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2018年8月10日【テクノロジー】

東北大と東工大、多価イオン研究で次世代蓄電池開発に貢献

NEXT MOBILITY編集部

図1. Li+とMg2+の協奏的動きによるMg2+の拡散障壁の低減

 

東北大学金属材料研究所(金研)は、東京工業大学と共同で、一価イオンのLi+(リチウムイオン)と多価イオンであるMg2+(マグネシウムイオン)の相互作用により、正極中で通常は遅い多価イオン拡散(移動)が、顕著に促進される現象を初めて発見した。

 

研究チームは、これにより、多価イオンを用いる次世代蓄電池系の開発促進が期待されるとしている。

Mg2+、Zn2+(亜鉛イオン)、Al3+(アルミニウムイオン)などの多価イオンを電荷担体(キャリア)とする蓄電池系は、リチウムイオン電池の性能を凌ぐ可能性のある次世代蓄電池として注目されるが、これらの多価イオンは、正極物質中を移動する速度が遅く、電極反応が進みにくいため、現状では適切な電極材料の開発が遅れていると云う。

 

研究では、実験と理論計算を併用し、Li-Mgデュアルイオン電池系のLi+とMg2+の拡散挙動を調査。Mg2+の拡散が、Li+との協奏的相互作用で、顕著に促進されることを発見した。

 

図1. Li+とMg2+の協奏的動きによるMg2+の拡散障壁の低減

図1. Li+とMg2+の協奏的動きによるMg2+の拡散障壁の低減

 

研究は、金属材料研究所の李弘毅(博士後期課程3年、JSPS特別研究員)、岡本範彦准教授、市坪哲教授、東京工業大学 元素戦略研究センターの熊谷悠特任准教授、同大 科学技術創成研究院の大場史康教授らの研究グループにより実施。

 

成果は、Advanced Energy Materials 誌に8月10日(日本時間)に掲載された。

 

[研究の背景]

 

高性能な蓄電池は、スマートフォンや電気自動車などの身近なデバイスの性能向上や、次世代電力網のスマートグリッドシステムの構築においても必要不可欠となる。

 

現在、蓄電池の主役を担うリチウムイオン電池は、1990年代の発売以降、改良が重ねられてはいるもの、その性能は理論的な限界に近づきつつあると云う。

 

しかし、このリチウムイオン電池を超える次世代蓄電池の開発には、新たな基礎学理のもと、今までにない蓄電池の設計指針の確立が不可欠となる。

 

リチウムイオン電池のように、インターカレーション反応[用語1]を利用する蓄電池では、充放電によって電荷を運ぶキャリア(イオンなど)が正極と負極間を行き来することで、繰り返し使用できる。

 

一般的に、正極にはキャリアを格納できる酸化物(フレーム)が、負極には黒鉛などの層状構造物質が使用される。

 

充電時、正極に格納されたキャリアは放出されて負極内部に挿入され、放電時には、負極に挿入されたキャリア金属が再びイオン化して電子を放出、電解液を通じてキャリアとして正極へと流ることで電流が発生する。

 

Li+をキャリアとするリチウムイオン蓄電池系では、充電時に起こるLi金属のデンドライト成長[用語2]が、発火事故の原因にもなるため、現在実用化されているリチウムイオン電池では、インターカレーション機構により、デンドライト成長を起こしにくい炭素系材料が負極に使用される。

 

しかし、これら炭素系負極材料は、重量・体積が無視できないほど大きく、そのためエネルギー密度が低くなり、性能が十分に発揮できない。

 

一方、Mg2+、Zn2+、Al3+などの多価イオンは、デンドライト成長しにくく、安全に金属負極を使用できるため、Mg蓄電池をはじめとする多価イオン蓄電池の研究が、近年注目されていると云う。

 

ところが多価イオンは、一価イオンと比べて、正極フレーム中を移動するのに非常に大きなエネルギーのバリアを乗り越える必要があるため、拡散が困難。また、フレームの安定性も低く、電極として寿命が短いという欠点を持っている。

 

図2. Li-Mgデュアルイオン電池の模式図 充電:Li+とMg2+が正極から放出され、負極に析出する。放電:Li+とMg2+が負極から溶解し、正極に収容される。

図2. [Li-Mgデュアルイオン電池の模式図] 充電:Li+とMg2+が正極から放出され、負極に析出する。放電:Li+とMg2+が負極から溶解し、正極に収容される。

 

そこで、研究グループは、それぞれ性質が異なる一価イオンと二価イオンを同時に利用するデュアルイオンをキャリアとする蓄電池の概念を、世界に先駆けて提案。

 

Li+とMg2+を使ったLi-Mgデュアルイオン電池(図2)は、高エネルギー密度蓄電池に適した構造を持ち、充放電の過程で、Li+とMg2+の両方を正極と負極で電気化学反応させると云う。

 

これまでの研究では、Li+とMg2+を同時に電極へ析出させること(電析)により、Liの危険なデンドライト成長が抑制され、平滑な電析形態が得られることを解明。

 

炭素などの負極材料を利用せず、高容量の金属負極を使用できる可能性を示唆している。

 

さらに、Mo6S8やMgCo2O4などの正極材料を用いて、インターカレーション反応におけるLi+とMg2+の挿入・脱離挙動を調査した結果、多価イオンであるMg2+が予想以上に速く移動することを見出した。

 

[成果の内容]

 

図3. Mo6S8の定電流放電曲線

図3. Mo6S8の定電流放電曲線

 

研究では、正極でのLi+とMg2+の拡散挙動の調査に、正極材料の一つの例として硫化物であるシェブレル化合物Mo6S8を使用。

 

