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2019年4月29日【オピニオン】

独ボッシュ、燃料電池技術で北欧のパワーセル社と協業

NEXT MOBILITY編集部

 独・ボッシュことロバート・ボッシュGmbH(本社:シュトゥットガルト・ゲーリンゲン、代表取締役社長:フォルクマル・デナー<Dr.rer.nat.Volkmar Denner>)は欧州時間の4月29日、車載燃料電池マーケットへの本格参入を宣言した。(坂上 賢治)

 

 

 なお同発表は、先の4月17日(米国西部時間)、アリゾナ州スコッツデールで行われた「ニコラワールドイベント」で、ボッシュからの技術提供で実現に至ったニコラモーターカンパニー(Nikola Motor Company)の燃料電池セミトラック「ニコラツー」初公開のおよそ10日後に公表されている。

 

この米国に於ける車両発表では、米・独両拠点のエンジニアチームが車両開発で2年半、延べ22万時間以上の検証期間を費やした。今後は「Nikola One Sleeper Cab」や「Nikola Tre」、ヨーロッパ市場向けの水素電気トラックなど、ニコラ社のフルラインナップ中から、多彩な水素電気車両が提供されていくと結んでいた。

 

 

 一方、29日の発表でボッシュは、燃料電池技術の飛躍的な進化を目指すため、燃料電池スタックの開発で安定した実績を持つ北欧の『パワーセル・スウェーデン社(Powercell Sweden AB)』と協業したと自らのリリース上で書き出している。

 

 

それによると「燃料電池スタックは、同システムのコアになるものであり、水素を電気エネルギーに変換していくものです。そこで我々は、このスタック自体をさらに高性能かつ安価なものへと改善していくためにパワーセル・スウェーデン社と提携を結びました。

 

この提携を踏まえ私たち2社は、独自技術の固体高分子形燃料電池(Polymer-electrolyte membrane<PME> fuel cell)を共同で開発します」と綴っている。

 

今回の燃料電池スタックに係る協業が、ボッシュの事業ポートフォリオに加わることで、同社の燃料電池の製品ラインナップが一気に揃うことになる。このため具体的には遅くとも2022年頃を目途に燃料電池システムを広く自動車市場に向けて投入していく予定だとしている。

 

 

 この取り組みについてボッシュの取締役会メンバーで、モビリティ・ソリューション事業チェアマンのシュテファン・ハルトゥング氏は「当社は早くから燃料電池技術に取り組んできており、今回のパワーセル・スウェーデン社との提携により、持ち前の燃料電池製品のポートフォリオをより強化することが出来ます。

 

車載燃料電池事業は我々にとって、長期的に数十億ユーロ規模の売上をもたらす可能性があります。実際2030年には電気自動車のうち最大で20%が燃料電池車になると試算しています」と述べている。

 

 実際、欧州に於ける環境規制ではトラック車両に対して、来る2025年までに平均15%、2030年までに30%の排出二酸化炭素量削減を求めている。

 

こうした厳しい数値をクリアするためにはパワートレインの電動化が必須であり、なかでもあらかじめ定まった区間や、長距離輸送を担う輸送車両には燃料電池は最も適したパワーユニットのひとつだ。

 

 

 なお動力源としてのスタックは、2台以上を柔軟に組み合わせることで乗用車から大型トラックまで、あらゆる車両への搭載要件を満たすことができる。またそのひとつのスタックが発生する出力は最大125キロワットを有しているのだと云う。

 

またボッシュでは、燃料電池トラックが交通社会でひとまず商用化されることになれば、乗用車向けユニットの商用化も加速されると見ているようだ。但し初期導入期にあたっての課題も幾つかあり、その最たるものが車両搭載に掛かるコストである。

 

 特にシステム上最も高額なのがスタックで、同ユニットがシステム全体のコストのほぼ2/3を占める。そこで同社では広範なマーケティングを通じた規模の経済を利用しコスト削減を目指す。

