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2023年10月30日【企業・経営】

パナソニックHD、車載電池の米国IRA関連で過去最高益

山田清志

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梅田博和副社長

 

パナソニックホールディングス(HD)が10月30日に発表した2023年度上期(4~9月期)の連結決算は、売上高が前年同期比1.4%増の4兆1194億円、営業利益が同28.8%増の1928億円、純利益が168.7%増の2883億円と、純利益が過去最高を更新した。これは、米国内での電気自動車向け電池の生産などを優遇する米インフレ抑制法(IRA)による補助金の影響が大きかった。通期の業績見通しについては、純利益が過去最高の4600億円に据え置いたが、売上高と営業利益は下方修正した。(経済ジャーナリスト・山田清志)

 

セグメントごとに明暗が分かれた決算

 

「第2四半期(7~9月期)は、くらし事業、インダストリーが大きく減収となったが、オートモーティブ、コネクトの販売増に加え、為替換算により前年並みとなった。調整後営業利益はエナジーにおけるIRAの業績影響により増益となったが、IRAの影響を除くベースではわずかに減益だった」

 

グループCFOの梅田博和副社長は7~9月期をこう振り返り、「強い事業と苦戦した事業がはっきりと分かれた決算だった」と付け加えた。

 

2023年度上期連結業績

 

それではセグメント別の業績を見てみよう。くらし事業は4~9月期の売上高が前年同期比2%減の1兆6830億円、調整後営業利益が2億円増の685億円で、7~9月期がそれぞれ比4%減の8443億円、30億円減の296億円だった。

 

北米コールドチェーンと電材は7~9月期引き続き堅調に推移し、増収となったが、空質空調は欧州のエア・トゥ・ウォーター(A2W)が総需要の減少を受けて減収、家電もアジアや中国での実需が減少し、全体では減収ととなった。調整後営業利益についても、コールドチェーンと電材の増販益があったものの、家電では減販損、空質空調では欧州の先行投資費用もあり、全体では減益となった。

 

「家電は日本だけでなく、東南アジアや中国でも業界全体の実需が前年を下回っている。しかし、美容家電は堅調だった。洗濯機については新製品に切り替わる端境期だったので、10月以降には巻き返しができると考えている。また、指定価格制度については、試行錯誤しながらやっていて、大物家電の中でも商品力の点でフィットしていないものがあったのは事実だが、下期にはしっかりと立て直していきたい」と梅田副社長は話す。

 

また、欧州のA2Wについては、2023年度に入ってから需要の拡大ペースが鈍化しているという。22年度まではガス価格の高騰や各国での潤沢な補助金により大きく成長したが、欧州の景気悪化に加えて、ガス価格の下落などで23年度上期は総需要が前年割れとなり、パナソニックもその影響を受けて減収となった。しかし、中長期的には、欧州の水循環型空調に重点投資を行い、業界トップレベルのポジションの確立に向けて、基盤強化や体制整備を加速していく方針だ。

 

オートモーティブは赤字から脱却

 

オートモーティブは4~9月期の売上高が前年同期比20%増の7082億円、調整後営業利益が263億円増の143億円と赤字から脱却。7~9月期の売上高は14%増の3672億円、調整後営業利益が86億円増の87億円だった。自動車生産の回復がプラスに働いたほか、部材高騰分の価格改定やコストダウンなどにより固定費の増加分を吸収し、増収増益を果たした。

 

2023年度7-9月期セグメント別業績

 

コネクトは4~9月期の売上高が前年同期比7%増の5521億円、調整後営業利益が260億円増の164億円と黒字転換。7~9月期の売上高は6%増の2885億円、調整後営業利益が95億円増の92億円だった。プロセスオートメーションが販売減となったが、アビオニクスや堅牢モバイル端末、ノートPC、ブルーヨンダーの増販により増収増益だった。

 

