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2023年3月2日【テクノロジー】

チューリング事業戦略発表会

松下次男

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完全自動運転EV(電気自動車)の開発・販売を目指すTuring(チューリング、千葉県柏市、山本一成代表取締役CEO)は3月1日、東京都内で事業戦略発表会を開き、2030年にハンドルの無い完全自動運転EVの量産化を目指すと表明した。(佃モビリティ総研・松下次男)

 

チューリングは世界で初めて名人を倒した人工知能(AI)将棋の「ポナンザ」を開発したことで知られる山本代表とカーネギーメロン大学で自動運転を研究した青木俊介取締役CTO(最高技術責任者)が2021年に共同で創業したスタートアップ。

 

チューリングの山本 一成代表取締役

 

ミッションに「テスラ越え(We Overtake Tesla)」を掲げ、量産自動車メーカーを目指している。

 

山本代表は量産化までのロードマップについて、2023年に試作車を、2025年にはオリジナルの自動運転EVを100台、そして2030年に「完全自動運転」を実現したEV1万台の量産を目指すとした。

 

試作車は東京モーターショーから名称変更した「ジャパンモビリティショー2023」に出展する予定だ。車両開発のステップはまずレベル2の車両を自社開発したあと、一気に「レブル5」の車両を目指すという。

 

レベル5の車両開発について山本代表は、センサーで認識できるのは97%、「残りの3%はAIで行う」とし、それが同社の強みと強調。山本代表は「AIネイティブで自動運転を先導する」と表現する。センサーはカメラ方式を主体にする考え。

 

チューリングの青木俊介取締役CTO

 

事業展開では、山本代表は2つの方向性を示し、一つが機械学習などAIを活用した開発チーム。もう一つが車両開発の分野で、それぞれ社内に事業チームを設けて、開発を目指す。

 

これについてAIの開発チームはもともとエキスパートが集まっている集団であり、得意領域だが、課題なのが手薄な車両開発の領域。

 

そこで同社は試作車両などの受託開発を手掛ける東京アールアンドデー(東京R&D、東京都千代田区、岡村了太社長)と戦略的パートナーシップを結んだ。

 

東京R&Dは国内OEMのほとんどと車両開発のサポートを手がけてきたほか、一部海外メーカーとも車両開発領域で関係をもつ。

 

岡村社長は自動車産業が劇的に変化する中、近年、ソフトウェアの重要性を感じていたとし、「ソフトウェアに強いチューリングと車両開発が得意な両社はお互いに補完できる」と強調。完全自動運転EVの「ハードルは高いが、挑戦のしがいがある」と話す。

 

東京アールアンドデーの岡村 了太代表取締役

 

車両開発チームを先導する青木CTOは、開発プロセスについて「シンプルに下から作り上げていく」と述べるとともに、車両を量産できる能力づくりから取り組む方針を示した。

 

加えて、事業展開に当たって不可欠としているのがサプライチェーン。現状、現行EVを分解してどのような部品が使われているかを調査しているが、その狙いについて「どのサプライヤーの製品が使われているか」を分析し、アプローチに役立てるためとした。

 

これを踏まえ、「今年中に試作車を走らせ、新たな自動車メーカーの立ち上げ」を目指す。

 

次のステップでは、2025年をめどに自社オリジナルの自動運転EV100台製造する計画を打ち出す。ただし、この車両は2030年を目標にしているレベル5の完全自動運転EVとは「完全に異なる車両」との見方を示した。

 

課題となるゼロから立ち上げる事業の採算性については「テスラも車両生産1万台の時点では赤字だった。それを乗り越えて、急成長した」と述べ、テスラをベンチマークにスピード感を持たて取り組むことを掲げる。車両1万台生産の次の目標は年産100万台とし、そこへの到達は「テスラを超えたい」と話す。

 

ただし、目標クリアーのハードルも高い。これに対し、山本代表は日本にはトヨタやホンダなどの大企業が誕生したが、「ここ2、30年、急成長した企業が日本に存在しない。このためにも大きな目標を掲げて、挑戦したい」と述べた。 

 

