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2024年2月16日【MaaS】

パナソニックHD、屋外画像の悪天候除去AIを開発

坂上 賢治

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従来の1/3のパラメータ数で雨も霧もまとめてクリアに

 

パナソニック ホールディングス( パナソニックHD )は2月16日、カリフォルニア大学 バークレー校( UC Berkeley )、南京大学、北京大学の研究者らと画像認識精度を著しく低下させる雨や雪、霧などを画像から除去することで、画像認識精度を向上させる悪天候除去AIを共同開発した。

 

同技術は、多重悪天候画像に対する画像認識およびセグメンテーションタスクに於いて、パラメータを72%以上、推論時間を39%節約しながら、従来法より認識精度を上げられる画像復元性能を示した。

 

画像認識精度を向上させた悪天候除去AIの画像

 

モビリティやインフラ分野など、屋外で利用される画像認識AIの応用が進んでいる。一方、屋外で取得される画像は天候の影響を受けるため雨、雪、霧などの悪天候下では、物体の見えが大きく変化し、認識精度が著しく低下する。

 

そこで昨今、全天候で利用できる実用的なAIを実現するために雨、雪、霧などを画像から除去する〝悪天候除去( Weather Removal )〟と呼ばれるタスクが注目を集めている。

 

しかし、これまで天候の種類に応じて異なるモデルを準備したり、全天候で利用できるようモデルを統合する手法が提案されている一方で、計算量の多さがネックとなっていた。

 

そこで先の4者からなる研究チームで、異なる天候のパラメータを重みで表現することで、少ないパラメータ数で高精度に天候の影響を除去し、一つのモデルで、複数種類の天候とタスクに対応できる技術を開発した。

 

この技術は、車載センサに於ける危険検知やセキュリティカメラなど全天候で高精度な画像認識が必要とされる様々な場面での活用が期待できる。

 

なお同技術は先進性が国際的に認められ、AI・機械学習技術のトップカンファレンスであるThe 38th Annual AAAI Conference on Artificial Intelligence( AAAI 2024 )に採択され、2024年2月22日から2024年2月25日にカナダ・バンクーバーで開催される本会議で発表する。

 

技術の内容の概要は以下の通り

 

AI技術の進展に伴い、モビリティやインフラ分野など、屋外でもロバストな画像認識が求められる場面が増えている一方で、屋外では屋内と比べてコントロールできない要因が格段に増える。

 

特に、雨、雪、霧などの悪天候が画像中の物体の見えを大きく変化させ、認識精度を著しく下げることが産業応用上の課題とされ、雨粒の除去( Raindrop Removal )や、霧除去( Dehaze )など、悪天候除去( Weather Removal )タスクの研究開発が活発に進められている。

 

しかし現実世界には「複数の天候が混在する悪天候」が存在し、より信頼性の高い判断が求められるケースは多い。そうしたなか今回は、特定の天候やタスクに特化したAIモデル( エキスパートモデル )を構築したり、アンサンブルする取り組みではなく、MoFME(Mixture-of-Feature-Modulation-Experts)を共同開発した。これは画像認識精度を低下させる雨や雪、霧を1つのアンサンブルモデルで、かつ従来の1/3のパラメータ数で除去することが可能な悪天候除去AIとなる。

 

図1 開発した悪天候除去AIの概略図

 

それは、従来、天候やタスクに応じて複数のエキスパートモデルを用意する必要があった画像認識やセグメンテーションなどのタスクを、1つのアンサンブルモデルにより実用的な計算量で実現させるもの。

 

その1つ目は、複数のエキスパートモデルのパラメータを線形変換の重みで表現する「特徴変調エキスパート( Feature Modulated Expert )」という手法だ。

 

それは異なるエキスパートモデルのパラメータを個別に学習するのではなく、特定のエキスパートモデルの線形変調により表現することで、総パラメータ数と計算量を削減させたもの。

 

2つ目は、入力画像の特徴に応じて、各エキスパートモデルの寄与度を切り替える「不確実性を考慮したルーター( Uncertainty-aware Router )」という手法だ。

 

各エキスパートモデルは、それぞれ得意とする天候が異なる。そこで、あるエキスパートモデルが、天候除去結果に余り自信がない( 不確実性が高い )場合は、そのモデルの寄与度を下げ、逆の場合は寄与度を上げるよう最適化することで、アンサンブルモデルの信頼性を高め、画像認識性能を向上させた。

 

図2に、データセット〝RainCityscapes〟に対するMoFMEによる悪天候除去およびセグメンテーションの結果を示した。この技術は、雨と霧が混在するような複雑な画像に対しても、雨と霧の両方を除去し正解画像同等の結果を得た。

 

更に悪天候下ではセグメンテーションの精度が著しく低下するが、MoFMEにより事前に悪天候除去を行うことで、セグメンテーションの精度低下を抑制することができた。結果、同技術は多重悪天候画像に対する画像認識およびセグメンテーションタスクに於いて、パラメータを72%以上、推論時間を39%節約しながら、従来法より認識精度を上げられる画像復元性能を示すものとなった。

