NEXT MOBILITY

MENU

2019年6月16日【オピニオン】

G20エネ環境閣僚会合、EVの燃費基準値が世界的に変わるか

松下次男

 

日本がG20エネルギー・環境閣僚会合で「Well to Weel」の燃費基準を提案。実現すれば、自動車メーカーの電動化戦略に影響も

 

 

 長野県軽井沢町で6月15日から2日間の日程で開かれていたG20エネルギー・環境関係閣僚会合は2日目を迎えた16日、海洋プラスチックごみを減らす各国の自主的な取り組みを定期報告・共有するという国際的な枠組みの創設を採択して閉幕した。

 

また同共同声明に於いて予てより懸案となっていた気候変動問題で「パリ協定」を巡る国家・地域の対立構造が解けることはなかったものの、電気自動車(EV)の燃費基準値を、電力発電効率にさかのぼって評価する手法の検討を進めるという内容が盛り込まれた。

 

 自動車燃費を巡っては、2030年を目標にした厳しい基準値が日欧で提示されており、これらをクリアーするには車両ラインナップのEVシフトが不可欠と見られている。だが、EVをゼロエミッション車(ZEV)と見るか、「Well-to-Weel(ウェル・ツー・ホイール)」を基準値とするかにより自動車メーカーの車両電動化戦略をも左右する可能性があり、新たなEVの燃費算出手方式が世界基準として広がるか注目される。

 

 「油井から車輪まで」を意味するウェル・ツー・ホイールでEV燃費基準値を検討という内容は6月16日に閉幕した長野県軽井沢町でのG20エネルギー・環境閣僚会合の省エネルギー分野の項目として日本が提議した。地球温暖化を産業革命以前から2度未満の上昇に抑えるとしたパリ協定の目標達成に向け、自動車分野でもより厳しいCO2(二酸化炭素)削減策が求めらており、こうした課題に対する提案の一つといえるだろう。

 

 

 このような中、日本や欧州ではすでに厳しい次期の自動車燃費規制を示している。欧州連合(EU)の欧州委員会は昨年12月、2030年の乗用車1台当たりのCO2排出量を2021年目標の平均95グラム(1キロメートル走行)から37・5%削減すると発表。わが国も6月3日に、経産省と国交省の合同審議会から2030年度を目標年度とした新たな乗用車の燃費基準値が提示されたと発表。提示された燃費基準値は1リットル当たり25・4キロメートルで、2016年度実績比32・4%の改善となる。

 

 日本、EUとも2030年の燃費規制はCAFE(企業別平均燃費基準)をベースにしているが、EV、プラグインハイブリッド車(PHV)の扱いが大きく異なる。EUの規制では、EVや燃料電池車(FCV)などを「Tank to Wheel(タンク・ツー・ホイール)」で算出したゼロエミッション車とし、CO2排出量の低いPHVと合わせて一定比率販売した自動車メーカーは全体のCO2排出規制が軽減される。

 

 

 一方、わが国の2030年度燃費規制ではこれまで含まれていなかったEV、PHVを新たに対象に加え、ガソリン車などと比較できる燃費基準を目指している。そこで、EV、PHVの燃費基準をウェル・ツー・ホイールで評価し、エネルギー消費効率を算出する方法を採用する予定だ。

 

また、わが国は2030年の普及目標として次世代自動車比率を50~70%に高める見通しを示し、この対象車両としてEV、PHVにとどまらず、ハイブリッド車(HV)、クリーンディーゼル車、FCVを含めている。ただし、FCVは次期燃費目標の対象車両に含まれていない。

 

 自動車の燃費規制をめぐっては、日欧のほかにも中国や米国カリフォルニア州のNEV(新エネルギー車)政策、ZEV規制などがあり、CAFE規制に加え、EVなどの販売目標が設定されている。ただし、米国全体でみれば、トランプ政権が逆に自動車燃費規制緩和方向に動くなど、次期自動車燃費規制の行方は不透明だ。

 

 

 いずれにしろ、こうした主要先進国国・地域の厳しい環境規制をクリアーするためには、既存技術の延長では難しいとされ、世界の主要自動車メーカーのEVシフト化の動きが目立つ。その背景となっているのが、EVはゼロエミッション車としてカウントされることや優遇策が設けられているためだ。

 

 だが、EVの燃費をウェル・ツー・ホイール方式で算出するとなれば、交流電力消費率の悪いEVやエネルギーミックスによってはHVなどより悪くなるケースも考えられるだろう。どのようなパワートレイン方式がCO2削減に最適か改めて問われることになる。再生可能エネルギーとの組み合わせなど、国のエネルギー政策とも絡んでくる。

 

 EVの燃費基準をウェル・ツー・ホイールで評価する手法が国際標準となるかどうかは予断を許さないが、G20会合の共同声明に盛り込まれた重みはあるだろう。( 佃モビリティ総研・松下 次男 )

CLOSE

松下次男

1975年日刊自動車新聞社入社。編集局記者として国会担当を皮切りに自動車販売・部品産業など幅広く取材。その後、長野支局長、編集局総合デスク、自動車ビジネス誌MOBI21編集長、出版局長を経て2010年論説委員。2011年から特別編集委員。自動車産業を取り巻く経済展望、環境政策、自動運転等の次世代自動車技術を取材。2016年独立し自動車産業政策を中心に取材・執筆活動中。

間宮 潔

1975年日刊自動車新聞社入社。部品産業をはじめ、自動車販売など幅広く取材。また自動車リサイクル法成立時の電炉業界から解体現場までをルポ。その後、同社の広告営業、新聞販売、印刷部門を担当、2006年に中部支社長、2009年執行役員編集局長に就き、2013年から特別編集委員として輸送分野を担当。2018年春から独立、NEXT MOBILITY誌の編集顧問。

片山 雅美

日刊自動車新聞社で取材活動のスタートを切る。同紙記者を皮切りに社長室支社統括部長を経て、全石連発行の機関紙ぜんせきの取材記者としても活躍。自動車流通から交通インフラ、エネルギー分野に至る幅広い領域で実績を残す。2017年以降は、佃モビリティ総研を拠点に蓄積した取材人脈を糧に執筆活動を展開中。

中島みなみ

(中島南事務所/東京都文京区)1963年・愛知県生まれ。新聞、週刊誌、総合月刊誌記者(月刊文藝春秋)を経て独立。規制改革や行政システムを視点とした社会問題を取材テーマとするジャーナリスト。

山田清志

経済誌「財界」で自動車、エネルギー、化学、紙パルプ産業の専任記者を皮切りに報道分野に進出。2000年からは産業界・官界・財界での豊富な人脈を基に経済ジャーナリストとして国内外の経済誌で執筆。近年はビジネス誌、オピニオン誌、経済団体誌、Web媒体等、多様な産業を股に掛けて活動中。