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2023年11月15日【エネルギー】

住友林業とGEI、木質バイオマス化学品の研究開発に着手

坂上 賢治

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住友林業の長期ビジョン「Mission TREEING 2030」

 

未来に向けて、木材由来のバイオマス化学品の需要拡大に熱視線

 

住友林業Green Earth Institute(GEI/グリーン・アース・インスティチュート)は11月15日、木質バイオマスを原料としたバイオリファイナリー事業(植物・農作物のバイオマスから化学品や燃料を作る)の推進で業務・資本提携契約を締結した。

 

今回、両社に於いて業務・資本提携契約の背景となったのは、日本で戦後に植林した人工林が伐採適齢期を迎え、その約半分は樹齢50年を超えることにある。

 

木は高齢化するとCO2の吸収量が低下するため、伐採・再植林し森林の若返りを促しCO2の吸収量を増やすことが欠かせない。

 

しかし現在、国内では比較的調達・運用が容易く安価な輸入材に押されて、国産木材の自給率が4割に留まる状況であり、今後、国産材の活用を促すため、林業従事者から木材製造・加工業者、建築業者の全てが、事業収益を確保できるような安定的な事業の再構築並びに供給体制の構築が喫緊の課題となっている。

上記を踏まえて日本政府は、先の2019年5月「プラスチック資源循環戦略」を発表し、原料を石油に頼らないバイオプラスチックの普及を推し進めて2030年までに約200万トンを導入する計画を示している。

 

また従来の石油由来ジェット燃料と比べCO2の排出量を大幅に減らせるSAFについても2030年から国内航空会社の使用燃料の1割をSAFに置き換える目標を掲げている。2050年のSAFの国内市場は約2兆3000億円を見込んでいることから、今後、木材由来のバイオマス化学品の需要拡大が期待されている。

 

両社は、CO2排出量を削減し社会全体の脱炭素化に貢献していく構え

 

そこで木材を原料に化学品や燃料を作る木質バイオマス化学品の商用生産が確立できれば国内の森林資源の活用が進みCO2を含む温室効果ガスの削減に繫がる。今回、そうした背景を踏まえた上で両社の戦略の方向性が一致。互いに企業価値の最大化が実現できるパートナーであると判断したため提携に至った。

 

今後、両社は森林資源の用途拡大に向けて木質バイオマス化学品の研究開発に着手する。具体的には木材の成分分離技術を確立し、木材の新たな利用用途を開拓して木材を余すことなく使うカスケード利用を促進させていく。

 

これにより石油化学品からバイオマス化学品への転換を促すことで、CO2排出量を削減し社会全体の脱炭素化に貢献していく構えだ。

 

そんな両社の協業の核となる資源は、木材の主成であるセルロース、ヘミセルロース、リグニンの3つで構成される木質バイオマス。しかし木質バイオマスから化学品の生産を行うには、それぞれの成分を分離する技術が求められる。

 

そうしたなか、木材に係る知見を豊富に持つ住友林業と、バイオマス化学品製造での知見を有するGEIは、研究開発を通して成分分離技術の確立と各成分の有効利用を含む新規事業の立上げを目指す。

 

こうして造り出されたセルロース・ヘミセルロースは、バイオプラスチックやバイオマス由来の航空燃料(SAF)、食品、バイオゴムなどの原料となる。また残るリグニンは、高度な活用技術の商業化に向けて、精力的に研究開発を進めていく。

 

住友林業は木材研究の成果を、GEIはバイオリファイナリー技術を提供へ

 

なお同計画を基とした両社の役割分担は、まず両社で当該協業を確実に進めるためのプロジェクトチームを発足させる。そのなかで住友林業は、筑波研究所で蓄積した木材に関する研究成果を提供し、GEIは研究・開発しているバイオリファイナリー技術を提供する。

 

将来的には、住友林業が設立の準備を進める木材コンビナート等でGEIが開発した生産性の高い菌体・生産プロセス(微生物の力を使って化学品を生産する技術)を用いて木質バイオマスを原料とした化学品の商用生産を目指す。

 

両社で設立の準備を進めている木材コンビナートでは、木質バイオマス化学品の生産も含めた木材のカスケード利用を進め、国内の林業・木材製造を活性化させる。そして石油由来から木質バイオマス由来の素材に代替を進めて、CO2の排出量を減らし、炭素固定量を増やす新たな「ウッドサイクル( YouTubeによる動画説明へ )」を構築・完成させる意向だ。

