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2019年9月19日【オピニオン】

新東名・最高速度120キロ試行から半年、速報値の影響度は?

中島みなみ

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人身・物損ともに増加

 

 静岡県警高速道路交通警察隊は、今年3月から始まった新東名の最高速度120km/h試行区間での交通事故発生状況と取り締まり状況を速報値で公表した。(執筆・撮影、中島みなみ/中島南事務所)

 

最高速度120km/h試行は新東名(静岡県内)と東北道(岩手県内)の2か所で、試行が続く。新東名は東北道より1か月早い3月1日から120km/hの試行を開始した。今回の公表は8月31日までの6か月間の状況を、前年の110km/h試行での発生状況と比較するものだ。試行区間はどちらも森掛川IC~新静岡ICまでの上下線約50km(49.65km/50.08km)だ。

 

 

今年半年間の交通事故は全体で163件。昨年同期より人身・物損共に増えている。

※今年/去年(増減)
人身事故=20件/16件(+4)
物損事故=143件/124件(+19)

 

人身20件のうち重傷は2件、そのほかは軽傷。死亡事故はなかった。重傷事故は、大型貨物車の事故渋滞への追突(6月)と、普通車の単独事故による追越車線に追突(8月)だった。軽傷事故の内容も、36件が追突事故だった。「いずれの事故も速度差が原因となるものはなく、前を見ていない、安全を確認していないが主な原因」という交通部の見方だ。

 

 今年の事故増加傾向は引き上げ区間だけに限らず、最高速度100km/hの県内新東名の試行区間外でも人身・物損共に増えている。試行区間で人身・物損事故の増加が特に目立ったのは5月で、人身6件(前年同期比+5件)、物損44件(同+28件)だった。今年の大型連休期間中の交通量は前年同期より約22%ほど交通量が増えている。そこに比例して事故増加につながった可能性もある。

 

平均速度は変化なし

 

 120km/hと110km/hの比較で、注目されるのは最高速度の引き上げに比例して、平均速度も上がるのではないかという点だ。
 3車線区間(藤枝岡部IC~新静岡IC)で中日本高速が設置したトラフィック・カウンターの情報によると、期間中の全車両の平均速度は次のようになった。※去年↓今年

 

上り線
第一車線=91.1km/h ↓ 91.6km/h
第二車線=102.9km/h ↓ 102.9km/h
追越車線=116.8km/h ↓ 117.4km/h

 

下り線
第一車線=87.1km/h ↓ 87.5km/h
第二車線=101.5km/h ↓ 101.6km/h
追越車線=117.7km/h ↓ 118.5km/h

 

目立った速度変化はないように見えるが、県警では大型連休中の4月23日と5月21日に、航空隊のヘリコプターと連携した空陸の取締りを実施するなど、取締り強化も行っている。120km/hの6か月間の違反別取締り状況でも、速度超過は613件、全体の27.2%を占めた。取締り状況なども考慮した実勢速度につながるデータ収集が、少なくとも2月末日まで続く。

 

 違反別で最も多かったのは、追越車線を通行し続ける通行帯違反で839件(37.2%)。速度超過はこれに次ぐ2番目の多さだった。速度規制とは無関係だが、3番目に多かったのはシートベルトの未装着で471件(20.9%)。シートベルトは運転席や助手席だけでなく、全席で装着しなければならない。

 

速度差についてのアンケート調査も

 

 最高速度が120km/hに引き上げられても、大型トラックやトレーラーなどの最高速度は80km/hのままだ。これについても県警は約20項目の質問を用意して、高速隊による大型車ドライバーへの対面による聞き取りを実施している。新東名の対象区間を走行した運転者や、東名を走行している運転者に対して実施。この結果も分析中だ。

 

速報値やアンケートが、120km/h引き上げにどのように影響するのか。静岡県警はコメントを控えた。

 120km/hの引き上げは、静岡県内の新東名(新静岡IC~森掛川IC)のほか、岩手県内の東北道(花巻南IC~盛岡南IC)上下線約30kmでも実施中だ。最短でも1年間の施行を継続する意味は、四季を通した交通状況を把握するとされている。引き上げ試行は、110km/hと120km/hで同じ区間で実施。110km/h試行では東北道が1か月遅かったが、120km/h試行は新東名と東北道で同時にスタートした。節目は新年度、高速道路の最高速度引き上げは、試行の冠を返上し、普遍的なものになるだろうか。

