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2023年3月1日【オピニオン】

東京R&D、チューリングと自動運転EVで戦略的提携

坂上 賢治

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東京アールアンドデー( TOKYO R&D / 本社:東京都千代田区、代表取締役:岡村 了太 )は東京都港区で報道陣を募り記者会見を実施。完全自動運転車両の開発・販売に取り組むチューリング( TURING / 千葉県柏市、代表取締役:山本 一成 )と自動運転EVの開発・生産に係る戦略的パートナーシップの締結を発表した。( 坂上 賢治 )

 

同戦略提携により、東京R&Dが持つ車両開発に関する豊富な経験と、チューリングが強みとするAI・ソフトウェア技術をかけ合わせて、2025年に製造・販売を予定している自動運転EVを共同で開発する。

 

上記の戦略提携を宣言したチューリングは、2025年に自社オリジナルの自動運転EVを100台、2030年に「完全自動運転」を実現した上でステアリングを持たない10,000台の製造・販売を目指している。

 

より具体的には「We Overtake Tesla」をミッションに掲げ、完全⾃動運転EVの量産を⽬指す。

 

その源流は、世界で初めて名人を倒した将棋AI「Ponanza」の開発者である⼭本⼀成氏と、カーネギーメロン⼤学で自動運転を研究し、Ph.D.( 博士号 / Doctor of Philosophy )を取得した⻘⽊俊介氏によって2021年に共同創業した。

 

目下、千葉県柏市に本拠を据え、AI深層学習技術を⽤いた限定領域に留まらない「完全自動運転」の実現を目指している。そのコンセプトは、高性能なマルチセンシングシステムの充実を図るよりも前に、自動運転を司る高性能な頭脳(AI)に鍵があるとしている。

 

つまり車体各部に張り巡らせたセンサーによる情報収集よりも、そもそもの人間の脳と同じく、AIによる状況認知や判断が正確かつ優秀であるなら、自動運転は大きく進化するという考え方であるようだ。

 

対する東京アールアンドデーは、研究車両・試作車両などの受託開発を行う会社として1081年に発足。以来、量産試作車・競技用車両・関連部品などの研究開発、スポーツ用品の開発など幅広く活動している。

 

その一例では、スポーツカーVEMACの輸入・販売。慶応大学によるインホイール8輪EV「エリーカ( Eliica )」の開発。EV車両の開発。新潟県事業委託による小型燃料電池バス開発。環境省委託業務による燃料電池小型トラック開発。東日本旅客鉄道の気仙沼線BRT用電気バス( e-BRT )の開発などの数多くの実績を有する。

 

この両社はまず、2023年の取り組み( 今秋開催のJAPAN MOBILITY SHOR 2023出展を照準に据えている )として両社でオリジナルのシャシを設計・開発した上で機能を絞った「試作車」の製造を視野に据えた。

 

これらの取り組みについて東京アールアンドデー 代表取締役 岡村 了太氏は、「チューリングが目指す〝完全自動運転EVの量産メーカー〟と、東京アールアンドデーが目指す〝個性的でユニークなモビリティメーカー〟には、目指す方向性として共通するところが数多くあります。

 

そうした共通点を持つ両社は同じ目標に向かって突き進む同志です。この目標を達成するために、相互の得意とする能力を持ち寄り、一丸となって新時代のモビリティを創造して参ります」と述べた。

 

一方でチューリング 代表取締役 山本 一成氏は、「車両は非常に巨大かつ複雑なプロダクトであり、その製造には多くのノウハウや経験が必要です。

 

ゼロから完成車メーカーになることを目指しているチューリングにとって、東京R&Dが持つ長年の車両開発・製造経験はとても頼もしく、このような形でともに車両開発ができることを大変うれしく思っています」と話している。

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なお会見の実施に伴い、両社事業のロードマップとして概念的なロードマップを示していたが、現在のところ今回に限っては、具体的な内容を説明するには至らなかった。

 

ただ将来的に自動運転EVを目指すと言っても、筆者の限られた私見を踏まえても、日本国内に於ける政府の姿勢や、投資家のマインドを含めて我が国に於いては不確定要素が数多い。

 

仮に、2020年代・2023年代・・0240年代と個々の10年を区切っても個々の事業成長フェーズに適合する移動体事業の姿は、その様相を大きく変化させる可能性が高いと見ている。

 

実際、ここ数年を前提に据えても日本の移動体マーケットは国外とは大きく事情が異なる。近々の日本国内を限ると、国民全域に於いては高齢者が大きく増えていく状況にあり公共交通事業ベンチャーの、みちのりホールディングス・浅井康太ディレクターは「公共交通市場は2050年頃までに限ると成長産業だ」とする声もある。

 