 

これを受けてGEIは、バイオマスを原料に微生物の力を使って化学品を生産するバイオリファイナリー分野のプラットフォーム構築を目指す。例えば、非可食バイオマスを有効に利用する技術の開発、高い生産性を有する菌体や生産プロセスの開発、事業化に向けたスケールアップなどが、同社の強みとなっている。

 

住友林業概要
会社名:住友林業株式会社
本社:東京都千代田区大手町一丁目3番2号(経団連会館)
代表者:光吉 敏郎
設立:1948年2月20日/創業1691年(元禄4年)
資本金:50,074百万円2022年12月31日時点
事業概要:
資源環境事業/木材建材事業/海外住宅・建築・不動産事業/住宅事業/生活サービス事業/建設業

 

GEI概要
会社名:Green Earth Institute株式会社
本社:東京都新宿区新宿三丁目5番6号
代表者:伊原 智人
設立:2011年9月
資本金:1,600百万円(2023年9月期)
事業概要:
革新的なバイオプロセスリファイナリー技術を活用した、グリーン化学品の開発及び事業化

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坂上 賢治

NEXT MOBILITY&MOTOR CARS編集長。日刊自動車新聞を振り出しに自動車産業全域での取材活動を開始。同社の出版局へ移籍して以降は、コンシューマー向け媒体(発行45万部)を筆頭に、日本国内初の自動車環境ビジネス媒体・アフターマーケット事業の専門誌など多様な読者を対象とした創刊誌を手掛けた。独立後は、ビジネス戦略学やマーケティング分野で教鞭を執りつつ、自動車専門誌や一般誌の他、Web媒体などを介したジャーナリスト活動が30年半ば。2015年より自動車情報媒体のMOTOR CARS編集長、2017年より自動車ビジネス誌×WebメディアのNEXT MOBILITY 編集長。

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1975年日刊自動車新聞社入社。編集局記者として国会担当を皮切りに自動車販売・部品産業など幅広く取材。その後、長野支局長、編集局総合デスク、自動車ビジネス誌MOBI21編集長、出版局長を経て2010年論説委員。2011年から特別編集委員。自動車産業を取り巻く経済展望、環境政策、自動運転等の次世代自動車技術を取材。2016年独立し自動車産業政策を中心に取材・執筆活動中。

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1975年日刊自動車新聞社入社。部品産業をはじめ、自動車販売など幅広く取材。また自動車リサイクル法成立時の電炉業界から解体現場までをルポ。その後、同社の広告営業、新聞販売、印刷部門を担当、2006年に中部支社長、2009年執行役員編集局長に就き、2013年から特別編集委員として輸送分野を担当。2018年春から独立、NEXT MOBILITY誌の編集顧問。

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日刊自動車新聞社で取材活動のスタートを切る。同紙記者を皮切りに社長室支社統括部長を経て、全石連発行の機関紙ぜんせきの取材記者としても活躍。自動車流通から交通インフラ、エネルギー分野に至る幅広い領域で実績を残す。2017年以降は、佃モビリティ総研を拠点に蓄積した取材人脈を糧に執筆活動を展開中。

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1970年日刊自動車新聞社入社。編集局記者として自動車全分野を網羅して担当。2000年出版局長として「Mobi21」誌を創刊。取締役、常務、専務主筆・編集局長、代表取締役社長を歴任。2014年に独立し、佃モビリティ総研を開設。自動車関連著書に「トヨタの野望、日産の決断」(ダイヤモンド社)など。執筆活動に加え講演活動も。

熊澤啓三

株式会社アーサメジャープロ エグゼクティブコンサルタント。PR/危機管理コミュニケーションコンサルタント、メディアトレーナー。自動車業界他の大手企業をクライアントに持つ。日産自動車、グローバルPR会社のフライシュマン・ヒラード・ジャパン、エデルマン・ジャパンを経て、2010年にアーサメジャープロを創業。東京大学理学部卒。

福田 俊之

1952年東京生まれ。産業専門紙記者、経済誌編集長を経て、99年に独立。自動車業界を中心に取材、執筆活動中。著書に「最強トヨタの自己改革」(角川書店)、共著に「トヨタ式仕事の教科書」(プレジデント社)、「スズキパワー現場のものづくり」(講談社ピーシー)など。