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2017年11月27日【エネルギー】

従来の2~6倍、青色LED材料で熱を電気に変換。産総研が研究成果を公表

NEXT MOBILITY編集部

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北海道大学、韓国・成均館大学校、産業技術総合研究所は、青色発光ダイオード(※1)の材料である窒化ガリウム(GaN)からなる半導体の電子の動き易さを活かした半導体二次元電子ガス(※2)が、既に実用化されている熱電変換材料に比べ2~6倍も大きな熱電変換出力因子を示すことを発見した。

 

二次元電子ガスは、電子が溜まったナノメートル(nm)オーダーの極めて薄い層。ここ数年、米国や中国で性能の高い熱電変換材料が報告されているが、性能が再現できないなど、実用化にはまだ多くの課題がある。

 

今回の発見は、温度差を電気に直接変換する熱電材料を高性能化するために、有力な材料設計指針となると期待され、将来、工場や火力発電所、自動車からの廃熱を電気に変えて有効利用する技術に繋がると云う。

 

研究で作製された半導体二次元電子ガスの模式図と計測の様子

 

 

[研究成果のポイント]

 

・既存の実用熱電材料の2~6倍に相当する、効率的な熱電変換出力因子を達成。

 

・青色発光ダイオード材料(窒化ガリウム)の高い電子移動度を活かした半導体二次元電子ガスを利用。

 

・熱電材料を高性能化するための新しい材料設計指針を与えることが期待される。

 

※1)青色発光ダイオード(青色LED)
名古屋大学の赤﨑 勇特別教授・名誉教授、天野 浩教授らによって開発された、窒化ガリウム(GaN)半導体からなる発光ダイオード。赤﨑教授、天野教授は、青色発光ダイオードの開発で、2014年、米・カリフォルニア大学サンタバーバラ校の中村修二教授とともにノーベル物理学賞を受賞。

 

※2)半導体二次元電子ガス
マイナスに帯電している電子を、プラスに帯電した静電気によって半導体表面(界面)に寄せ集めることでできる、厚さ数nmの電子が溜まった層。不純物を含まないため電子移動度が大きいのが特長。

 

熱電変換材料研究の現在

 

金属や半導体のゼーベック効果(※3)によって温度差を直接電気に変換できる熱電変換は、工場や火力発電所、自動車などの廃熱を直接電気エネルギーに変換するクリーンなエネルギー変換技術として注目されている。この熱電変換技術に利用できる半導体(=熱電変換材料)の「熱⇔電気変換性能」は、温度差1℃あたりに発生する電圧(熱電能(※4)、S)、内部抵抗の逆数(導電率、σ)、熱の伝わりやすさ(熱伝導率、κ)、平均温度Tを用いて、次の式で決定される。

 

    熱電変換性能指数ZT = S2×σ×T/κ

 

つまり、熱電変換材料として優れている材料は、「温度差をつけやすく」、「電圧が大きく」、「電気が流れやすい」物質であるということになる。

 

熱⇔電気変換効率は、この性能指数ZTと、熱電変換材料に与える温度差の大きさによって決まる。例えば、ZTが1の熱電変換材料に、700℃の温度差(自動車のエンジン付近の熱に相当)を与えた場合、熱⇔電気変換効率は約17%。

 

現在、性能指数ZTが1をわずかに超えるいくつかの熱電変換材料が実用化されているが、これらの材料は、資源が少ないことから高価で、化学的・熱的な安定性が低く、それに伴う毒性などの問題点があり、大規模な実用化への障害となっている。

 

特に、重金属元素の一つであるテルルを含むテルル化ビスマスは、室温付近の温度で大きなZT(>1)を示すが、テルルの希少性(プラチナよりも天然資源が乏しく高価)と毒性のため、こうした元素を使わない熱電変換材料の開発が世界中で活発に行われていると云う。

 

