リチウムイオン電池用超イオン伝導性電解液のPoCに成功、実用化で前進

旭化成は6月7日、超イオン伝導性電解液を使用したリチウムイオン電池（LIB）のコンセプト実証（PoC／概念実証：新技術が実現可能か、どんな効果が見込めるかを検証すること）に成功した。

当該電解液は、溶媒にアセトニトリルを含むため、既存の電解液では実現困難な高いイオン伝導性を持つ。そこで独自の電解液組成調合技術（ 複合機能を有する電解液成分を調合し、想定機能を引き出す技術 ）と、電極／電解液の界面制御技術（ 電子絶縁性と伝導性の不働態被膜を均一化する技術 ）を組み合わせることで、現行LIBで課題だった「低温下での出力向上」と「高温下での耐久性向上」を両立させた。

結果、出力向上と急速充電性能を両立。BEVの電池体積の削減や電極の厚膜化による電池の容量アップ・低コスト化に貢献する。

電解液の特長と顧客提供価値

そもそもLIBは、一般的に10～45℃程度の温度範囲内での使用が推奨されているが、実際には電動モビリティや電力貯蔵システムの多様化、また世界各国に於けるLIBの需要拡大に伴い、低温下や高温下で使用するニーズが高まっている。

しかし低温下では、電池容量及び出力の低下、長い充電時間が問題であり、高温下では、電池の劣化が加速され、寿命が短くなる問題がある。

そうしたなか旭化成は、アセトニトリルの高い誘電率と安定性に着目。自社名誉フェローの吉野彰氏が率いる吉野研究室で、2010年より電解液の研究開発を着手した。その結果、独自の電解液組成調合技術と電極／電解液の界面制御技術を介して、低温下で高い電池性能を維持すると共に、高温下でも高い耐久性を有する電解液を実現した（ 参考論文：Moderately Concentrated Acetonitrile-containing Electrolytes with High Ionic Conductivity for Durability-oriented Lithium-Ion Batteries ）。

リン酸鉄（LFP）系円筒電池で実施した低温作動性と高温耐久性の評価結果

実用化に向けたPoCは、リン酸鉄（LFP）系円筒電池にて実施され、マイナス40℃の極低温でも高い出力で動作し、かつ60℃の高温でも高い充放電サイクル耐久性を有することが実証された。今後は自動車メーカーやLIBメーカーとの連携を強化し、2025年の実用化を目指す。

同社では、「顧客との共創において研究開発の段階から技術供与やコンサルティングを通じて収益化を目指していくような新たな取り組み『テクノロジーバリュー事業開発』を進めています。

当社は、今回のPoC成功を契機に、本電解液の技術をLIBメーカーに広くライセンスすることにより、LIBの高性能化とコストダウンおよび低炭素社会に貢献してまいります」と話している。

参考／モビリティ関連情報サイト：https://asahi-kasei-mobility.com/products/acn_electrolyte/