インダストリーは4~9月期の売上高が前年同期比14%減の5104億円、調整後営業利益が312億円減の125億円だった。7~9月期についても、売上高が13%減、調整後営業利益が102億円減の92億円と減収減益となった。環境車向けやAIサーバー向け製品の需要拡大による販売増があったものの、中国ファクトリーオートメーションや情報通信インフラ市場の低迷により、減収減益になった。

 

「工場省人化の領域で、販売構成の約4割を占める中国において、市況の悪化と競合との競争激化の影響で前年実績を大きく下回ることになった」と梅田副社長は話す。

 

車載電池事業は実質赤字に

 

エナジーは4~9月期の売上高が前年同期比1%増の4768億円、調整後営業利益が233億円増の537億円だが、IRAの影響を除くと、売上高が12%増の5261億円、調整後営業利益が189億円減の115億円だった。7~9月期については、売上高が1%減の2384億円、調整後営業利益が96億円増の235億円、IRAの影響を除くと、売上高が9%増の2635億円、調整後営業利益が118億円減の21億円となっている。

 

2023年連結業績見通し

 

梅田副社長によると、車載電池事業は、IRAの影響を除くと赤字に陥っているそうだ。その理由について、2つあるという。「まず国内の1865電池をテスラ向けの高級車に供給していたが、IRAが8万ドルまでの価格が対象ということで、それを超える高級車の需要が落ち込んでしまった。それによって、第1四半期まで強いデマンドがあったが、第2四半期には1865電池の生産を一気に6割減産して在庫の適正化を図った。それと同時に、和歌山工場で今、2170の新しい電池と4680電池の量産に向けて開発を加速している。その投資がかさんでいる」とのことだ。

 

今後はテスラ一辺倒ではなく、顧客の裾野を広げ、1865電池にこだわらず、国内工場でも拡張していく計画だ。マツダやスバル以外にも、さまざまなお客から電池についての話が来ているそうだ。

 

ちなみにIRA補助金の業績影響は、第2四半期が売上高で251億円をマイナス計上し、調整後営業利益で補助金見合い465億円から顧客との有効活用分をマイナスし214億円、当期純利益では、これに繰延税金資産計上により影響62億円を合計した276億円を計上した。年間見通しでは、売上高で990億円をマイナス計上し、調整後営業利益で期初想定から50億円増額の850億円、当期純利益で100億円増額の1100億円としている。

 

通期の売上高、営業利益を下方修正

 

2023年度の通期の業績見通しは、売上高が7月の公表値から1000億円減少の8兆4000億円(前期比0.3%減)、調整後営業利益が300億円減少の4000億円(同27.3%増)、営業利益が300億円減少の4000億円(同38.6%増)、当期純利益が据え置きの4600億円(同73.3%増)とした。

 

2023年度セグメント別業績見通し

 

セグメント別の業績見通しは、くらし事業の売上高が前期比並みの3兆5000億円、調整後営業利益が176億円増の1400億円と7月の公表値から下方修正。オートモーティブは売上高が13%増の1兆4600億円、調整後営業利益が188億円増の330億円と売上高、利益とも上方修正。コネクトは売上高が4%増の1兆1700億円、調整後営業利益が268億円増の550億円と売上高、利益とも上方修正。インダストリーは売上高が10%減の1兆400億円、調整後営業利益が333億円減の300億円と売上高、利益とも下方修正。そして、エナジーは売上高が9%減の8800億円、調整後営業利益が754億円増の1150億円と売上高、利益とも下方修正した。

 

「下方修正したことは申し訳ない。それぞれの事業において、メリハリをつけて体質強化を図っていく」と梅田副社長は強調する。パナソニックHDでは現在、競争力を高めるために事業再編を視野に入れて検討を進めて最中で、毎月1回、楠見雄規社長兼CEOや梅田副社長、そして各事業会社のトップと協議を重ねている。「ポートフォリオマネジメントをしっかりやっていくということは総意で、しかるべきタイミングが来たら発信していきたい」とのことだ。