視点を変えた国外でも、目下G7を筆頭とする先進諸国では乗用EV市場が伸びている一方で、それ以外の国際環境では、交通社会網の革新を喫緊の課題とする諸国は数多い。

 

例えばコロンビアでかつてボゴタ市長を務めたエンリケ・ペニャロサ氏( 1998年から2001年。更に2016年から1019年の任期で再選された )は「先進都市とは、貧しい人々が車を利用する都市ではなく、裕福な人々が公共交通機関を利用する都市です」と未来の交通社会が目指すべき社会像を語っている

 

従って乗用車市場に限らず、先の10年年単位の事業規模&期間によっては、公共交通に資する事業車両に注力する場面も有り得るかもしれない。

 

いずれにしても新たな移動体・移動市場を目指す中で、大きなマーケットを取る意欲に溢れるベンチャー企業の登場は、日本国内の未来を切り拓くための朗報と言えるだろう。

 

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坂上 賢治

NEXT MOBILITY&MOTOR CARS編集長。日刊自動車新聞を振り出しに自動車産業全域での取材活動を開始。同社の出版局へ移籍して以降は、コンシューマー向け媒体(発行45万部)を筆頭に、日本国内初の自動車環境ビジネス媒体・アフターマーケット事業の専門誌など多様な読者を対象とした創刊誌を手掛けた。独立後は、ビジネス戦略学やマーケティング分野で教鞭を執りつつ、自動車専門誌や一般誌の他、Web媒体などを介したジャーナリスト活動が30年半ば。2015年より自動車情報媒体のMOTOR CARS編集長、2017年より自動車ビジネス誌×WebメディアのNEXT MOBILITY 編集長。

松下次男

1975年日刊自動車新聞社入社。編集局記者として国会担当を皮切りに自動車販売・部品産業など幅広く取材。その後、長野支局長、編集局総合デスク、自動車ビジネス誌MOBI21編集長、出版局長を経て2010年論説委員。2011年から特別編集委員。自動車産業を取り巻く経済展望、環境政策、自動運転等の次世代自動車技術を取材。2016年独立し自動車産業政策を中心に取材・執筆活動中。

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1975年日刊自動車新聞社入社。部品産業をはじめ、自動車販売など幅広く取材。また自動車リサイクル法成立時の電炉業界から解体現場までをルポ。その後、同社の広告営業、新聞販売、印刷部門を担当、2006年に中部支社長、2009年執行役員編集局長に就き、2013年から特別編集委員として輸送分野を担当。2018年春から独立、NEXT MOBILITY誌の編集顧問。

片山 雅美

日刊自動車新聞社で取材活動のスタートを切る。同紙記者を皮切りに社長室支社統括部長を経て、全石連発行の機関紙ぜんせきの取材記者としても活躍。自動車流通から交通インフラ、エネルギー分野に至る幅広い領域で実績を残す。2017年以降は、佃モビリティ総研を拠点に蓄積した取材人脈を糧に執筆活動を展開中。

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(中島南事務所/東京都文京区)1963年・愛知県生まれ。新聞、週刊誌、総合月刊誌記者(月刊文藝春秋)を経て独立。規制改革や行政システムを視点とした社会問題を取材テーマとするジャーナリスト。

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経済誌「財界」で自動車、エネルギー、化学、紙パルプ産業の専任記者を皮切りに報道分野に進出。2000年からは産業界・官界・財界での豊富な人脈を基に経済ジャーナリストとして国内外の経済誌で執筆。近年はビジネス誌、オピニオン誌、経済団体誌、Web媒体等、多様な産業を股に掛けて活動中。

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1970年日刊自動車新聞社入社。編集局記者として自動車全分野を網羅して担当。2000年出版局長として「Mobi21」誌を創刊。取締役、常務、専務主筆・編集局長、代表取締役社長を歴任。2014年に独立し、佃モビリティ総研を開設。自動車関連著書に「トヨタの野望、日産の決断」(ダイヤモンド社)など。執筆活動に加え講演活動も。

熊澤啓三

株式会社アーサメジャープロ エグゼクティブコンサルタント。PR/危機管理コミュニケーションコンサルタント、メディアトレーナー。自動車業界他の大手企業をクライアントに持つ。日産自動車、グローバルPR会社のフライシュマン・ヒラード・ジャパン、エデルマン・ジャパンを経て、2010年にアーサメジャープロを創業。東京大学理学部卒。

福田 俊之

1952年東京生まれ。産業専門紙記者、経済誌編集長を経て、99年に独立。自動車業界を中心に取材、執筆活動中。著書に「最強トヨタの自己改革」(角川書店)、共著に「トヨタ式仕事の教科書」(プレジデント社)、「スズキパワー現場のものづくり」(講談社ピーシー)など。