副社長。

 

セグメント別の見通しを次回決算以降に変更

 

2023年度の通期業績見通しは、売上高が前期比1.4%増の8兆5000億円、調整後営業利益が同36.8%増の4300億円、営業利益が49.0%増の4300億円、当期純利益が73.3%増の4600億円を見込む。「今回、セグメント別の見通しは変更していないが、需要動向については、期初の想定から変化が生じている」と梅田副社長は話す。

 

例えば、コネクトでは、航空需要が想定以上に回復しているが、インダストリーでは、ICT端末の需要回復が遅れ、中国FA市場についても本格的な回復の兆しが見えない状況になっているそうだ。

 

2023年度通期業績見通し

 

くらし事業の通期見通しは、売上高が前期比3%増の3兆5800億円、調整後営業利益が376億円増の1600億円、営業利益が479億円増の1510億円。北米ショーケースは引き続き堅調に推移するが、世界的なインフレ影響により、家電事業は国内、海外ともに需要低迷が継続する見通しだ。

 

オートモーティブは売上高が前期比6%増の1兆3700億円、調整後営業利益が38億円増の180億円、営業利益が18億円増の180億円を見込む。顧客である自動車生産の回復を見込んでいるが、一部の半導体部材不足の継続による生産変動リスクや景気不透明感に伴う自動車への影響を注視していくという。

 

コネクトは売上高が前期比1%増の1兆1400億円、調整後営業利益が118億円増の400億円、営業利益が151億円増の360億円を見込む。航空需要は前述の通り想定以上の回復が継続すると見ているが、PC・スマホ需要減による生産設備の投資減速が継続すると見ている。

 

インダストリーは売上高が前期比5%減の1兆900億円、調整後営業利益が33億円減の600億円、営業利益が83億円減の585億円を見込む。サーバー・データセンターは投資抑制が続いて前年を下回るが、生成AIサーバーの需要拡大が見込まれる。車載は環境車が引き続き成長し、半導体逼迫解消時期は欧米顧客が23年半ば、日系顧客が24年初頭と予測する。

 

エネジーは売上高が前期比5%増の1兆300億円、調整後営業利益が954億円増の1350億円、営業利益が998億円増の1330億円を計画する。車載電池は注力の米国市場でEV購入者に対する税控除により、北米製電池セルの需要増を見込む。しかし、産業・民生向けは民生機器向けリチウムイオン電池を中心に回復期が下期にずれ込むと予測する。

 

「セグメント別の見通しについては、これらの動向をもう少し見極めたうえで、次回以降の決算で修正の要否を判断したいと考えている」と梅田副社長は説明し、「純利益は過去最高になる見通しだが、それはたまたまタイミングが重なるだけで、気持ち的にハイにはなっていない。収益性をどんどん向上させていきたい」と強調する。

 

パナソニックHDは2023年度から競争力強化に徹するステージから成長ステージへとギアを上げ、事業ポートフォリオの見直しや入れ替えも視野に入れた経営を進めていく方針だ。パナソニックの動向には目が離せなくなりそうだ。

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坂上 賢治

NEXT MOBILITY&MOTOR CARS編集長。日刊自動車新聞を振り出しに自動車産業全域での取材活動を開始。同社の出版局へ移籍して以降は、コンシューマー向け媒体(発行45万部)を筆頭に、日本国内初の自動車環境ビジネス媒体・アフターマーケット事業の専門誌など多様な読者を対象とした創刊誌を手掛けた。独立後は、ビジネス戦略学やマーケティング分野で教鞭を執りつつ、自動車専門誌や一般誌の他、Web媒体などを介したジャーナリスト活動が30年半ば。2015年より自動車情報媒体のMOTOR CARS編集長、2017年より自動車ビジネス誌×WebメディアのNEXT MOBILITY 編集長。

松下次男

1975年日刊自動車新聞社入社。編集局記者として国会担当を皮切りに自動車販売・部品産業など幅広く取材。その後、長野支局長、編集局総合デスク、自動車ビジネス誌MOBI21編集長、出版局長を経て2010年論説委員。2011年から特別編集委員。自動車産業を取り巻く経済展望、環境政策、自動運転等の次世代自動車技術を取材。2016年独立し自動車産業政策を中心に取材・執筆活動中。

間宮 潔

1975年日刊自動車新聞社入社。部品産業をはじめ、自動車販売など幅広く取材。また自動車リサイクル法成立時の電炉業界から解体現場までをルポ。その後、同社の広告営業、新聞販売、印刷部門を担当、2006年に中部支社長、2009年執行役員編集局長に就き、2013年から特別編集委員として輸送分野を担当。2018年春から独立、NEXT MOBILITY誌の編集顧問。

片山 雅美

日刊自動車新聞社で取材活動のスタートを切る。同紙記者を皮切りに社長室支社統括部長を経て、全石連発行の機関紙ぜんせきの取材記者としても活躍。自動車流通から交通インフラ、エネルギー分野に至る幅広い領域で実績を残す。2017年以降は、佃モビリティ総研を拠点に蓄積した取材人脈を糧に執筆活動を展開中。

中島みなみ

(中島南事務所/東京都文京区)1963年・愛知県生まれ。新聞、週刊誌、総合月刊誌記者(月刊文藝春秋)を経て独立。規制改革や行政システムを視点とした社会問題を取材テーマとするジャーナリスト。

山田清志

経済誌「財界」で自動車、エネルギー、化学、紙パルプ産業の専任記者を皮切りに報道分野に進出。2000年からは産業界・官界・財界での豊富な人脈を基に経済ジャーナリストとして国内外の経済誌で執筆。近年はビジネス誌、オピニオン誌、経済団体誌、Web媒体等、多様な産業を股に掛けて活動中。

佃 義夫

1970年日刊自動車新聞社入社。編集局記者として自動車全分野を網羅して担当。2000年出版局長として「Mobi21」誌を創刊。取締役、常務、専務主筆・編集局長、代表取締役社長を歴任。2014年に独立し、佃モビリティ総研を開設。自動車関連著書に「トヨタの野望、日産の決断」(ダイヤモンド社)など。執筆活動に加え講演活動も。

熊澤啓三

株式会社アーサメジャープロ エグゼクティブコンサルタント。PR/危機管理コミュニケーションコンサルタント、メディアトレーナー。自動車業界他の大手企業をクライアントに持つ。日産自動車、グローバルPR会社のフライシュマン・ヒラード・ジャパン、エデルマン・ジャパンを経て、2010年にアーサメジャープロを創業。東京大学理学部卒。

福田 俊之

1952年東京生まれ。産業専門紙記者、経済誌編集長を経て、99年に独立。自動車業界を中心に取材、執筆活動中。著書に「最強トヨタの自己改革」(角川書店)、共著に「トヨタ式仕事の教科書」(プレジデント社)、「スズキパワー現場のものづくり」(講談社ピーシー)など。