電位走査、定電流充放電実験や組成分析の結果(図3)、放電初期にはLi+が優先に挿入され、拡散の遅いMg2+はほとんど挿入されないが、Mo6S8中に挿入されたLi+が一定量に達すると、Mg2+の挿入が促進され始め、理論容量まで放電したMo6S8電極には、ほぼ同じ割合のLi+とMg2+が正極に挿入されることが判明した。

 

一般的に、正極中のイオン拡散の容易さは、イオンが占める拡散経路上のサイトとサイトの間の移動にかかる活性化エネルギー(拡散バリア)の大きさに依存するため、Li-Mgデュアルイオン系におけるMg2+の挿入が促進される現象は、先に挿入されたLi+がMg2+の拡散バリアを低減させたことを示唆するとしている。

 

図4. インターカレーション反応における固体内拡散過程

図4. インターカレーション反応における固体内拡散過程

 

研究チームは、Li+とMg2+の拡散挙動と活性化エネルギーを調査するため、実験から得られた知見に基づき、第一原理計算[用語3]を用いて、Mo6S8中の拡散過程を解析(図4)。

 

その結果、後に続いて挿入されるMg2+は、先に挿入されたLi+と一定の距離(~4 Å)を保ちながら、ペアで拡散経路を移動することにより、Mg2+単体で拡散する場合に比べ、拡散バリアが大幅に低減されることが明らかになった。

 

また、さらなる調査の結果、このような“協奏的な動き”による拡散の促進は、デュアルイオンの場合に限らず、一種類のキャリアイオンの場合でも起こりうる一般的な現象であることが判明。

 

しかし例えば、多価イオンのみの場合、イオン挿入の初期段階で拡散バリアが高く、インターカレーション反応が電極表面に滞るため、協奏的効果が発現されにくいが、拡散の速いLi+を先に導入することで、協奏効果を引き出すことができ、多価イオンの拡散バリアを低減させ、インターカレーション反応の促進が可能だとしている。

 

研究チームは、今回明らかになった一価イオン(Li+)と多価イオン(Mg2+)の協奏的動きによる拡散の促進現象について、固体中のイオン伝導機構の基礎的理解を深め、正極材料の開発に新たな指針を与え、多価イオンをキャリアに用いる蓄電池系の実用化にアプローチするための意義のある成果だとコメント。

 

また、同成果は、蓄電池分野に限らず、燃料電池固体電解質やイオン伝導体などの分野への拡張も期待されるとしている。

 

 

[用語1] インターカレーション反応 :

電池の充放電反応で、キャリアイオンが電極材料に出入りする反応。電極は体積変化が少なく、安定性が高いため、長寿命の蓄電池に適している。

 

[用語2] Li金属のデンドライト成長 :

電析の際に、Li結晶が先端が尖った形状で成長すること。電極表面の電場の不均一性に起因するとされるが、詳しいメカニズムは未解明。右図のように、Li-Mgデュアルイオン系ではLiのデンドライト成長が顕著に抑制され、金属負極を使用することが可能となる。

 

[用語3] 第一原理計算 :

実験データや経験パラメーターを使わない量子力学の基本原理に基づく計算方法。現在は計算リソースなどの制限のため、様々な近似手法が利用されている。

 

 

 

[論文情報]

 

掲載誌 : Advanced Energy Materials

論文タイトル :Fast diffusion of multivalent ions facilitated by concerted interactions in dual-ion battery systems

著者 :Hongyi Li, Norihiko L. Okamoto, Takuya Hatakeyama, Yu Kumagai, Fumiyasu Oba and Tetsu Ichitsubo

DOI : 10.1002/aenm.201801475 outer

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松下次男

1975年日刊自動車新聞社入社。編集局記者として国会担当を皮切りに自動車販売・部品産業など幅広く取材。その後、長野支局長、編集局総合デスク、自動車ビジネス誌MOBI21編集長、出版局長を経て2010年論説委員。2011年から特別編集委員。自動車産業を取り巻く経済展望、環境政策、自動運転等の次世代自動車技術を取材。2016年独立し自動車産業政策を中心に取材・執筆活動中。

間宮 潔

1975年日刊自動車新聞社入社。部品産業をはじめ、自動車販売など幅広く取材。また自動車リサイクル法成立時の電炉業界から解体現場までをルポ。その後、同社の広告営業、新聞販売、印刷部門を担当、2006年に中部支社長、2009年執行役員編集局長に就き、2013年から特別編集委員として輸送分野を担当。2018年春から独立、NEXT MOBILITY誌の編集顧問。

片山 雅美

日刊自動車新聞社で取材活動のスタートを切る。同紙記者を皮切りに社長室支社統括部長を経て、全石連発行の機関紙ぜんせきの取材記者としても活躍。自動車流通から交通インフラ、エネルギー分野に至る幅広い領域で実績を残す。2017年以降は、佃モビリティ総研を拠点に蓄積した取材人脈を糧に執筆活動を展開中。

中島みなみ

(中島南事務所/東京都文京区)1963年・愛知県生まれ。新聞、週刊誌、総合月刊誌記者(月刊文藝春秋)を経て独立。規制改革や行政システムを視点とした社会問題を取材テーマとするジャーナリスト。

山田清志

経済誌「財界」で自動車、エネルギー、化学、紙パルプ産業の専任記者を皮切りに報道分野に進出。2000年からは産業界・官界・財界での豊富な人脈を基に経済ジャーナリストとして国内外の経済誌で執筆。近年はビジネス誌、オピニオン誌、経済団体誌、Web媒体等、多様な産業を股に掛けて活動中。