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2020年2月6日【トピックス】

トヨタの2020年3月期の連結業績予想

間宮 潔

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トヨタの2020年3月期の連結業績予想を上方修正、営業利益を1000億円上積む2兆5000億円に

 

トヨタ自動車は2月6日、東京・水道橋の東京本社で2020年3月期第3四半期(2019年4~12月)の連結決算説明会を開催、通期の業績予想を上方修正した。売上高の通期見通しは、29兆5000億円(前期実績比2.4%減)で前回発表のまま据え置いたが、営業利益は1000億円上積む2兆5000億円(同1.3%増)、当期純利益も2000億円上積む2兆3500億円(同24.8%増)にそれぞれ引き上げた。(執筆・撮影/佃モビリティ総研・間宮 潔)

 

トヨタ決算前景

 

想定した為替レートが円安に振れているほか、原価改善や販売奨励金の圧縮など営業面での努力を見込んだもの。ただ今回の予想には、中国を発生源とする新型コロナウイルスによる肺炎の影響を織り込んでいない。
トヨタは春節以降、長春、天津、広州、成都の4カ所にある中国生産拠点の稼働を停止させている。当初、10日稼働を目指していたが、メドが立たず、再開時期を17日以降に延期した(7日発表)。

 

白柳正義執行役(調達本部長)は、「現地で対応している皆さんの安心、安全を第一に考えている。中国政府の方針、省によっては他の省に出て戻ると14日間、自宅待機する指示が出ている。こうした点を加味し、部品調達状況や物流をみて稼働を判断していく。現在、精査中」とした。

 

2020年3月期の第3四半期業績(4~12月までの9カ月累計)は、売上高が22兆8301億円(前年同期比1.6%増)、営業利益が2兆587億円(同6.2%増)、当期純利益が2兆130億円(41.4%増)と“増収増益”とした。連結販売台数は前年同期比1.9%増の683万台とした。中国を含むアジア地域で123万5000台(同3.1%減)と減少させたが、北米市場で211万4000台(同1.1%増)、日本市場で165万6000台(同3.8%増)、欧州市場で77万台(同6.2%増)、その他地域で105万6000台(同4%増)とした。

 

所在地別営業利益(9カ月累計)をみると、日本では為替変動の影響を受けて前年同期比1%減の1兆2325億円になり、アジアでは台数減や為替の影響で同16.7%減の3291億円、その他地域で同13%減の733億円と縮小した。
これに対し、北米と欧州の増益によって補完した。特に北米は金融事業の増益やきめ細かいインセンティブ施策による収益改善により、前年同期の倍となる3285億円を計上した。欧州も営業努力によって同26.1%増の1097億円とした。

 

第3四半期の単独3カ月の業績は売上高で前年同期比3.3%減の7兆5445億円、営業利益で同3.2%減の6544億円を計上、「減収減益」とし、通期予想では第4四半期での収益改善に拍車をかけることになる。

 

決算説明会に出席したディディエ・ルロア副社長(事業・販売担当)は記者の質問、今後の業績変動に答えて、「世界レベルで市場が毎年変動したとしても、長期的に見たら市場は拡大し続けると確信している。世界レベルでの不確実性、大国間の摩擦などが変動の原因となるが、われわれの考えはバランスの取れた戦略、お客様に向き合う戦略に基づいて、着実に成長を遂げる」と語った。

 

ルロア副社長は今期の例を挙げ、「中国・アジアでの落ち込みをトヨタはワンチームで他の地域が補完する努力を果たした」と付け加え、着実な成長(ステディ・グロス)を目指す考えを改めて強調した。
またルロア氏はカーシェアの広がりでフリート営業が拡大していることに触れ、「世界レベルでモビリティが変革している。これまで個人客が多かった国ではフリートとのバランスに移行する」とした。

 

「フリートでは車の利用率が格段に上がり、より車の質が問われる。最初に競合他社との差別化を図り、選ばれること。次に収益性を考える。量を販売する考えはない」と強調した。
また「フリートはバリューチェーンの巨大化を生み、大きなビジネスチャンスをもたらすが、ネットワークも変化させなければならない」と指摘、ディーラー変革の必要性とメーカーとの連携・協調を示唆した。

 

決算を説明するトヨタ首脳

 

「ファイティング・スピリッツ」「ビー・パショネーツ」を訴え、販売店を激励

 

