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2024年5月17日【ケミカル】

京大、シリカがタイヤを高性能化する秘密を解明

坂上 賢治

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「埋もれた界面」を観測する新技術で、複合材料の高機能化に貢献

 

京都大学は5月17日、シリカがタイヤを高性能化する秘密を中性子と水素のスピンで解明した。一般的に様々な生成製品に使われる複合材料を組み合わせる際は、異種材料間でのナノレベルの結合が重要だ。例えば自動車用のタイヤでは、ゴム材料の性能を高めるためにシリカナノ粒子を添加されている。

 

 

というのは、このような有機・無機複合材料では有機・無機相界面に於ける両者の結びつきが力学特性に大きな影響を及ぼすからだ。従って自動車タイヤの製品化では、ゴム材料とシリカナノ粒子の結合を強くするためにカップリング剤としてシランカップリング剤(図1)が添加される。

 

図 1 シランカップリング剤の模式図

 

但し、このカップリング剤がゴム材料とシリカナノ粒子の異種材料間でどのように機能しているかを真に詳しく知るためには、異種材料の界面をよく観測する必要がある。しかし、電子顕微鏡やX線、中性子線を使用した従来の手法では、ゴムとシリカの界面でカップリング剤がどのように機能しているかを調べることはできなかった。

 

そこで、竹中幹人 化学研究所教授、熊田高之 日本原子力研究開発機構研究主幹、西辻祥太郎 山形大学准教授、阿久津和宏 総合科学研究機構副主任技師、鳥飼直也 三重大学教授。そして横浜ゴム株式会社理事の網野直也氏ら6名の共同研究グループは、開発したばかりの「スピンコントラスト変調中性子反射率法」を用いてこの機能の仕組みを分析した。

 

今回用いたスピンコントラスト変調中性子反射率法は、この性質を利用した多層膜試料の構造解析法となる。この構造解析は、(図 2)が示すように、水素核スピンの方向を揃えた薄膜試料に対して、スピンが平行もしくは反平行に揃えられた中性子を入射すると、各反射面における反射振幅は独立に変化する。

 

図 2 従来の中性子反射率法とスピンコントラスト変調中性子反射率法の比較

 

複数のスピン状態に於ける反射率データからそれぞれの反射面の反射振幅を決定し、その面の構造や各層の構造および組成を決定することができる。研究チームは、J-PARC 物質・生命科学実験施設(MLF)の偏極中性子反射率計 (SHARAKU/BL17)に合わせて開発した水素核偏極装置を組み込むことで同実験を実現した。

 

同手法により、ゴム材料とシリカナノ粒子の界面にカップリング剤が単分子層を形成していることを観測できました。またカップリング剤層の構造や組成から、カップリング剤とゴム材料との相互浸透がゴムとシリカの結合の要となることを明らかにした。

 

図 3 ポリブタジエン/シランカップリング剤の同時・順次コート薄膜試料の SEM 画像(左),中性子反射率曲線(中央),測定から決定された薄膜の構造(右)

 

この6名による研究成果を応用することで、今後は耐摩耗性が大幅に改良されたタイヤが開発されることが期待できるという。また本手法を用いて様々な複合材料に於ける界面状態を決定することで、それぞれの分野の材料開発に貢献していくことにも貢献していきたい構えだ。

 

なお同研究成果は、2024年5月16日に、国際学術誌「The Journal of Physical Chemistry C」にオンライン掲載された。上記の詳しい研究内容については以下PDFリンクの通り。
シリカがタイヤを高性能化する秘密を中性子と水素のスピンで解明―「埋もれた界面」を観測する新技術で、複合材料の高機能化に貢献―

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坂上 賢治

NEXT MOBILITY&MOTOR CARS編集長。日刊自動車新聞を振り出しに自動車産業全域での取材活動を開始。同社の出版局へ移籍して以降は、コンシューマー向け媒体(発行45万部)を筆頭に、日本国内初の自動車環境ビジネス媒体・アフターマーケット事業の専門誌など多様な読者を対象とした創刊誌を手掛けた。独立後は、ビジネス戦略学やマーケティング分野で教鞭を執りつつ、自動車専門誌や一般誌の他、Web媒体などを介したジャーナリスト活動が30年半ば。2015年より自動車情報媒体のMOTOR CARS編集長、2017年より自動車ビジネス誌×WebメディアのNEXT MOBILITY 編集長。

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1975年日刊自動車新聞社入社。編集局記者として国会担当を皮切りに自動車販売・部品産業など幅広く取材。その後、長野支局長、編集局総合デスク、自動車ビジネス誌MOBI21編集長、出版局長を経て2010年論説委員。2011年から特別編集委員。自動車産業を取り巻く経済展望、環境政策、自動運転等の次世代自動車技術を取材。2016年独立し自動車産業政策を中心に取材・執筆活動中。

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1975年日刊自動車新聞社入社。部品産業をはじめ、自動車販売など幅広く取材。また自動車リサイクル法成立時の電炉業界から解体現場までをルポ。その後、同社の広告営業、新聞販売、印刷部門を担当、2006年に中部支社長、2009年執行役員編集局長に就き、2013年から特別編集委員として輸送分野を担当。2018年春から独立、NEXT MOBILITY誌の編集顧問。

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株式会社アーサメジャープロ エグゼクティブコンサルタント。PR/危機管理コミュニケーションコンサルタント、メディアトレーナー。自動車業界他の大手企業をクライアントに持つ。日産自動車、グローバルPR会社のフライシュマン・ヒラード・ジャパン、エデルマン・ジャパンを経て、2010年にアーサメジャープロを創業。東京大学理学部卒。

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1952年東京生まれ。産業専門紙記者、経済誌編集長を経て、99年に独立。自動車業界を中心に取材、執筆活動中。著書に「最強トヨタの自己改革」(角川書店)、共著に「トヨタ式仕事の教科書」(プレジデント社)、「スズキパワー現場のものづくり」(講談社ピーシー)など。