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2023年6月30日【テクノロジー】

ZF、乗用EV向けの最軽量の電動ドライブを発表

坂上 賢治

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ZFは6月29日、恒例の自社技術イベントの〝ZFグローバル・テクノロジーデイ(ドイツ南部・フリードリヒスハーフェンで開催)〟を開き、ここで新たに電動コンセプトとなる「EVbeat」を発表した。

 

このEVbeatには、同社製品でも最小・最軽量(74kg)かつ高効率(トルク密度70Nm/kg)の電動ドライブシステムを搭載。熱管理システムも刷新され(氷点付近に於ける航続距離が約30パーセント延長される)、またユニットに組み込まれるソフトウエアはクラウドネットワークに接続された。

 

 

ZF取締役会メンバーでEVシステムの開発を率いるステファン・フォン・シュックマン氏は「EVの未来を加速させることは当社戦略の中核です。このEVbeatコンセプトは、ポルシェ・タイカンをベースにドライブユニット全域を極限までコンパクト化させることに取り組みました」と述べた。

 

一方、同社のEVドライブラインの開発責任を担うオットマー・シャラー博士は「我々のEV用ドライブトレーンは、現時点に於いてトルク密度の高さで頂点に立っています。

 

また我々はユニットの持続可能性にも細心の注意を払いました。電気モーターは重希土類を使用せず、熱管理機構ではフッ素ベースの冷却剤を使用しません。

 

 

結果、コンポーネント全域に於ける構成部品数が削減され、駆動部分と熱管理機能に係るシステム全体の重量が約30パーセント削減。これにより生産工程と車載時の双方で持続可能性の向上に貢献しています」と説明した。

 

EVbeatに含まれるeアクスル〝EVSys800〟は、モジュール式の800ボルトのドライブユニットで、炭化ケイ素で校正されたパワーエレクトロニクス機構、軽量高出力の電気モーターに減速ギアボックスを組み合わせた。

 

この結果、コンセプト車両は、リアアクスル部の最大トルク値で5,200ニュートンメートルを実現。 70ニュートンメートル/キログラム。電気モーターの連続電力とピーク電力はそれぞれ 206キロワットと275 キロワット。これによりピーク電力時に約75パーセントの連続電力を可能とした。

 

 

コンパクト化を実現した背景は、電気モーターに組み込まれた「編組巻線」技術(特許出願済)によりドライブユニット自体の幅が50ミリメートル削減されたことにあり、ドライブアクスルへの同軸取り付けが可能になった。

 

この編組巻線は、既存のウェーブ巻線を発展させたもので、巻線ヘッドだけでも従来型より50パーセント小型化。これにより設置スペースも10パーセント削減でき、約10パーセントの銅の使用が削減された。

 

これらによりEVSys800のユニット単体の総重量は、既存のZF製800ボルトのドライブシステムの74 kg対して約40kgにまで軽量化(約30パーセント)。

 

 

冷却面も技術刷新された。具体的には、新たな巻線技術を備えた電気モーターを冷却するため、動作中に最も熱を持つ銅ロッドの周囲にオイルを直接流す仕様とした結果、重量と設置スペースが削減され、ユニット自体のパフォーマンスが向上した。

 

併せてインバーターも根本的に再設計。設置スペース、重量、持続可能性の点で電磁両立性、パワーモジュール、コンデンサの各分野での大幅な改善が達成されたという。

 

 

この電動モーターに組み合わせる同軸減速ギアボックスは、2つの遊星歯車を介して電気モーターの駆動力を伝達していく。これらは車両性能に必要な最終駆動比を生成するだけでなく、電動モーターとハーモナイズされた差動機能も備える。

 

従来の入力シャフトと出力シャフトが同軸上にないオフセット構造と比較すると、新たな同軸ソリューションは、先のモーターユニットの「編組巻き」技術と組み合わせたことで、効率、騒音、振動を犠牲にすることなく重量と設置スペース(ドライブ長)を削減。ほぼすべての車載スペースに設置できるようになるとした。

 

システムのコンパクトについて先のオットマー・シャラー博士は「同システムを使用すると、効率、パフォーマンス、コストといった顧客が求める未来のEVに求められる主要件を完全に満たすことができます。なおこの最新テクノロジーを備えた新ドライブラインは2026 年から市場に投入される予定です」と話している。

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坂上 賢治

NEXT MOBILITY&MOTOR CARS編集長。日刊自動車新聞を振り出しに自動車産業全域での取材活動を開始。同社の出版局へ移籍して以降は、コンシューマー向け媒体(発行45万部)を筆頭に、日本国内初の自動車環境ビジネス媒体・アフターマーケット事業の専門誌など多様な読者を対象とした創刊誌を手掛けた。独立後は、ビジネス戦略学やマーケティング分野で教鞭を執りつつ、自動車専門誌や一般誌の他、Web媒体などを介したジャーナリスト活動が30年半ば。2015年より自動車情報媒体のMOTOR CARS編集長、2017年より自動車ビジネス誌×WebメディアのNEXT MOBILITY 編集長。

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1975年日刊自動車新聞社入社。編集局記者として国会担当を皮切りに自動車販売・部品産業など幅広く取材。その後、長野支局長、編集局総合デスク、自動車ビジネス誌MOBI21編集長、出版局長を経て2010年論説委員。2011年から特別編集委員。自動車産業を取り巻く経済展望、環境政策、自動運転等の次世代自動車技術を取材。2016年独立し自動車産業政策を中心に取材・執筆活動中。

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1975年日刊自動車新聞社入社。部品産業をはじめ、自動車販売など幅広く取材。また自動車リサイクル法成立時の電炉業界から解体現場までをルポ。その後、同社の広告営業、新聞販売、印刷部門を担当、2006年に中部支社長、2009年執行役員編集局長に就き、2013年から特別編集委員として輸送分野を担当。2018年春から独立、NEXT MOBILITY誌の編集顧問。

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1970年日刊自動車新聞社入社。編集局記者として自動車全分野を網羅して担当。2000年出版局長として「Mobi21」誌を創刊。取締役、常務、専務主筆・編集局長、代表取締役社長を歴任。2014年に独立し、佃モビリティ総研を開設。自動車関連著書に「トヨタの野望、日産の決断」(ダイヤモンド社)など。執筆活動に加え講演活動も。

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株式会社アーサメジャープロ エグゼクティブコンサルタント。PR/危機管理コミュニケーションコンサルタント、メディアトレーナー。自動車業界他の大手企業をクライアントに持つ。日産自動車、グローバルPR会社のフライシュマン・ヒラード・ジャパン、エデルマン・ジャパンを経て、2010年にアーサメジャープロを創業。東京大学理学部卒。

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1952年東京生まれ。産業専門紙記者、経済誌編集長を経て、99年に独立。自動車業界を中心に取材、執筆活動中。著書に「最強トヨタの自己改革」(角川書店)、共著に「トヨタ式仕事の教科書」(プレジデント社)、「スズキパワー現場のものづくり」(講談社ピーシー)など。