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2024年2月9日【MaaS】

東大発表、高速道のEVワイヤレス給電で最適配置を提案

坂上 賢治

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充電の心配も過度な経済負担もなくBEVで日本中を旅する未来を示す

 

東京大学 生産技術研究所の本間裕大 准教授らによる研究グループは2月8日、高速道路上に於ける走行中ワイヤレス給電システム(WPTS/EVが走行中に電力をワイヤレスで受け取る技術)の最適配置と経済性を検証。充電を気にせずEVで日本中を旅行できるモビリティ社会像を具体的に提示した。

 

 

目下、低炭素モビリティの進展に重要な役割を果たすBEVは、バッテリーの性能制約による航続距離の問題や充電スタンドの待ち時間が普及の障害となっている。

 

そうした中、走行中ワイヤレス給電システム(WPTS)という新しいインフラ技術が現実的な解決策として浮上している。同技術は、道路に埋め込まれたコイルからEVに直接電力を供給することで、走行しながらの充電を可能にし航続距離の不安と充電スタンドでの長い待ち時間を解消する。

 

但し長距離移動では敷設が数百キロメートルに及ぶ可能性があり、その経済性に不安があった。

 

そこで当該の研究では、道路に埋め込まれたコイルを通じてEVの走行中充電を可能にするWPTSの最適配置と経済合理性を、数理最適化手法(特定の制約条件下で、目的関数を最大化または最小化する変数の最適な値を見つけ出すアプローチ)を用いて厳密に検証した。

 

走行中ワイヤレス給電システムの最適配置と経済性

 

新東名・名神および東北自動車道での詳細な地理情報データを基に行った分析により、WPTSがEVインフラとして魅力的な可能性を持つことを明らかにした。またWPTSの配置には高い自由度があり、再生可能エネルギーとも親和性があることなど、低炭素モビリティ社会の未来像に重要な指針を示した。

 

より具体的には、本間裕大 准教授、大口敬 教授、畑勝裕 助教らの研究チームは、移動可能性と敷設コストの双方を適切に勘案。日本の高速道路上でのWPTSコイルの最適配置を導出した。

 

その結果、移動できるEVの台数と、敷設する総コストを最適化することが可能となる。新東名・名神および東北自動車道での実際のデータを用いて精緻に検証したところ、EVインフラとしてWPTSには経済性の観点からも十分に前向きなポテンシャルがあることが示された。

 

例えば、図1に示すように、新東名・名神(総延長約500km)、東北自動車道(総延長約1,350km)どちらの場合も、片道あたりわずか50kmを敷設するだけで95%以上の移動がカバーできる結果が得られた(EVのバッテリー容量は40kWhと想定)。

 

この際、社会全体でのEVの普及率が30%程度になれば、十分に採算性が見込めることも同時に明らかにしている。これにより、EVがガソリン車と同等以上の使い勝手を持てるモビリティ社会像が提示された。なお、これらの成果は国際誌「Networks and Spatial Economics」に掲載されている。

 

図1 需要の95%をまかなう走行中ワイヤレス給電の最適配置例(バッテリー容量40kWhを想定)

 

更により意外なことは、WPTSコイルの最適配置には様々なパターンがあり、配置の自由度が高いことが初めて明らかになっている。例えば、図2に示す2つの配置は、そのパターンが全く異なるが、全く同じ社会的性能を実現できることが判明している。

 

配置に自由度があることは、充電の時間的なタイミングや空間的な場所を柔軟に制御できることを意味する。これは再生可能エネルギー等を活用したスマートエネルギー戦略へも有効だ。

 

日中に多くのEVが走行している場所にコイルを設置すれば、日中、太陽光発電によって余剰となっている電力を有効利用できる。一方、風力発電等が設置されている地域にコイルを配置すれば、電力供給の地産地消にも貢献できる。

 

図2 走行中ワイヤレス給電・最適配置の自由度がもたらすスマートエネルギー戦略への貢献

 

