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2018年3月9日【経済・社会】

トヨタ自動車ら4社、AIでタクシー需要を予測する配車支援システムを試験導入へ

坂上 賢治

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トヨタ自動車とJapanTaxi、KDDIとアクセンチュアの4社は、AI(人工知能)でタクシー需要を予測する配車支援システムを試験導入した。(坂上 賢治)

 

具体的にはタクシー運行実績に、スマートフォンの位置情報を基にしたビッグデータを利用し、生成される人口動態予測やイベントなどの情報を掛け合わせ、タクシー需要を予測。

これをもとにした「配車支援システム」を開発し、東京都内で本格的な試験導入として運用している。

 

このタクシー需要を予測していくシステム技術の中身は、人工知能を活用して東京都内500mメッシュ毎のタクシー乗車数を30分単位で予測するものがベースとなっている。

 

4社の試みでは、これにタクシー運行実績や人口動態予測だけでなく、タクシー需要への影響が大きい「気象」、「公共交通機関の運行状況」、「大規模施設でのイベント」などのデータを人工知能に取り込んでマッシュアップ。

こうした複数の学習モデルを運用しつつ実業務に適用していく構えだ。既に今回の本格的な実証実験を前に、同タクシー需要予測技術の精度を東京都内で検証しており、この段階の成果では正解率94.1%という高い精度を実現できたとしている。

 

そこでこうした感触を踏まえ、参画4社は2018年2月から本システムをタブレットに実装して、JapanTaxiの関係会社である日本交通株式会社のタクシー数台に導入。既に実環境での有効性の検証を繰り返している。

 

当のタクシー車両には、そうした人工知能からの情報を受け取るタブレット端末が搭載されており、これらの地図上には、予測されたタクシー乗車数だけでなく、周辺の直前の空車タクシー台数も同時に表示される。

ドライバーはこの状況を見ながら、需要と供給のバランスを把握しつつタクシーを運行できる。結果、需要が大きいものの空車タクシーが少ない場所に、タクシードライバー自らの判断を介して空車を重要地域に集めることができるようになると云う。

 

このような運用成果は、タクシーを利用したい顧客のタクシー待ち時間を物理的に減らせるというだけなく、車両の最適な配置によって、タクシー自体の乗車率を効率的に向上させることができるとする。

加えて、営業成績の良いドライバーの知見に基づいた「タクシー需要の高い走行ルート」を、他のドライバーも車載のタブレットを介して受け取ることができる。

 

今回の試験導入では、実際に該当のシステムを利用したドライバーの2月の売り上げが平均で前月よりも1日あたり20.4%増え、ドライバー全体でも同じく売上増加率が9.4%を上回る成果が出ている。そこで参画4社は、今後順次、試験導入するタクシーを数十台に増やして2018年度中の実用化を目指す。

 

併せて該当のシステムが、先の通りタクシー自体の利便性を高めるというだけでなく、新人タクシードライバーの研修ツールとしても活用できる。

これは個々のタクシードライバーの資質を背景とした言わば「暗黙知」であったものを「共有知」に変え、未来のタクシー業界を大きく変革にしていくことが可能であるとも述べている。

 

今後の技術革新では、タクシー車両向けに順次搭載を拡大していく通信型ドライブレコーダー「TransLog」を基に、同装置から収集される「走行画像」の解析結果と、タクシー需要の相関関係の研究も進めていく意向だ。

ちなみに4社は、「今後も、本システムの発展を通じて、快適なモビリティ社会の創造に貢献していきます」と結んでいる。

 

4社各々の役割は以下の通り

 

トヨタ
収集したビッグデータの加工・分析をモビリティサービス・プラットフォーム(MSPF)で行い、タクシー需要の予測情報をJapanTaxiに提供する。
取得情報は、気象、公共交通機関の運行状況、大規模施設でのイベント情報などタクシー需要に影響するデータであり、それらを確保して提供していく。

 

JapanTaxi
同社は今後もタクシードライバー向けタクシー需要予測情報の配信アプリの開発していく。
結果、タクシー会社を通じたタクシー運行実績、空車タクシーの位置情報、タクシー重要を持つ消費者層を見つけ易い走行ルートの収集および提供を行っていく。

 

KDDI
KDDIは、自社が保有する位置情報ビッグデータを活用した、人の移動や滞在などの動きを加味した人口動態予測技術の開発および予測情報を取得・成形して提供していく。

 

アクセンチュア
他3社と共同で要件を定義し、タクシー需要予測エンジンのAI分析アルゴリズムを開発する。
なお位置情報ビッグデータはauスマートフォンユーザーから位置情報取得する。もちろんこれらのデータは個別のユーザーからの同意を得て個人が特定できないように加工したものを利用していく。

 

JapanTaxi株式会社< https://japantaxi.co.jp/  >は、日本交通株式会社の代表取締役会長である川鍋一朗氏が率いるタクシー事業に関わるIT系ベンチャーのソフトウェア・ハードウェア開発企業。

