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2023年12月13日【IoT】

米半導体企業マーベルが進める対日事業戦略の中身

山田清志

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米国半導体企業のマーベルテクノロジーと、その日本法人であるマーベルジャパンは12月12日、都内で事業戦略説明会を開催した。マーベルは企業向けネットワーク、データセンター、携帯電話基地局、車載向けの半導体の4つに力を入れている。特に日本では車載が有望と見ており、日本が遅れているゾーンアーキテクチャーで攻勢をかけ、同社の車載イーサネット製品の拡大を目指す。(経済ジャーナリスト・山田清志)

 

4つのマーケットにフォーカスして製品を提供

 

マーベルテクノロジーは1995年にカリフォルニア大学バークレー校で出会った中国系インドネシア人移民の夫婦によって設立されたファブレス半導体企業だ。特に1つのチップでさまざまなシステムを実現する半導体製品、SoC技術に強く、多岐にわたる製品ラインナップを持つ。2022年の売上高は59億ドル(約8600億円)で、6800人以上の従業員を抱えている。

 

「マーベルは非常にエンジニアリングに力を入れている会社で、6800人以上いる従業員のうち、ほとんどがエンジニアだ。特許保持数は1万件を超え、世界を代表するテクノリジー会社と言っていいだろう。われわれは世界中のデータを誰よりも速く、また最高の信頼性に基づいて転送、蓄積、処理、保護するための半導体製品を開発し提供している。そして、その半導体を企業向けネットワーク、データセンター、携帯電話基地局、車載の4つのマーケットにフォーカスし、業界をリードするインフラストラクチャー向け製品群を有している」とマーベルテクノロジーシニアバイスプレジデント兼ゼネラルマネージャーのウイル・チュウ氏は説明する。

 

マーベルテクノロジーシニアバイスプレジデント兼ゼネラルマネージャーのウイル・チュウ氏

 

その製品群は、ストレージ製品ではHDD、SSD、ファイバーチャネルコントローラー、ネットワーキング製品ではイーサネットスイッチ、PHYs、電子工学製品ではPAM4、DSPs、リニアTIAs、ドライバー、コヒーレントDSPs、車載イーサネットではスイッチ、マルチギガビットPHYs、ブリッジ、プロセッサ製品では4G/5Gベースバンド、DPUs、セキュリティ製品ではクラウド向けプロセッサやハードウェアセキュリティモジュールといった具合だ。

 

チュウ氏によると、チャットGPTに代表される生成AIの登場によって、GPUが大きく伸び、10年後には今の1000倍の規模になるという。「生成AIをベースにしたデータセンターでは、インフラストラクチャーが根本的に違い、マーベルにとっては巨大なチャンスである」とチュウ氏は話し、こう付け加える。

 

「生成AIをサポートするようなデータセンターは、1プラットフォームあたり数千という単位のカスタムAIアクセラレータをはじめ、数万というオプティカルDSP、数十万というストレージデバイス、数百というスイッチ、数千というCXLメモリエキスパンダーが必要で、そのすべてでマーベルが技術的なリーダーとなっているからだ」

 

車載インフラのキーとなるのはイーサネット

 

そのようなマーベルが日本で力を入れようとしているのが車載関連で、一番期待できるセグメントとのことだ。マーベルジャパン カントリーマネージャー兼セールス副社長のマイク・バドリック氏によると、自動車業界は100年に一度という大変革期を迎え、自動運転、コネクティッドカー、ソフトウェア・ディファインド・ビークル(SDV)によって大きく変わり、そのキーとなるインフラがイーサネットだという。

 

マーベルジャパン カントリーマネージャー兼セールス副社長のマイク・バドリック氏

 

そして、もう一つがゾーンアーキテクチャーで、この分野については欧米の自動車メーカーが進んでいて、日本の自動車メーカーが遅れている。それは考え方の違いもあって、日本の自動車メーカーはドメインアーキテクチャーが中心になっているからだ。ただ、ドメインアーキテクチャーはゾーンアーキテクチャーに比べて、非常に分散されていて複雑なネットワークになっているので、ワイヤーハーネスも非常に複雑となり、重く、コストも高くなってしまうのだ。

 

そのため、欧米の自動車メーカーはよりスケーラブルなイーサネットを中心に構成されたゾーンアーキテクチャーへ急速に移行している。この移行によって、自動車メーカーは、セーフティシステムの高度化、インフォテイメントシステムの強化、燃費の向上、よりよい運転体験のためのソフトウェア・ディファインド・サービスの導入など、自動車の車載コンピューティング能力を飛躍的に向上させることが可能になるそうだ。

 

「ゾーンアーキテクチャーを採用する欧米の自動車メーカーの割合は、2025年に約40%、29年には約86%にまで増える。日本の自動車メーカーも、そのトレンドに従って増えていくと見ている。マーベルはその車載イーサネットで世界一を誇り、これまでに1億5000万個以上のイーサネット製品を出荷している」とバトリック氏は説明し、現在、45以上の自動車メーカーがマーベルの製品を採用し、4000万台以上のクルマにマーバルのイーサネット製品が搭載されているという。

 

 

日本の自動車メーカー5社が採用

 

