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2018年5月28日【環境/エネルギー】

産総研、低温・低圧でアンモニアを合成する省エネ触媒を開発

NEXT MOBILITY編集部

 

産業技術総合研究所(産総研)と再生可能エネルギー研究センターの水素キャリアチームは、再生可能エネルギー(※1)の特徴に対応した新規アンモニア合成触媒を開発した。

 

また、日揮と共同で、同触媒を用いた実証試験装置によるアンモニア製造実証試験を本格的に開始した。

産総研・ロゴ

産総研は、再生可能エネルギーを利用して製造した水素(再エネ水素)からのアンモニア(再エネアンモニア)の合成を実現するために、圧力を上げると性能が低下するルテニウム触媒(※2)特有の問題を克服。10 MPa(約100気圧)以下の圧力範囲で、高い活性を維持できる新規触媒を作製した。

 

また、日揮が同触媒を用いて開発したプロセスで、供給量が変動する再エネ水素からのアンモニア製造が可能となったため、同触媒を搭載した実証試験装置を福島再生可能エネルギー研究所に建設、本格的に実証試験を開始した。

 

アンモニアは、水素貯蔵物質として有用で大量に輸送でき、さらに、アンモニア自身が燃焼時に二酸化炭素(CO2)を排出しない燃料としても用いられることから、エネルギーキャリア(※3)として期待されている。

 

今後、再エネ水素から再エネアンモニアを製造することで、我が国の低炭素の水素エネルギー社会(※4)の実現に貢献するとしている。

 

※1:再生可能エネルギー

太陽光や風力などの自然環境に存在する枯渇しないエネルギー。これらエネルギーは発電に利用されるが、太陽光が夜発電できないように、時間によって発電量が変動する。

※2:ルテニウム触媒

触媒は、反応する場に置くことによって、反応速度を増加させ目的物質の生成を促進する物質。貴金属の1つであるルテニウムは、アンモニア合成反応に活性を示す金属の1つとして知られている元素。

※3:エネルギーキャリア

気体のままでは貯蔵や長距離の輸送の効率が低い水素を、効率的に貯蔵・運搬するために、液体化したり水素化合物にしたもののこと。

※4:水素エネルギー社会

水素は使っても二酸化炭素を排出しないエネルギー源であり、このクリーンなエネルギーを利用する社会のことを指す。

 

[開発の社会的背景]

 

地球環境の保全と持続可能な社会の構築を目指し、エネルギーの多様化と低炭素社会の実現が世界的な課題となっており、燃焼時に二酸化炭素(CO2)を排出しない水素エネルギーに対する期待が高まっている。

 

水素エネルギーを本格的に活用していくためには、安全性やコストをはじめ、輸送・貯蔵の効率性などが課題であり、現在では、水素をアンモニアや液化水素、有機ハイドライド(※5)などの水素キャリアに転換する技術開発が検討されているとのこと。

 

この中でも、アンモニアは他の水素キャリアと比べても水素を多く含み、液化が容易で、またアンモニアのまま直接燃焼させることも可能。燃焼時にCO2を排出しないという特徴を持つだけでなく、すでに肥料原料などとしての流通経路が確立されているため、実用に近い水素キャリアとして注目を集めていると云う。

 

※5:有機ハイドライド

水素を分子内に貯蔵して高密度で水素を運ぶための有機化合物で、代表的なものとしてメチルシクロヘキサンなどがある。

 

[研究の経緯]

 

現在、アンモニアの合成は、天然ガス、水蒸気と空気の反応から得られる水素と窒素を高温・高圧の触媒反応でアンモニアに転換する「ハーバー・ボッシュ法」によって行われるが、この方法では、天然ガスを用いて水素を製造するため、大量のCO2を排出する。

 

そこで、水素の製造過程におけるCO2排出量の削減方法として、太陽光や風力などの再生可能エネルギーで水を電気分解して水素を製造する方法の開発が期待されている。

 

しかし、この方法で製造された水素は低温・低圧であるとともに、一般の化学プロセスでは例がない水素供給量が時間によって変動するという問題を抱えていると云う。

 