「移動で人を幸せに」を社是に、日本最大のタクシーアプリ「全国タクシー」、タクシー車内サイネージ広告「TOKYO PRIME」、多言語対応・決済機付きタブレットなどの公共交通のインフラ創造を目指していると云う。

 

なお「全国タクシー」アプリは、この同社が独自開発したタクシー事業社向けの配車アプリ。現在、配車アプリに関しては複数のタクシー事業社や通信キャリア会社、システム開発会社の他、海外事業者のサービスなども参入。いずれも個々に開発競争へ参画しており、今の段階では複数のタクシー配車システムが林立している。

今後、配車アプリの普及に関しては、個々開発陣営間の競争が激化することで、結果的に統合に向かうのか、相互連携を行っていくのか、さらなる戦いが繰り広げられるのか、予断を許さない状況になりつつある。

 

前出の「全国タクシー」アプリは、シリーズ累計ダウンロード数400万超(2017年12月現在)、47都道府県・約60,000台(全国のタクシー台数の25%)のタクシーを呼べる日本最大のタクシー配車アプリであるとJapanTaxi株式会社では謳っている( MOTOR CARDSより転載 )。

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坂上 賢治

NEXT MOBILITY&MOTOR CARS編集長。日刊自動車新聞を振り出しに自動車産業全域での取材活動を開始。同社の出版局へ移籍して以降は、コンシューマー向け媒体(発行45万部)を筆頭に、日本国内初の自動車環境ビジネス媒体・アフターマーケット事業の専門誌など多様な読者を対象とした創刊誌を手掛けた。独立後は、ビジネス戦略学やマーケティング分野で教鞭を執りつつ、自動車専門誌や一般誌の他、Web媒体などを介したジャーナリスト活動が30年半ば。2015年より自動車情報媒体のMOTOR CARS編集長、2017年より自動車ビジネス誌×WebメディアのNEXT MOBILITY 編集長。

松下次男

1975年日刊自動車新聞社入社。編集局記者として国会担当を皮切りに自動車販売・部品産業など幅広く取材。その後、長野支局長、編集局総合デスク、自動車ビジネス誌MOBI21編集長、出版局長を経て2010年論説委員。2011年から特別編集委員。自動車産業を取り巻く経済展望、環境政策、自動運転等の次世代自動車技術を取材。2016年独立し自動車産業政策を中心に取材・執筆活動中。

間宮 潔

1975年日刊自動車新聞社入社。部品産業をはじめ、自動車販売など幅広く取材。また自動車リサイクル法成立時の電炉業界から解体現場までをルポ。その後、同社の広告営業、新聞販売、印刷部門を担当、2006年に中部支社長、2009年執行役員編集局長に就き、2013年から特別編集委員として輸送分野を担当。2018年春から独立、NEXT MOBILITY誌の編集顧問。

片山 雅美

日刊自動車新聞社で取材活動のスタートを切る。同紙記者を皮切りに社長室支社統括部長を経て、全石連発行の機関紙ぜんせきの取材記者としても活躍。自動車流通から交通インフラ、エネルギー分野に至る幅広い領域で実績を残す。2017年以降は、佃モビリティ総研を拠点に蓄積した取材人脈を糧に執筆活動を展開中。

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(中島南事務所/東京都文京区)1963年・愛知県生まれ。新聞、週刊誌、総合月刊誌記者(月刊文藝春秋)を経て独立。規制改革や行政システムを視点とした社会問題を取材テーマとするジャーナリスト。

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経済誌「財界」で自動車、エネルギー、化学、紙パルプ産業の専任記者を皮切りに報道分野に進出。2000年からは産業界・官界・財界での豊富な人脈を基に経済ジャーナリストとして国内外の経済誌で執筆。近年はビジネス誌、オピニオン誌、経済団体誌、Web媒体等、多様な産業を股に掛けて活動中。

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1970年日刊自動車新聞社入社。編集局記者として自動車全分野を網羅して担当。2000年出版局長として「Mobi21」誌を創刊。取締役、常務、専務主筆・編集局長、代表取締役社長を歴任。2014年に独立し、佃モビリティ総研を開設。自動車関連著書に「トヨタの野望、日産の決断」(ダイヤモンド社)など。執筆活動に加え講演活動も。

熊澤啓三

株式会社アーサメジャープロ エグゼクティブコンサルタント。PR/危機管理コミュニケーションコンサルタント、メディアトレーナー。自動車業界他の大手企業をクライアントに持つ。日産自動車、グローバルPR会社のフライシュマン・ヒラード・ジャパン、エデルマン・ジャパンを経て、2010年にアーサメジャープロを創業。東京大学理学部卒。

福田 俊之

1952年東京生まれ。産業専門紙記者、経済誌編集長を経て、99年に独立。自動車業界を中心に取材、執筆活動中。著書に「最強トヨタの自己改革」(角川書店)、共著に「トヨタ式仕事の教科書」(プレジデント社)、「スズキパワー現場のものづくり」(講談社ピーシー)など。