ルロア副社長(事業・販売担当)は「お客様に向き合った競争力強化の取り組み」について約11分のプレゼンテーションを行った。2019年の世界販売を総括すると共に、今後の取り組みについて熱く語った。
世界の自動車販売は2018、19年連続して減少する厳しい環境の中で、トヨタ車の19年のグローバル販売は971万台と安定して成長し、前年実績も期初計画も上回った。

 

米中摩擦の影響で、アジアでは販売が落ち込んだが、中国、欧州、日本といった他の地域で補った。このようにトヨタの成長はグローバルでバランスのとれた事業戦略によって支えられ、安定成長を果たしている。
中国市場は2019年、2580万台で前年比8%の減少となったが、トヨタ車は新型レビンやカローラが寄与して9%増の162万台となった。販売員一人ひとりがクルマの魅力を伝え、また試乗を通じてお客様に魅力を体感いただくことに注力した。

 

また中古車価格が下がらないよう、安易な新車値引きはしなかった。お客様に、クルマの品質、燃費、性能の高さに加えて、リセールバリューに魅力を感じていただくよう努めた。
一昨年、李克強首相が来日されて以来、中国政府はトヨタの環境技術に関心を寄せている。パートナーシップを大切にしながら、私共の技術を活かし、中国発展に役立てていきたい。

 

欧州は環境規制のさらなる強化が見込まれる中、長年の取り組みが実った。ハイブリッド技術へのニーズを先読みし、ディーゼル主流の市場にあって極めて根気のいる取り組みだった。
未知のハイブリッド技術について、まず販売店に、その優位性を理解していただいた。燃費、静粛性、耐久性、ランニング費用などの優位性を、お客様に上手くお勧めできるよう、販売員にはゼロから学んでもらった。

 

お客様はハイブリッド技術の優位性に少しずつ気付き、その優位性を広めるという役割を果たした。壊れたら修理しにくい、ハイブリッド車は充電が必要といった誤解も、徐々に払しょくされた。
現在、欧州ではトヨタ車、レクサス車を購入するお客様の半数以上で、ハイブリッド車を選んでいただいている。それが欧州全体の販売を押し上げている。
北米でもお客様にしっかり向き合う戦略を展開した。RAV4のハイブリッド比率は当初、13%程だったが、販売店やお客様の意見を聞く詳細な調査を行なった結果、ハイブリッド車はパワー面で劣るというイメージがあることを認識した。

 

そうした事実を踏まえ、今回の新型RAV4の販売開始にあたっては、燃費の良さと走行性能を強く打ち出すことを決めた。その結果、新型RAV4のハイブリッド車に、「パワフル」の印象をもつお客様が27%から38%まで伸びた。新型RAV4に占めるハイブリッドの割合は25%まで向上した。

 

トヨタはどの地域にもハイブリッド車を普及させ、環境のサステナビリティ―に貢献したいと考えている。お客様の声に耳を傾け、お客様のニーズに応える電動車を供給していく考えだ。
日本では販売店ネットワークの変革を進めている。未来に向けた挑戦であり、従来の考え方だけにとらわれては進められない。お客様のクルマに求めるものが変われば、販売のあり方も自ずと変わる。

 

その変革の中、私たちは日本のすべての販売店で、トヨタのすべての車を提供できるようにする取り組みを導入しようとしている。
当初、2025年に向けて導入する予定だったが、「この町いちばん活動」を強化し、地域のニーズや困りごとに幅広く応えていくには早い段階から様々な商品・サービスを扱う必要がある。
そこで私たちも当初の予定から2年前倒しし、今年5月に開始することを決めた。販売店の代表者に会い、取り組みに対する本音の意見や懸念を話してもらった。多くの販売店の方が、人気車種の供給が追い付かなくなるということに不安を訴えていた。

 

私たちは生産体制の調整を行ない、今できる備えを着々と進めている。計画や前例にとらわれず、将来の成長の種をまくことを通じて、これからもお客様に選んでいただけるトヨタになれるよう、私たち自身も変えていこうと決めた。
各国各地域で販売にかかわるトヨタの従業員は、自分の持ち場で1台でも多く売ろう、1円でもコストを下げよう、と販売活動に取り組んでいる。彼らは仲間たちが直面している販売の苦しさも理解している。販売に苦戦する地域があれば、自分の地域で挽回しようと考える。自分以外の誰かのために、という精神は全世界のトヨタに根付いている。

 

私は多くの地域を訪れ、数多くのステークホルダーに会っているが、常に胸に入れているカードがある。私自信がリーダーシップの10要素(項目)をまとめたもので、そのなかでもとくに現場であった方に伝える言葉がある。
それは「ファイティング・スピリット」、つまり戦う精神。「ビー・パショネーツ」、情熱的であれという言葉だ。100年に一度といわれる大変革の波に直面している。