 

さらにもうひとつの課題は、燃料となる水素自体のコストである。現在、水素は主に産業用途向けに製造されているため1キログラムあたりの価格は5ユーロを超える。

 

しかしこれも先の規模の経済を活かしてくことで価格は下がる。現在、1キログラムの水素は約3リットルのディーゼルと同程度のエネルギーを含むため、 燃料電池車を100キロメートルを走らせる場合、最新の40トントラックであれば7から8キログラムの水素を必要とする。

 

このようなコスト上の課題はあるものの、水素自体は、仮に気候に依存しないグリーン電力を使用することが出来るのであれば環境上の優位性が増す。

 

今日ドイツでも多くの企業が、グリーン電力利用を背景とした水素生産のプロセスに取り組んでいる。そもそもドイツの産業界には60を超える水素ステーションの小規模ネットワークがあり、この数はさらに増加傾向にある。

 

 一方、パワーセル・スウェーデン社CEOのパール・ヴァッセン氏(Per Wassén)は「当社はボッシュとの取り組みにより自動車市場での足がかりを掴むチャンスを獲得します。燃料電池技術の協業に於いて同社以上のパートナーはいないと考えています」とコメントした。

 

スウェーデンのイェーテボリに本社を置き、目下60人の従業員を擁するパワーセル・スウェーデン社は、2008年にボルボ・グループからスピンアウトして誕生。今は燃料電池スタックの手動生産を行っているが、今後、半自動生産の立ち上げに移行しつつある。

 

併せてボッシュは固体酸化物形燃料電池(SOFC)の開発にも積極的に取り組んでいる。このSOFCとは、固体電解質を用いた燃料電池を指す。

 

電極や電解質含め発電素子中に液体が存在せず、全て固体で構成される。 固体酸化物形燃料電池は粉体を結晶化するか、ジェル化させる等で電子の通り道を作ることで電力を取り出すことを目指したもの。

 

電極間のイオン伝導は水素イオンでなく酸化物イオンが一般的だ 。化学反応による伝導のため高価な触媒の利用を不要にすることも出来る。発電素子が稼働する以外に制約が少ないことが大きな利点となる。

 

 加えて昨年の半ばから、ボッシュはイギリスのセレス・パワー社(Ceres Power)と協力し、工場やコンピューティングセンターへの分散型電源としての供給するべくSOFC技術にも取り組んでいる。

 

ボッシュによると同技術の背後にある考え方は、都市全体、そして工業地域に小さな発電所を設置することにある。

 

両社の協業の目的は、ひとつのSOFCモジュールが10キロワットの電力を発生できるようにすることで、これにより多くの電力が必要な場合は、モジュールを相互に接続するパワーグリッド環境を成立させることにあるとしている。

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松下次男

1975年日刊自動車新聞社入社。編集局記者として国会担当を皮切りに自動車販売・部品産業など幅広く取材。その後、長野支局長、編集局総合デスク、自動車ビジネス誌MOBI21編集長、出版局長を経て2010年論説委員。2011年から特別編集委員。自動車産業を取り巻く経済展望、環境政策、自動運転等の次世代自動車技術を取材。2016年独立し自動車産業政策を中心に取材・執筆活動中。

間宮 潔

1975年日刊自動車新聞社入社。部品産業をはじめ、自動車販売など幅広く取材。また自動車リサイクル法成立時の電炉業界から解体現場までをルポ。その後、同社の広告営業、新聞販売、印刷部門を担当、2006年に中部支社長、2009年執行役員編集局長に就き、2013年から特別編集委員として輸送分野を担当。2018年春から独立、NEXT MOBILITY誌の編集顧問。

中島みなみ

(中島南事務所/東京都文京区)1963年・愛知県生まれ。新聞、週刊誌、総合月刊誌記者(月刊文藝春秋)を経て独立。規制改革や行政システムを視点とした社会問題を取材テーマとするジャーナリスト。