加えて最後に、WPTSと充電スタンドの併用を前提とした場合も、WPTSを導入することにより充電スタンドの設置台数を節約できること判っている。ほとんどの移動はWPTSで容易にカバーできるので、ごくわずかな超長距離移動のみを充電スタンドで補完すれば良い、という未来が描けるのだ。

 

このようなEVインフラのベストミックス戦略を想定することによって、充電の心配なくEVで日本中を旅行できるモビリティ社会像が導かれる。今後、同研究チームは市街地での移動も含めた、日本全国の道路網全体での更なる精緻な検証を予定していると結んでいる。

 

 

発表者・研究者等情報:
東京大学
 生産技術研究所
  本間 裕大 准教授
  大口 敬 教授
  畑 勝裕 助教

 不動産イノベーション研究センター
  長谷川 大輔 特任助教(研究当時:東京大学 生産技術研究所 本間(裕)研究室 特任助教)

 

論文情報:
〈雑誌名〉Networks and Spatial Economics
〈題名〉Locational Analysis of In-motion Wireless Power Transfer System for Long-distance Trips by Electric Vehicles: Optimal Locations and Economic Rationality in Japanese Expressway Network
〈著者名〉Yudai Honma, Daisuke Hasegawa, Katsuhiro Hata & Takashi Oguchi
〈DOI〉10.1007/s11067-023-09608-w

 

研究助成:
本研究は、科研費「基盤研究(B)(課題番号:21H01563)」の支援により実施された。

 

問い合わせ先:
東京大学 生産技術研究所
准教授 本間 裕大(ほんま ゆうだい)

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坂上 賢治

NEXT MOBILITY&MOTOR CARS編集長。日刊自動車新聞を振り出しに自動車産業全域での取材活動を開始。同社の出版局へ移籍して以降は、コンシューマー向け媒体(発行45万部)を筆頭に、日本国内初の自動車環境ビジネス媒体・アフターマーケット事業の専門誌など多様な読者を対象とした創刊誌を手掛けた。独立後は、ビジネス戦略学やマーケティング分野で教鞭を執りつつ、自動車専門誌や一般誌の他、Web媒体などを介したジャーナリスト活動が30年半ば。2015年より自動車情報媒体のMOTOR CARS編集長、2017年より自動車ビジネス誌×WebメディアのNEXT MOBILITY 編集長。

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1975年日刊自動車新聞社入社。編集局記者として国会担当を皮切りに自動車販売・部品産業など幅広く取材。その後、長野支局長、編集局総合デスク、自動車ビジネス誌MOBI21編集長、出版局長を経て2010年論説委員。2011年から特別編集委員。自動車産業を取り巻く経済展望、環境政策、自動運転等の次世代自動車技術を取材。2016年独立し自動車産業政策を中心に取材・執筆活動中。

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1970年日刊自動車新聞社入社。編集局記者として自動車全分野を網羅して担当。2000年出版局長として「Mobi21」誌を創刊。取締役、常務、専務主筆・編集局長、代表取締役社長を歴任。2014年に独立し、佃モビリティ総研を開設。自動車関連著書に「トヨタの野望、日産の決断」(ダイヤモンド社)など。執筆活動に加え講演活動も。

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株式会社アーサメジャープロ エグゼクティブコンサルタント。PR/危機管理コミュニケーションコンサルタント、メディアトレーナー。自動車業界他の大手企業をクライアントに持つ。日産自動車、グローバルPR会社のフライシュマン・ヒラード・ジャパン、エデルマン・ジャパンを経て、2010年にアーサメジャープロを創業。東京大学理学部卒。

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1952年東京生まれ。産業専門紙記者、経済誌編集長を経て、99年に独立。自動車業界を中心に取材、執筆活動中。著書に「最強トヨタの自己改革」(角川書店)、共著に「トヨタ式仕事の教科書」(プレジデント社)、「スズキパワー現場のものづくり」(講談社ピーシー)など。