近年、米国や中国の研究者が相次いで性能の高い熱電変換材料(ZT > 2)を発表し、多くの熱電変換材料の研究者が注目しているが、性能の再現性の問題を含めて、実用化にはまだ多くの課題を抱えている。

 

その主な理由として、これらの材料に使われるセラミックや焼結体(粉体を焼き固めた試料)には多くの粒界(粒と粒の境界)が存在し、粒の大きさや向きが不揃いであり、試料ごとにZTが大きく異なることが挙げられる。

 

ZTがばらついている試料は、実用化に向かないのみならず、真に高性能な熱電材料を開発するための材料設計指針を立てることすら困難である。

 

※3)ゼーベック効果
1821年、エストニアの物理学者であるT. J. ゼーベックによって発見。異種金属の接合部を温めると電圧が発生する効果。熱電変換材料の他、熱電対(温度計)のセンサー部にはゼーベック効果が利用されている。

 

※4)熱電能半導体や金属の棒に温度差を与えた際に両端に生じる起電力の温度係数のこと。ゼーベック係数とも呼ばれる。熱電変換材料の電圧を決める重要な物性値である。

 

発表された研究成果に関する詳細

 

 

今回、北海道大学電子科学研究所の太田裕道教授、同大学量子集積エレクトロニクス研究センターの橋詰 保教授、韓国・成均館大学校の金 聖雄教授、産業技術総合研究所の山本 淳研究グループ長らの共同研究グループは、「どうすれば熱電材料を高性能化できるのか?」を簡単にモデル化し、将来の熱電変換材料の高性能化に繋がる材料設計指針を提案することを目的として、焼結体ではなく、粒界が存在しない「単結晶」を用いた研究を行った。

 

熱電材料を高性能化するためには、材料の電気的な性質である熱電変換出力因子(S2×σ)を増強する方法と、熱的な性質である熱伝導率κを低減する方法が考えられるが、今回の研究では、熱電変換出力因子を増強するための仮説を立て、実験によってこれを検証する方法を採用。

 

具体的には、先ず、青色発光ダイオードの材料として知られる窒化ガリウム(GaN)の高い電子移動度を活かした二次元電子ガスに着目(下図)した。

 

一般に、半導体窒化ガリウムに、導電率を高めるためケイ素などの不純物を混ぜ込むことで、ケイ素は窒化ガリウム結晶中でイオンになり電気伝導を担う電子が生じる。このような半導体窒化ガリウムに温度差を与えると、電圧(熱起電力)が発生し、電子は暖かいほうから冷たいほうに流れる。ところが、イオン化したケイ素が電子の流れを妨げるため、結果的にあまり導電率は高められない。

 

一方、今回の研究では、半導体二次元電子ガスに、不純物を混ぜ込むのではなく、静電気で窒化ガリウム結晶の中の電子を薄い領域に寄せ集めることで導電率を高める。不純物を一切含まないので、二次元電子ガスの電子は高速で動くことができ、大きな熱電出力を示すのではないかとの予測をした。

 

[研究成果]

 

半導体二次元電子ガスの電子濃度を、静電気力(ゲート電圧)を変化させることで制御し、その時の電子移動度を計測(図3a)すると、予想どおり、シート電子濃度(※5)を高めても半導体二次元電子ガスの電子移動度は減少せず、大きな電子移動度が維持されることが判明した。

 

一方、熱電能は一般的な半導体に見られる傾向と同様に、シート電子濃度の増加に伴いその絶対値が減少(図3b)。既に報告されている一般的な半導体窒化ガリウムの熱電能と電子濃度の関係から、二次元電子ガスの正味の電子濃度を求め、計測した移動度と掛け合わせて導電率σを算出した。

 

図3a、3b

図3a、3b

 

半導体二次元電子ガスの熱電変換出力因子の電子濃度依存性は、図4aに示す通りで、半導体二次元電子ガスの出力因子は最大で約9mW m-1 K-2と、極めて大きい。

 