ちなみに世界一のシェアを誇る車載製品は、セキュアスイッチ、ギガビットイーサネットPHY、10ギガビットイーサネットPHY、イーサネットカメラブリッジ、最高帯域幅(90G)セントラルスイッチとなっている。日本の自動車メーカーも5社がマーベルの製品を採用する決定をしたそうだ。

 

マーベルでは、将来的にゾーンアーキテクチャーに基づく自動車は3つから最大6つのゾーンを持つと見ている。ゾーンスイッチとセントラルスイッチを組み合わせて使用することで、自動車メーカーはネットワーク・パフォーマンスを最適化し、新しい機能やサービスを追加し、帯域幅需要の増大に対応するための基盤を得ることができるようになる。また、イーサネットベースのゾーンアーキテクチャーは、必要なネットワーク・ケーブルのようを減らし、重量と製造の複雑さを軽減できるという。

 

ゾーンアーキテクチャーが遅れている日本では、それだけマーベル製品が拡大する余地があり、バトリック氏が期待するのも頷ける。現在、日本では東京本社、大阪支社、平塚研究所の3拠点があり、80人の従業員が働き、うち75%がエンジニアだ。マーベルは、次世代のソフトウェア・ディファインド・ビークルを開発する最も要求の厳しい顧客のニーズに応えるため、業界初となる車載イーサネット製品を今後も提供し続けていく方針だ。

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坂上 賢治

NEXT MOBILITY&MOTOR CARS編集長。日刊自動車新聞を振り出しに自動車産業全域での取材活動を開始。同社の出版局へ移籍して以降は、コンシューマー向け媒体(発行45万部)を筆頭に、日本国内初の自動車環境ビジネス媒体・アフターマーケット事業の専門誌など多様な読者を対象とした創刊誌を手掛けた。独立後は、ビジネス戦略学やマーケティング分野で教鞭を執りつつ、自動車専門誌や一般誌の他、Web媒体などを介したジャーナリスト活動が30年半ば。2015年より自動車情報媒体のMOTOR CARS編集長、2017年より自動車ビジネス誌×WebメディアのNEXT MOBILITY 編集長。

松下次男

1975年日刊自動車新聞社入社。編集局記者として国会担当を皮切りに自動車販売・部品産業など幅広く取材。その後、長野支局長、編集局総合デスク、自動車ビジネス誌MOBI21編集長、出版局長を経て2010年論説委員。2011年から特別編集委員。自動車産業を取り巻く経済展望、環境政策、自動運転等の次世代自動車技術を取材。2016年独立し自動車産業政策を中心に取材・執筆活動中。

間宮 潔

1975年日刊自動車新聞社入社。部品産業をはじめ、自動車販売など幅広く取材。また自動車リサイクル法成立時の電炉業界から解体現場までをルポ。その後、同社の広告営業、新聞販売、印刷部門を担当、2006年に中部支社長、2009年執行役員編集局長に就き、2013年から特別編集委員として輸送分野を担当。2018年春から独立、NEXT MOBILITY誌の編集顧問。

片山 雅美

日刊自動車新聞社で取材活動のスタートを切る。同紙記者を皮切りに社長室支社統括部長を経て、全石連発行の機関紙ぜんせきの取材記者としても活躍。自動車流通から交通インフラ、エネルギー分野に至る幅広い領域で実績を残す。2017年以降は、佃モビリティ総研を拠点に蓄積した取材人脈を糧に執筆活動を展開中。

中島みなみ

(中島南事務所/東京都文京区)1963年・愛知県生まれ。新聞、週刊誌、総合月刊誌記者(月刊文藝春秋)を経て独立。規制改革や行政システムを視点とした社会問題を取材テーマとするジャーナリスト。

山田清志

経済誌「財界」で自動車、エネルギー、化学、紙パルプ産業の専任記者を皮切りに報道分野に進出。2000年からは産業界・官界・財界での豊富な人脈を基に経済ジャーナリストとして国内外の経済誌で執筆。近年はビジネス誌、オピニオン誌、経済団体誌、Web媒体等、多様な産業を股に掛けて活動中。

佃 義夫

1970年日刊自動車新聞社入社。編集局記者として自動車全分野を網羅して担当。2000年出版局長として「Mobi21」誌を創刊。取締役、常務、専務主筆・編集局長、代表取締役社長を歴任。2014年に独立し、佃モビリティ総研を開設。自動車関連著書に「トヨタの野望、日産の決断」(ダイヤモンド社)など。執筆活動に加え講演活動も。

熊澤啓三

株式会社アーサメジャープロ エグゼクティブコンサルタント。PR/危機管理コミュニケーションコンサルタント、メディアトレーナー。自動車業界他の大手企業をクライアントに持つ。日産自動車、グローバルPR会社のフライシュマン・ヒラード・ジャパン、エデルマン・ジャパンを経て、2010年にアーサメジャープロを創業。東京大学理学部卒。

福田 俊之

1952年東京生まれ。産業専門紙記者、経済誌編集長を経て、99年に独立。自動車業界を中心に取材、執筆活動中。著書に「最強トヨタの自己改革」(角川書店)、共著に「トヨタ式仕事の教科書」(プレジデント社)、「スズキパワー現場のものづくり」(講談社ピーシー)など。