 

図2 雨と霧が混在した入力画像に対するMoFMEの悪天候除去結果とセグメンテーションタスクへの効果

 

なおこの共同開発したMoFMEは、画像認識精度を著しく低下させる雨や雪、霧などを画像から除去することで、それらが画像認識AIの性能に与える影響を低減させ、従来の1/3のパラメータ数で雨も霧もクリアに復元できることから、モビリティやインフラ分野など、屋外でもロバストな画像認識が求められる場面での活用が期待できる。

 

従って今後もパナソニックHDは、「AI技術の社会実装を加速し、お客様のくらしやしごとの現場へのお役立ちに貢献するAI技術の研究・開発を推進していきます」と述べている。

 

論文情報
Efficient Deweather Mixture-of-Experts with Uncertainty-aware Feature-wise Linear Modulation
https://arxiv.org/abs/2312.16610

 

同技術は、UC Berkeleyが主導する「BAIR オープンリサーチコモンズ(※)」の枠組みで開発したもので、Panasonic R&D Center AmericaのDenis GudovskiyとパナソニックHD テクノロジー本部の奥野 智行、中田 洋平が参画した研究成果となる。

 

※産業界、学術界の垣根を越えて世界トップレベルの研究者がオープンにコラボレーションする場として設立されたAI研究機関で、2024年2月時点ではパナソニックHDのほか、Google、Metaなど10社が参画している。

 

関連情報
– AAAI2024 公式サイト
  https://aaai.org/aaai-conference/
– Panasonic×AI WEBサイト
  https://tech-ai.panasonic.com/jp/
– Panasonic×AI X
  https://twitter.com/panasonic_ai

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坂上 賢治

NEXT MOBILITY&MOTOR CARS編集長。日刊自動車新聞を振り出しに自動車産業全域での取材活動を開始。同社の出版局へ移籍して以降は、コンシューマー向け媒体(発行45万部)を筆頭に、日本国内初の自動車環境ビジネス媒体・アフターマーケット事業の専門誌など多様な読者を対象とした創刊誌を手掛けた。独立後は、ビジネス戦略学やマーケティング分野で教鞭を執りつつ、自動車専門誌や一般誌の他、Web媒体などを介したジャーナリスト活動が30年半ば。2015年より自動車情報媒体のMOTOR CARS編集長、2017年より自動車ビジネス誌×WebメディアのNEXT MOBILITY 編集長。

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1975年日刊自動車新聞社入社。編集局記者として国会担当を皮切りに自動車販売・部品産業など幅広く取材。その後、長野支局長、編集局総合デスク、自動車ビジネス誌MOBI21編集長、出版局長を経て2010年論説委員。2011年から特別編集委員。自動車産業を取り巻く経済展望、環境政策、自動運転等の次世代自動車技術を取材。2016年独立し自動車産業政策を中心に取材・執筆活動中。

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1975年日刊自動車新聞社入社。部品産業をはじめ、自動車販売など幅広く取材。また自動車リサイクル法成立時の電炉業界から解体現場までをルポ。その後、同社の広告営業、新聞販売、印刷部門を担当、2006年に中部支社長、2009年執行役員編集局長に就き、2013年から特別編集委員として輸送分野を担当。2018年春から独立、NEXT MOBILITY誌の編集顧問。

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日刊自動車新聞社で取材活動のスタートを切る。同紙記者を皮切りに社長室支社統括部長を経て、全石連発行の機関紙ぜんせきの取材記者としても活躍。自動車流通から交通インフラ、エネルギー分野に至る幅広い領域で実績を残す。2017年以降は、佃モビリティ総研を拠点に蓄積した取材人脈を糧に執筆活動を展開中。

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(中島南事務所/東京都文京区)1963年・愛知県生まれ。新聞、週刊誌、総合月刊誌記者(月刊文藝春秋)を経て独立。規制改革や行政システムを視点とした社会問題を取材テーマとするジャーナリスト。

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1970年日刊自動車新聞社入社。編集局記者として自動車全分野を網羅して担当。2000年出版局長として「Mobi21」誌を創刊。取締役、常務、専務主筆・編集局長、代表取締役社長を歴任。2014年に独立し、佃モビリティ総研を開設。自動車関連著書に「トヨタの野望、日産の決断」(ダイヤモンド社)など。執筆活動に加え講演活動も。

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株式会社アーサメジャープロ エグゼクティブコンサルタント。PR/危機管理コミュニケーションコンサルタント、メディアトレーナー。自動車業界他の大手企業をクライアントに持つ。日産自動車、グローバルPR会社のフライシュマン・ヒラード・ジャパン、エデルマン・ジャパンを経て、2010年にアーサメジャープロを創業。東京大学理学部卒。

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1952年東京生まれ。産業専門紙記者、経済誌編集長を経て、99年に独立。自動車業界を中心に取材、執筆活動中。著書に「最強トヨタの自己改革」(角川書店)、共著に「トヨタ式仕事の教科書」(プレジデント社)、「スズキパワー現場のものづくり」(講談社ピーシー)など。