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坂上 賢治

NEXT MOBILITY&MOTOR CARS編集長。日刊自動車新聞を振り出しに自動車産業全域での取材活動を開始。同社の出版局へ移籍して以降は、コンシューマー向け媒体(発行45万部)を筆頭に、日本国内初の自動車環境ビジネス媒体・アフターマーケット事業の専門誌など多様な読者を対象とした創刊誌を手掛けた。独立後は、ビジネス戦略学やマーケティング分野で教鞭を執りつつ、自動車専門誌や一般誌の他、Web媒体などを介したジャーナリスト活動が30年半ば。2015年より自動車情報媒体のMOTOR CARS編集長、2017年より自動車ビジネス誌×WebメディアのNEXT MOBILITY 編集長。

松下次男

1975年日刊自動車新聞社入社。編集局記者として国会担当を皮切りに自動車販売・部品産業など幅広く取材。その後、長野支局長、編集局総合デスク、自動車ビジネス誌MOBI21編集長、出版局長を経て2010年論説委員。2011年から特別編集委員。自動車産業を取り巻く経済展望、環境政策、自動運転等の次世代自動車技術を取材。2016年独立し自動車産業政策を中心に取材・執筆活動中。

間宮 潔

1975年日刊自動車新聞社入社。部品産業をはじめ、自動車販売など幅広く取材。また自動車リサイクル法成立時の電炉業界から解体現場までをルポ。その後、同社の広告営業、新聞販売、印刷部門を担当、2006年に中部支社長、2009年執行役員編集局長に就き、2013年から特別編集委員として輸送分野を担当。2018年春から独立、NEXT MOBILITY誌の編集顧問。

片山 雅美

日刊自動車新聞社で取材活動のスタートを切る。同紙記者を皮切りに社長室支社統括部長を経て、全石連発行の機関紙ぜんせきの取材記者としても活躍。自動車流通から交通インフラ、エネルギー分野に至る幅広い領域で実績を残す。2017年以降は、佃モビリティ総研を拠点に蓄積した取材人脈を糧に執筆活動を展開中。

中島みなみ

(中島南事務所/東京都文京区)1963年・愛知県生まれ。新聞、週刊誌、総合月刊誌記者(月刊文藝春秋)を経て独立。規制改革や行政システムを視点とした社会問題を取材テーマとするジャーナリスト。

山田清志

経済誌「財界」で自動車、エネルギー、化学、紙パルプ産業の専任記者を皮切りに報道分野に進出。2000年からは産業界・官界・財界での豊富な人脈を基に経済ジャーナリストとして国内外の経済誌で執筆。近年はビジネス誌、オピニオン誌、経済団体誌、Web媒体等、多様な産業を股に掛けて活動中。

佃 義夫

1970年日刊自動車新聞社入社。編集局記者として自動車全分野を網羅して担当。2000年出版局長として「Mobi21」誌を創刊。取締役、常務、専務主筆・編集局長、代表取締役社長を歴任。2014年に独立し、佃モビリティ総研を開設。自動車関連著書に「トヨタの野望、日産の決断」(ダイヤモンド社)など。執筆活動に加え講演活動も。

熊澤啓三

株式会社アーサメジャープロ エグゼクティブコンサルタント。PR/危機管理コミュニケーションコンサルタント、メディアトレーナー。自動車業界他の大手企業をクライアントに持つ。日産自動車、グローバルPR会社のフライシュマン・ヒラード・ジャパン、エデルマン・ジャパンを経て、2010年にアーサメジャープロを創業。東京大学理学部卒。

福田 俊之

1952年東京生まれ。産業専門紙記者、経済誌編集長を経て、99年に独立。自動車業界を中心に取材、執筆活動中。著書に「最強トヨタの自己改革」(角川書店)、共著に「トヨタ式仕事の教科書」(プレジデント社)、「スズキパワー現場のものづくり」(講談社ピーシー)など。