 

あらゆる手段、努力を尽くし、お客様が求めるモビリティやサービスを提供し続けなければ、生き残ることはできない。
お客様の笑顔のために、ファイティング・スピリットと情熱をもって、私たちは全力で戦い続けます。
最後に今年1月、米国のCES2020で豊田社長が「Woven City」プロジェクトを発表した。リビング・ラボラトリーであり、未来に向けたスタート地点に過ぎない。近く、このプロジェクトに関する情報を届けたい。

 

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坂上 賢治

NEXT MOBILITY&MOTOR CARS編集長。日刊自動車新聞を振り出しに自動車産業全域での取材活動を開始。同社の出版局へ移籍して以降は、コンシューマー向け媒体(発行45万部)を筆頭に、日本国内初の自動車環境ビジネス媒体・アフターマーケット事業の専門誌など多様な読者を対象とした創刊誌を手掛けた。独立後は、ビジネス戦略学やマーケティング分野で教鞭を執りつつ、自動車専門誌や一般誌の他、Web媒体などを介したジャーナリスト活動が30年半ば。2015年より自動車情報媒体のMOTOR CARS編集長、2017年より自動車ビジネス誌×WebメディアのNEXT MOBILITY 編集長。

松下次男

1975年日刊自動車新聞社入社。編集局記者として国会担当を皮切りに自動車販売・部品産業など幅広く取材。その後、長野支局長、編集局総合デスク、自動車ビジネス誌MOBI21編集長、出版局長を経て2010年論説委員。2011年から特別編集委員。自動車産業を取り巻く経済展望、環境政策、自動運転等の次世代自動車技術を取材。2016年独立し自動車産業政策を中心に取材・執筆活動中。

間宮 潔

1975年日刊自動車新聞社入社。部品産業をはじめ、自動車販売など幅広く取材。また自動車リサイクル法成立時の電炉業界から解体現場までをルポ。その後、同社の広告営業、新聞販売、印刷部門を担当、2006年に中部支社長、2009年執行役員編集局長に就き、2013年から特別編集委員として輸送分野を担当。2018年春から独立、NEXT MOBILITY誌の編集顧問。

片山 雅美

日刊自動車新聞社で取材活動のスタートを切る。同紙記者を皮切りに社長室支社統括部長を経て、全石連発行の機関紙ぜんせきの取材記者としても活躍。自動車流通から交通インフラ、エネルギー分野に至る幅広い領域で実績を残す。2017年以降は、佃モビリティ総研を拠点に蓄積した取材人脈を糧に執筆活動を展開中。

中島みなみ

(中島南事務所/東京都文京区)1963年・愛知県生まれ。新聞、週刊誌、総合月刊誌記者(月刊文藝春秋)を経て独立。規制改革や行政システムを視点とした社会問題を取材テーマとするジャーナリスト。

山田清志

経済誌「財界」で自動車、エネルギー、化学、紙パルプ産業の専任記者を皮切りに報道分野に進出。2000年からは産業界・官界・財界での豊富な人脈を基に経済ジャーナリストとして国内外の経済誌で執筆。近年はビジネス誌、オピニオン誌、経済団体誌、Web媒体等、多様な産業を股に掛けて活動中。

佃 義夫

1970年日刊自動車新聞社入社。編集局記者として自動車全分野を網羅して担当。2000年出版局長として「Mobi21」誌を創刊。取締役、常務、専務主筆・編集局長、代表取締役社長を歴任。2014年に独立し、佃モビリティ総研を開設。自動車関連著書に「トヨタの野望、日産の決断」(ダイヤモンド社)など。執筆活動に加え講演活動も。

熊澤啓三

株式会社アーサメジャープロ エグゼクティブコンサルタント。PR/危機管理コミュニケーションコンサルタント、メディアトレーナー。自動車業界他の大手企業をクライアントに持つ。日産自動車、グローバルPR会社のフライシュマン・ヒラード・ジャパン、エデルマン・ジャパンを経て、2010年にアーサメジャープロを創業。東京大学理学部卒。

福田 俊之

1952年東京生まれ。産業専門紙記者、経済誌編集長を経て、99年に独立。自動車業界を中心に取材、執筆活動中。著書に「最強トヨタの自己改革」(角川書店)、共著に「トヨタ式仕事の教科書」(プレジデント社)、「スズキパワー現場のものづくり」(講談社ピーシー)など。