チューリングはすでにシードラウンドで10億円の資金を調達しており、さらに自社での車両生産体制構築を見据えて2023年中にシリーズAの資金調達を実施する計画だ。

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坂上 賢治

NEXT MOBILITY&MOTOR CARS編集長。日刊自動車新聞を振り出しに自動車産業全域での取材活動を開始。同社の出版局へ移籍して以降は、コンシューマー向け媒体(発行45万部)を筆頭に、日本国内初の自動車環境ビジネス媒体・アフターマーケット事業の専門誌など多様な読者を対象とした創刊誌を手掛けた。独立後は、ビジネス戦略学やマーケティング分野で教鞭を執りつつ、自動車専門誌や一般誌の他、Web媒体などを介したジャーナリスト活動が30年半ば。2015年より自動車情報媒体のMOTOR CARS編集長、2017年より自動車ビジネス誌×WebメディアのNEXT MOBILITY 編集長。

松下次男

1975年日刊自動車新聞社入社。編集局記者として国会担当を皮切りに自動車販売・部品産業など幅広く取材。その後、長野支局長、編集局総合デスク、自動車ビジネス誌MOBI21編集長、出版局長を経て2010年論説委員。2011年から特別編集委員。自動車産業を取り巻く経済展望、環境政策、自動運転等の次世代自動車技術を取材。2016年独立し自動車産業政策を中心に取材・執筆活動中。

間宮 潔

1975年日刊自動車新聞社入社。部品産業をはじめ、自動車販売など幅広く取材。また自動車リサイクル法成立時の電炉業界から解体現場までをルポ。その後、同社の広告営業、新聞販売、印刷部門を担当、2006年に中部支社長、2009年執行役員編集局長に就き、2013年から特別編集委員として輸送分野を担当。2018年春から独立、NEXT MOBILITY誌の編集顧問。

片山 雅美

日刊自動車新聞社で取材活動のスタートを切る。同紙記者を皮切りに社長室支社統括部長を経て、全石連発行の機関紙ぜんせきの取材記者としても活躍。自動車流通から交通インフラ、エネルギー分野に至る幅広い領域で実績を残す。2017年以降は、佃モビリティ総研を拠点に蓄積した取材人脈を糧に執筆活動を展開中。

中島みなみ

(中島南事務所/東京都文京区)1963年・愛知県生まれ。新聞、週刊誌、総合月刊誌記者(月刊文藝春秋)を経て独立。規制改革や行政システムを視点とした社会問題を取材テーマとするジャーナリスト。

山田清志

経済誌「財界」で自動車、エネルギー、化学、紙パルプ産業の専任記者を皮切りに報道分野に進出。2000年からは産業界・官界・財界での豊富な人脈を基に経済ジャーナリストとして国内外の経済誌で執筆。近年はビジネス誌、オピニオン誌、経済団体誌、Web媒体等、多様な産業を股に掛けて活動中。

佃 義夫

1970年日刊自動車新聞社入社。編集局記者として自動車全分野を網羅して担当。2000年出版局長として「Mobi21」誌を創刊。取締役、常務、専務主筆・編集局長、代表取締役社長を歴任。2014年に独立し、佃モビリティ総研を開設。自動車関連著書に「トヨタの野望、日産の決断」(ダイヤモンド社)など。執筆活動に加え講演活動も。

熊澤啓三

株式会社アーサメジャープロ エグゼクティブコンサルタント。PR/危機管理コミュニケーションコンサルタント、メディアトレーナー。自動車業界他の大手企業をクライアントに持つ。日産自動車、グローバルPR会社のフライシュマン・ヒラード・ジャパン、エデルマン・ジャパンを経て、2010年にアーサメジャープロを創業。東京大学理学部卒。

福田 俊之

1952年東京生まれ。産業専門紙記者、経済誌編集長を経て、99年に独立。自動車業界を中心に取材、執筆活動中。著書に「最強トヨタの自己改革」(角川書店)、共著に「トヨタ式仕事の教科書」(プレジデント社)、「スズキパワー現場のものづくり」(講談社ピーシー)など。