NEXT MOBILITY

MENU

2024年3月5日【ESG】

英アルティリウム、EV蓄電池の原材料リサイクルで日産と提携

坂上 賢治

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

英国でグリーンエネルギー技術に取り組むアルティリウム(Altilium)は3月4日(英国イングランドデヴォン州プリマス発)、自社のバッテリーリサイクル技術を活かし、日産自動車と協力してバッテリーからの二酸化炭素排出量を削減・輸入原材料への依存を減らす取り組みに挑む。( 坂上 賢治 )

 

このアルティリウムはリチウムスクラップなど、既に流通している廃棄物をリサイクルし、低炭素の国内供給源である正極および負極材料を大量に提供することによって英国および欧州の自動車サプライチェーンを再構築することを目指している企業。

 

同社独自のEcoCathode™プロセスは、使用済みのEV バッテリーと製造スクラップを国産の持続可能なバッテリー前駆体、正極活物質 (CAM) および正極前駆体 (pCAM) に変換し、新しいバッテリーに直接再利用できる。

 

アルティリウム初の稼働工場は、現在プリマスで建設中で、計画中のティーサイド工場はヨーロッパ最大級のEVバッテリーリサイクル施設となる。この工場は年間15万台以上のEVから出るスクラップを処理する能力があり、3万トンのCAMを生産する予定。これは2030年までに英国で予想される需要の約20%を満たすのに十分な量だという。

 

なお現在までにアルティリウム自身は、ファラデー電池チャレンジや自動車変革基金からの助成金を含む英国政府のイノベーション賞から600万ポンド(約11億4000万円)を超える支援を獲得。加えてソシエダ・キミカ・イ・ミネラ・デ・チリ(SQM)のリチウム事業のコーポレートベンチャー部門であるSQM Lithium Venturesの支援も受けている。

 

さて今回の日産自動車との取り組みは、先端推進システム技術センター (APC) によって同日に発表された3,000万ポンド(約57億円)の共同プロジェクトの一部で、既に1,500万ポンドの助成金を獲得している。

 

より具体的には、ベッドフォードシャー州クランフィールドにある欧州日産テクニカルセンター(NTCE)の技術的専門知識と研究開発能力を強化し、EV用バッテリーの再利用、リサイクル、エネルギーバランシング技術の開発と進歩に重点を置いた活動となる。

 

このコンソーシアムには、日産の長年のパートナーである電池メーカー AESCと、英国の二次電池エネルギー貯蔵ソリューションの大手プロバイダーであるコネクティッドエナジー(Connected Energy)による活動も含まれる。

 

その素材の再生プロセスは、アルティリウムの独技術を基盤として原材料リサイクルの可能性を最大化。電池材料の「閉ループ(輸入原材料を削減し、英国内での資源サプライのクローズドループを実現させる試み)」モデルを開発。それによって採掘の必要性を減らし、天然資源を節約していく。

 

これには、使用済みの日産リーフに搭載したバッテリーからの廃棄物や生産スクラップを処理し、これらの材料をアップサイクルして、次世代EVバッテリーのテスト用の高ニッケル化学正極活物質(CAM)を製造することが含まれる。

 

つまりこの取り組みは、EV バッテリーを管理するための包括的で循環的なアプローチを確立させて、環境への影響を最小限に抑え、資源効率を最大化することを目的としており、アルティリウム独自のEcoCathode™湿式冶金プロセスは、使用済みのEVバッテリーからリチウムを含む正極金属の95% 以上を回収できるとされる。

 

回収された材料は、単にリサイクルされるだけではなく、再設計され、高ニッケルCAMにアップサイクルされ、新しいバッテリーにシームレスに統合。これらの重要な素材をアップサイクルすることで、同社は未使用の採掘素材と比較して、CAM の二酸化炭素排出量を50%削減し、コストを20%削減することを目指している。

 

APCからの支援は、英国に於けるゼロエミッション技術の開発推進と持続可能な EVサプライチェーンの構築に向けた官民パートナーシップの重要性を示しており、同資金的支援によりアルティリウムは、ティーサイドに計画されている英国初の産業規模リサイクルプラネットの建設を含む最先端のリサイクル施設の規模拡大を加速することができる。

 

結果、アルティリウムが目指すバッテリー原材料の完全循環モデルは、英国で独自の顧客サービスとして提供される。これには、ゼロカーボンを伴うEVバッテリーの回収、ブラックマスリサイクル、化学精製が含まれ、2030年までに英国が求める再生原料の20%を満たすのに十分な30,000トンのバッテリー対応CAMを生産できるという。