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坂上 賢治

NEXT MOBILITY&MOTOR CARS編集長。日刊自動車新聞を振り出しに自動車産業全域での取材活動を開始。同社の出版局へ移籍して以降は、コンシューマー向け媒体(発行45万部)を筆頭に、日本国内初の自動車環境ビジネス媒体・アフターマーケット事業の専門誌など多様な読者を対象とした創刊誌を手掛けた。独立後は、ビジネス戦略学やマーケティング分野で教鞭を執りつつ、自動車専門誌や一般誌の他、Web媒体などを介したジャーナリスト活動が30年半ば。2015年より自動車情報媒体のMOTOR CARS編集長、2017年より自動車ビジネス誌×WebメディアのNEXT MOBILITY 編集長。

松下次男

1975年日刊自動車新聞社入社。編集局記者として国会担当を皮切りに自動車販売・部品産業など幅広く取材。その後、長野支局長、編集局総合デスク、自動車ビジネス誌MOBI21編集長、出版局長を経て2010年論説委員。2011年から特別編集委員。自動車産業を取り巻く経済展望、環境政策、自動運転等の次世代自動車技術を取材。2016年独立し自動車産業政策を中心に取材・執筆活動中。

間宮 潔

1975年日刊自動車新聞社入社。部品産業をはじめ、自動車販売など幅広く取材。また自動車リサイクル法成立時の電炉業界から解体現場までをルポ。その後、同社の広告営業、新聞販売、印刷部門を担当、2006年に中部支社長、2009年執行役員編集局長に就き、2013年から特別編集委員として輸送分野を担当。2018年春から独立、NEXT MOBILITY誌の編集顧問。

片山 雅美

日刊自動車新聞社で取材活動のスタートを切る。同紙記者を皮切りに社長室支社統括部長を経て、全石連発行の機関紙ぜんせきの取材記者としても活躍。自動車流通から交通インフラ、エネルギー分野に至る幅広い領域で実績を残す。2017年以降は、佃モビリティ総研を拠点に蓄積した取材人脈を糧に執筆活動を展開中。

中島みなみ

(中島南事務所/東京都文京区)1963年・愛知県生まれ。新聞、週刊誌、総合月刊誌記者(月刊文藝春秋)を経て独立。規制改革や行政システムを視点とした社会問題を取材テーマとするジャーナリスト。

山田清志

経済誌「財界」で自動車、エネルギー、化学、紙パルプ産業の専任記者を皮切りに報道分野に進出。2000年からは産業界・官界・財界での豊富な人脈を基に経済ジャーナリストとして国内外の経済誌で執筆。近年はビジネス誌、オピニオン誌、経済団体誌、Web媒体等、多様な産業を股に掛けて活動中。

佃 義夫

1970年日刊自動車新聞社入社。編集局記者として自動車全分野を網羅して担当。2000年出版局長として「Mobi21」誌を創刊。取締役、常務、専務主筆・編集局長、代表取締役社長を歴任。2014年に独立し、佃モビリティ総研を開設。自動車関連著書に「トヨタの野望、日産の決断」(ダイヤモンド社)など。執筆活動に加え講演活動も。

熊澤啓三

株式会社アーサメジャープロ エグゼクティブコンサルタント。PR/危機管理コミュニケーションコンサルタント、メディアトレーナー。自動車業界他の大手企業をクライアントに持つ。日産自動車、グローバルPR会社のフライシュマン・ヒラード・ジャパン、エデルマン・ジャパンを経て、2010年にアーサメジャープロを創業。東京大学理学部卒。

福田 俊之

1952年東京生まれ。産業専門紙記者、経済誌編集長を経て、99年に独立。自動車業界を中心に取材、執筆活動中。著書に「最強トヨタの自己改革」(角川書店)、共著に「トヨタ式仕事の教科書」(プレジデント社)、「スズキパワー現場のものづくり」(講談社ピーシー)など。