ヤマハ発動機と英国の老舗レーシングカー・コンストラクターの「Lola Cars Ltd.( ローラカーズ社 )」は3月28日、日本で初開催となる東京E-Prix開幕目前に報道陣を募り、ABB FIAフォーミュラE世界選手権( フォーミュラE )マシンの共同開発でテクニカルパートナーシップ契約を締結したことを発表した。( 坂上 賢治 )
両社の記者会見では、フォーミュラE共同創設者でチーフチャンピオンシップオフィサーを務めるアルベルト・ロンゴ氏、フォーミュラEオペレーションリミテッドのジェフ・ドッズCEOも同席。新チームの誕生を歓迎した。
ローラカーズ社は、1958年にエリックブロードリー氏が設立。当初はフロントエンジンを搭載した小型素ポーカーの製造から活動を開始。以降インディカー、ル マン、フォーミュラ 1、Can-Am、フォーミュラ3000を含む世界中のモータースポーツシーンで圧倒的な成功を収めてきた。
そんな同社は日本とも縁が深く、全日本スーパーフォーミュラ選手権のコンストラクターとして日本のモータースポーツに関わってきた長い歴史がある。また、その前身の全日本F3000選手権では、1987年から20年間で13回の優勝を獲得している。
後の2022年に、米国で再生エネルギー関連の投資会社を保有する英国人ティル・ベヒトルスハイマー氏が、そのローラカーズ社を買収。以来、彼のチームは英国シルバーストーンにある新拠点で、新生ローラカーズ社として新たなレーシングマシンを、最高峰レースのスタートグリッドに並べるべく精力的に活動してきた。
従ってローラカーズ社は、フォーミュラEに出場するレーシングチーム向け車体のパッケージ開発と供給体制の構築も精力的に進めており、来たる11シーズン( 2024 – 2025シーズン )を目標に据えて、フォーミュラE準拠の車体パッケージの開発・供給体制を加速化させていく構えだ。
これに対するヤマハ発動機も、かつての全日本F2選手権や全日本F3000選手権にエンジンコンストラクターとして参戦。F1世界選手権にも1997年まで参戦していた。
近年は、スポーツカー向けの高性能電動ユニットの開発や、水素エンジンユニットの開発・製造。既存のガソリンエンジンユニットをカーボンフリー燃料へ対応させるなど、二酸化炭素排出量を削減するためのパワーユニット開発でも確かな実績を積み上げてきている。
そこでヤマハ発動機は今回、新生ローラカーズ社のテクニカルパートナーとして協力。世界最高峰の電動自動車レースであるフォーミュラEを通じて最先端の電動技術開発に取り組み、世界最高レベルの出力密度と効率性を含めた究極のエネルギーマネジメント技術を磨いて、近未来の高性能パワートレイン・マニュファクチャラーとしての立ち位置を確かなものとしていく考えだ。
また実際にフォーミュラEの11シーズンにあたる来季からの参戦となれば、1997年F1のアロウズ・ヤマハ以来28年振りの四輪世界選手権の挑戦となる。また日本からは日産自動車のみが唯一同シリーズに参戦していることから、ヤマハ発動機が加わることで日本の参戦メーカーは2社となる。
この取り組みに際して新生ローラ・カーズ社で、モータースポーツ・ディレクターを務めるマーク・プレストン氏は、「フォーミュラEへの参戦を発表できたことを大変嬉しく思います。これはローラカーズをサーキットに復活させる絶好の機会というだけではなく、まだ見ぬ次世代の最先端プラットフォームに取り組んでくことを意味します。
併せて同プロジェクトを推し進めることで、ソフトウェアに重点を置いた新たな設計思想にも挑戦することになり、それはモータースポーツ技術の将来を定義する当社の広範な計画の基礎を築くことになるでしょう。
また今回のパートナーシップは、電動化のみならず、水素、持続可能な燃料と材料の 3 つの分野にも戦略的に焦点を当てて、英国企業を持続可能なエンジニアリング技術の世界に誘うこと。再びモータースポーツ界リーダーとなるための第一歩になります」と話している。
更にローラ・カーズ社のティル・ベヒトルスハイマー会長は、「ABB FIAフォーミュラE世界選手権に参戦するにあたり、ヤマハ発動機と提携できることに非常に興奮しています。世界で最も革新的なOEMの1社から、重要プロジェクトのパートナーとして選ばれたことは我々が長年蓄積してきたチーム能力の証でもあります。
私たちは、未来のフォーミュラEマシンに搭載された電動パワートレインが今後、数年間に亘って様々なモータースポーツシーンに刺激を与え、新時代を切り拓く基礎技術となると考えています」と新たな挑戦への意気込みを述べた。
最後にヤマハ発動機の丸山平二 取締役常務執行役員は、「ヤマハ発動機はサステナビリティに貢献する様々な基礎技術開発を加速させている最中にあります。
そうした取り組みを前提に私たちは、ローラ・カーズ社の技術パートナーとして、フォーミュラEを更なる高性能パッケージに仕立て上げていくことを介して、より高度なパワーユニットづくりのノウハウ、より高度なエネルギー管理技術を獲得したいと考えています。
また、私たちは持続可能なモータースポーツを目指していくというローラ・カーズ社の新しい夢を共有しており、彼らとパートナーシップを結ぶことができて非常に嬉しく光栄な気持ちです」と結んでいる。