 

今回の日産との連携について、アルティリウムの共同創設者兼最高執行責任者(COO)であるクリスチャン・マーストン博士は、「私たちは力を合わせて、自社の強みとリソースを活用してEVバッテリーの管理と再利用方法に革命を起こし、英国が低炭素輸送のための持続可能なバッテリー材料の国内供給源を確保できるようにしていきます」と述べている。

CLOSE

坂上 賢治

NEXT MOBILITY&MOTOR CARS編集長。日刊自動車新聞を振り出しに自動車産業全域での取材活動を開始。同社の出版局へ移籍して以降は、コンシューマー向け媒体(発行45万部)を筆頭に、日本国内初の自動車環境ビジネス媒体・アフターマーケット事業の専門誌など多様な読者を対象とした創刊誌を手掛けた。独立後は、ビジネス戦略学やマーケティング分野で教鞭を執りつつ、自動車専門誌や一般誌の他、Web媒体などを介したジャーナリスト活動が30年半ば。2015年より自動車情報媒体のMOTOR CARS編集長、2017年より自動車ビジネス誌×WebメディアのNEXT MOBILITY 編集長。

松下次男

1975年日刊自動車新聞社入社。編集局記者として国会担当を皮切りに自動車販売・部品産業など幅広く取材。その後、長野支局長、編集局総合デスク、自動車ビジネス誌MOBI21編集長、出版局長を経て2010年論説委員。2011年から特別編集委員。自動車産業を取り巻く経済展望、環境政策、自動運転等の次世代自動車技術を取材。2016年独立し自動車産業政策を中心に取材・執筆活動中。

間宮 潔

1975年日刊自動車新聞社入社。部品産業をはじめ、自動車販売など幅広く取材。また自動車リサイクル法成立時の電炉業界から解体現場までをルポ。その後、同社の広告営業、新聞販売、印刷部門を担当、2006年に中部支社長、2009年執行役員編集局長に就き、2013年から特別編集委員として輸送分野を担当。2018年春から独立、NEXT MOBILITY誌の編集顧問。

片山 雅美

日刊自動車新聞社で取材活動のスタートを切る。同紙記者を皮切りに社長室支社統括部長を経て、全石連発行の機関紙ぜんせきの取材記者としても活躍。自動車流通から交通インフラ、エネルギー分野に至る幅広い領域で実績を残す。2017年以降は、佃モビリティ総研を拠点に蓄積した取材人脈を糧に執筆活動を展開中。

中島みなみ

(中島南事務所/東京都文京区)1963年・愛知県生まれ。新聞、週刊誌、総合月刊誌記者(月刊文藝春秋)を経て独立。規制改革や行政システムを視点とした社会問題を取材テーマとするジャーナリスト。

山田清志

経済誌「財界」で自動車、エネルギー、化学、紙パルプ産業の専任記者を皮切りに報道分野に進出。2000年からは産業界・官界・財界での豊富な人脈を基に経済ジャーナリストとして国内外の経済誌で執筆。近年はビジネス誌、オピニオン誌、経済団体誌、Web媒体等、多様な産業を股に掛けて活動中。

佃 義夫

1970年日刊自動車新聞社入社。編集局記者として自動車全分野を網羅して担当。2000年出版局長として「Mobi21」誌を創刊。取締役、常務、専務主筆・編集局長、代表取締役社長を歴任。2014年に独立し、佃モビリティ総研を開設。自動車関連著書に「トヨタの野望、日産の決断」(ダイヤモンド社)など。執筆活動に加え講演活動も。

熊澤啓三

株式会社アーサメジャープロ エグゼクティブコンサルタント。PR/危機管理コミュニケーションコンサルタント、メディアトレーナー。自動車業界他の大手企業をクライアントに持つ。日産自動車、グローバルPR会社のフライシュマン・ヒラード・ジャパン、エデルマン・ジャパンを経て、2010年にアーサメジャープロを創業。東京大学理学部卒。

福田 俊之

1952年東京生まれ。産業専門紙記者、経済誌編集長を経て、99年に独立。自動車業界を中心に取材、執筆活動中。著書に「最強トヨタの自己改革」(角川書店)、共著に「トヨタ式仕事の教科書」(プレジデント社)、「スズキパワー現場のものづくり」(講談社ピーシー)など。