これは、一般的な半導体窒化ガリウム(1 m-1 K-2以下)の10倍以上であり、既に実用化されている最先端の熱電変換材料(1.5~4 mW m-1 K-2)の2~6倍に相当する。このように大きな出力因子が得られたのは、一般的な半導体では不純物濃度の増加に伴って電子移動度が大きく減少するのに対し、半導体二次元電子ガスでは、大きな電子移動度の維持が可能であるからだと云う(図4b)。

図4a、4b

図4a、4b

 

[今後への期待]

 

今回の発見は、半導体二次元電子ガスのように高い電子移動度を維持しながら電子濃度を制御できる構造が、熱電材料の高性能化の鍵であることを明確に示唆している。

 

今回使用した窒化ガリウムの半導体二次元電子ガスは、非常に高価な単結晶基板の上にしか作製できないことに加え、熱伝導率が大きいことから、そのまま実用化に繋がるものではないが、今回提案する半導体二次元電子ガスの高い電子移動度を活かし、熱電変換出力を高めるモデルは、実用化を控えた熱電材料を高性能化するための材料設計指針を与えると期待されるとしている。

 

 

産総研・研究成果:

http://www.aist.go.jp/aist_j/press_release/pr2017/pr20171127/pr20171127.html

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坂上 賢治

NEXT MOBILITY&MOTOR CARS編集長。日刊自動車新聞を振り出しに自動車産業全域での取材活動を開始。同社の出版局へ移籍して以降は、コンシューマー向け媒体(発行45万部)を筆頭に、日本国内初の自動車環境ビジネス媒体・アフターマーケット事業の専門誌など多様な読者を対象とした創刊誌を手掛けた。独立後は、ビジネス戦略学やマーケティング分野で教鞭を執りつつ、自動車専門誌や一般誌の他、Web媒体などを介したジャーナリスト活動が30年半ば。2015年より自動車情報媒体のMOTOR CARS編集長、2017年より自動車ビジネス誌×WebメディアのNEXT MOBILITY 編集長。

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1975年日刊自動車新聞社入社。編集局記者として国会担当を皮切りに自動車販売・部品産業など幅広く取材。その後、長野支局長、編集局総合デスク、自動車ビジネス誌MOBI21編集長、出版局長を経て2010年論説委員。2011年から特別編集委員。自動車産業を取り巻く経済展望、環境政策、自動運転等の次世代自動車技術を取材。2016年独立し自動車産業政策を中心に取材・執筆活動中。

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1975年日刊自動車新聞社入社。部品産業をはじめ、自動車販売など幅広く取材。また自動車リサイクル法成立時の電炉業界から解体現場までをルポ。その後、同社の広告営業、新聞販売、印刷部門を担当、2006年に中部支社長、2009年執行役員編集局長に就き、2013年から特別編集委員として輸送分野を担当。2018年春から独立、NEXT MOBILITY誌の編集顧問。

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1970年日刊自動車新聞社入社。編集局記者として自動車全分野を網羅して担当。2000年出版局長として「Mobi21」誌を創刊。取締役、常務、専務主筆・編集局長、代表取締役社長を歴任。2014年に独立し、佃モビリティ総研を開設。自動車関連著書に「トヨタの野望、日産の決断」(ダイヤモンド社)など。執筆活動に加え講演活動も。

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株式会社アーサメジャープロ エグゼクティブコンサルタント。PR/危機管理コミュニケーションコンサルタント、メディアトレーナー。自動車業界他の大手企業をクライアントに持つ。日産自動車、グローバルPR会社のフライシュマン・ヒラード・ジャパン、エデルマン・ジャパンを経て、2010年にアーサメジャープロを創業。東京大学理学部卒。

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1952年東京生まれ。産業専門紙記者、経済誌編集長を経て、99年に独立。自動車業界を中心に取材、執筆活動中。著書に「最強トヨタの自己改革」(角川書店)、共著に「トヨタ式仕事の教科書」(プレジデント社)、「スズキパワー現場のものづくり」(講談社ピーシー)など。