また、「ハーバー・ボッシュ法」は、高温・高圧・水素供給量一定で運転されるため、再エネ水素を使う場合とは運転条件が大幅に異なるため、低温・低圧かつ供給量が変動する再エネ水素を利用できるアンモニア合成プロセスの開発が必要とされてきた。

 

以上のようなことから、産総研は、再エネ水素からのアンモニア合成を目指し、低温・低圧でのアンモニア合成に適した触媒開発に、また、日揮との共同研究で、再エネ水素の特徴である製造量が時間変動することに対応できる新たなプロセス開発を行うとともに、実証試験装置の設計・建設・運転に共同で取り組んできた。

 

なお、この研究開発は、内閣府「戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)」における「エネルギーキャリア(平成26~30年度)」事業において、科学技術振興機構の支援を受けて行われた。

 

[研究の内容]

 

産総研が開発した新規触媒は、触媒成分であるルテニウムをナノ粒子として担体に分散させたもので、一般的に知られているルテニウム触媒の性質である水素被毒(※6)によって高圧では性能が低下してしまう問題を克服。従来のアンモニア合成の圧力である20-30 MPaよりも低い圧力(10 MPa以下)の範囲で、高い活性を維持できることを見出した。

 

また、変動する再エネ水素供給に対応するためには、原料の濃度や流速が変化することに応じて運転を制御する必要があるため、同プロセスの触媒は、最適運転条件のみならず、そこから運転条件が変化した場合にも、安定してアンモニアが製造できると云う。

 

産総研は、これまでよりも低い圧力、温度において実証スケールでの液体アンモニア合成が可能であることを検証した。

 

※6:水素被毒

ルテニウムは、水素と強く引かれ合う性質を持っている。水素はアンモニアを作る原料であるが、原料中の水素の量が多いと(濃度高、圧力高)、水素がルテニウム表面を覆って反応が進みにくくなる。この現象を水素被毒という。

 

[今後の予定]

 

今後は、再エネ水素供給量の変動を想定した条件での実証試験装置運転で、アンモニアの生産能力日量20kgが達成できることを確認するとともに、再生可能エネルギーによる水の電気分解で製造した水素を原料とするアンモニアの合成試験を実施。

 

SIP事業の目指す2030年までに、日本が低炭素な水素エネルギー社会を実現することに貢献するとしている。

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松下次男

1975年日刊自動車新聞社入社。編集局記者として国会担当を皮切りに自動車販売・部品産業など幅広く取材。その後、長野支局長、編集局総合デスク、自動車ビジネス誌MOBI21編集長、出版局長を経て2010年論説委員。2011年から特別編集委員。自動車産業を取り巻く経済展望、環境政策、自動運転等の次世代自動車技術を取材。2016年独立し自動車産業政策を中心に取材・執筆活動中。

間宮 潔

1975年日刊自動車新聞社入社。部品産業をはじめ、自動車販売など幅広く取材。また自動車リサイクル法成立時の電炉業界から解体現場までをルポ。その後、同社の広告営業、新聞販売、印刷部門を担当、2006年に中部支社長、2009年執行役員編集局長に就き、2013年から特別編集委員として輸送分野を担当。2018年春から独立、NEXT MOBILITY誌の編集顧問。

片山 雅美

日刊自動車新聞社で取材活動のスタートを切る。同紙記者を皮切りに社長室支社統括部長を経て、全石連発行の機関紙ぜんせきの取材記者としても活躍。自動車流通から交通インフラ、エネルギー分野に至る幅広い領域で実績を残す。2017年以降は、佃モビリティ総研を拠点に蓄積した取材人脈を糧に執筆活動を展開中。

中島みなみ

(中島南事務所/東京都文京区)1963年・愛知県生まれ。新聞、週刊誌、総合月刊誌記者(月刊文藝春秋)を経て独立。規制改革や行政システムを視点とした社会問題を取材テーマとするジャーナリスト。

山田清志

経済誌「財界」で自動車、エネルギー、化学、紙パルプ産業の専任記者を皮切りに報道分野に進出。2000年からは産業界・官界・財界での豊富な人脈を基に経済ジャーナリストとして国内外の経済誌で執筆。近年はビジネス誌、オピニオン誌、経済団体誌、Web媒体等、多様な産業を股に掛けて活動中。